第11時間目「とある日の翼」
学校が終わり、A組ヒーロー科たちに下校の時間が訪れた。走太はいつも通り、独りで家に帰ろうとしていた。
翼「速光!」
後ろから走太に声をかけたのは翼だった。
翼「帰る方向一緒だろ?」
走太「じゃあ一緒に帰れるね!」
今日は翼と二人で帰ることになった。
走太と翼はクラスメートの話で盛り上がった。
翼「それにしても鏡沢のやつ、人の個性真似してるだけじゃないのかよ。」
走太「でもその個性を、その個性を持っている人よりも使いこなせる。鏡沢さんのすごいところだね。」
翼「俺も正直言って鏡沢に俺の個性の活用法でも聞きたいんだがな、聞くのが嫌になる、あいつの場合は。」
走太「あはは…。」
翼の興奮が高まるのとは反対に、走太はどんどん気まずくなっていった。走太は苦笑いでごまかす。
翼「鏡沢はもしかして自分の個性を見せつけるためにヒーローを目指しているのか?」
走太「もしそうならば、本当にプライドが高いね…。ちなみに翼くんは、どうしてヒーローになりたいの?」
翼「俺で良いのかよ?ヒーローになりたい理由を聞くのは。」
走太「どういう意味?…もしかして、あんまり聞いちゃダメだった?」
翼「いや。俺が速光にヒーローになりたい理由を話せばお前の疑問は解消されて、俺もずっと抱え込んでいた気持ちを話せてスッキリする。それって「ウィン」グ「ウィン」グの関係だろ?翼だけにな。」
冷たい風がビュウウウウウッと吹いた。翼は悪戯に笑って走太に「褒めてくれないのかよ。」と言った。だが走太は真顔を貫いた。
翼「悪りぃな、話すから許してくれよな。俺がヒーローになりたいと思ったのは幼稚園がきっかけだった。」
幼稚園で体育の時間が始まろうとしていた。園児たちは体育着に着替えていた。
ツバサ「せんせい。やっぱりハネがじゃまできがえられないや。てつだってください。」
先生「いいわよ。」
このやりとりを見ていた一部の園児が笑い出した。
園児1「えー!ツバサ、せんせいにきがえ、てつだってもらってるのぉ?」
園児2「だっさー!」
園児たちのからかいが周りに広まっていった。
園児3「ツバサのへんなハネ!」
先生「みんな!人の個性を馬鹿にしてはいけません!」
園児1「だってみんなでてないじゃん、ハネ。トリにしかついてないもん。」
園児2「やっぱりへんなのー!」
ツバサは黙って体育着に着替えていた。同じ園児たちの悪口も無視していた。
ツバサ「ただいま。」
母「お帰り。ちょうどいいわね。今あなたが好きなヒーロー番組が始まったところよ。」
ツバサは靴を揃えず、手も洗わずにテレビの前に座った。始まる番組は「ヒーローゾンビー」。見た目が醜く嫌われ者だった男がヒーローとして活躍するアクションドラマだ。子供向けの番組だが、子供だけでなく大人からも反響を呼んだほど絶大な人気を得ているのだった。
ゾンビー「誰だってヒーローになれる!私はそう信じている!」
ツバサ「がんばれ!ゾンビー!」
ツバサは番組が始まると、釘付けになってテレビを観ていた。ツバサにとってヒーローゾンビーは特別だった。どんなに周りから悪口を言われたって、どんなに自分の姿を馬鹿にされたって負けないゾンビー。正義を貫き、弱き者を助ける。ツバサにとって憧れの者だった。
ツバサ「おれ、おおきくなったらゾンビーになる!」
母「そのためにはしっかり勉強して、個性を強くするのも大事だけど、なにより大事なのは、ゾンビーになりたいっていう強い意志を持ち続けること。」
ツバサ「うん。ゾンビーになる!ぜーったいになる!」
翼に対するからかいは、幼稚園からの同級生のせいで中学校を卒業するまで無くならなかった。だが、翼はどんなにひどいことを言われてもずっと耐えていたのだ。絶対に、ヒーローゾンビーになるために。
翼「子供みたいだろ、ヒーローになりたい理由。」
走太はすぐに首を横に振った。
走太「そんなことないよ。憧れの人になるために頑張るって、かっこいいよ!」
翼「ありがとな。そういえばさっきゾンビーを少しだけ知ってるって言ってたよな?ならば俺が教えてやるよ。ゾンビーのことたくさん。」
翼はなんと、実はゾンビーオタクだったのだ。キャラクターから撮影の裏側まで、あらゆることを語った。走太は知らなかったことをたくさん教えてもらい、より興味が湧いた。
走太「僕、DVD借りようかな。ヒーローゾンビー!」
翼「ならば俺の家にあるから、貸すよ。」
走太「ありがとう!」
走太も嬉しそうだったが、それよりも同じ趣味の人を見つけられた翼のほうが何倍も嬉しそうだった。
翼「なんだか今日はいい気分だ。趣味が合って、しかもヒーローになりたい理由を話せた人までできたなんてな。」
走太「そりゃあだって、僕たちは友達じゃん!」
翼は口をポカーンとさせて、目を大きく開いて走太を見た。
走太「え?変なこと言った?僕。」
翼はゆっくり顔を横に振る。
翼「中学まで、友達いなかったんだ…。それもこの羽で虐められてたからな。」
翼は過去のことを思い出したからか、少し悲しそうな表情になった。だがすぐに笑顔に戻った。
翼「だから嬉しいんだよ。俺を友達って呼んでくれて。なんなら速光のこと相棒と呼ばせてくれ。」
走太「なんで?」
翼「ま、初めての友達だからだな。」
走太「じゃあ普通に名前呼びでいいと思うけど…。」
翼「細かいことは気にするな。某漫画でも入学式から主人公を相棒呼びした男がいたじゃねーか。」
走太「それとこれとは関係あるのかなぁ…。」
翼はまたまた悪戯に笑うと、走太にも質問をした。
翼「そんじゃ相棒、今度はお前がヒーローになりたい理由を教えてくれ。」
走太「え?」
翼「俺が教えたんだから、教えてくれたっていいだろ?」
走太「そっか。分かったよ。僕がヒーローになりたいと思った理由はねー」
店員「みなさーん!今ならヒーローゾンビー、限定フィギュア販売していますよー!早く買わないと無くなっちゃいますよ!」
近くの玩具屋で店員が呼び込みをしていた。「ゾンビー」と聞いた瞬間、翼は獲物を狙うような鷹の顔に変わっていた。
走太「つ、翼くん…!?」
翼「悪いな。俺は今日、ゾンビーのフィギュアの販売日だから絶対に買うと決めていたんだ。店員さん!買います!」
走太が気づいた時にはもう翼は店に入っていた。結局、翼がゾンビーフィギュアで興奮してしまい、走太はヒーローになりたい理由を話すことはなかった。
走太(誰かに話すのは、まだ後になりそうだな…。)
翼「速光!」
後ろから走太に声をかけたのは翼だった。
翼「帰る方向一緒だろ?」
走太「じゃあ一緒に帰れるね!」
今日は翼と二人で帰ることになった。
走太と翼はクラスメートの話で盛り上がった。
翼「それにしても鏡沢のやつ、人の個性真似してるだけじゃないのかよ。」
走太「でもその個性を、その個性を持っている人よりも使いこなせる。鏡沢さんのすごいところだね。」
翼「俺も正直言って鏡沢に俺の個性の活用法でも聞きたいんだがな、聞くのが嫌になる、あいつの場合は。」
走太「あはは…。」
翼の興奮が高まるのとは反対に、走太はどんどん気まずくなっていった。走太は苦笑いでごまかす。
翼「鏡沢はもしかして自分の個性を見せつけるためにヒーローを目指しているのか?」
走太「もしそうならば、本当にプライドが高いね…。ちなみに翼くんは、どうしてヒーローになりたいの?」
翼「俺で良いのかよ?ヒーローになりたい理由を聞くのは。」
走太「どういう意味?…もしかして、あんまり聞いちゃダメだった?」
翼「いや。俺が速光にヒーローになりたい理由を話せばお前の疑問は解消されて、俺もずっと抱え込んでいた気持ちを話せてスッキリする。それって「ウィン」グ「ウィン」グの関係だろ?翼だけにな。」
冷たい風がビュウウウウウッと吹いた。翼は悪戯に笑って走太に「褒めてくれないのかよ。」と言った。だが走太は真顔を貫いた。
翼「悪りぃな、話すから許してくれよな。俺がヒーローになりたいと思ったのは幼稚園がきっかけだった。」
幼稚園で体育の時間が始まろうとしていた。園児たちは体育着に着替えていた。
ツバサ「せんせい。やっぱりハネがじゃまできがえられないや。てつだってください。」
先生「いいわよ。」
このやりとりを見ていた一部の園児が笑い出した。
園児1「えー!ツバサ、せんせいにきがえ、てつだってもらってるのぉ?」
園児2「だっさー!」
園児たちのからかいが周りに広まっていった。
園児3「ツバサのへんなハネ!」
先生「みんな!人の個性を馬鹿にしてはいけません!」
園児1「だってみんなでてないじゃん、ハネ。トリにしかついてないもん。」
園児2「やっぱりへんなのー!」
ツバサは黙って体育着に着替えていた。同じ園児たちの悪口も無視していた。
ツバサ「ただいま。」
母「お帰り。ちょうどいいわね。今あなたが好きなヒーロー番組が始まったところよ。」
ツバサは靴を揃えず、手も洗わずにテレビの前に座った。始まる番組は「ヒーローゾンビー」。見た目が醜く嫌われ者だった男がヒーローとして活躍するアクションドラマだ。子供向けの番組だが、子供だけでなく大人からも反響を呼んだほど絶大な人気を得ているのだった。
ゾンビー「誰だってヒーローになれる!私はそう信じている!」
ツバサ「がんばれ!ゾンビー!」
ツバサは番組が始まると、釘付けになってテレビを観ていた。ツバサにとってヒーローゾンビーは特別だった。どんなに周りから悪口を言われたって、どんなに自分の姿を馬鹿にされたって負けないゾンビー。正義を貫き、弱き者を助ける。ツバサにとって憧れの者だった。
ツバサ「おれ、おおきくなったらゾンビーになる!」
母「そのためにはしっかり勉強して、個性を強くするのも大事だけど、なにより大事なのは、ゾンビーになりたいっていう強い意志を持ち続けること。」
ツバサ「うん。ゾンビーになる!ぜーったいになる!」
翼に対するからかいは、幼稚園からの同級生のせいで中学校を卒業するまで無くならなかった。だが、翼はどんなにひどいことを言われてもずっと耐えていたのだ。絶対に、ヒーローゾンビーになるために。
翼「子供みたいだろ、ヒーローになりたい理由。」
走太はすぐに首を横に振った。
走太「そんなことないよ。憧れの人になるために頑張るって、かっこいいよ!」
翼「ありがとな。そういえばさっきゾンビーを少しだけ知ってるって言ってたよな?ならば俺が教えてやるよ。ゾンビーのことたくさん。」
翼はなんと、実はゾンビーオタクだったのだ。キャラクターから撮影の裏側まで、あらゆることを語った。走太は知らなかったことをたくさん教えてもらい、より興味が湧いた。
走太「僕、DVD借りようかな。ヒーローゾンビー!」
翼「ならば俺の家にあるから、貸すよ。」
走太「ありがとう!」
走太も嬉しそうだったが、それよりも同じ趣味の人を見つけられた翼のほうが何倍も嬉しそうだった。
翼「なんだか今日はいい気分だ。趣味が合って、しかもヒーローになりたい理由を話せた人までできたなんてな。」
走太「そりゃあだって、僕たちは友達じゃん!」
翼は口をポカーンとさせて、目を大きく開いて走太を見た。
走太「え?変なこと言った?僕。」
翼はゆっくり顔を横に振る。
翼「中学まで、友達いなかったんだ…。それもこの羽で虐められてたからな。」
翼は過去のことを思い出したからか、少し悲しそうな表情になった。だがすぐに笑顔に戻った。
翼「だから嬉しいんだよ。俺を友達って呼んでくれて。なんなら速光のこと相棒と呼ばせてくれ。」
走太「なんで?」
翼「ま、初めての友達だからだな。」
走太「じゃあ普通に名前呼びでいいと思うけど…。」
翼「細かいことは気にするな。某漫画でも入学式から主人公を相棒呼びした男がいたじゃねーか。」
走太「それとこれとは関係あるのかなぁ…。」
翼はまたまた悪戯に笑うと、走太にも質問をした。
翼「そんじゃ相棒、今度はお前がヒーローになりたい理由を教えてくれ。」
走太「え?」
翼「俺が教えたんだから、教えてくれたっていいだろ?」
走太「そっか。分かったよ。僕がヒーローになりたいと思った理由はねー」
店員「みなさーん!今ならヒーローゾンビー、限定フィギュア販売していますよー!早く買わないと無くなっちゃいますよ!」
近くの玩具屋で店員が呼び込みをしていた。「ゾンビー」と聞いた瞬間、翼は獲物を狙うような鷹の顔に変わっていた。
走太「つ、翼くん…!?」
翼「悪いな。俺は今日、ゾンビーのフィギュアの販売日だから絶対に買うと決めていたんだ。店員さん!買います!」
走太が気づいた時にはもう翼は店に入っていた。結局、翼がゾンビーフィギュアで興奮してしまい、走太はヒーローになりたい理由を話すことはなかった。
走太(誰かに話すのは、まだ後になりそうだな…。)