日向ごっこ
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由希が宴会をサボったと大賑わいだ。由希がサボったことに静かに怒り狂った慊人のフォローに回ったらしいはとりは疲れの色が隠し切れてなかった。
「お疲れさま」
「……ここはおまえの部屋じゃないんだがな。正月くらい家にいてやれ」
「はとりの家に行く~っていったらハムの詰め合わせ持たされたから大丈夫だと思う」
いいやつだから美味しいよ、と言うと返す言葉もなかったみたいで静かに机に突っ伏した。
「寝るなら布団で寝ないと風邪引くよ」
「…………」
「? はとりさーん?」
「…………」
「寝るのはやっ!」
反応がないので近づいてみてみるとはとりは小さな寝息を立てていた。はとりがこんなに疲れてるなんて…どれだけ慊人怒ってるの…うわぁ挨拶まだ行ってないんだよね。行きたくないな。そう思いつつ押し入れから毛布を引っぱり出す。お疲れさま、と心の中でもう一回言ってはとりにかけようと毛布を広げる。
「……髪、のびたな」
怪我をした左の目を覆い隠すように鼻先まで伸びた前髪。忙しくて切る暇がなかっただけ、だと思う。言い訳するように心で呟き、寝ているはとりの前髪を触ろうとして、
「…………」
触れる直前で止めて、手を下ろした。
***
「おやナマエちゃん。僕の顔をみてそんなに嬉しそうにするなんて」
「はとり!はとりー!紫呉にいさんがきた!いやだ!」
「いやって君ね…」
ナマエの悲痛な叫びを聞いたはとりは仕事の手を止めて立ち上がった。いつも通りに家に来ていたナマエに来客の対応を任せたのだが、二度手間に終わるようだ。
玄関に顔を出すとナマエは少し泣きそうな顔ではとりの背中に隠れた。随分過剰な反応に見えるが元を辿れば原因は紫呉だ。いくつも年下、しかも女の子に理不尽な感情をぶつけたのだから。その上今でも根に持っている節がある。八つ当たりは止めろといっても聞かないので、ナマエのトラウマは解消されることなく今に続いている。全くもって大人気ない。
腰辺りの白衣をギュッと掴まれる感覚を感じながら「何の用だ」と訊ねる。
「はいっはーさん。僕からのバレンタインチョ・コ」
「…………」
不快な思いが二回重なったので無言で扉を閉めた。
「ごめんなさいウソです…透君からです…入れて…ナマエの分も預かってるから……」
わずかに扉が開いて紫呉が顔を出す。チラリとナマエに視線を向けるとナマエは渋い顔をしつつも首を縦に振った。
「…………………入れ」
しばらくどうしようか迷ったが、ナマエは部屋に戻して紫呉を客間に通すことにした。
「相変わらず嫌われてるなぁ」
「身から出た錆だろう」
「いやいや、最近は少しだけ罪悪感もあるんだよ」
「少しだけだろうが」
昨年、本田透を招いたときもナマエと慊人が共にいる状態で鉢合わせしたらしい。普段飄々としているくせに、お気に入りが自分以外といるだけで直ぐに子供に戻るのだこの男は。
「ナマエは何も知らない。ただ慊人の友人でいたいだけだ」
それ以上もそれ以下もない。そのくらい分かっている癖に、分かった上で紫呉はナマエにあたる。
「…………何も知らなくて、何もないのにあの子はああなんだ昔から。ほんと草摩らしくない」
ナマエも、ナマエの家族にも十二支の呪いを受けた者はいない。それでもナマエの家系は草摩家の中の人間であり続けた。当主筋に近い血筋だったからだ。だから慊人と歳が近い上に十二支である利津ではなくて、ナマエが慊人の次期側近候補として幼少の内から側に置かれていたのだ。二人が歳を重ねるにつれて慊人にナマエは悪影響だと判断され、側から外された為に今では少し距離があるが。
「あのこも僕達みたいにナマエを扱えないでいる。あのことナマエの間には何もないから。何もないって分かっているから尚のこと、ナマエが離れていくのを怖がっているんだよ」
紫呉の目が冷たい色を帯びていくのが分かって「紫呉」と声をかけた。思っていたよりも声に力が入った。
「何もしないよ。…あの子も透君や君と一緒できれいで、真っ直ぐな子だから」
「…………」
「まあ八つ当たりは続けるけど」
「……自覚しているなら止めろ」
「い・や」
紫呉の言葉にはとりは重い息を吐いた。
自分の代わりに慊人の検診に行くと行った紫呉を見送るときになって、ナマエがひょっこり顔を出した。紫呉を見送りに来たらしい。律儀なものだ。
「……ばいばい、紫呉にいさん」
「嫌そうな顔だねぇ」
「ノーコメント」
ナマエの返答に紫呉は喉を鳴らして出て行った。「カゼをひかせるなよ」と背中に忠告をして扉を閉めた。守られるかは微妙だった。
「───………」
扉を背にして右手を左目に当てる。紫呉は自分自身を汚れているといった。だがそれははとりも同じだ。幸せにすると誓った人の心を壊してしまった罪は消えない。この目も見えなくていい。自分はずっとこのままでいいのだ。ずっと、雪に埋もれたままで。
「汚くないよ」
意識が浮上したような感覚だった。はとりの目の前には下唇を噛んで、何か耐えるような顔をしたナマエがいた。ナマエは恐る恐るといった動作ではとりの左目に手を伸ばす。触れる寸前で一瞬動きが止まったが、ゆっくり指先を伸ばした。
「はとりは汚くないよ」
左目にやった右手に一回り以上小さな手が重なった。そこから伝わる優しい熱に自然と手が降りていく。力なく落ちた手はナマエの両手で包まれた。
「……声に出ていたか?」
「出てた。すっごく出てた」
「…気を使わせたな」
「別に使ってないよ」
「そうか」
唇を噛み締めているのは泣きそうになったのを抑えるためだと気がついた。その原因を作ったことを申し訳なく思ったが右手のぬくもりが今は離せそうもなかった。
「お疲れさま」
「……ここはおまえの部屋じゃないんだがな。正月くらい家にいてやれ」
「はとりの家に行く~っていったらハムの詰め合わせ持たされたから大丈夫だと思う」
いいやつだから美味しいよ、と言うと返す言葉もなかったみたいで静かに机に突っ伏した。
「寝るなら布団で寝ないと風邪引くよ」
「…………」
「? はとりさーん?」
「…………」
「寝るのはやっ!」
反応がないので近づいてみてみるとはとりは小さな寝息を立てていた。はとりがこんなに疲れてるなんて…どれだけ慊人怒ってるの…うわぁ挨拶まだ行ってないんだよね。行きたくないな。そう思いつつ押し入れから毛布を引っぱり出す。お疲れさま、と心の中でもう一回言ってはとりにかけようと毛布を広げる。
「……髪、のびたな」
怪我をした左の目を覆い隠すように鼻先まで伸びた前髪。忙しくて切る暇がなかっただけ、だと思う。言い訳するように心で呟き、寝ているはとりの前髪を触ろうとして、
「…………」
触れる直前で止めて、手を下ろした。
***
「おやナマエちゃん。僕の顔をみてそんなに嬉しそうにするなんて」
「はとり!はとりー!紫呉にいさんがきた!いやだ!」
「いやって君ね…」
ナマエの悲痛な叫びを聞いたはとりは仕事の手を止めて立ち上がった。いつも通りに家に来ていたナマエに来客の対応を任せたのだが、二度手間に終わるようだ。
玄関に顔を出すとナマエは少し泣きそうな顔ではとりの背中に隠れた。随分過剰な反応に見えるが元を辿れば原因は紫呉だ。いくつも年下、しかも女の子に理不尽な感情をぶつけたのだから。その上今でも根に持っている節がある。八つ当たりは止めろといっても聞かないので、ナマエのトラウマは解消されることなく今に続いている。全くもって大人気ない。
腰辺りの白衣をギュッと掴まれる感覚を感じながら「何の用だ」と訊ねる。
「はいっはーさん。僕からのバレンタインチョ・コ」
「…………」
不快な思いが二回重なったので無言で扉を閉めた。
「ごめんなさいウソです…透君からです…入れて…ナマエの分も預かってるから……」
わずかに扉が開いて紫呉が顔を出す。チラリとナマエに視線を向けるとナマエは渋い顔をしつつも首を縦に振った。
「…………………入れ」
しばらくどうしようか迷ったが、ナマエは部屋に戻して紫呉を客間に通すことにした。
「相変わらず嫌われてるなぁ」
「身から出た錆だろう」
「いやいや、最近は少しだけ罪悪感もあるんだよ」
「少しだけだろうが」
昨年、本田透を招いたときもナマエと慊人が共にいる状態で鉢合わせしたらしい。普段飄々としているくせに、お気に入りが自分以外といるだけで直ぐに子供に戻るのだこの男は。
「ナマエは何も知らない。ただ慊人の友人でいたいだけだ」
それ以上もそれ以下もない。そのくらい分かっている癖に、分かった上で紫呉はナマエにあたる。
「…………何も知らなくて、何もないのにあの子はああなんだ昔から。ほんと草摩らしくない」
ナマエも、ナマエの家族にも十二支の呪いを受けた者はいない。それでもナマエの家系は草摩家の中の人間であり続けた。当主筋に近い血筋だったからだ。だから慊人と歳が近い上に十二支である利津ではなくて、ナマエが慊人の次期側近候補として幼少の内から側に置かれていたのだ。二人が歳を重ねるにつれて慊人にナマエは悪影響だと判断され、側から外された為に今では少し距離があるが。
「あのこも僕達みたいにナマエを扱えないでいる。あのことナマエの間には何もないから。何もないって分かっているから尚のこと、ナマエが離れていくのを怖がっているんだよ」
紫呉の目が冷たい色を帯びていくのが分かって「紫呉」と声をかけた。思っていたよりも声に力が入った。
「何もしないよ。…あの子も透君や君と一緒できれいで、真っ直ぐな子だから」
「…………」
「まあ八つ当たりは続けるけど」
「……自覚しているなら止めろ」
「い・や」
紫呉の言葉にはとりは重い息を吐いた。
自分の代わりに慊人の検診に行くと行った紫呉を見送るときになって、ナマエがひょっこり顔を出した。紫呉を見送りに来たらしい。律儀なものだ。
「……ばいばい、紫呉にいさん」
「嫌そうな顔だねぇ」
「ノーコメント」
ナマエの返答に紫呉は喉を鳴らして出て行った。「カゼをひかせるなよ」と背中に忠告をして扉を閉めた。守られるかは微妙だった。
「───………」
扉を背にして右手を左目に当てる。紫呉は自分自身を汚れているといった。だがそれははとりも同じだ。幸せにすると誓った人の心を壊してしまった罪は消えない。この目も見えなくていい。自分はずっとこのままでいいのだ。ずっと、雪に埋もれたままで。
「汚くないよ」
意識が浮上したような感覚だった。はとりの目の前には下唇を噛んで、何か耐えるような顔をしたナマエがいた。ナマエは恐る恐るといった動作ではとりの左目に手を伸ばす。触れる寸前で一瞬動きが止まったが、ゆっくり指先を伸ばした。
「はとりは汚くないよ」
左目にやった右手に一回り以上小さな手が重なった。そこから伝わる優しい熱に自然と手が降りていく。力なく落ちた手はナマエの両手で包まれた。
「……声に出ていたか?」
「出てた。すっごく出てた」
「…気を使わせたな」
「別に使ってないよ」
「そうか」
唇を噛み締めているのは泣きそうになったのを抑えるためだと気がついた。その原因を作ったことを申し訳なく思ったが右手のぬくもりが今は離せそうもなかった。