日向ごっこ
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「今日、由希の三者面談なんだって」
「……あの母親とか?」
「母親は分かんない。あーやが行くって。『服装はこれでいいだろうか』って写メ送られてきた」
ちなみにその写メは半分がバラの花束で覆われていてよく服装は見えない。なんで花束。まさか担任の先生にあげるんじゃないだろうな。そしていいんじゃない? と適当に返した。どんな服装しててもあーやのキャラの濃さは変わんないよ。些末事。……そういえば由希には影響するな。忘れていた。……ま、まぁスカート履いたりはさすがにしないでしょ。……しないよね?
どんどん不安になってきたので『どうなったのか教えてね』とメールしておいた。
「でも良かったね」
「なにがだ」
「入学式はいけなかったのに。三者面談は自信もって行けるようになったんだよ」
笑みがこぼれる。由希がチャンスをくれたのだと言っていた。優しい子だとも。そう、由希は優しい子だ。過去にされたことを忘れたわけじゃないのに、あーやと話すことを止めなかった優しくて強い子。まあ方向性の違いはあるだろうけど、それでもふたりは昔より兄弟している。嬉しくて顔がほころんでいたらはとりも同じようにまぶたが下がった。そして何故か頭を撫でられる。
「そうだな」
「私はなぜ撫でられてるのでしょうか」
「可愛いと思ったからだ」
「かわっ……! ……あーやの口の回り具合が移った?」
「あんなもの移ってたまるか」
病原菌が移るみたいな顔してる。あーやみたいに話すはとり。うん、絶対にいやだ。今のままがいい。にしてもはとりのなでなでは落ち着く。1日一回はしてほしいところ。
「はとりも撫でてあげる」
「いらん」
「私は嬉しいからおすそ分け」
そう言ってはとりの前に立つ。真っ直ぐな髪の毛をゆったりと撫でる。
「はとりお仕事がんばってえらい。みんなの健康を守っててえらい。真面目で真摯なところが好き。優しいところが好き。格好いいところが好き。自然と誰かを想えるところが好き」
……私はもしかしてはとりのこと全部好きなのでは? 今さらなことに気づく。はとりの嫌なところが全く思いつかない……こともなかった。ひとつだけ。ひとつだけいやな事。
「でも、優しすぎて、自分のこと考えないところは少しいや」
「……そんなつもりはないんだがな。俺にだって我欲を満たそうとすることはある」
「うそだぁ」
「本当だ。……おまえのことは誰にも譲れない」
「……私だってそうだから我欲って言わないよ? それ」
ふふ、と笑いがこぼれると、はとりも顔を合わせて笑ってくれる。鏡みたいだ。世界一倖せな写し鏡。頭に手が回る。そのまま身を任せて唇が重なった。
「んぅ、……はとり、携帯ブルブルいってるよ?」
「無視しておけ」
「本家からだったらはとりが怒られちゃう」
「…………」
最後にちゅっとしてはとりは唇を離した。リップがはとりについてるからティッシュ渡していると「綾女からのメールだ」と言いながら拭っている。……ちょっとえっちだと思ったのは内緒。
「あーやなんだって?」
「いつもの由希自慢だ」
「じゃあ三者面談上手くいったのかな?」
「母親が来ていたらしい」
「げっ、由希の母親かぁ……子供のとき何回イヤミ言われたことか」
「祖父と父親の立場を上手く使っていた子供だろおまえは。イヤミなんて聞き逃してただろう」
「それはそうなんですが」
なんで由希に会いに行かないの。たったこれだけ聞くためにお父さんとおじいちゃんに全力で駄々をこねて由希の母親に会わせてもらった。結果は言うまでもない。そういう母親だったってだけだ。……でも由希はそういう母親って割り切り方はしないだろうなぁ。
そんなことを思っていると次は電話がかかってきた。はとりは画面をみてそのまま電話に出た。
「もしもし。…………………ああ、そうか。それは面倒をかける…………適当に収まったら電話を代わってくれたらいい。……苦労をかけるな」
なんだか長くなりそう。お茶とお茶菓子用意しとこ。お湯を沸かして勝手に持ち込んだ珈琲ミルと珈琲豆をゴリゴリ粉にしていく。このときの匂いが好きだな。紅茶派だけどはとりのおかげで珈琲も好きになった。最初はカフェオレにしてもらってたけど。ドリッパーにフィルターと挽いた粉をセットしてお湯を注いでいく。カップは気づいたらお揃いになっていた。今までお客さん用のを使っていたのに、付き合いはじめてからはとりが何も言わず用意してくれた。「それを使え」と。そういうところがたまらなく好き。思わず抱きつきそうになってしまったくらいだ。
おぼんに出来立て珈琲とフィナンシェを置いてテーブルに置く。はとりはまだ電話していた。
「嬉しいのは分かった。だが由希に面倒をかけるのも本意ではないだろう。だからそろそろ帰ってやれ」
あ、これ電話の相手絶対あーやだ。こんな風に宥めるように話すのはあーやくらいだから。そしてあーやもはとりの言うことはすぐ聞くからもう電話終わるかな? その予想通りはとりは二、三会話してすぐに電話を切った。「世話をかけたな白木」と言って。
「……白木って」
「佳菜の親友の白木だ」
「知ってる……」
一度、本家に入って佳菜さんの様子を見にきた人。それまであーや達と一緒にご飯食べたりして仲がよくて、
「何故か紫呉にいさんと付き合ってた人」
はとりが好きなのに。
その言葉は飲み込んだ。あまりにも不躾だから。あの人は佳菜さんとはとりの仲を応援して、子供の私でも対等に話してくれた優しい人。あーやにくっついてご飯連れて行ってもらったときの印象だ。
「ああ、あれは……意味が分からなかったな」
「うん……」
佳菜さんとはとりの仲は入っていけるものじゃなかった。私はあの倖せの空間を壊す事なんて出来なかった。二人が倖せならそれでよかった。たとえ私の恋が死んだとしても。……白木さんもそうだったのかな。紫呉にいさんと一緒にいた理由は分からないけど、壊さない為の方法のひとつだったのかな。
今あの人はどうしているのだろう。
「白木さんと、いつから話ししてたの……?」
ああ、これは醜い野次馬根性で、醜い嫉妬だ。だって想像してみた。年の離れた私より、並んでみたらお似合いの大人な二人だと思ってしまった。やだな。はとりから貰っている愛情を疑うみたいで。唇をぎゅっとする。
「おまえが避暑に行ってるときに古書を買いに行ってな。そのときに……」
「……うん」
「倖せオーラが出ているそうだ」
「えっ」
「そう言われた。……心配させていたらしい。彼女にも」
少し困ったように話すはとり。
「紫呉がおまえとの事を勝手に話してな。そしたら「よかった」と。笑顔で祝福してくれた」
「そ、っか」
その言葉を出すのにどんな想いをしたのだろう。もしまだはとりが好きだったのならば。そうだったのならば、どれだけ優しい人なんだろう。優しい人の気持ちの上に私は今立っているのだとしたら、
「はとり」
「うん?」
「絶対に倖せにします」
「急になんだ」
「決意表明! 珈琲で乾杯しよ! 杯みたいに!」
「意味が分からん。分からんが……おまえといて倖せじゃないと感じたことはない。だからあまり気負うな」
目元を撫でられる。泣きそうな顔をしてたのかもしれない。どこまでも甘ったれだ。
「はとり大好き」
「知っている。……俺も愛している」
「うん。……うん」
重なった唇は少し切なくて、温かかった。
「……あの母親とか?」
「母親は分かんない。あーやが行くって。『服装はこれでいいだろうか』って写メ送られてきた」
ちなみにその写メは半分がバラの花束で覆われていてよく服装は見えない。なんで花束。まさか担任の先生にあげるんじゃないだろうな。そしていいんじゃない? と適当に返した。どんな服装しててもあーやのキャラの濃さは変わんないよ。些末事。……そういえば由希には影響するな。忘れていた。……ま、まぁスカート履いたりはさすがにしないでしょ。……しないよね?
どんどん不安になってきたので『どうなったのか教えてね』とメールしておいた。
「でも良かったね」
「なにがだ」
「入学式はいけなかったのに。三者面談は自信もって行けるようになったんだよ」
笑みがこぼれる。由希がチャンスをくれたのだと言っていた。優しい子だとも。そう、由希は優しい子だ。過去にされたことを忘れたわけじゃないのに、あーやと話すことを止めなかった優しくて強い子。まあ方向性の違いはあるだろうけど、それでもふたりは昔より兄弟している。嬉しくて顔がほころんでいたらはとりも同じようにまぶたが下がった。そして何故か頭を撫でられる。
「そうだな」
「私はなぜ撫でられてるのでしょうか」
「可愛いと思ったからだ」
「かわっ……! ……あーやの口の回り具合が移った?」
「あんなもの移ってたまるか」
病原菌が移るみたいな顔してる。あーやみたいに話すはとり。うん、絶対にいやだ。今のままがいい。にしてもはとりのなでなでは落ち着く。1日一回はしてほしいところ。
「はとりも撫でてあげる」
「いらん」
「私は嬉しいからおすそ分け」
そう言ってはとりの前に立つ。真っ直ぐな髪の毛をゆったりと撫でる。
「はとりお仕事がんばってえらい。みんなの健康を守っててえらい。真面目で真摯なところが好き。優しいところが好き。格好いいところが好き。自然と誰かを想えるところが好き」
……私はもしかしてはとりのこと全部好きなのでは? 今さらなことに気づく。はとりの嫌なところが全く思いつかない……こともなかった。ひとつだけ。ひとつだけいやな事。
「でも、優しすぎて、自分のこと考えないところは少しいや」
「……そんなつもりはないんだがな。俺にだって我欲を満たそうとすることはある」
「うそだぁ」
「本当だ。……おまえのことは誰にも譲れない」
「……私だってそうだから我欲って言わないよ? それ」
ふふ、と笑いがこぼれると、はとりも顔を合わせて笑ってくれる。鏡みたいだ。世界一倖せな写し鏡。頭に手が回る。そのまま身を任せて唇が重なった。
「んぅ、……はとり、携帯ブルブルいってるよ?」
「無視しておけ」
「本家からだったらはとりが怒られちゃう」
「…………」
最後にちゅっとしてはとりは唇を離した。リップがはとりについてるからティッシュ渡していると「綾女からのメールだ」と言いながら拭っている。……ちょっとえっちだと思ったのは内緒。
「あーやなんだって?」
「いつもの由希自慢だ」
「じゃあ三者面談上手くいったのかな?」
「母親が来ていたらしい」
「げっ、由希の母親かぁ……子供のとき何回イヤミ言われたことか」
「祖父と父親の立場を上手く使っていた子供だろおまえは。イヤミなんて聞き逃してただろう」
「それはそうなんですが」
なんで由希に会いに行かないの。たったこれだけ聞くためにお父さんとおじいちゃんに全力で駄々をこねて由希の母親に会わせてもらった。結果は言うまでもない。そういう母親だったってだけだ。……でも由希はそういう母親って割り切り方はしないだろうなぁ。
そんなことを思っていると次は電話がかかってきた。はとりは画面をみてそのまま電話に出た。
「もしもし。…………………ああ、そうか。それは面倒をかける…………適当に収まったら電話を代わってくれたらいい。……苦労をかけるな」
なんだか長くなりそう。お茶とお茶菓子用意しとこ。お湯を沸かして勝手に持ち込んだ珈琲ミルと珈琲豆をゴリゴリ粉にしていく。このときの匂いが好きだな。紅茶派だけどはとりのおかげで珈琲も好きになった。最初はカフェオレにしてもらってたけど。ドリッパーにフィルターと挽いた粉をセットしてお湯を注いでいく。カップは気づいたらお揃いになっていた。今までお客さん用のを使っていたのに、付き合いはじめてからはとりが何も言わず用意してくれた。「それを使え」と。そういうところがたまらなく好き。思わず抱きつきそうになってしまったくらいだ。
おぼんに出来立て珈琲とフィナンシェを置いてテーブルに置く。はとりはまだ電話していた。
「嬉しいのは分かった。だが由希に面倒をかけるのも本意ではないだろう。だからそろそろ帰ってやれ」
あ、これ電話の相手絶対あーやだ。こんな風に宥めるように話すのはあーやくらいだから。そしてあーやもはとりの言うことはすぐ聞くからもう電話終わるかな? その予想通りはとりは二、三会話してすぐに電話を切った。「世話をかけたな白木」と言って。
「……白木って」
「佳菜の親友の白木だ」
「知ってる……」
一度、本家に入って佳菜さんの様子を見にきた人。それまであーや達と一緒にご飯食べたりして仲がよくて、
「何故か紫呉にいさんと付き合ってた人」
はとりが好きなのに。
その言葉は飲み込んだ。あまりにも不躾だから。あの人は佳菜さんとはとりの仲を応援して、子供の私でも対等に話してくれた優しい人。あーやにくっついてご飯連れて行ってもらったときの印象だ。
「ああ、あれは……意味が分からなかったな」
「うん……」
佳菜さんとはとりの仲は入っていけるものじゃなかった。私はあの倖せの空間を壊す事なんて出来なかった。二人が倖せならそれでよかった。たとえ私の恋が死んだとしても。……白木さんもそうだったのかな。紫呉にいさんと一緒にいた理由は分からないけど、壊さない為の方法のひとつだったのかな。
今あの人はどうしているのだろう。
「白木さんと、いつから話ししてたの……?」
ああ、これは醜い野次馬根性で、醜い嫉妬だ。だって想像してみた。年の離れた私より、並んでみたらお似合いの大人な二人だと思ってしまった。やだな。はとりから貰っている愛情を疑うみたいで。唇をぎゅっとする。
「おまえが避暑に行ってるときに古書を買いに行ってな。そのときに……」
「……うん」
「倖せオーラが出ているそうだ」
「えっ」
「そう言われた。……心配させていたらしい。彼女にも」
少し困ったように話すはとり。
「紫呉がおまえとの事を勝手に話してな。そしたら「よかった」と。笑顔で祝福してくれた」
「そ、っか」
その言葉を出すのにどんな想いをしたのだろう。もしまだはとりが好きだったのならば。そうだったのならば、どれだけ優しい人なんだろう。優しい人の気持ちの上に私は今立っているのだとしたら、
「はとり」
「うん?」
「絶対に倖せにします」
「急になんだ」
「決意表明! 珈琲で乾杯しよ! 杯みたいに!」
「意味が分からん。分からんが……おまえといて倖せじゃないと感じたことはない。だからあまり気負うな」
目元を撫でられる。泣きそうな顔をしてたのかもしれない。どこまでも甘ったれだ。
「はとり大好き」
「知っている。……俺も愛している」
「うん。……うん」
重なった唇は少し切なくて、温かかった。