日向ごっこ
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「あーや、私お家に帰りたい」
「ふんふん、では今日は駅前の喫茶店のパフェをご馳走しよう!」
すんごい適当にスルーされた。どれだけここにいたいのよ。
紫呉にいさんの家に泊まって三日目になる。私は初日の朝にありがとうございましたとお礼をいってそのまま大学に行ったのだが、大学終わりにあーやに捕獲されてまたここに戻って来た。その事に対して私が小言をいう度にあーやは何か奢ってくれている。まぁ美味しくいただいているのでそのまま流されていたのだけど、さすがに三日目となると迷惑だろう。草摩の他三人ならともかく私達のご飯のお世話をしてくれてるの透ちゃんだし。迷惑って絶対思わなそうだけどやっぱそこはね。
「あーやもお仕事あるでしょ」
「萌音に任せてあるから問題ない」
「いや、萌音ちゃんひとりにしてんじゃねーよ」
このお泊まりの目的は由希との交流会だって知ってるだろうから喜んで笑顔で送り出してくれたと思うけどそれはそれだ。そんな事を言うとあーやはしばらく無言になって「電話をしてくる」と言って居間から出て行った。……あのあーやにあんな顔させるのは萌音ちゃんか由希くらいだな。すごい。
手持ち無沙汰になったので私も携帯を取り出す。大学の友達やお母さんにメールを返す。私の外泊なんてレアなんてものじゃないから「恋人? 恋人ができたの? ひと月くらい泊まっちゃえ」とお母さんのテンションがすごい。親としてそれでいいのか母よ。というか一番最初に紫呉にいさんの家に泊まるって言ったのにな。……ああ、私が紫呉にいさん苦手って知ってるから適当に嘘ついてると思ったのか。そんな嘘つくわけないでしょあとが怖い。
一通り返信し終わった。そのまま携帯をしまおうとしたけど携帯を持って部屋から出て行ったあーやの顔が再び頭に浮かんだ。
「…………なにやってんだ」
電話帳を開こうとしていた自分にそういって携帯の電源ごと落とした。そこには何もないのに馬鹿みたいなことをしようとした。携帯を放り出してごろんと横になる。
「…………やっぱ限界だなぁ」
この家は居心地がいい。紫呉にいさんの家なのにそう思うのは透ちゃんのおかげだ。あの子はそういう空気にしてくれる子だ。きっと由希と夾の表情が柔らかいのはあの子の周りが息がしやすくて落ちつくからだ。分かる。すごく分かるよ。私も知ってるから。でも、私にとってのその場所はここじゃない。大事な場所。いつかは手放すと知っている場所。私はすぐに手を離せるだろうか。出来たらいいな。
「あーやに悪いことしちゃうな……」
あーやが私をこの家に連れてきた理由を考えると罪悪感がわいてきた。あーやはなにも言わないし、由希の様子を見にきたってのも本当だろうけどここに私を誘ったのはきっと、居場所を増やせと言いたいのだ。少しの休憩する場所でもいいから。落ちつける場所を増やせと。
横になったせいで眠気が襲ってきた。限界といいながらちゃっかり寝ようとしてる自分に呆れつつ、そのままゆっくり目を閉じた。
「ナマエ」
優しい声がした。聞き慣れた低くて心地いい声。さっき馬鹿なことをしようとしたせいかな。夢に出てきたのかもしれない。もう一回呼んでほしいなぁと思っていると「ナマエ」と声がかかり、するりと温かいものが顔に触れた。あまりにもその感触がリアルだったのでぱちりと目が開いた。
「起きたか。帰るぞ」
「…………起きたらおはようって言いなさいってなんか、誰かがいってた」
「まだ寝ぼけているな」
はとりははぁ、と息をついて呆れたような顔のまま「おはよう」といった。頭がスッと晴れていく。
「……なんでここにいるの?」
「撥春が綾女を連れて帰れと言ってきてな。……、」
「春が……? ……ああ、なるほど」
まだ由希はあーやとの距離感がつかみきれてなくて戸惑っていたから春が気を回したのかもしれない。うん、多分そうだ。春も由希が大好きだからな。由希じゃなくてもそういうことする子だけど。
うんうん納得しながら起き上がる。お腹にはタオルケットがかけられていて透ちゃんだろうな、と思ってお礼を言う。
「あ、私ではなくて」
透ちゃんは優しい顔で微笑んであーやを見た。ぱちりと目を瞬く。あーやへ視線を向けると紫呉にいさんと一緒に意気揚々と夾をからかっていた。
「……」
愛ってすごいなぁ。
本当に些細な変化だけどやっぱりあーやは変わってきている。そう思った。
あーやの運転で帰宅中。助手席にはとりが座って私は後部座席に乗っていた。
「そして聞いてくれとりさん! そこで由希はなんと言ったと思うっ!」
「前を見ろ」
あのテンションのまま運転される事の恐怖。はとりは慣れているのかいつも通りだけど私はそうはいかない。自分で運転したほうがましだ。
「あーや、車止められる所に寄ってほしい」
「うん? ああ、そういえばパフェの約束を果たしていなかったね」
「いやそっちじゃなくて。運転代わる。あーやの運転怖い」
「その心配は無用だよ! 無事に二人を家まで送り届けよう!」
「言ってるそばから後ろ向かないで!!」
騒ぐ私達にこれははとりから怒られるな。そう思ったけどはとりは何も言わずに黙って私達のやりとりを聞いていた。めずらしい。眠いのかな。
結局、あーやが私達を草摩まで送り届けたらあーやは家まで歩いて帰らないといけなくなるので、あーやの家についてからはとりが運転を交代した。お手本のような安全運転だった。見習ってほしい。
「はとりありがとう」
「ああ」
車庫に車を入れたはとりにお礼をいって降りる。外はすっかりと暗くなっていた。もう夕飯の時間帯だ。……あれ、私の夜ご飯あるのかな。娘に恋人が! とテンション上がってるお母さんが作ってくれている気がしない。電話いれておけばよかった……と後悔する私を「どうした」と車から降りてきたはとりが訊ねてきた。
「いや……なんか、うちのお母さんのテンションが今すごくて……ご飯あるかなぁって」
「? ……ああ、おまえに恋人が出来たと嬉しそうに話していたな」
噴いた。母が暴君化してた。紫呉にいさんの家に行ったって本当に信じてなかったな。頭にてへ、と頭を触るお母さんを思い浮かべながら手をブンブン振る。
「ななななんではとりに、ていうかえっ? 、いやちょっとまって、そもそも恋人なんてで、」
出来てない。勢いのまま言おうとして口を押さえた。
その状態でゆっくり三秒数えてからそっと手を離した。
「できてないよ。恋人なんて」
なんてないよう聞こえるように軽い口調で言う。はとりも何も思わなかったのか「そうか」と淡々と返ってきた。
はとりにとっての私の位置なんてこんなもんだ。勝手な感傷に浸りそうになったから早々に別れようとしてバイバイと言おうとすると、その前にはとりが口を開いた。
「ナマエ、携帯を出せ」
「え、なんで」
「連絡先を知りたい」
「……必要ないって言ってなかった?」
あ、ちょっと恨めしい声がでた。贅沢ものめ。
「拗ねるな。そう思ったがこの三日、おまえに連絡が取れないのが不便でならなかった。普段は近くにいるから気にしたことはなかったが」
「…………」
なんだ必要ないってそういう意味か。そっか。
「そっかぁ」
嬉しさが隠しきれずに声に出た。単純なやつめ。そう心で呟きながら携帯を取り出した。草摩はとり。ばれないようにそっと名前をなぞった。
「ふんふん、では今日は駅前の喫茶店のパフェをご馳走しよう!」
すんごい適当にスルーされた。どれだけここにいたいのよ。
紫呉にいさんの家に泊まって三日目になる。私は初日の朝にありがとうございましたとお礼をいってそのまま大学に行ったのだが、大学終わりにあーやに捕獲されてまたここに戻って来た。その事に対して私が小言をいう度にあーやは何か奢ってくれている。まぁ美味しくいただいているのでそのまま流されていたのだけど、さすがに三日目となると迷惑だろう。草摩の他三人ならともかく私達のご飯のお世話をしてくれてるの透ちゃんだし。迷惑って絶対思わなそうだけどやっぱそこはね。
「あーやもお仕事あるでしょ」
「萌音に任せてあるから問題ない」
「いや、萌音ちゃんひとりにしてんじゃねーよ」
このお泊まりの目的は由希との交流会だって知ってるだろうから喜んで笑顔で送り出してくれたと思うけどそれはそれだ。そんな事を言うとあーやはしばらく無言になって「電話をしてくる」と言って居間から出て行った。……あのあーやにあんな顔させるのは萌音ちゃんか由希くらいだな。すごい。
手持ち無沙汰になったので私も携帯を取り出す。大学の友達やお母さんにメールを返す。私の外泊なんてレアなんてものじゃないから「恋人? 恋人ができたの? ひと月くらい泊まっちゃえ」とお母さんのテンションがすごい。親としてそれでいいのか母よ。というか一番最初に紫呉にいさんの家に泊まるって言ったのにな。……ああ、私が紫呉にいさん苦手って知ってるから適当に嘘ついてると思ったのか。そんな嘘つくわけないでしょあとが怖い。
一通り返信し終わった。そのまま携帯をしまおうとしたけど携帯を持って部屋から出て行ったあーやの顔が再び頭に浮かんだ。
「…………なにやってんだ」
電話帳を開こうとしていた自分にそういって携帯の電源ごと落とした。そこには何もないのに馬鹿みたいなことをしようとした。携帯を放り出してごろんと横になる。
「…………やっぱ限界だなぁ」
この家は居心地がいい。紫呉にいさんの家なのにそう思うのは透ちゃんのおかげだ。あの子はそういう空気にしてくれる子だ。きっと由希と夾の表情が柔らかいのはあの子の周りが息がしやすくて落ちつくからだ。分かる。すごく分かるよ。私も知ってるから。でも、私にとってのその場所はここじゃない。大事な場所。いつかは手放すと知っている場所。私はすぐに手を離せるだろうか。出来たらいいな。
「あーやに悪いことしちゃうな……」
あーやが私をこの家に連れてきた理由を考えると罪悪感がわいてきた。あーやはなにも言わないし、由希の様子を見にきたってのも本当だろうけどここに私を誘ったのはきっと、居場所を増やせと言いたいのだ。少しの休憩する場所でもいいから。落ちつける場所を増やせと。
横になったせいで眠気が襲ってきた。限界といいながらちゃっかり寝ようとしてる自分に呆れつつ、そのままゆっくり目を閉じた。
「ナマエ」
優しい声がした。聞き慣れた低くて心地いい声。さっき馬鹿なことをしようとしたせいかな。夢に出てきたのかもしれない。もう一回呼んでほしいなぁと思っていると「ナマエ」と声がかかり、するりと温かいものが顔に触れた。あまりにもその感触がリアルだったのでぱちりと目が開いた。
「起きたか。帰るぞ」
「…………起きたらおはようって言いなさいってなんか、誰かがいってた」
「まだ寝ぼけているな」
はとりははぁ、と息をついて呆れたような顔のまま「おはよう」といった。頭がスッと晴れていく。
「……なんでここにいるの?」
「撥春が綾女を連れて帰れと言ってきてな。……、」
「春が……? ……ああ、なるほど」
まだ由希はあーやとの距離感がつかみきれてなくて戸惑っていたから春が気を回したのかもしれない。うん、多分そうだ。春も由希が大好きだからな。由希じゃなくてもそういうことする子だけど。
うんうん納得しながら起き上がる。お腹にはタオルケットがかけられていて透ちゃんだろうな、と思ってお礼を言う。
「あ、私ではなくて」
透ちゃんは優しい顔で微笑んであーやを見た。ぱちりと目を瞬く。あーやへ視線を向けると紫呉にいさんと一緒に意気揚々と夾をからかっていた。
「……」
愛ってすごいなぁ。
本当に些細な変化だけどやっぱりあーやは変わってきている。そう思った。
あーやの運転で帰宅中。助手席にはとりが座って私は後部座席に乗っていた。
「そして聞いてくれとりさん! そこで由希はなんと言ったと思うっ!」
「前を見ろ」
あのテンションのまま運転される事の恐怖。はとりは慣れているのかいつも通りだけど私はそうはいかない。自分で運転したほうがましだ。
「あーや、車止められる所に寄ってほしい」
「うん? ああ、そういえばパフェの約束を果たしていなかったね」
「いやそっちじゃなくて。運転代わる。あーやの運転怖い」
「その心配は無用だよ! 無事に二人を家まで送り届けよう!」
「言ってるそばから後ろ向かないで!!」
騒ぐ私達にこれははとりから怒られるな。そう思ったけどはとりは何も言わずに黙って私達のやりとりを聞いていた。めずらしい。眠いのかな。
結局、あーやが私達を草摩まで送り届けたらあーやは家まで歩いて帰らないといけなくなるので、あーやの家についてからはとりが運転を交代した。お手本のような安全運転だった。見習ってほしい。
「はとりありがとう」
「ああ」
車庫に車を入れたはとりにお礼をいって降りる。外はすっかりと暗くなっていた。もう夕飯の時間帯だ。……あれ、私の夜ご飯あるのかな。娘に恋人が! とテンション上がってるお母さんが作ってくれている気がしない。電話いれておけばよかった……と後悔する私を「どうした」と車から降りてきたはとりが訊ねてきた。
「いや……なんか、うちのお母さんのテンションが今すごくて……ご飯あるかなぁって」
「? ……ああ、おまえに恋人が出来たと嬉しそうに話していたな」
噴いた。母が暴君化してた。紫呉にいさんの家に行ったって本当に信じてなかったな。頭にてへ、と頭を触るお母さんを思い浮かべながら手をブンブン振る。
「ななななんではとりに、ていうかえっ? 、いやちょっとまって、そもそも恋人なんてで、」
出来てない。勢いのまま言おうとして口を押さえた。
その状態でゆっくり三秒数えてからそっと手を離した。
「できてないよ。恋人なんて」
なんてないよう聞こえるように軽い口調で言う。はとりも何も思わなかったのか「そうか」と淡々と返ってきた。
はとりにとっての私の位置なんてこんなもんだ。勝手な感傷に浸りそうになったから早々に別れようとしてバイバイと言おうとすると、その前にはとりが口を開いた。
「ナマエ、携帯を出せ」
「え、なんで」
「連絡先を知りたい」
「……必要ないって言ってなかった?」
あ、ちょっと恨めしい声がでた。贅沢ものめ。
「拗ねるな。そう思ったがこの三日、おまえに連絡が取れないのが不便でならなかった。普段は近くにいるから気にしたことはなかったが」
「…………」
なんだ必要ないってそういう意味か。そっか。
「そっかぁ」
嬉しさが隠しきれずに声に出た。単純なやつめ。そう心で呟きながら携帯を取り出した。草摩はとり。ばれないようにそっと名前をなぞった。