日向ごっこ
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大晦日。お父さんのお酒をちょろっともらってうええーとなったりお母さんとおせち作ったりして過ごしていた。
今年の舞いははとりと紅葉だ。私は永遠に見られないから恥を忍んで春に写真撮ってきてとお願いした。いーよーと軽い口調だったけど大丈夫かな。信じてるからね春。
自分の部屋のカーテンと窓を開けてはとりの家を見る。そこにいないのは知ってるのにバカなことやってる。……と思ってたら何か賑やかな声が近づいてくるのが分かった。
「由希! 正気を保つのだよっボクの声を聞くといい! セイレーンのような美声を聞き続けるがいいっ! そしてどんどんボクの美声がなければ眠れない身体になるといい!」
「正気を保たせたいのか眠らせたいのかどっちだ!」
「なにやってんの……? 由希、あーや」
はとりを先頭にして由希を横抱きにして歩き続けるあーや。由希はおでこを押さえている。押さえているハンカチは血が滲んでいた。ベランダのサンダルをつっかけて三人のところに走る。
「由希ケガしたの!? なんで!?」
「……ちょっと頑張ったから、かな?」
不器用に笑う由希。頑張ってケガするって……頭に浮かんだのは慊人だった。
「ナマエ。ちょうどいいから少し手伝え」
「り、了解!」
はとりの言葉に背筋を伸ばしてはとりの家の診療所に入っていく。あーやはリビングで待たせている。普通にうるさいからだ。はとりが追い出した。
私が由希の額にライトを当ててはとりが破片が残っていないかチェックしている。破片て。お皿とか酒瓶とかで殴られたの? そりゃあーやもうるさくなるわけだ。
「……まったく、お前の兄は大袈裟に騒ぎすぎる」
「そだね……」
「破片だよ! 破片! 一大事でしょう!」
「ここにもいたな大袈裟に騒ぐやつが」
「あはは……大丈夫だよナマエ」
そう言って由希は苦笑する。
「……傷自体は深くはないが念の為病院で検査を受けたほうがいい。頭を強く打っているかもしれない」
「うん……ありがとう」
「いや……すぐ仲裁に入れないで済まなかった」
「いいよそんなの。慊人だってもっと怒りだしちゃったかもしれないし」
やっぱり慊人だった。──慊人。本当にこのままじゃみんないなくなっちゃうよ。身体じゃなくて心が。遠くにいる慊人に苦言を漏らす。本人に言いたいけどどこまで通じるか。
「……慊人に何を言ったんだ?」
「え? 別にただ“誰かのせいにするのは”って……あ……俺……はとりにも謝らないといけなかった。子どもの頃の……こと」
「!」
はとりと由希。子どもの頃といったら由希の初めての友達の隠蔽術をかけたときの話しかない。それはお互いに傷になっている。由希にもはとりにも。内心そわそわして話を見守る。今は由希の話聞かないと。
「心のどこかではとりをずっと責めてたのかもしれない。ごめん。……子どもで、はとりだって……傷ついていたのに」
「……」
「わ!?」
はとりは由希の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。気にするなと言わんばかりに、いつもの繊細さを抜きにしてわざと雑にしてるかのように。
「俺の事はいい。おまえが謝る必要もない」
「わ……わっいたたっ」
「……おまえは優しいな……ありがとう」
はとりは目を緩めて優しく笑った。そんなはとりに由希も眉を下げてどうしたらいいか分からないような困ったような顔をした。
「……兄には似るなよ」
「似ないよ……っ」
「あーやがふたり……」
「悪夢みたいな顔しないでナマエっ似るなんて無理だから……っ」
「呼んだかい!? そして治療は完了したかい!?」
「終わったが呼んではいない」
「冷たいことを言うじゃないかとりさん! とりさんは由希の傷口を安らがせ、癒やした大恩人となったのだ! 友としてこれ以上のない礼をしなくてはっ!」
「結構だ」
あーやのお礼ってすごそうだな。そんなことを思っていたらあーやの視線が私に向いた。
「うむ! やはりお礼と言ったらエプロンだろう! 男の三大ロマンの一つだからだ! 後日ナマエに贈ろう! エプロンをつけたナマエで最大に癒されておくれよっとりさん!」
「なんでナマエ経由のお礼……というかなんでエプロンのナマエではとりが癒されるんだ?」
由希の全くの疑問にピキリと固まったあーや。の背中をばしんと叩いた。いや、知ってると思っていたよ? 何だかんだいって切れない縁だって知ってるから。だからって由希にバラすようなこと言う必要ないでしょ! ばかあーや!
「あーやぁ?」
「ポロリとしてしまったのだよ!」
「知ってるのだよ!?」
「口調が移っているぞナマエ」
「???」
「こういうことだ由希」
はとりはそう言って私の左手を掴んで薬指に唇を寄せた。今度は由希がピキリと固まった。
「い、つから」
「夏だな」
「気づかなかった……」
「気づかせないようにしていたからな」
「そう、か」
「由希?」
どこか遠いところを見る由希に顔を寄せる。なんだか雰囲気がおかしい。頭が痛くなったんじゃないよね。そう思ってたら少しうつむいて口を開いた。
「……少し寂しいと思うのは変なのかな」
「え?」
「ナマエは、俺にとって“姉”のようなものだったから。慊人から守ってくれた、一緒に遊んでくれた優しい姉。…………やっぱり変かな?」
「あーや。私、由希のお姉ちゃんになるから自動的にあーやが私のお兄ちゃんね」
「!?」
「承知仕ったよっ! ならばとりさんとナマエが結婚した場合はボクたちは二親等になるということに! なんとめでたいっ!」
「おい、俺はおまえとそんなに近い系譜になる予定はない」
「照れなくても結構だよとりさんっ!」
「本気だが?」
「由希、お姉ちゃんって呼んでいいからね?」
「~っ姉のようなものって言っただろう!」
わちゃわちゃドヤドヤしていたので気づくのが遅れたんだけど、あーやとの近しい系譜ははっきり拒否したのに私との結婚ははとりは否定しなかったことにあとで悶えることになる。
****
「はとり」
「なんだ」
「由希強くなったね」
「……そうだな」
「こんなこと言っていいのか分からないけど」
「ああ」
「よかったね、はとり」
「……俺のことは気にしなくていいと言っただろう。おまえはあの時も大泣きしてたからな。由希のことを想ってか俺のことを想ってか」
「どっちもだったよ。なんで……って二人にひどいことしないでって思った」
「……変わらないな、おまえも」
はとりは困ったように眉を下げて私の頬を撫でた。本当に勝手だ。子どものときに大泣きしてた頃と全く変わっていない。由希が前を向けるようになって嬉しい。はとりの自責の念が減ったのが嬉しい。それで泣いてるんだから。
鐘が鳴る。新年に向けての鐘が。
この鐘が祭りが終わる最後の年の鐘になるとは知らず、私ははとりと一緒にそれを聞いていた。
今年の舞いははとりと紅葉だ。私は永遠に見られないから恥を忍んで春に写真撮ってきてとお願いした。いーよーと軽い口調だったけど大丈夫かな。信じてるからね春。
自分の部屋のカーテンと窓を開けてはとりの家を見る。そこにいないのは知ってるのにバカなことやってる。……と思ってたら何か賑やかな声が近づいてくるのが分かった。
「由希! 正気を保つのだよっボクの声を聞くといい! セイレーンのような美声を聞き続けるがいいっ! そしてどんどんボクの美声がなければ眠れない身体になるといい!」
「正気を保たせたいのか眠らせたいのかどっちだ!」
「なにやってんの……? 由希、あーや」
はとりを先頭にして由希を横抱きにして歩き続けるあーや。由希はおでこを押さえている。押さえているハンカチは血が滲んでいた。ベランダのサンダルをつっかけて三人のところに走る。
「由希ケガしたの!? なんで!?」
「……ちょっと頑張ったから、かな?」
不器用に笑う由希。頑張ってケガするって……頭に浮かんだのは慊人だった。
「ナマエ。ちょうどいいから少し手伝え」
「り、了解!」
はとりの言葉に背筋を伸ばしてはとりの家の診療所に入っていく。あーやはリビングで待たせている。普通にうるさいからだ。はとりが追い出した。
私が由希の額にライトを当ててはとりが破片が残っていないかチェックしている。破片て。お皿とか酒瓶とかで殴られたの? そりゃあーやもうるさくなるわけだ。
「……まったく、お前の兄は大袈裟に騒ぎすぎる」
「そだね……」
「破片だよ! 破片! 一大事でしょう!」
「ここにもいたな大袈裟に騒ぐやつが」
「あはは……大丈夫だよナマエ」
そう言って由希は苦笑する。
「……傷自体は深くはないが念の為病院で検査を受けたほうがいい。頭を強く打っているかもしれない」
「うん……ありがとう」
「いや……すぐ仲裁に入れないで済まなかった」
「いいよそんなの。慊人だってもっと怒りだしちゃったかもしれないし」
やっぱり慊人だった。──慊人。本当にこのままじゃみんないなくなっちゃうよ。身体じゃなくて心が。遠くにいる慊人に苦言を漏らす。本人に言いたいけどどこまで通じるか。
「……慊人に何を言ったんだ?」
「え? 別にただ“誰かのせいにするのは”って……あ……俺……はとりにも謝らないといけなかった。子どもの頃の……こと」
「!」
はとりと由希。子どもの頃といったら由希の初めての友達の隠蔽術をかけたときの話しかない。それはお互いに傷になっている。由希にもはとりにも。内心そわそわして話を見守る。今は由希の話聞かないと。
「心のどこかではとりをずっと責めてたのかもしれない。ごめん。……子どもで、はとりだって……傷ついていたのに」
「……」
「わ!?」
はとりは由希の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。気にするなと言わんばかりに、いつもの繊細さを抜きにしてわざと雑にしてるかのように。
「俺の事はいい。おまえが謝る必要もない」
「わ……わっいたたっ」
「……おまえは優しいな……ありがとう」
はとりは目を緩めて優しく笑った。そんなはとりに由希も眉を下げてどうしたらいいか分からないような困ったような顔をした。
「……兄には似るなよ」
「似ないよ……っ」
「あーやがふたり……」
「悪夢みたいな顔しないでナマエっ似るなんて無理だから……っ」
「呼んだかい!? そして治療は完了したかい!?」
「終わったが呼んではいない」
「冷たいことを言うじゃないかとりさん! とりさんは由希の傷口を安らがせ、癒やした大恩人となったのだ! 友としてこれ以上のない礼をしなくてはっ!」
「結構だ」
あーやのお礼ってすごそうだな。そんなことを思っていたらあーやの視線が私に向いた。
「うむ! やはりお礼と言ったらエプロンだろう! 男の三大ロマンの一つだからだ! 後日ナマエに贈ろう! エプロンをつけたナマエで最大に癒されておくれよっとりさん!」
「なんでナマエ経由のお礼……というかなんでエプロンのナマエではとりが癒されるんだ?」
由希の全くの疑問にピキリと固まったあーや。の背中をばしんと叩いた。いや、知ってると思っていたよ? 何だかんだいって切れない縁だって知ってるから。だからって由希にバラすようなこと言う必要ないでしょ! ばかあーや!
「あーやぁ?」
「ポロリとしてしまったのだよ!」
「知ってるのだよ!?」
「口調が移っているぞナマエ」
「???」
「こういうことだ由希」
はとりはそう言って私の左手を掴んで薬指に唇を寄せた。今度は由希がピキリと固まった。
「い、つから」
「夏だな」
「気づかなかった……」
「気づかせないようにしていたからな」
「そう、か」
「由希?」
どこか遠いところを見る由希に顔を寄せる。なんだか雰囲気がおかしい。頭が痛くなったんじゃないよね。そう思ってたら少しうつむいて口を開いた。
「……少し寂しいと思うのは変なのかな」
「え?」
「ナマエは、俺にとって“姉”のようなものだったから。慊人から守ってくれた、一緒に遊んでくれた優しい姉。…………やっぱり変かな?」
「あーや。私、由希のお姉ちゃんになるから自動的にあーやが私のお兄ちゃんね」
「!?」
「承知仕ったよっ! ならばとりさんとナマエが結婚した場合はボクたちは二親等になるということに! なんとめでたいっ!」
「おい、俺はおまえとそんなに近い系譜になる予定はない」
「照れなくても結構だよとりさんっ!」
「本気だが?」
「由希、お姉ちゃんって呼んでいいからね?」
「~っ姉のようなものって言っただろう!」
わちゃわちゃドヤドヤしていたので気づくのが遅れたんだけど、あーやとの近しい系譜ははっきり拒否したのに私との結婚ははとりは否定しなかったことにあとで悶えることになる。
****
「はとり」
「なんだ」
「由希強くなったね」
「……そうだな」
「こんなこと言っていいのか分からないけど」
「ああ」
「よかったね、はとり」
「……俺のことは気にしなくていいと言っただろう。おまえはあの時も大泣きしてたからな。由希のことを想ってか俺のことを想ってか」
「どっちもだったよ。なんで……って二人にひどいことしないでって思った」
「……変わらないな、おまえも」
はとりは困ったように眉を下げて私の頬を撫でた。本当に勝手だ。子どものときに大泣きしてた頃と全く変わっていない。由希が前を向けるようになって嬉しい。はとりの自責の念が減ったのが嬉しい。それで泣いてるんだから。
鐘が鳴る。新年に向けての鐘が。
この鐘が祭りが終わる最後の年の鐘になるとは知らず、私ははとりと一緒にそれを聞いていた。