日向ごっこ
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「居間で吐いて倒れてた所を透君が見つけてたんだよ。その後、馬になっちゃったりして困ったよ。あのまんまじゃ病院にも連れて行けないし。とりあえず意識が戻るの待ってたわけ。……思い出した?」
「依鈴、病院に行くぞ。用心に越したことはない」
「イヤだ……行かない」
「依……」
「イヤだ病院は」
そう言って依鈴は窓から出ようとした。しかしここは二階だ。慌ててはとりが依鈴の身体を押さえる。
「やだ! イヤだ離せっ! アタシに構うな……っ」
そこで部屋に入って来たのは透とナマエだった。驚いた様子で依鈴に声をかける。
「依鈴さん……っだ……だめです依鈴さん危ない……」
「なにやってんのリン! 危ないでしょうが!」
二人の言葉に一瞬止まったリンに紫呉が話しかける。
「リン。自分の体調管理ぐらいできるようになったら? そんなに他人 に構われなくないなら尚更必須だよ。僕らも振り回されないで済むしね」
ある種の正論にどう思ったのか依鈴の動きは止まった。それでもいつまた飛び降りようとするか分からない。今は部屋にひとりにして安静にしてもらい、はとりはまた明日様子を見にくることにした。
「そうだねぇ。今、無理に病院に行かせると逆によくないかも。ま、あれだけ元気ならひとまず大丈夫じゃない?」
「あれ元気って言っていいの?」
「依鈴さん……どのような御用事でこちらにいらしたのでしょう……あんなに辛そうになさってまで……」
依鈴の痛みに呼応したのか透は悲しげに眉を下げた。ナマエはそんな透の頭をぽんぽん叩く。
「ちゃんと話聞こう? 教えてくれないかもしれないけど、今のままじゃリンが辛いだけなのは分かるから」
「はい……」
「う~んそれが……実はねぇ、僕とリン付き合ってるんだぁ」
一瞬の間が空いた。
「え゛……っ! あっそっそうなのですか……っ! す、すみません、私あの余計な」
「嘘ですごめんなさい」
「もう少し時と場合と人を見てから軽口を叩け」
「紫呉にいさん……」
「……とにかく今日はこれで」
はとりはそう言って紫呉邸を去った。紫呉は見送りについてきた。
「呼び出しといてなんだけど……慊人さん大丈夫? 勝手に出てきたこと怒られない?」
「……まだ言い訳は立つ」
「そうなったら私が駄々こねたことにするよ」
「ゴキゲンとりも言い訳つくりも大変ですねぇ」
はとりは煙草を口にする。今日は色々とありすぎた。帰ってからのことを考えるのも億劫だ。
「おまえに……会いに来たんだろう? 依鈴は……」
「……そうだよ。なんだかあの子必死に十二支 の呪いを解く方法捜してるんだ。一人で」
紫呉の突拍子のない言葉にはとりとナマエは目を見開いた。
「……本気で?」
「だろうねぇ。僕がその方法を知ってると勘ぐってて時々やって来るんだよ」
「途方もない……話しだ……」
十二支の2人の話にナマエは割り込めなかった。自分には分かり得ない話だからだ。
「そう……“途方もない話”。でも本当に? はとり……聴こえてこないか?」
「何が」
「壊れていく音」
紫呉のその言葉にナマエははとりの袖を掴んだ。不穏な言葉。それを待ち望んでいるかのような紫呉の口ぶり。背筋に何かが通る感覚がした。
すぐに夾が来てナマエは袖を離したが紫呉の言葉が頭から離れなかった。
****
優しくて優しすぎて優しい人は可哀想。
「春は今もリンを好きだよ。とても好きだよ」
由希はその言葉を残して去っていった。依鈴の脳裏に過るのは穏やかに笑う透の顔。そして「リン!」と笑うナマエの顔。
『リンがうちの子になるかもしれないの? じゃあ私、リンのお姉ちゃんだね!』
家族に捨てられた依鈴を何て事のないように受け入れようとするナマエ。ナマエは昔からそうだった。あの慊人ですら調子を崩さない。依鈴の家がまだ平穏を作られていたときも、壊れたときも、ナマエは依鈴への態度を変えなかった。「リン、遊ぼう?」そう言って手を伸ばしてきた。愛されて育った人は心の容量が広いのかと思った。壊れてからはその手をとったことは一度もなかったけどナマエはいつも笑っていた。「そっか。じゃあまた今度」と言って。依鈴の態度に怒ったことなんて一度もない。包む込むように笑っていた。自分自身が壊れかけたときも、無理して笑っていた。そんなことしなくていいのに。
「お優しい人間はお優しい世界 で生きていけばいいんだ!」
脳裏の燈路が言う「それは責めてるの?」と。そんなんじゃない。でも、こんな風にしか言えない。優しい人が損をするのはイヤだ。傷つく姿は見たくない。
本田透と呪いを解く方法について言い合いになる。譲れないモノがあると。ふざけるな。余計なコトだ。関係ないだろう。そう言っても本田透は聞かない。
「無いんだどこにもっ! 方法なんて……っ誰も知らない、こんなんじゃ……っ」
春を解放できない。
「アタシ……アタシもうどうしたら…………っ」
焦燥感に駆られて部屋を飛び出す。名を呼ばれるのが分かったが止まれない。イヤだ。……だから本田透にも近付きたくなかった。そういうコ。そういう 気持ちにさせるコだ。
なんてない光景。ただ洗濯物を畳む。日常の一幕。それなのに、泣いてしまいたかった。駆け出してあの膝に躰をあずけて心をあずけてしまいたかった。母親の元に泣いて帰る子どもみたいに。弱すぎる自分の弱音をぶちまけたい。そしてそれを許してくれるんじゃないかって。受けとめてくれるんじゃないかって。
『リン、遊ぼう?』
優しいナマエと重なった。
──あんまりだ。そんなの可哀想だ。
優しい人はすがられて求められて寄生されて。依鈴 みたいな人間 に。だからもう巻き込んだりしない。一人でいい。一人で走り続ける。
理解されなくていい。嫌われるくらいがいい。孤独 でいい。固くそう決めていたのに泣くもんかと決めていたのに。
すがってしまう。
本田透の腕の中に掴まる。こんなにも自分は無力でこんなにも弱い。ごめん。ごめんなさい。
「……もうどうしたらいいかわからないの……っわからないの何も。できない。一人で、一人じゃ」
その言葉に頭に腕が回る。まるでなにかから守ってくれるかのように。
「一人は怖い……孤独 は……怖いです」
回った腕にすがりつく。
立ち上がれないと思った。自分一人の力では。
朝焼けが静かに照らしてくるまで優しい腕に囲まれていた。
「依鈴、病院に行くぞ。用心に越したことはない」
「イヤだ……行かない」
「依……」
「イヤだ病院は」
そう言って依鈴は窓から出ようとした。しかしここは二階だ。慌ててはとりが依鈴の身体を押さえる。
「やだ! イヤだ離せっ! アタシに構うな……っ」
そこで部屋に入って来たのは透とナマエだった。驚いた様子で依鈴に声をかける。
「依鈴さん……っだ……だめです依鈴さん危ない……」
「なにやってんのリン! 危ないでしょうが!」
二人の言葉に一瞬止まったリンに紫呉が話しかける。
「リン。自分の体調管理ぐらいできるようになったら? そんなに
ある種の正論にどう思ったのか依鈴の動きは止まった。それでもいつまた飛び降りようとするか分からない。今は部屋にひとりにして安静にしてもらい、はとりはまた明日様子を見にくることにした。
「そうだねぇ。今、無理に病院に行かせると逆によくないかも。ま、あれだけ元気ならひとまず大丈夫じゃない?」
「あれ元気って言っていいの?」
「依鈴さん……どのような御用事でこちらにいらしたのでしょう……あんなに辛そうになさってまで……」
依鈴の痛みに呼応したのか透は悲しげに眉を下げた。ナマエはそんな透の頭をぽんぽん叩く。
「ちゃんと話聞こう? 教えてくれないかもしれないけど、今のままじゃリンが辛いだけなのは分かるから」
「はい……」
「う~んそれが……実はねぇ、僕とリン付き合ってるんだぁ」
一瞬の間が空いた。
「え゛……っ! あっそっそうなのですか……っ! す、すみません、私あの余計な」
「嘘ですごめんなさい」
「もう少し時と場合と人を見てから軽口を叩け」
「紫呉にいさん……」
「……とにかく今日はこれで」
はとりはそう言って紫呉邸を去った。紫呉は見送りについてきた。
「呼び出しといてなんだけど……慊人さん大丈夫? 勝手に出てきたこと怒られない?」
「……まだ言い訳は立つ」
「そうなったら私が駄々こねたことにするよ」
「ゴキゲンとりも言い訳つくりも大変ですねぇ」
はとりは煙草を口にする。今日は色々とありすぎた。帰ってからのことを考えるのも億劫だ。
「おまえに……会いに来たんだろう? 依鈴は……」
「……そうだよ。なんだかあの子必死に
紫呉の突拍子のない言葉にはとりとナマエは目を見開いた。
「……本気で?」
「だろうねぇ。僕がその方法を知ってると勘ぐってて時々やって来るんだよ」
「途方もない……話しだ……」
十二支の2人の話にナマエは割り込めなかった。自分には分かり得ない話だからだ。
「そう……“途方もない話”。でも本当に? はとり……聴こえてこないか?」
「何が」
「壊れていく音」
紫呉のその言葉にナマエははとりの袖を掴んだ。不穏な言葉。それを待ち望んでいるかのような紫呉の口ぶり。背筋に何かが通る感覚がした。
すぐに夾が来てナマエは袖を離したが紫呉の言葉が頭から離れなかった。
****
優しくて優しすぎて優しい人は可哀想。
「春は今もリンを好きだよ。とても好きだよ」
由希はその言葉を残して去っていった。依鈴の脳裏に過るのは穏やかに笑う透の顔。そして「リン!」と笑うナマエの顔。
『リンがうちの子になるかもしれないの? じゃあ私、リンのお姉ちゃんだね!』
家族に捨てられた依鈴を何て事のないように受け入れようとするナマエ。ナマエは昔からそうだった。あの慊人ですら調子を崩さない。依鈴の家がまだ平穏を作られていたときも、壊れたときも、ナマエは依鈴への態度を変えなかった。「リン、遊ぼう?」そう言って手を伸ばしてきた。愛されて育った人は心の容量が広いのかと思った。壊れてからはその手をとったことは一度もなかったけどナマエはいつも笑っていた。「そっか。じゃあまた今度」と言って。依鈴の態度に怒ったことなんて一度もない。包む込むように笑っていた。自分自身が壊れかけたときも、無理して笑っていた。そんなことしなくていいのに。
「お優しい人間はお優しい
脳裏の燈路が言う「それは責めてるの?」と。そんなんじゃない。でも、こんな風にしか言えない。優しい人が損をするのはイヤだ。傷つく姿は見たくない。
本田透と呪いを解く方法について言い合いになる。譲れないモノがあると。ふざけるな。余計なコトだ。関係ないだろう。そう言っても本田透は聞かない。
「無いんだどこにもっ! 方法なんて……っ誰も知らない、こんなんじゃ……っ」
春を解放できない。
「アタシ……アタシもうどうしたら…………っ」
焦燥感に駆られて部屋を飛び出す。名を呼ばれるのが分かったが止まれない。イヤだ。……だから本田透にも近付きたくなかった。そういうコ。
なんてない光景。ただ洗濯物を畳む。日常の一幕。それなのに、泣いてしまいたかった。駆け出してあの膝に躰をあずけて心をあずけてしまいたかった。母親の元に泣いて帰る子どもみたいに。弱すぎる自分の弱音をぶちまけたい。そしてそれを許してくれるんじゃないかって。受けとめてくれるんじゃないかって。
『リン、遊ぼう?』
優しいナマエと重なった。
──あんまりだ。そんなの可哀想だ。
優しい人はすがられて求められて寄生されて。
理解されなくていい。嫌われるくらいがいい。
すがってしまう。
本田透の腕の中に掴まる。こんなにも自分は無力でこんなにも弱い。ごめん。ごめんなさい。
「……もうどうしたらいいかわからないの……っわからないの何も。できない。一人で、一人じゃ」
その言葉に頭に腕が回る。まるでなにかから守ってくれるかのように。
「一人は怖い……
回った腕にすがりつく。
立ち上がれないと思った。自分一人の力では。
朝焼けが静かに照らしてくるまで優しい腕に囲まれていた。