日向ごっこ
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「慊ちゃん、綺麗だよ」
「…………」
「紫呉にいさん意外といい趣味してる~」
「…………」
「それとも慊ちゃんだから似合うの分かったのかもね」
「……僕はどうしたらいい……?」
慊人のメイクを手伝っている最中だった。口紅を塗ろうとした唇は、へにゃりと下がってしまっている。
紫呉にいさんとの昨夜の出来事を教えてくれた。傲慢かつ子供な紫呉にいさん。ぶっちゃけると友達をそんな男の元に行かせたくない。でもこれを言ってしまうのは私のわがままだ。
「慊ちゃん。目閉じて」
「なんで」
「いいから」
私の言葉に目を閉じた慊人の手をぎゅっと握る。
「慊ちゃんはね、今ずっと暗い所にいるの。光も何にもなくて真っ暗な場所」
「…………」
「助けてって言っても声が出ないの。だから誰にも気づいてもらえなくて。でも誰か! って心は人を呼んでるの。何度も何度もその人を求めてしまうの。人は独りじゃ生きられないから」
「…………」
「慊ちゃんの“誰か”は誰だった?」
慊人はゆっくり目を開けた。さっきまでの迷子のような目はそこにはなかった。
「口にこってして。口紅塗るから」
「ん、」
「メイクは女の武器だからね。精一杯戦っておいで。疲れたら私のところ来ていいんだから」
「うん……」
「よしおわり。……じゃあいってらっしゃい」
背中をポンと押す。私のパワーも持ってけ。そんな想いも込めて慊人を送り出した。
****
「大丈夫そう、だな」
紫呉にいさんと慊人の重なる姿を見てその場を立ち去った。どっちも意地っ張りだと判明したから最後の最後でどうなるかと思ったけどうまくいってよかった。少しスキップしたい気分で歩いていると廊下の角で人にぶつかりそうになった。はとりだ。一瞬で判断してぐるりと身体をひねって避けようとする。けれどグギ、と足首から嫌な音がして転けそうになった。
「う、わっ!」
「何で無理やり避けようとする」
はとりの腕のなかで支えられる。身体が強張ってたけどあれ? となる。……………。
「……もう変身しないんだった」
「ああ、だから避けようとしたのか」
「タツノオトシゴ可愛いから私は好きだったけどはとりは嫌でしょ?」
「それより足捻っただろう」
話そらした……と思いつつ右足を少し動かしたら激痛が走った。
「痛い!」
「変な避け方するからだ」
そう言ってふわりとはとりに横抱きにされた。バランスがふわふわしてあわててはとりの首に腕を回す。
「うわー……うわー……!」
「なんだ」
「……はとりに抱っこしてもらえる慊ちゃんのこといいなぁって思ってたから。夢叶っちゃった」
「このくらいいつでもやってやる」
「言いましたね。私は遠慮しませんよ」
「ああ」
ふっ、と笑うはとりに顔がほころぶ。これはご褒美にやってもらおう。それがいい。それだったら何でもがんばれる。そしてふと思い出す。
「……十二支の集まりどうだった?」
「皆戸惑っていたな。綾女以外は」
「まああーやは慊ちゃんのこと知ってたし中身あーやだしね。他の子たちは、」
「利津が慊人のこと自分と同じ趣味に走ったのかと驚いていた」
「絶対面白いやつじゃん見たかった。りっちゃんのそういう所ほんと好き」
ガジリ。そんな効果音がするかのようにほっぺたを噛まれた。もちろん犯人は一人しかいなくて。
「なんで噛むの!?」
「俺以外の男に好きなんて言うからだ」
「やきもちだ」
「そうだが?」
「はとり好き!」
「知っている」
やきもち妬くはとり可愛い! 好き!
首元にぐりぐりしているとこめかみにキスを落とされた。好き!
「もう言わないです」
「そうしてくれ」
「はとりも言っちゃだめよ」
「おまえ以外に言う機会が全く思い浮かばない」
「たしかに」
私は人、物問わずけっこう言うけどはとりは全然だ。私とてもレアな存在かもしれない。
「はっ! りっちゃんに気を取られて聞くの忘れてた。他の子たちは? どうだった?」
「……依鈴は怒っていたようだったな」
「そりゃそうよ。リンはその資格ある」
慊人の贖罪のひとつだ。それはちゃんと背負っていかないといけない。
「でもリンは自分がされたことより春や透ちゃん達へのされたことの怒りのほうが強そうだなぁ。あの子も優しい子だから自分より他の子のこと考えちゃう」
「……おまえもその節があるから自覚してほしいんだがな」
「えっ? 私? 私は自分のことでもいっぱい怒りますよ?」
「家から出られなくなった理由」
「!!」
「俺が原因だろう。俺が佳菜の件で心配をかけてそれが不安の理由になった」
息が一瞬止まるほど驚いた。紅葉にしか言った事がないからだ。そして紅葉は絶対にはとりに言ったりしない。だからバレることはないと思っていた。
「なんで……?」
「紫呉に聞いた。予想だったがな。この様子だと当たりのようだな」
「紫呉にいさんほんとろくなことしない!!」
おろして! 慊ちゃんとのイチャイチャ邪魔してやる! と吠えたけどはとりは降ろしてくれなかった。
「知られたくなかったのに……!!」
「……紫呉にこのことを聞いて、おまえのことが馬鹿だと思った」
「………うん」
「そしてそれ以上に愛おしく思った」
「!」
「俺はおまえに気持ちを伝える気はなかったのにそんなことは関係なくなっていた」
はとりはいつの間にか足を止めていた。そしてまっすぐに私を見る。
「辛い思いをさせてすまなかった。そして見守っていてくれたことを感謝する。おまえがいたから俺の毎日は穏やかに時が流れるようになった。おまえの笑顔に癒されていた。ありがとうナマエ」
「……勝手に心配して勝手に外に出られなくなっただけだよ?」
「そんな言い方をするな。それだけおまえが愛情深いだけだ」
「……はとりはすぐに私を甘やかす」
「これからもそうするから覚悟しておけ」
「どんな宣言……」
ぎゅう、と首に回った腕に力を入れて顔を寄せる。引かれるかと思ってた。あまりにも自分勝手にみんなを振り回したからだ。それなのにはとりは愛情深いからと優しい言葉で包んでくれる。はとりは優しすぎる。この優しさを返せる人間になりたい。そう思った。
「はとり大好き」
「知っている」
「じゃあこれからも愛してる」
「……それは俺もだな」
顔を見合わせて笑う。同じ呼吸でキスをする。熱を伝えあっていく。こうやって二人で生きていく。倖せな時間を二人で作って。
完
「…………」
「紫呉にいさん意外といい趣味してる~」
「…………」
「それとも慊ちゃんだから似合うの分かったのかもね」
「……僕はどうしたらいい……?」
慊人のメイクを手伝っている最中だった。口紅を塗ろうとした唇は、へにゃりと下がってしまっている。
紫呉にいさんとの昨夜の出来事を教えてくれた。傲慢かつ子供な紫呉にいさん。ぶっちゃけると友達をそんな男の元に行かせたくない。でもこれを言ってしまうのは私のわがままだ。
「慊ちゃん。目閉じて」
「なんで」
「いいから」
私の言葉に目を閉じた慊人の手をぎゅっと握る。
「慊ちゃんはね、今ずっと暗い所にいるの。光も何にもなくて真っ暗な場所」
「…………」
「助けてって言っても声が出ないの。だから誰にも気づいてもらえなくて。でも誰か! って心は人を呼んでるの。何度も何度もその人を求めてしまうの。人は独りじゃ生きられないから」
「…………」
「慊ちゃんの“誰か”は誰だった?」
慊人はゆっくり目を開けた。さっきまでの迷子のような目はそこにはなかった。
「口にこってして。口紅塗るから」
「ん、」
「メイクは女の武器だからね。精一杯戦っておいで。疲れたら私のところ来ていいんだから」
「うん……」
「よしおわり。……じゃあいってらっしゃい」
背中をポンと押す。私のパワーも持ってけ。そんな想いも込めて慊人を送り出した。
****
「大丈夫そう、だな」
紫呉にいさんと慊人の重なる姿を見てその場を立ち去った。どっちも意地っ張りだと判明したから最後の最後でどうなるかと思ったけどうまくいってよかった。少しスキップしたい気分で歩いていると廊下の角で人にぶつかりそうになった。はとりだ。一瞬で判断してぐるりと身体をひねって避けようとする。けれどグギ、と足首から嫌な音がして転けそうになった。
「う、わっ!」
「何で無理やり避けようとする」
はとりの腕のなかで支えられる。身体が強張ってたけどあれ? となる。……………。
「……もう変身しないんだった」
「ああ、だから避けようとしたのか」
「タツノオトシゴ可愛いから私は好きだったけどはとりは嫌でしょ?」
「それより足捻っただろう」
話そらした……と思いつつ右足を少し動かしたら激痛が走った。
「痛い!」
「変な避け方するからだ」
そう言ってふわりとはとりに横抱きにされた。バランスがふわふわしてあわててはとりの首に腕を回す。
「うわー……うわー……!」
「なんだ」
「……はとりに抱っこしてもらえる慊ちゃんのこといいなぁって思ってたから。夢叶っちゃった」
「このくらいいつでもやってやる」
「言いましたね。私は遠慮しませんよ」
「ああ」
ふっ、と笑うはとりに顔がほころぶ。これはご褒美にやってもらおう。それがいい。それだったら何でもがんばれる。そしてふと思い出す。
「……十二支の集まりどうだった?」
「皆戸惑っていたな。綾女以外は」
「まああーやは慊ちゃんのこと知ってたし中身あーやだしね。他の子たちは、」
「利津が慊人のこと自分と同じ趣味に走ったのかと驚いていた」
「絶対面白いやつじゃん見たかった。りっちゃんのそういう所ほんと好き」
ガジリ。そんな効果音がするかのようにほっぺたを噛まれた。もちろん犯人は一人しかいなくて。
「なんで噛むの!?」
「俺以外の男に好きなんて言うからだ」
「やきもちだ」
「そうだが?」
「はとり好き!」
「知っている」
やきもち妬くはとり可愛い! 好き!
首元にぐりぐりしているとこめかみにキスを落とされた。好き!
「もう言わないです」
「そうしてくれ」
「はとりも言っちゃだめよ」
「おまえ以外に言う機会が全く思い浮かばない」
「たしかに」
私は人、物問わずけっこう言うけどはとりは全然だ。私とてもレアな存在かもしれない。
「はっ! りっちゃんに気を取られて聞くの忘れてた。他の子たちは? どうだった?」
「……依鈴は怒っていたようだったな」
「そりゃそうよ。リンはその資格ある」
慊人の贖罪のひとつだ。それはちゃんと背負っていかないといけない。
「でもリンは自分がされたことより春や透ちゃん達へのされたことの怒りのほうが強そうだなぁ。あの子も優しい子だから自分より他の子のこと考えちゃう」
「……おまえもその節があるから自覚してほしいんだがな」
「えっ? 私? 私は自分のことでもいっぱい怒りますよ?」
「家から出られなくなった理由」
「!!」
「俺が原因だろう。俺が佳菜の件で心配をかけてそれが不安の理由になった」
息が一瞬止まるほど驚いた。紅葉にしか言った事がないからだ。そして紅葉は絶対にはとりに言ったりしない。だからバレることはないと思っていた。
「なんで……?」
「紫呉に聞いた。予想だったがな。この様子だと当たりのようだな」
「紫呉にいさんほんとろくなことしない!!」
おろして! 慊ちゃんとのイチャイチャ邪魔してやる! と吠えたけどはとりは降ろしてくれなかった。
「知られたくなかったのに……!!」
「……紫呉にこのことを聞いて、おまえのことが馬鹿だと思った」
「………うん」
「そしてそれ以上に愛おしく思った」
「!」
「俺はおまえに気持ちを伝える気はなかったのにそんなことは関係なくなっていた」
はとりはいつの間にか足を止めていた。そしてまっすぐに私を見る。
「辛い思いをさせてすまなかった。そして見守っていてくれたことを感謝する。おまえがいたから俺の毎日は穏やかに時が流れるようになった。おまえの笑顔に癒されていた。ありがとうナマエ」
「……勝手に心配して勝手に外に出られなくなっただけだよ?」
「そんな言い方をするな。それだけおまえが愛情深いだけだ」
「……はとりはすぐに私を甘やかす」
「これからもそうするから覚悟しておけ」
「どんな宣言……」
ぎゅう、と首に回った腕に力を入れて顔を寄せる。引かれるかと思ってた。あまりにも自分勝手にみんなを振り回したからだ。それなのにはとりは愛情深いからと優しい言葉で包んでくれる。はとりは優しすぎる。この優しさを返せる人間になりたい。そう思った。
「はとり大好き」
「知っている」
「じゃあこれからも愛してる」
「……それは俺もだな」
顔を見合わせて笑う。同じ呼吸でキスをする。熱を伝えあっていく。こうやって二人で生きていく。倖せな時間を二人で作って。
完
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