日向ごっこ
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「おお……ホントに一人で病院に行ったんだ……慊人。ナマエがついて行くって言ったの断ってたし進歩だねぇ。暴れるだけ暴れてスッキリしたのかねぇ」
「……本田君とも何かあったんだろう?」
「あ゛ー……そうみたいだねぇ」
紫呉の脳裏に浮かぶのは膝を抱えてか細く話す慊人の姿。
『……座ったんだ。遠くからじゃなく……上からでもなくて……近くで、となりで、僕に話しかけてきたんだ。“そこにいたんだ”って』
『……これを言うのは癪だけど』
『……?』
『となりにいようとした子はまだいるでしょ』
『…………』
『慊ちゃんって呼んで叱られても叩かれても、呼び続けようとした子が』
『!!』
「思惑通りに事は進んだか?」
はとりの問いかけに思考が戻る。
「え?」
「……」
「ああ……うん、そうねぇ………逆にちょっと反省してます……色々と」
「……“ちょっと”?」
「いやいやはーさんこれはこれで僕も多少は譲歩を覚えたというか……」
「慊ちゃんいる!? 病院行った!? 大丈夫かなぁやっぱついて行ったほうがよかったかな!? あっ、はとりただいまー!」
「賑やかなのが帰ってきたし……」
「おかえりナマエ」
大まかにうまくはいったがこの子は変わらないだろうな。そんな確信を持ちつつ紫呉は息をついた。
****
「透ちゃんへのお見舞い何にしよう? お花は枯れるから個人的にイヤなんだよね」
「プリザーブドフラワーなら枯れないだろう」
「はとり天才! じゃあ何色にしようかなぁ。透ちゃんは白かピンクって感じだなぁ」
はとりと透ちゃんのお見舞いの品を買いにきていた。お店に行き、店員さんにお見舞いにいいお花を聞く。紫陽花の時期だし可愛いからちょうどいいかなと思ってたら花びらが四枚だからよろしくないとのこと。あと白は弔事に使われるからメインはダメ。先に聞いててよかった。そしたら淡いピンクの薔薇がついたフォトフレームが売っていてコレだ! ってなり購入した。はとりは本を買っていた。
はとりの車で運転中。私の機嫌は最高潮だ。だって慊人の屋敷の出禁が解かれていつでもいけるようになった。慊人がお局たちを説得したらしい。堂々と入る私の姿を苦々しい顔で見てくるから内心へへん! となった。
「ふんふーん」
「ご機嫌だな」
「うん!」
「“慊ちゃん”と元に戻れてそんなに嬉しいか」
「はとりでもその呼び方はダメ! やきもち妬く!」
「どっちにだ?」
「どっちにも!」
「ふ、そうか」
「そうなんです」
そう言う私に片手で頭を撫でるはとり。ケアが早くて大好き。
鼻歌を歌う私にはとりが「覚えていると思うが」と口を開く。なになに?
「慊人が変わらなかった場合、俺達は外で暮らすことになるが」
「…………………」
「おまえ忘れていたな」
「ソンナコトありませんよ?」
すっかり忘れてた。だって色々ありすぎたから。流血沙汰は全てを吹き飛ばす。
「紅野を刺した件で慊人の立場は悪くなっている」
「…………」
「おまえの祖父と父が抑えているがいつ爆発するか分からない」
「…………でも慊ちゃんを信じたいな」
自分から紅野のお見舞いに行くって言った慊人を。あれから落ちついた様子でいるし。
「俺もだ」
「だよね!」
「本田君や紅野の退院が決まって落ちついたら言うか」
「なにを?」
「結婚の報告だ」
「げほっ!?」
「なぜ咽せる」
「結婚!?」
「それ以外に何がある」
何を今さらと言った顔をされる。目をぱちぱちしていたらはとりはこれは可笑しいぞ? といった顔になりハザードをたいて道端に車を止めた。
「俺はおまえと共に生きていくと言ったはずだが」
「言われております……」
「おまえなしの未来が考えられないとも言った」
「言われました……」
「側にいてくれとも」
「言われてますね……」
プロポーズだ! これプロポーズだ!
今さら気づいたことに頭を抱える。私の反応にはとりも頭を押さえた。
「気づいていなかったな」
「大変申し訳なく思っております」
「分かりやすいものを渡すべきだったな」
「分かりやすいもの」
はとりは鞄に手を入れて小さな箱を取り出した。
「それ……」
「草摩ナマエ」
「はいっ!」
背筋が伸びる。
箱をパカリとあくとそこには小さな宝石のついた細身の指輪があった。目に涙がたまる。早いぞ、とはとりは苦笑した。
「俺の伴侶になってほしい。おまえと一緒の生活が愛おしくてたまらない。もう手放せないほどに。俺の未来をおまえに渡すからおまえの未来を俺に渡してくれ」
「……っ、……っ!」
「返事は笑顔のほうがいいのだが」
「~~っはいっ!」
泣いていたのを無理やり笑う。不細工だったかもしれない。でもはとりは愛おしそうに笑い返してくれた。
「指輪、持ち歩いてたの……?」
「紫呉に邪魔されないように念のためにな」
「なんで紫呉にいさんがここで出てくるの……?」
「なんでもだ」
そう言ってはとりは私の左手をとって薬指にするりと指輪をはめた。ぴったりだ。
「ぴったり……」
「おまえが昼寝しているときに計った」
「その時絶対倖せな夢みてたと思う」
「そうか?」
「絶対そう!」
確信を持って答えるとはとりはそうか、と目を緩めて笑った。
****
「お姉さんめちゃくちゃ美人っスね」
「どうも?」
「つーか美形しかいなくて草摩の血がすげぇ」
透ちゃんのお見舞いの順番待ちの最中。なぜかあーやを司令と呼ぶ黒髪の子は由希の友達らしい。由希に友達……と感慨深くなる。名前は真鍋くん。生徒会で一緒だそうだ。
ちょうど示し合わせたように紫呉にいさんと真鍋くんとあーやと一緒になってしまった。紫呉にいさんは寝てる。お見舞いの意味。
「ふ……へっくしゅ!」
「なんスか司令、カゼッスか。ここ病院だし診てもらったらどースか」
「いやいやいやいやいや案ずるなかれさっクシャミひとつは人の噂と言うではないかっそれに! ボクの診察 はとりさん以外に許しはしないよ!」
「……一度しっかり頭の方を診てもらったらどうだ」
「つーか何食えばそんなカッコ良くなれんスか」
「はとりは昔から何食べてもカッコいいの」
にこにこしながら言うと真鍋くんは「婚約者が言うなら間違いないスね」と言った。その言葉にガタリと立ち上がったのはあーやだった。
「婚約者!! ついにかっそういえばナマエが指輪をしているのは初めてみたのだよっ! これはめでたいっお祝いの品を贈らねばならないねっ!」
「贈るで思い出した! あーやあのエプロン!!」
「うん? 気に入らなかったのかね?」
「あ、あんなスケスケで料理なんて出来るわけないでしょ!!」
「うわーエロいやつだ」
「どう使用するかはその人間次第のことっ! そのように思ったナマエの方に問題はあるのじゃないのかい? まあっ夜が楽しめればと思って贈ったのは事実っ!」
「二度と贈ってこないでそんなもの!!」
「ナマエ、綾女そろそろ静かにしろ。ここは病院だ」
はとりの肩に頭ぐりぐりして怒りを発散する。ぽんぽん撫でられてうー、と唸る。ちなみにエプロンははとりが速攻で捨てた。
「あーや、次あんなの贈ったら」
「贈ったら」
「由希にあーやのあれこれを話す」
「絶対に贈らないと誓おうっ!」
あーやは由希に弱い。常識である。
透ちゃんのお見舞いの順番待ちが回ってきてはとりと一緒に入る。最後になったけどその分お話できるだろう。
「ナマエさんっ……はとりさんっ……来て下さってありがとうございますっ」
「ああそのままでいいよ。楽な姿勢でいてね」
「はいっ」
頭に包帯してるしほっぺたにもガーゼ貼っているけど元気そうだ。
「これお見舞いの品です。使ってくれたら嬉しいな」
「可愛いフォトフレームですっ絶対に使います……っありがとうございます!」
「俺からはこれを。時間でも潰してくれ」
「わあ! ありがとうございますっ! 必ず読みますねっ」
お見舞いに来たのにこっちが嬉しい気持ちになっちゃうな。さすが透ちゃん。あっ。
「透ちゃん、じっとしててね」
「? はい」
「ん。ゴミついてた」
「はあっ! すみませんっ! あ、ありがとうございます……っ」
「そんなおどろおどろしくしなくても」
「いえっナマエさんのお綺麗な手でゴミを取ってもらう、なんて……」
「透ちゃん?」
なぜか透ちゃんが固まった。おーい、と顔の前で手をふるとはっとした様子になり、ぱっと笑顔になった。
「ナマエさんっ」
「はい」
「ご結婚されるのですかっ?」
「っ、はい。します」
「おめでとうございますっ!」
この指輪はそんなに目立つのか。透ちゃんの真っ直ぐな目と相まって照れちゃう。
「お相手の方はとてもお幸せな方ですっナマエさんはとてもお優しくて素敵な方ですのでっ!」
「……だ、そうですよ?」
「へ?」
はとりにからかうようにして視線を向けると「そんな事は知っている」と真っ直ぐに返されてカウンターを食らった。そして透ちゃんがとても混乱している。
「えっ? ……えっ? ……えっ?」
「こういうことだ」
頭に手を回されて肩にポツンと当たる。とりあえずにっこり笑っておくと透ちゃんが「えーっ!?」と驚愕の声を出した。
「そんなにびっくりする?」
「いえっ……! いえっ! お二人はとてもお優しくてとてもお似合いなのですが、恥ずかしながら私、全く気づかずにおりまして……っ!」
「夾なんか付き合ってることすらまだ知らないからね」
「!!!」
ピキリ。そんな音を立てて透ちゃんは固まった。えっ? ダメだった? この話題。そんなことを思っていると透ちゃんの目からポロリと涙が流れた。
「えーっ!? どうしたの!? あいつに何かされた!? シバいとく!?」
「いえっ違いますっ……! きょ、夾君はなにも悪くありません……っ」
そうは言っても透ちゃんが何かするとは思えない。どうしたもんかと悩んでいたらはとりが透ちゃんにハンカチを渡した。私が渡すべきですね。これが人間力の違い。
「す、すみません……っはとりさん」
「深く話を聞くつもりはないが二人で話し合うんだな。名前を聞いただけでそうなるのなら尚更。わだかまりがあったままでは前には進めない」
「……は、はい……っ」
「そろそろ帰るぞナマエ」
「えっでも」
「ゆっくり考える時間が必要だろう」
「……そだね。またね透ちゃん」
「は、はいっお見舞いに来て下さり本当にありがとうございます……っこんなみっともない姿も見せてしまって……っ」
「こーら、そんなこと言わないの。涙は次に進むための儀式みたいなものだよ? 卑下するものじゃない」
「次に進むための……」
「うん。透ちゃんがいい方向にいけるように祈ってるね」
そう言ってはとりと一緒に病室から出た。しばらく無言で歩いて車までつく。
「…………夾の野郎ぉ!! 透ちゃんになにしやがった! あのオレンジ頭ぁ!!」
「本田君の前でキレなかったのは感心だが二人の問題だろう。口を挟むものじゃない」
「そーうだーけーど!!」
ちゅ。そんな音を立てて頬に唇が当たった。
「……はとりさん、私がキスしておけば調子がよくなる女だと思ってません?」
「思ってないが、プロポーズした日に怒り顔で終わらせるのは嫌だったからな」
「……確かに」
それはもったいない。
「明日、怒りが再熱したら夾のところに突撃します」
「……言っても聞かなそうだな」
「透ちゃんを泣かせるのは罪です」
そう言うとはぁというため息と共に「暴れすぎるなよ」というお言葉をもらった。善処します。
「……本田君とも何かあったんだろう?」
「あ゛ー……そうみたいだねぇ」
紫呉の脳裏に浮かぶのは膝を抱えてか細く話す慊人の姿。
『……座ったんだ。遠くからじゃなく……上からでもなくて……近くで、となりで、僕に話しかけてきたんだ。“そこにいたんだ”って』
『……これを言うのは癪だけど』
『……?』
『となりにいようとした子はまだいるでしょ』
『…………』
『慊ちゃんって呼んで叱られても叩かれても、呼び続けようとした子が』
『!!』
「思惑通りに事は進んだか?」
はとりの問いかけに思考が戻る。
「え?」
「……」
「ああ……うん、そうねぇ………逆にちょっと反省してます……色々と」
「……“ちょっと”?」
「いやいやはーさんこれはこれで僕も多少は譲歩を覚えたというか……」
「慊ちゃんいる!? 病院行った!? 大丈夫かなぁやっぱついて行ったほうがよかったかな!? あっ、はとりただいまー!」
「賑やかなのが帰ってきたし……」
「おかえりナマエ」
大まかにうまくはいったがこの子は変わらないだろうな。そんな確信を持ちつつ紫呉は息をついた。
****
「透ちゃんへのお見舞い何にしよう? お花は枯れるから個人的にイヤなんだよね」
「プリザーブドフラワーなら枯れないだろう」
「はとり天才! じゃあ何色にしようかなぁ。透ちゃんは白かピンクって感じだなぁ」
はとりと透ちゃんのお見舞いの品を買いにきていた。お店に行き、店員さんにお見舞いにいいお花を聞く。紫陽花の時期だし可愛いからちょうどいいかなと思ってたら花びらが四枚だからよろしくないとのこと。あと白は弔事に使われるからメインはダメ。先に聞いててよかった。そしたら淡いピンクの薔薇がついたフォトフレームが売っていてコレだ! ってなり購入した。はとりは本を買っていた。
はとりの車で運転中。私の機嫌は最高潮だ。だって慊人の屋敷の出禁が解かれていつでもいけるようになった。慊人がお局たちを説得したらしい。堂々と入る私の姿を苦々しい顔で見てくるから内心へへん! となった。
「ふんふーん」
「ご機嫌だな」
「うん!」
「“慊ちゃん”と元に戻れてそんなに嬉しいか」
「はとりでもその呼び方はダメ! やきもち妬く!」
「どっちにだ?」
「どっちにも!」
「ふ、そうか」
「そうなんです」
そう言う私に片手で頭を撫でるはとり。ケアが早くて大好き。
鼻歌を歌う私にはとりが「覚えていると思うが」と口を開く。なになに?
「慊人が変わらなかった場合、俺達は外で暮らすことになるが」
「…………………」
「おまえ忘れていたな」
「ソンナコトありませんよ?」
すっかり忘れてた。だって色々ありすぎたから。流血沙汰は全てを吹き飛ばす。
「紅野を刺した件で慊人の立場は悪くなっている」
「…………」
「おまえの祖父と父が抑えているがいつ爆発するか分からない」
「…………でも慊ちゃんを信じたいな」
自分から紅野のお見舞いに行くって言った慊人を。あれから落ちついた様子でいるし。
「俺もだ」
「だよね!」
「本田君や紅野の退院が決まって落ちついたら言うか」
「なにを?」
「結婚の報告だ」
「げほっ!?」
「なぜ咽せる」
「結婚!?」
「それ以外に何がある」
何を今さらと言った顔をされる。目をぱちぱちしていたらはとりはこれは可笑しいぞ? といった顔になりハザードをたいて道端に車を止めた。
「俺はおまえと共に生きていくと言ったはずだが」
「言われております……」
「おまえなしの未来が考えられないとも言った」
「言われました……」
「側にいてくれとも」
「言われてますね……」
プロポーズだ! これプロポーズだ!
今さら気づいたことに頭を抱える。私の反応にはとりも頭を押さえた。
「気づいていなかったな」
「大変申し訳なく思っております」
「分かりやすいものを渡すべきだったな」
「分かりやすいもの」
はとりは鞄に手を入れて小さな箱を取り出した。
「それ……」
「草摩ナマエ」
「はいっ!」
背筋が伸びる。
箱をパカリとあくとそこには小さな宝石のついた細身の指輪があった。目に涙がたまる。早いぞ、とはとりは苦笑した。
「俺の伴侶になってほしい。おまえと一緒の生活が愛おしくてたまらない。もう手放せないほどに。俺の未来をおまえに渡すからおまえの未来を俺に渡してくれ」
「……っ、……っ!」
「返事は笑顔のほうがいいのだが」
「~~っはいっ!」
泣いていたのを無理やり笑う。不細工だったかもしれない。でもはとりは愛おしそうに笑い返してくれた。
「指輪、持ち歩いてたの……?」
「紫呉に邪魔されないように念のためにな」
「なんで紫呉にいさんがここで出てくるの……?」
「なんでもだ」
そう言ってはとりは私の左手をとって薬指にするりと指輪をはめた。ぴったりだ。
「ぴったり……」
「おまえが昼寝しているときに計った」
「その時絶対倖せな夢みてたと思う」
「そうか?」
「絶対そう!」
確信を持って答えるとはとりはそうか、と目を緩めて笑った。
****
「お姉さんめちゃくちゃ美人っスね」
「どうも?」
「つーか美形しかいなくて草摩の血がすげぇ」
透ちゃんのお見舞いの順番待ちの最中。なぜかあーやを司令と呼ぶ黒髪の子は由希の友達らしい。由希に友達……と感慨深くなる。名前は真鍋くん。生徒会で一緒だそうだ。
ちょうど示し合わせたように紫呉にいさんと真鍋くんとあーやと一緒になってしまった。紫呉にいさんは寝てる。お見舞いの意味。
「ふ……へっくしゅ!」
「なんスか司令、カゼッスか。ここ病院だし診てもらったらどースか」
「いやいやいやいやいや案ずるなかれさっクシャミひとつは人の噂と言うではないかっそれに! ボクの
「……一度しっかり頭の方を診てもらったらどうだ」
「つーか何食えばそんなカッコ良くなれんスか」
「はとりは昔から何食べてもカッコいいの」
にこにこしながら言うと真鍋くんは「婚約者が言うなら間違いないスね」と言った。その言葉にガタリと立ち上がったのはあーやだった。
「婚約者!! ついにかっそういえばナマエが指輪をしているのは初めてみたのだよっ! これはめでたいっお祝いの品を贈らねばならないねっ!」
「贈るで思い出した! あーやあのエプロン!!」
「うん? 気に入らなかったのかね?」
「あ、あんなスケスケで料理なんて出来るわけないでしょ!!」
「うわーエロいやつだ」
「どう使用するかはその人間次第のことっ! そのように思ったナマエの方に問題はあるのじゃないのかい? まあっ夜が楽しめればと思って贈ったのは事実っ!」
「二度と贈ってこないでそんなもの!!」
「ナマエ、綾女そろそろ静かにしろ。ここは病院だ」
はとりの肩に頭ぐりぐりして怒りを発散する。ぽんぽん撫でられてうー、と唸る。ちなみにエプロンははとりが速攻で捨てた。
「あーや、次あんなの贈ったら」
「贈ったら」
「由希にあーやのあれこれを話す」
「絶対に贈らないと誓おうっ!」
あーやは由希に弱い。常識である。
透ちゃんのお見舞いの順番待ちが回ってきてはとりと一緒に入る。最後になったけどその分お話できるだろう。
「ナマエさんっ……はとりさんっ……来て下さってありがとうございますっ」
「ああそのままでいいよ。楽な姿勢でいてね」
「はいっ」
頭に包帯してるしほっぺたにもガーゼ貼っているけど元気そうだ。
「これお見舞いの品です。使ってくれたら嬉しいな」
「可愛いフォトフレームですっ絶対に使います……っありがとうございます!」
「俺からはこれを。時間でも潰してくれ」
「わあ! ありがとうございますっ! 必ず読みますねっ」
お見舞いに来たのにこっちが嬉しい気持ちになっちゃうな。さすが透ちゃん。あっ。
「透ちゃん、じっとしててね」
「? はい」
「ん。ゴミついてた」
「はあっ! すみませんっ! あ、ありがとうございます……っ」
「そんなおどろおどろしくしなくても」
「いえっナマエさんのお綺麗な手でゴミを取ってもらう、なんて……」
「透ちゃん?」
なぜか透ちゃんが固まった。おーい、と顔の前で手をふるとはっとした様子になり、ぱっと笑顔になった。
「ナマエさんっ」
「はい」
「ご結婚されるのですかっ?」
「っ、はい。します」
「おめでとうございますっ!」
この指輪はそんなに目立つのか。透ちゃんの真っ直ぐな目と相まって照れちゃう。
「お相手の方はとてもお幸せな方ですっナマエさんはとてもお優しくて素敵な方ですのでっ!」
「……だ、そうですよ?」
「へ?」
はとりにからかうようにして視線を向けると「そんな事は知っている」と真っ直ぐに返されてカウンターを食らった。そして透ちゃんがとても混乱している。
「えっ? ……えっ? ……えっ?」
「こういうことだ」
頭に手を回されて肩にポツンと当たる。とりあえずにっこり笑っておくと透ちゃんが「えーっ!?」と驚愕の声を出した。
「そんなにびっくりする?」
「いえっ……! いえっ! お二人はとてもお優しくてとてもお似合いなのですが、恥ずかしながら私、全く気づかずにおりまして……っ!」
「夾なんか付き合ってることすらまだ知らないからね」
「!!!」
ピキリ。そんな音を立てて透ちゃんは固まった。えっ? ダメだった? この話題。そんなことを思っていると透ちゃんの目からポロリと涙が流れた。
「えーっ!? どうしたの!? あいつに何かされた!? シバいとく!?」
「いえっ違いますっ……! きょ、夾君はなにも悪くありません……っ」
そうは言っても透ちゃんが何かするとは思えない。どうしたもんかと悩んでいたらはとりが透ちゃんにハンカチを渡した。私が渡すべきですね。これが人間力の違い。
「す、すみません……っはとりさん」
「深く話を聞くつもりはないが二人で話し合うんだな。名前を聞いただけでそうなるのなら尚更。わだかまりがあったままでは前には進めない」
「……は、はい……っ」
「そろそろ帰るぞナマエ」
「えっでも」
「ゆっくり考える時間が必要だろう」
「……そだね。またね透ちゃん」
「は、はいっお見舞いに来て下さり本当にありがとうございます……っこんなみっともない姿も見せてしまって……っ」
「こーら、そんなこと言わないの。涙は次に進むための儀式みたいなものだよ? 卑下するものじゃない」
「次に進むための……」
「うん。透ちゃんがいい方向にいけるように祈ってるね」
そう言ってはとりと一緒に病室から出た。しばらく無言で歩いて車までつく。
「…………夾の野郎ぉ!! 透ちゃんになにしやがった! あのオレンジ頭ぁ!!」
「本田君の前でキレなかったのは感心だが二人の問題だろう。口を挟むものじゃない」
「そーうだーけーど!!」
ちゅ。そんな音を立てて頬に唇が当たった。
「……はとりさん、私がキスしておけば調子がよくなる女だと思ってません?」
「思ってないが、プロポーズした日に怒り顔で終わらせるのは嫌だったからな」
「……確かに」
それはもったいない。
「明日、怒りが再熱したら夾のところに突撃します」
「……言っても聞かなそうだな」
「透ちゃんを泣かせるのは罪です」
そう言うとはぁというため息と共に「暴れすぎるなよ」というお言葉をもらった。善処します。