日向ごっこ
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「リン」
「……おまえ、学校はどうしたんだ」
「リンの為ならサボっちゃうよ。普段これでも優等生してるんだから大丈夫。念のため着替え持ってきたけどはとりに持たれるのも微妙でしょ」
「…………」
昨日とは打って変わってリンは大人しかった。病院はイヤって言ってたから気が紛れる道具仕込んできたのにな。袖に造花仕込んだり面白いムービー収集したり変顔の練習したり。この準備してるとき「おまえは何を目指しているんだ」とはとりに言われた。リンは私の前では笑わないから笑わせてやろうと思ってます。そういうと「病院で大騒ぎはするなよ」と釘をさされた。
リンの検査の合間合間にポツポツ話をした。なんてない話を。ご飯のことだったり学校のことだったりはとりの家でのことだったり。途中で袖に仕込んだ造花を出して渡したら秒で捨てられた。悲しい。でもはとりが拾ってくれた。もう大好き。
「衰弱に潰瘍の併発にその他もろもろ。リンさん無理しすぎですよ」
「うるさい」
入院手続きをはとりがしてる間にリンが入院する部屋を整える。スリッパとか持ってきておいてよかったな。一応本も持ってきたけど読まなさそう。イラスト集の方がよかったかな。リン、小さい頃は絵描くの好きだったし。今度買ってきてあげよう。
「透ちゃんはどうだった?」
「……」
「いい子でしょ。話しやすいし年も一個下でしょ? きっと友達になってくれるよ」
「……いらない、そんなもの」
ぷいっとして背中を向けられる。ベッドに広がる髪をみて髪ゴムもいるな、と脳みそにメモした。
「リン、一人で何でも背負ったら疲れちゃうからね。私でも誰でもいいから頼るんだよ?」
「…………」
十二支の呪いを解こうとしている。
紫呉にいさんの言葉が頭に浮かぶ。途方もないこと。今もそう思う。だって実感が分からない。呪いは皆に染み付いて離れない、既に皆の身体の一部になっている。それを剥がそうとする発想なんて私にはなかった。でもリンは違う。どうしてそう思ったのか知らないけど必死になって方法を探している。
──はとり。
愛する人の名前を心で呼ぶ。呪いがなくなったら。はとりはどうなるのだろう。喜ぶ? 泣く? 実感がわかないせいか全く分からない。
──慊人。
本当に小さい時に遊んだっきりの私の友達。あの子はどうするのだろう。信じていたものが無くなってしまったら。そうなったら、あの子は立てるのだろうか。
呪いを解く。
その言葉は重々しく心に渦巻いた。
****
「あまり考えすぎるなよ」
帰りの車ではとりに言われた。お見通しすぎる。
「荒唐無稽な話だ。もし、を考えても意味はない」
「そうなんだけど、ねぇ」
その“もし”を考えてしまう。だって人生が変わってしまうような話を聞いてしまったのだから。
「……おまえは呪われた俺では共にいられないか?」
「分かり切ってること聞かないで。私は“はとり”が好きなんだから。はとりの一部ならどんなものだって喜んで抱きしめるよ。………………抱きついたら駄目だった」
「ふ、」
しまらない。もっと言い表現あったでしょ。抱きつくって。ダメじゃんそれは。タツノオトシゴがこんにちはしてくる。はとりのツボに入ったのか小さな笑い声が車の中に響く。
「もー! 笑いすぎ!」
「おまえが笑わすからだ」
「リンを笑わせようの日だったのに!」
「俺で我慢しておけ」
「はとりの笑った顔好きだけどさぁ!」
「ならいいだろう」
「釈然としないんです」
むーっと顔をしかめてたらはとりは仕方ないといった顔をして、赤信号になったのを確認してからおでこにキスされた。
「ちょろいと思ってるでしょう」
「嫌だったか?」
「とても喜んでます」
またはとりの喉が鳴る。ちょろくてすみませんね。でも嬉しいんだもん。
「今日はこのままどこか行くか」
「えっ、慊人大丈夫?」
「予定は伝えてある。長めにな」
「……悪い大人だ」
「好きなんだろう?」
「大好きです」
顔を見合わせて笑う。じゃれあうような短いキスをした。
****
ただ歩くだけのショッピングデート。はとりはスーツで私は私服だからちょっと目立ってたのかもしれない。顔が目立つのもあるかもしれない。けどこのタイミングはない。
「草摩さん!」
「あ、あー……」
この間のゼミの人にばったり会ってしまった。気まずい。
「今日どうしたの? ゼミ休みだったけど」
「親戚の子が入院したからそのお手伝いで」
「あ、そうなんだ。大変だったね」
「ううん全然平気だよ」
気まずい。そう思っているのははとりにバレてる気がする。はとりが少し怪訝な顔してるもん。ただのゼミ生と話すだけではこうならないとはとりならすぐに分かる。つまり、この間の話に上がった人だとバレてしまう。気まずい。
「じゃあ、私急いでるからまたね。いこう、はとり」
「……ああ」
「っ、ちょっと待って!」
腕を掴まれてびっくりして肩を揺らしてしまった。だからはとりが無理やり間に入ってくれた。
「急に触るのは不躾なんじゃないか?」
「あ、そう……ですけど……、」
「用件なら聞く。そうだろう? ナマエ」
「下の名前……、……草摩さんが言ってたのはこの人のこと?」
「それを言う必要ないと思うけど」
掴まれた腕をさすりながら言う。なんだこの人ってなってきた。私の苛立ちを察したのかはとりが頭を撫でてくれる。もっとして。でもその行為はこの人にとっては地雷だったみたいだ。あからさまに眉が寄った。
「見るからに年上だろ? 釣り合ってないよ。片想いならなおさら」
「っ! だからあなたに関係ないって……」
私の言葉は途中で遮られた。屈んだはとりに唇を奪われたからだ。はとりは唇を離して私を背中にやって前を見据えた。
「片想いがなんだって?」
「っ!」
「恋慕するのは自由だ。でもそれで相手を傷つけるのは愛情とは言わない。何よりナマエには俺がいる。諦めろ」
走って立ち去る音が聞こえた。ほっと息をつく。ついてからあれ? と思った。やけに周りが静かだと。ショッピングセンターなのに。
「兄ちゃんやるねぇ! 恋人を守る姿かっこよかったよ!」
「美男美女でお似合いだよあんたら!」
その言葉で周りを見渡す。お店の人、お客さん。皆足を止めてこっちを見ていた。にこやかな顔で。野次馬な顔で。一気に顔に熱がこもった。
「はははははとりさん、早く立ち去りましょう!!」
「そうだな」
「なんか反応がのんき!」
「こうなったら仕方がないだろう」
開き直っているはとりの腕を掴んで早足でそこから立ち去った。車に乗って草摩に帰る。とんだショッピングデートになった。
はとりの家についてはぁと息をつく。恥ずかしかった。まだ顔が赤い気がする。玄関の上がり框に腰を落ち着けて靴を脱ぐ。
そのときだった。
「ナマエ」
「うん? ……んぅっ」
上から体勢を被せたはとりに唇を塞がれる。最初から口を深く合わせた深いキス。無理やり舌を絡まされて息が出来ない。両耳を両手で塞がれて水音がさらに響いてしかたない。口のなかをはとりに好きにされる。力なくはとりの肩に手をやるしか出来なかった。
透明な糸が繋がって切れる。やっと唇が離れたと気づいた。熱がまだ唇に残っている。感覚がふわふわする。涙目になりながらはとりを見上げる。そこにいたはとりの目は初めてみるものだった。
「ナマエ、おまえの全てがほしい」
「はとり……」
「嫉妬にかられて言うのは間違っていると分かっている。それでも他の男が知らないおまえが見たい」
「…………はとりならいいよ」
はとりの熱につられて気づけばそう言っていた。はとりに優しく、それでも離さないくらいの力強さで寝室に連れて行かれた。
「……おまえ、学校はどうしたんだ」
「リンの為ならサボっちゃうよ。普段これでも優等生してるんだから大丈夫。念のため着替え持ってきたけどはとりに持たれるのも微妙でしょ」
「…………」
昨日とは打って変わってリンは大人しかった。病院はイヤって言ってたから気が紛れる道具仕込んできたのにな。袖に造花仕込んだり面白いムービー収集したり変顔の練習したり。この準備してるとき「おまえは何を目指しているんだ」とはとりに言われた。リンは私の前では笑わないから笑わせてやろうと思ってます。そういうと「病院で大騒ぎはするなよ」と釘をさされた。
リンの検査の合間合間にポツポツ話をした。なんてない話を。ご飯のことだったり学校のことだったりはとりの家でのことだったり。途中で袖に仕込んだ造花を出して渡したら秒で捨てられた。悲しい。でもはとりが拾ってくれた。もう大好き。
「衰弱に潰瘍の併発にその他もろもろ。リンさん無理しすぎですよ」
「うるさい」
入院手続きをはとりがしてる間にリンが入院する部屋を整える。スリッパとか持ってきておいてよかったな。一応本も持ってきたけど読まなさそう。イラスト集の方がよかったかな。リン、小さい頃は絵描くの好きだったし。今度買ってきてあげよう。
「透ちゃんはどうだった?」
「……」
「いい子でしょ。話しやすいし年も一個下でしょ? きっと友達になってくれるよ」
「……いらない、そんなもの」
ぷいっとして背中を向けられる。ベッドに広がる髪をみて髪ゴムもいるな、と脳みそにメモした。
「リン、一人で何でも背負ったら疲れちゃうからね。私でも誰でもいいから頼るんだよ?」
「…………」
十二支の呪いを解こうとしている。
紫呉にいさんの言葉が頭に浮かぶ。途方もないこと。今もそう思う。だって実感が分からない。呪いは皆に染み付いて離れない、既に皆の身体の一部になっている。それを剥がそうとする発想なんて私にはなかった。でもリンは違う。どうしてそう思ったのか知らないけど必死になって方法を探している。
──はとり。
愛する人の名前を心で呼ぶ。呪いがなくなったら。はとりはどうなるのだろう。喜ぶ? 泣く? 実感がわかないせいか全く分からない。
──慊人。
本当に小さい時に遊んだっきりの私の友達。あの子はどうするのだろう。信じていたものが無くなってしまったら。そうなったら、あの子は立てるのだろうか。
呪いを解く。
その言葉は重々しく心に渦巻いた。
****
「あまり考えすぎるなよ」
帰りの車ではとりに言われた。お見通しすぎる。
「荒唐無稽な話だ。もし、を考えても意味はない」
「そうなんだけど、ねぇ」
その“もし”を考えてしまう。だって人生が変わってしまうような話を聞いてしまったのだから。
「……おまえは呪われた俺では共にいられないか?」
「分かり切ってること聞かないで。私は“はとり”が好きなんだから。はとりの一部ならどんなものだって喜んで抱きしめるよ。………………抱きついたら駄目だった」
「ふ、」
しまらない。もっと言い表現あったでしょ。抱きつくって。ダメじゃんそれは。タツノオトシゴがこんにちはしてくる。はとりのツボに入ったのか小さな笑い声が車の中に響く。
「もー! 笑いすぎ!」
「おまえが笑わすからだ」
「リンを笑わせようの日だったのに!」
「俺で我慢しておけ」
「はとりの笑った顔好きだけどさぁ!」
「ならいいだろう」
「釈然としないんです」
むーっと顔をしかめてたらはとりは仕方ないといった顔をして、赤信号になったのを確認してからおでこにキスされた。
「ちょろいと思ってるでしょう」
「嫌だったか?」
「とても喜んでます」
またはとりの喉が鳴る。ちょろくてすみませんね。でも嬉しいんだもん。
「今日はこのままどこか行くか」
「えっ、慊人大丈夫?」
「予定は伝えてある。長めにな」
「……悪い大人だ」
「好きなんだろう?」
「大好きです」
顔を見合わせて笑う。じゃれあうような短いキスをした。
****
ただ歩くだけのショッピングデート。はとりはスーツで私は私服だからちょっと目立ってたのかもしれない。顔が目立つのもあるかもしれない。けどこのタイミングはない。
「草摩さん!」
「あ、あー……」
この間のゼミの人にばったり会ってしまった。気まずい。
「今日どうしたの? ゼミ休みだったけど」
「親戚の子が入院したからそのお手伝いで」
「あ、そうなんだ。大変だったね」
「ううん全然平気だよ」
気まずい。そう思っているのははとりにバレてる気がする。はとりが少し怪訝な顔してるもん。ただのゼミ生と話すだけではこうならないとはとりならすぐに分かる。つまり、この間の話に上がった人だとバレてしまう。気まずい。
「じゃあ、私急いでるからまたね。いこう、はとり」
「……ああ」
「っ、ちょっと待って!」
腕を掴まれてびっくりして肩を揺らしてしまった。だからはとりが無理やり間に入ってくれた。
「急に触るのは不躾なんじゃないか?」
「あ、そう……ですけど……、」
「用件なら聞く。そうだろう? ナマエ」
「下の名前……、……草摩さんが言ってたのはこの人のこと?」
「それを言う必要ないと思うけど」
掴まれた腕をさすりながら言う。なんだこの人ってなってきた。私の苛立ちを察したのかはとりが頭を撫でてくれる。もっとして。でもその行為はこの人にとっては地雷だったみたいだ。あからさまに眉が寄った。
「見るからに年上だろ? 釣り合ってないよ。片想いならなおさら」
「っ! だからあなたに関係ないって……」
私の言葉は途中で遮られた。屈んだはとりに唇を奪われたからだ。はとりは唇を離して私を背中にやって前を見据えた。
「片想いがなんだって?」
「っ!」
「恋慕するのは自由だ。でもそれで相手を傷つけるのは愛情とは言わない。何よりナマエには俺がいる。諦めろ」
走って立ち去る音が聞こえた。ほっと息をつく。ついてからあれ? と思った。やけに周りが静かだと。ショッピングセンターなのに。
「兄ちゃんやるねぇ! 恋人を守る姿かっこよかったよ!」
「美男美女でお似合いだよあんたら!」
その言葉で周りを見渡す。お店の人、お客さん。皆足を止めてこっちを見ていた。にこやかな顔で。野次馬な顔で。一気に顔に熱がこもった。
「はははははとりさん、早く立ち去りましょう!!」
「そうだな」
「なんか反応がのんき!」
「こうなったら仕方がないだろう」
開き直っているはとりの腕を掴んで早足でそこから立ち去った。車に乗って草摩に帰る。とんだショッピングデートになった。
はとりの家についてはぁと息をつく。恥ずかしかった。まだ顔が赤い気がする。玄関の上がり框に腰を落ち着けて靴を脱ぐ。
そのときだった。
「ナマエ」
「うん? ……んぅっ」
上から体勢を被せたはとりに唇を塞がれる。最初から口を深く合わせた深いキス。無理やり舌を絡まされて息が出来ない。両耳を両手で塞がれて水音がさらに響いてしかたない。口のなかをはとりに好きにされる。力なくはとりの肩に手をやるしか出来なかった。
透明な糸が繋がって切れる。やっと唇が離れたと気づいた。熱がまだ唇に残っている。感覚がふわふわする。涙目になりながらはとりを見上げる。そこにいたはとりの目は初めてみるものだった。
「ナマエ、おまえの全てがほしい」
「はとり……」
「嫉妬にかられて言うのは間違っていると分かっている。それでも他の男が知らないおまえが見たい」
「…………はとりならいいよ」
はとりの熱につられて気づけばそう言っていた。はとりに優しく、それでも離さないくらいの力強さで寝室に連れて行かれた。