日向ごっこ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ナマエと結婚しようと思っている」
「……………」
「慊人、おまえに祝福してほしい」
朝一番で夾のことを思い出してよっしゃ! 一発殴っちゃお! とか思ってたら笑顔のお母さんに捕まって、キレイめのワンピースを着せられて美容院へ直行。髪の毛のセットとメイクもばっちりされて家に帰るとスーツ姿のはとりと、おじいちゃん、お父さん、いとこ共がいた。そしてそのメンバーで慊人の屋敷に向かい、今に至る。おじいちゃん達は下座にいる。……透ちゃんと紅野の退院決まってからとか言ってませんでしたか……? もしや昨日のうちに決まった……? 心の準備ってものがですね……? と頭がぐるぐるする。ちらりと慊人を見ると無表情でこっちを見ている。心のなかで気合いを入れる。
「慊ちゃん、お願いします。はとりを倖せにすると約束します。結婚を許してください」
「……結婚したらおまえはどうなる」
「えっ」
「ナマエはどうなるって聞いてるんだ」
「そ、草摩ナマエになる……のは変わらない。はとりのお嫁さんとしてなんかこう色々がんばる……?」
「僕とのことは」
「えっ」
「僕の関係は」
「変わらず友達ですけど? えっ? 結婚しても友達って変わんなくない?」
違うの? と後ろのお父さん達をみたら何故か拍子抜けみたいな顔してた。なにその顔。はとりを見ると呆れたような顔。なにその顔。
「……ならいい」
「えっ」
「……勝手に結婚でもなんでもしろって言ってんだよ!」
「~~~っ! 慊ちゃーん! ありがとー!!」
「くっつくなっ!」
ぎゅうぎゅう抱きしめて喜びを表現する。苦情は入るけど顔が赤いからこれは照れ隠し。だから無視する。
「当主」
するとおじいちゃんから声がかかる。
「最近精力的に動いておられるようですが、猫憑きの間を壊されるのは本当でしょうか」
「えっ」
「本当だ。なんだ文句でもあるのか」
私が驚いている間もなく二人は会話を続ける。猫憑きの間。夾が行くことになっていた忌々しい場所。
「いえ。あのような過去の遺物、草摩には必要ないと言うのが我々の意見ですので」
「…………」
「本当にお変わりになった。今のあなたならついて行くことができましょう」
「……よく言うな。裏で動いていたのは知っているぞ」
「ええ。そこも含めてあなたの当主として相応しいか、草摩を守っていく気概があるのか確かめさせていただきました」
「狸じじいめ」
「その狸が他の頭の凝り固まった本家の人間を黙らせようと提案しているのですよ。あなたに反発する者も」
「! おじいちゃんっ! だったら、」
「ああ。──草摩慊人様。これからも微力ではございますが、草摩の名に連なる者の一人として力を奮わせていただきます」
おじいちゃん、お父さん、いとこ達は慊人に向かって頭を下げた。
「……わかった。頼む」
「!!」
そして慊人も軽くおじいちゃん達に向かって頭を下げた。私はと言うと。
「……良かったぁ」
腰が抜けた。雰囲気に飲み込まれたともいう。だっておじいちゃんも慊人もマジモードだしはとり何も言わないしで空気に完全に押しつぶされていた。
「ナマエ、大丈夫か」
「はとり。……動けないですね」
「僕の着物の裾掴むのやめろ」
「もうちょっとまって」
「安心したか?」
はとりに聞かれてコクンと頷く。
だって反対されていたら全部なくなっていたかもしれない。草摩のみんなとも、慊人とも会えなくなっていたかもしれない。そう思うと涙がにじんできた。
「な、なんで泣くんだよ!」
「嬉しいからだよ~っ!」
「メイク崩れるぞ。せっかくセットしてもらったんだ」
「うう、ならがんばる……慊ちゃんティッシュ貸して」
「おまえは本当に自由だな」
呆れたように言う慊人は戸棚からティッシュ箱を持ってきてくれた。メイクが崩れないように涙をぬぐう。
「はとり、可愛い?」
「可愛いというより今日は綺麗だ」
「ありがとう~」
「おまえらいつもこんな感じなのか」
「この二人は場所選びませんよ当主」
いとこの1人が呆れた口調でいう。
「よく僕に隠し通せたな」
「がんばりました」
「…………」
「なんでほっぺたつまむの」
「ふん」
残りのいとこ二人が「あれちょっとやきもち妬いてるだろ」「はとり兄さんよりナマエの方が比重大きかったんだな」とこそこそ話してたのはもちろん聞こえなかった。
****
それは突然やってきた。
「はとり、庭のひまわり満開だね」
ナマエと一緒に庭にいるときのこと。
はとりは縁側から帽子をかぶって花に水をやるナマエを見守っていた。水が逆流した! と少し水をかぶったのに笑っているナマエにつられて笑みがこぼれる。夏の日差しだとすぐ乾くだろうが、念のためタオルを持ってこようかと部屋に入ろうとした。そのときだった。
胸にあるものが一気に消えていくのが分かった。焦燥感がつのる。それなのに嬉しくて哀しくて寂しい。感情がぐちゃぐちゃになって混ざっていく。なんと表現したらいいのだろうか。分からないまま目から涙が流れていった。右手で顔を隠す。
「はとり立ちくらみ? 大丈夫? 中入ろう」
そんなはとりに気づいたナマエは走ってこちらにやってくる。靴を脱ごうとしたのを止めてはとりから縁側から降りる。
「え? はとり、涼しいところにい……こ」
ナマエの声は途中で途切れた。はとりが全力で抱きしめたからだ。力加減が出来ない。愛しい存在の熱を身体で感じて制御が効かない。愛おしさが止まらない。
「はとり……はとり……」
ナマエの声が涙声へと変わっていく。恐る恐る背中に回ってきた手は震えていた。はとりの手も少し震えていた。はじめての抱擁は不格好に終わりそうだと頭の片隅で思う。
「ナマエ、愛してる。ずっとだ、ずっとこの気持ちは変わらない」
「うん……うん……っ」
顔を見合わせる。どちらもひどい顔をしているのだろう。だけどはとりを想って泣くナマエはこの世で一番綺麗だと思った。
「どんなはとりも好き。大好き」
「ああ」
「はとり、哀しい……?」
「……分からない。でも胸の中が空いたようだ」
そう言うとナマエははとりの胸に頬を寄せた。
「はとりの中にずっと一緒にいたものだもんね」
「……ああ」
「その隙間が埋まっていくように色んなことをしよう? 二人で積み重ねていこう?」
「……ああ」
「二人で生きていこう」
「ああ」
二人で。ずっと。
抱きしめあいながらする初めてのキスは涙の味がした。
「……………」
「慊人、おまえに祝福してほしい」
朝一番で夾のことを思い出してよっしゃ! 一発殴っちゃお! とか思ってたら笑顔のお母さんに捕まって、キレイめのワンピースを着せられて美容院へ直行。髪の毛のセットとメイクもばっちりされて家に帰るとスーツ姿のはとりと、おじいちゃん、お父さん、いとこ共がいた。そしてそのメンバーで慊人の屋敷に向かい、今に至る。おじいちゃん達は下座にいる。……透ちゃんと紅野の退院決まってからとか言ってませんでしたか……? もしや昨日のうちに決まった……? 心の準備ってものがですね……? と頭がぐるぐるする。ちらりと慊人を見ると無表情でこっちを見ている。心のなかで気合いを入れる。
「慊ちゃん、お願いします。はとりを倖せにすると約束します。結婚を許してください」
「……結婚したらおまえはどうなる」
「えっ」
「ナマエはどうなるって聞いてるんだ」
「そ、草摩ナマエになる……のは変わらない。はとりのお嫁さんとしてなんかこう色々がんばる……?」
「僕とのことは」
「えっ」
「僕の関係は」
「変わらず友達ですけど? えっ? 結婚しても友達って変わんなくない?」
違うの? と後ろのお父さん達をみたら何故か拍子抜けみたいな顔してた。なにその顔。はとりを見ると呆れたような顔。なにその顔。
「……ならいい」
「えっ」
「……勝手に結婚でもなんでもしろって言ってんだよ!」
「~~~っ! 慊ちゃーん! ありがとー!!」
「くっつくなっ!」
ぎゅうぎゅう抱きしめて喜びを表現する。苦情は入るけど顔が赤いからこれは照れ隠し。だから無視する。
「当主」
するとおじいちゃんから声がかかる。
「最近精力的に動いておられるようですが、猫憑きの間を壊されるのは本当でしょうか」
「えっ」
「本当だ。なんだ文句でもあるのか」
私が驚いている間もなく二人は会話を続ける。猫憑きの間。夾が行くことになっていた忌々しい場所。
「いえ。あのような過去の遺物、草摩には必要ないと言うのが我々の意見ですので」
「…………」
「本当にお変わりになった。今のあなたならついて行くことができましょう」
「……よく言うな。裏で動いていたのは知っているぞ」
「ええ。そこも含めてあなたの当主として相応しいか、草摩を守っていく気概があるのか確かめさせていただきました」
「狸じじいめ」
「その狸が他の頭の凝り固まった本家の人間を黙らせようと提案しているのですよ。あなたに反発する者も」
「! おじいちゃんっ! だったら、」
「ああ。──草摩慊人様。これからも微力ではございますが、草摩の名に連なる者の一人として力を奮わせていただきます」
おじいちゃん、お父さん、いとこ達は慊人に向かって頭を下げた。
「……わかった。頼む」
「!!」
そして慊人も軽くおじいちゃん達に向かって頭を下げた。私はと言うと。
「……良かったぁ」
腰が抜けた。雰囲気に飲み込まれたともいう。だっておじいちゃんも慊人もマジモードだしはとり何も言わないしで空気に完全に押しつぶされていた。
「ナマエ、大丈夫か」
「はとり。……動けないですね」
「僕の着物の裾掴むのやめろ」
「もうちょっとまって」
「安心したか?」
はとりに聞かれてコクンと頷く。
だって反対されていたら全部なくなっていたかもしれない。草摩のみんなとも、慊人とも会えなくなっていたかもしれない。そう思うと涙がにじんできた。
「な、なんで泣くんだよ!」
「嬉しいからだよ~っ!」
「メイク崩れるぞ。せっかくセットしてもらったんだ」
「うう、ならがんばる……慊ちゃんティッシュ貸して」
「おまえは本当に自由だな」
呆れたように言う慊人は戸棚からティッシュ箱を持ってきてくれた。メイクが崩れないように涙をぬぐう。
「はとり、可愛い?」
「可愛いというより今日は綺麗だ」
「ありがとう~」
「おまえらいつもこんな感じなのか」
「この二人は場所選びませんよ当主」
いとこの1人が呆れた口調でいう。
「よく僕に隠し通せたな」
「がんばりました」
「…………」
「なんでほっぺたつまむの」
「ふん」
残りのいとこ二人が「あれちょっとやきもち妬いてるだろ」「はとり兄さんよりナマエの方が比重大きかったんだな」とこそこそ話してたのはもちろん聞こえなかった。
****
それは突然やってきた。
「はとり、庭のひまわり満開だね」
ナマエと一緒に庭にいるときのこと。
はとりは縁側から帽子をかぶって花に水をやるナマエを見守っていた。水が逆流した! と少し水をかぶったのに笑っているナマエにつられて笑みがこぼれる。夏の日差しだとすぐ乾くだろうが、念のためタオルを持ってこようかと部屋に入ろうとした。そのときだった。
胸にあるものが一気に消えていくのが分かった。焦燥感がつのる。それなのに嬉しくて哀しくて寂しい。感情がぐちゃぐちゃになって混ざっていく。なんと表現したらいいのだろうか。分からないまま目から涙が流れていった。右手で顔を隠す。
「はとり立ちくらみ? 大丈夫? 中入ろう」
そんなはとりに気づいたナマエは走ってこちらにやってくる。靴を脱ごうとしたのを止めてはとりから縁側から降りる。
「え? はとり、涼しいところにい……こ」
ナマエの声は途中で途切れた。はとりが全力で抱きしめたからだ。力加減が出来ない。愛しい存在の熱を身体で感じて制御が効かない。愛おしさが止まらない。
「はとり……はとり……」
ナマエの声が涙声へと変わっていく。恐る恐る背中に回ってきた手は震えていた。はとりの手も少し震えていた。はじめての抱擁は不格好に終わりそうだと頭の片隅で思う。
「ナマエ、愛してる。ずっとだ、ずっとこの気持ちは変わらない」
「うん……うん……っ」
顔を見合わせる。どちらもひどい顔をしているのだろう。だけどはとりを想って泣くナマエはこの世で一番綺麗だと思った。
「どんなはとりも好き。大好き」
「ああ」
「はとり、哀しい……?」
「……分からない。でも胸の中が空いたようだ」
そう言うとナマエははとりの胸に頬を寄せた。
「はとりの中にずっと一緒にいたものだもんね」
「……ああ」
「その隙間が埋まっていくように色んなことをしよう? 二人で積み重ねていこう?」
「……ああ」
「二人で生きていこう」
「ああ」
二人で。ずっと。
抱きしめあいながらする初めてのキスは涙の味がした。