日向ごっこ
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「トールにホワイトデーのお返しするよっ!」
うちにやってきた紅葉のテンションは高かった。紅葉がテンション低いときのほうが少ないけど今はその輝きが眩しい。なぜなら寝起きだから。おはよう二秒で紅葉がそこにいた。ついでにいうとお腹辺りに乗っかってるから重い。布団越しでも重い。
「紅葉さんチャイム鳴らした……?」
「ううん。でも鍵開いてたから入ってきちゃった」
「慊人ん家にこそこそ侵入してる私が言うのもあれだけど、草摩の人間はもっとチャイム活用しようよ……」
「もーっ! もうお昼過ぎだよ! 若者がダラダラしちゃダメだよ!」
「正論だけどチャイム使ってよ……」
「はい起きた起きたー!」
紅葉に布団をはぎ取られて起床となった。この子絶対にチャイム使う気ないな。なんで。押すだけでしょ。
洗顔歯磨き着替えと紅葉に見張られながら行った。着替えは性別:紅葉みたいなところあるから別にね。多分お風呂もまだいける。春は無理。
朝ご飯件昼ご飯を食べながら紅葉のホワイトデー計画を聞く。なんでも草摩の経営している温泉に透ちゃんを招待するそうだ。普通に素敵計画でびっくりした。多分夾より気が回ってるよ紅葉。夾はお返し考えてるのかね。お返しって概念があの子無さそう。毎年楽羅から熱烈なバレンタインを受け取ってる(強制)んだからホワイトデーもそろそろ覚えたらいいのに。
「他にしたほうがいいことあるー??」
「んー……先にアレルギーとかないか聞いておいたら? あっちでばたばたしたらりっちゃんママに迷惑だし、透ちゃんが気にしそうだから」
「ふんふん」
「あとは……夾も連れてった方が透ちゃんは喜ぶと思うよ。由希は透ちゃんの為なら我慢するだろうし適当に煽って連れていきな」
「リョウカイ!」
几帳面にメモをとる紅葉。透ちゃんとの旅行を想像してかずっとニコニコしててこっちも顔が綻んでしまう。
「ナマエも行こうね!」
「どうしようかなぁ。私がいったらりっちゃんママがずっと謝ってるからなぁ」
りっちゃんとは歳が近いから一緒にいることが多かった。いる時間に比例してりっちゃんは些細なことで私に謝るわ、りっちゃんママも謝るわで三人集まったらすごく賑やかなことになる。
「二人とも優しいのに謝らせるのはねぇ」
気にしてないのにな。いっつも言ってるけど聞き入れてもらえない。すぐに耳から抜けてっている。うーんどうしたものか。
首をひねって考えるけど十年以上考えても解決しなかったことが、今少し考えただけで解決するとは思わない。駄目だな。ちょっと諦めかけてきてる。いっそのことごめんなさいって言ったらビンタとか強行手段使うか。
「ふふふっ」
「どしたの紅葉」
「なーんでもないっ」
うーんうーんと悩む私をよそに紅葉は嬉しそうに笑っていた。
***
温泉旅行に行くかどうかはとりあえず置いておき、私個人の透ちゃんへのお返しを買いに行くことにした。
「使えるものがいいよね。洗剤、油、調味料セットとか?」
「使えるものだけどそういうのはダメー! もっとトールが喜ぶものをプレゼントするの!」
「透ちゃん喜びそうだけど」
「それでもダメー! トールに似合う可愛いものをあげるのっ」
「えー……じゃあ紅葉あげたら喜ぶかなぁ」
身近に感じる一番可愛いものを挙げたらふてくされてしまった。「トールは大好きだけどボクは物じゃないよっ」ごもっとも。
「ナマエはボクがしーちゃんの家の子になっても平気なの?」
「うーん……いやかも」
紅葉が紫呉にいさんみたいになったら引きこもりリターンズになる自信があるから絶対にやめてほしい。そんなよこしまな思いあっての言葉だったけど紅葉の機嫌を治すには良かったらしい。私の手を握ってウキウキ歩いてる。私紅葉の扱い上手かもしれない。
「だよね! ナマエはボクのSchwesterだもんっ!」
「シュベ?」
「お姉ちゃん!」
「ああそうね」
草摩の、特に中にいる子達はみんな弟妹みたいなものだ。中は遊び相手なんて自分から探しに行かないといけないくらい閉鎖的だ。慊人の家を出禁になってからは遊ぶ相手がいなくて寂しい思いをしたから、紅葉と春辺りの世代でも遊びに誘ったりしていたのだ。リンには未だに拒否られるからそんなに一緒に遊んだことないけど。本当に小さいときだったときくらいだ。おかしいな。リンはそれほど歳離れてないのにな。りっちゃんとリンと私で遊んだら色々カオスで面白いと思うんだけどな。今度ダメもとで誘ってみよう。りっちゃんは絶対来てくれるから問題はリンだな。
「うちのお母さんも紅葉お気に入りだしね」
「ボクナマエよりお手伝いしてるもん」
「そうなんだよね。ことある事にそれ言われるわ」
紅葉のお母さんが外で暮らし始めて心が安定するまで紅葉のお父さんはお母さんに付きっきりだった。そのため紅葉をうちで預かっていた時期があったのだ。だからか何というか、紅葉は他の子より弟感が強い。紅葉のなつっこい性格も理由の一つだと思うけど。そしてここまで考えて、高校時代の引きこもり生活を思い出した。多分めちゃくちゃ心配をかけてたんだよねえ……弟とか言っておきながらとんでもない姉だ。
「紅葉、今さらだけど引きこもり生活してたときいっぱい気づかってくれてありがとね」
「んー? そんなのへのかっぱだよ! ナマエってばほとんどハリィの家にいただけだしねっ!」
「はとりの家落ちつくんだもん」
最低限の授業は出ろとお尻蹴りだしてくれるし落ちつくしで引きこもり生活にうってつけだった。これ言ったら絶対に怒られるから言わないけど。
「…………もう、怖くない?」
繋いだ手をぎゅっと握りしめて静かに訊ねてきた紅葉。ちょうどひと月前に触れたはとりの手と大きさも柔らかさも違っていた。それがひどく安心して、すとんと言葉が出てきた。
「まだちょっとダメかなぁ」
素直な気持ちを伝えると紅葉は「そっかぁ」と一言返してくれた。紅葉はその日一日、そのことに触れることはなかった。本当に優しい子だと思った。
***
ホワイトデー当日。
「ほら」
「へ?」
ほぼ日課のはとり家について早々、両手に収まるくらいの四角の箱をはとりに渡された。
「なにこれ」
「今日はホワイトデーだろう」
さらりとそう言ってはとりは仕事机戻った。
はとりの家の戸棚には焼き菓子の詰め合わせが置いてある。私がバレンタインにはとりにあげたものだ。市販のものだからそれなりに日持ちするし、甘いものをあまり食べないはとりでも小腹が空いたときなんかにいいかなと思って選んだのだ。はとり自身が食べなくてもお客さんにお茶請けとして出せるし、なんなら私も食べようと思って渡した。だからお返しとかいらないからね、と先に言っておいた。それなのに私の手のなかには綺麗な箱がある。
「…………」
唇の両端に力を入れる。顔の緩みと一緒に違うものも出てきそうだったのでぐっと押さえた。
「ありがとう、はとり」
そう言うと、いつもの淡々とした声で「ああ」と返ってきた。
うちにやってきた紅葉のテンションは高かった。紅葉がテンション低いときのほうが少ないけど今はその輝きが眩しい。なぜなら寝起きだから。おはよう二秒で紅葉がそこにいた。ついでにいうとお腹辺りに乗っかってるから重い。布団越しでも重い。
「紅葉さんチャイム鳴らした……?」
「ううん。でも鍵開いてたから入ってきちゃった」
「慊人ん家にこそこそ侵入してる私が言うのもあれだけど、草摩の人間はもっとチャイム活用しようよ……」
「もーっ! もうお昼過ぎだよ! 若者がダラダラしちゃダメだよ!」
「正論だけどチャイム使ってよ……」
「はい起きた起きたー!」
紅葉に布団をはぎ取られて起床となった。この子絶対にチャイム使う気ないな。なんで。押すだけでしょ。
洗顔歯磨き着替えと紅葉に見張られながら行った。着替えは性別:紅葉みたいなところあるから別にね。多分お風呂もまだいける。春は無理。
朝ご飯件昼ご飯を食べながら紅葉のホワイトデー計画を聞く。なんでも草摩の経営している温泉に透ちゃんを招待するそうだ。普通に素敵計画でびっくりした。多分夾より気が回ってるよ紅葉。夾はお返し考えてるのかね。お返しって概念があの子無さそう。毎年楽羅から熱烈なバレンタインを受け取ってる(強制)んだからホワイトデーもそろそろ覚えたらいいのに。
「他にしたほうがいいことあるー??」
「んー……先にアレルギーとかないか聞いておいたら? あっちでばたばたしたらりっちゃんママに迷惑だし、透ちゃんが気にしそうだから」
「ふんふん」
「あとは……夾も連れてった方が透ちゃんは喜ぶと思うよ。由希は透ちゃんの為なら我慢するだろうし適当に煽って連れていきな」
「リョウカイ!」
几帳面にメモをとる紅葉。透ちゃんとの旅行を想像してかずっとニコニコしててこっちも顔が綻んでしまう。
「ナマエも行こうね!」
「どうしようかなぁ。私がいったらりっちゃんママがずっと謝ってるからなぁ」
りっちゃんとは歳が近いから一緒にいることが多かった。いる時間に比例してりっちゃんは些細なことで私に謝るわ、りっちゃんママも謝るわで三人集まったらすごく賑やかなことになる。
「二人とも優しいのに謝らせるのはねぇ」
気にしてないのにな。いっつも言ってるけど聞き入れてもらえない。すぐに耳から抜けてっている。うーんどうしたものか。
首をひねって考えるけど十年以上考えても解決しなかったことが、今少し考えただけで解決するとは思わない。駄目だな。ちょっと諦めかけてきてる。いっそのことごめんなさいって言ったらビンタとか強行手段使うか。
「ふふふっ」
「どしたの紅葉」
「なーんでもないっ」
うーんうーんと悩む私をよそに紅葉は嬉しそうに笑っていた。
***
温泉旅行に行くかどうかはとりあえず置いておき、私個人の透ちゃんへのお返しを買いに行くことにした。
「使えるものがいいよね。洗剤、油、調味料セットとか?」
「使えるものだけどそういうのはダメー! もっとトールが喜ぶものをプレゼントするの!」
「透ちゃん喜びそうだけど」
「それでもダメー! トールに似合う可愛いものをあげるのっ」
「えー……じゃあ紅葉あげたら喜ぶかなぁ」
身近に感じる一番可愛いものを挙げたらふてくされてしまった。「トールは大好きだけどボクは物じゃないよっ」ごもっとも。
「ナマエはボクがしーちゃんの家の子になっても平気なの?」
「うーん……いやかも」
紅葉が紫呉にいさんみたいになったら引きこもりリターンズになる自信があるから絶対にやめてほしい。そんなよこしまな思いあっての言葉だったけど紅葉の機嫌を治すには良かったらしい。私の手を握ってウキウキ歩いてる。私紅葉の扱い上手かもしれない。
「だよね! ナマエはボクのSchwesterだもんっ!」
「シュベ?」
「お姉ちゃん!」
「ああそうね」
草摩の、特に中にいる子達はみんな弟妹みたいなものだ。中は遊び相手なんて自分から探しに行かないといけないくらい閉鎖的だ。慊人の家を出禁になってからは遊ぶ相手がいなくて寂しい思いをしたから、紅葉と春辺りの世代でも遊びに誘ったりしていたのだ。リンには未だに拒否られるからそんなに一緒に遊んだことないけど。本当に小さいときだったときくらいだ。おかしいな。リンはそれほど歳離れてないのにな。りっちゃんとリンと私で遊んだら色々カオスで面白いと思うんだけどな。今度ダメもとで誘ってみよう。りっちゃんは絶対来てくれるから問題はリンだな。
「うちのお母さんも紅葉お気に入りだしね」
「ボクナマエよりお手伝いしてるもん」
「そうなんだよね。ことある事にそれ言われるわ」
紅葉のお母さんが外で暮らし始めて心が安定するまで紅葉のお父さんはお母さんに付きっきりだった。そのため紅葉をうちで預かっていた時期があったのだ。だからか何というか、紅葉は他の子より弟感が強い。紅葉のなつっこい性格も理由の一つだと思うけど。そしてここまで考えて、高校時代の引きこもり生活を思い出した。多分めちゃくちゃ心配をかけてたんだよねえ……弟とか言っておきながらとんでもない姉だ。
「紅葉、今さらだけど引きこもり生活してたときいっぱい気づかってくれてありがとね」
「んー? そんなのへのかっぱだよ! ナマエってばほとんどハリィの家にいただけだしねっ!」
「はとりの家落ちつくんだもん」
最低限の授業は出ろとお尻蹴りだしてくれるし落ちつくしで引きこもり生活にうってつけだった。これ言ったら絶対に怒られるから言わないけど。
「…………もう、怖くない?」
繋いだ手をぎゅっと握りしめて静かに訊ねてきた紅葉。ちょうどひと月前に触れたはとりの手と大きさも柔らかさも違っていた。それがひどく安心して、すとんと言葉が出てきた。
「まだちょっとダメかなぁ」
素直な気持ちを伝えると紅葉は「そっかぁ」と一言返してくれた。紅葉はその日一日、そのことに触れることはなかった。本当に優しい子だと思った。
***
ホワイトデー当日。
「ほら」
「へ?」
ほぼ日課のはとり家について早々、両手に収まるくらいの四角の箱をはとりに渡された。
「なにこれ」
「今日はホワイトデーだろう」
さらりとそう言ってはとりは仕事机戻った。
はとりの家の戸棚には焼き菓子の詰め合わせが置いてある。私がバレンタインにはとりにあげたものだ。市販のものだからそれなりに日持ちするし、甘いものをあまり食べないはとりでも小腹が空いたときなんかにいいかなと思って選んだのだ。はとり自身が食べなくてもお客さんにお茶請けとして出せるし、なんなら私も食べようと思って渡した。だからお返しとかいらないからね、と先に言っておいた。それなのに私の手のなかには綺麗な箱がある。
「…………」
唇の両端に力を入れる。顔の緩みと一緒に違うものも出てきそうだったのでぐっと押さえた。
「ありがとう、はとり」
そう言うと、いつもの淡々とした声で「ああ」と返ってきた。