日向ごっこ
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「ナマエとお付き合いをさせていただいております」
はとりはナマエの両親に頭を下げた。ナマエが草摩の別荘に避暑に行っている間の出来事だった。ナマエは秘密にしようとしていたが、ナマエの両親にはきちんと筋は通さないといけない。過去の自分の出来事を知られているのだ。早ければ早いほどいいとはとりは思っていた。
ナマエの家は本家筋の血筋とあって中枢に位置しており、草摩家の主力として活躍していた。特にナマエの祖父、父親、その兄弟達は草摩家に特に必要とされている人物で発言権も大きい。まだ若い当主である慊人だからこそ無碍に出来ない存在だった。
「まぁまぁ、はとりくんとナマエが!?」
めでたいわ! とナマエの母親は両手を合わせて喜ぶ。この反応は想定内。そしてむっすりと口を閉ざすナマエの父親の反応も想定内。
「はい。真剣に付き合っています。将来は共に歩んでいこうと思っております」
「そう決めた相手を手放さずにはいられない過去があったとしてもか」
「あなた」
諫めるような妻の声にナマエの父は真剣な表情を返した。
「大事な話なんだ。はとりくん、君の真面目さや性根の清さは知っている。ナマエがたいそう世話になったんだ。その件については心から感謝している。けれど私はナマエの心を壊して記憶措置などとらせなくない。傷つけさせたくない。何より君達十二支の子らは当主に逆らえないだろう。理屈じゃないのは知っている。そう本能づけられていることも。まさしく呪いだ。それでもな、」
「君はナマエを当主より優先できるのか?」
静かな問い。けれどピリピリするほどの重々しさがあった。それはナマエへの愛情の証し。大切に真っ直ぐに育てられたナマエ。育て上げたその両親。真摯に言葉を返さなくてはならない。はとりは真っすぐにナマエの両親を見据えた。
「ナマエを連れて、草摩を出ようと思っております」
「!!」
「最終手段ですが、その心積もりも算段もつけています。もし慊人がナマエに手を出そうとしたら、私はその手段をとります」
「……できるのか? 本当に。君は当主のお気に入りだ。何より呪いがあって離れられないんじゃないのか」
「やります。私はもう、ナマエなしでは生きていけません。呪いだろうが、何だろうがねじ伏せてナマエと共に生きる未来を選びます」
再びはとりは頭を下げた。脳裏に浮かぶのは泣き叫ぶ慊人の姿。置いていかないでと泣く小さな慊人。心が動かないと言ったら嘘になる。自分の中の十二支が慊人を独りにするなと言ってくる。絆 があるだろう、と言ってくる。
──それでも。それでもナマエと共に生きていくと決めた。「はとり」と呼ぶナマエの顔。それだけで倖せと伝えてくる。愛情を一心に伝えてくる。それにどれだけ心が癒されているか。穏やかに笑えているか。はとりの未来にはナマエがいる。隣で笑うナマエが。
「そうなった際にご迷惑をおかけすることになります。先に謝罪することしか出来ないこと、一人娘のナマエを連れ出すこと、深くお詫び申し上げます」
しばらく沈黙した。はとりは頭を下げ続けた。
「……頭を上げなさい、はとりくん」
「…………」
「顔をみて話がしたい。顔を上げてくれ」
ゆっくりと顔を上げる。そこにあったのは眉を下げて不器用に笑うナマエの父親と涙ぐむナマエの母親の姿だった。
「先程の話には、君が危害を加えられた場合の話がなかったな」
「…………」
「当主が再び君に害をなそうとした場合でも、二人で外に行きなさい。ナマエは自分が傷つくより君が傷つくほうが悲しむ。娘が悲しい顔をするのは見たくない。会えなくとも遠くで笑ってくれるほうが何倍も倖せだ。なぁに。当主がその責任だなんだと言ってきても気にすることはない。そうなったら、草摩の実権を握らせてもらうまでだ。君達 のように子供の癇癪に付き合うほど気は長くはないのでね」
「それは、」
「神様と十二支の絆。知ったことではないな。生きている者達はみな人と人の話をしているんだ。それなのに君達は強制的に視野が狭くさせられている。哀れだと思うよ。……それでもナマエを守ろうとする答えを出した君を信頼する」
ナマエの両親ははとりに頭を下げた。
「ナマエをよろしくお願いします」
「……その信頼を裏切らない努力を続けます。信頼して下さってありがとうございます」
はとりも頭を下げた。そして再び決意した。ナマエを守り通す決意を。
「もうっ辛気くさい話は終わりよ! ナマエったら私にもはとりくんのこと話さないんだから!」
「慊人にバレないように気を回したのだと」
「そんなに口が軽いと思われてるなんて心外だわぁ」
「おそらく念の為だと思います」
「こら、はとりくんを困らすんじゃない。はとりくん。このあと仕事は残っているかな?」
「いえ、終わらせて参りました」
「だったらいい酒があるんだ。一緒に呑もう。ナマエは一人娘だからね。息子と呑むことになることを楽しみにしていたんだ」
「……恐縮です」
「はとりくんったらお堅いわぁ。家族になるのだから気を抜いてちょうだい」
「善処します」
「ああ、でも酒を呑む前に婚姻届の証人の欄を書いておこうか。先に夫婦になっておけば何かと都合がいいだろう?」
「……都合だけで決めるのではないのですが」
「分かってるわよはとりくん! じゃあお役所がしまる前にとっておきましょう! 行ってくるわね!」
「頼むよ」
はとりが口を挟む前にとんとん拍子に進む話。二人とも楽しげだ。
「夫の欄と証人の欄が埋まった婚姻届を見たらナマエは驚くだろうな? な、はとりくん」
「……」
想像してみた。目を丸くして何度もはとりの顔を見るナマエ。そしてきっと泣きながら笑うのだ。なにこれ! と言いながら。その光景は思った以上に倖せで、その日が来るのが待ち遠しかった。
はとりはナマエの両親に頭を下げた。ナマエが草摩の別荘に避暑に行っている間の出来事だった。ナマエは秘密にしようとしていたが、ナマエの両親にはきちんと筋は通さないといけない。過去の自分の出来事を知られているのだ。早ければ早いほどいいとはとりは思っていた。
ナマエの家は本家筋の血筋とあって中枢に位置しており、草摩家の主力として活躍していた。特にナマエの祖父、父親、その兄弟達は草摩家に特に必要とされている人物で発言権も大きい。まだ若い当主である慊人だからこそ無碍に出来ない存在だった。
「まぁまぁ、はとりくんとナマエが!?」
めでたいわ! とナマエの母親は両手を合わせて喜ぶ。この反応は想定内。そしてむっすりと口を閉ざすナマエの父親の反応も想定内。
「はい。真剣に付き合っています。将来は共に歩んでいこうと思っております」
「そう決めた相手を手放さずにはいられない過去があったとしてもか」
「あなた」
諫めるような妻の声にナマエの父は真剣な表情を返した。
「大事な話なんだ。はとりくん、君の真面目さや性根の清さは知っている。ナマエがたいそう世話になったんだ。その件については心から感謝している。けれど私はナマエの心を壊して記憶措置などとらせなくない。傷つけさせたくない。何より君達十二支の子らは当主に逆らえないだろう。理屈じゃないのは知っている。そう本能づけられていることも。まさしく呪いだ。それでもな、」
「君はナマエを当主より優先できるのか?」
静かな問い。けれどピリピリするほどの重々しさがあった。それはナマエへの愛情の証し。大切に真っ直ぐに育てられたナマエ。育て上げたその両親。真摯に言葉を返さなくてはならない。はとりは真っすぐにナマエの両親を見据えた。
「ナマエを連れて、草摩を出ようと思っております」
「!!」
「最終手段ですが、その心積もりも算段もつけています。もし慊人がナマエに手を出そうとしたら、私はその手段をとります」
「……できるのか? 本当に。君は当主のお気に入りだ。何より呪いがあって離れられないんじゃないのか」
「やります。私はもう、ナマエなしでは生きていけません。呪いだろうが、何だろうがねじ伏せてナマエと共に生きる未来を選びます」
再びはとりは頭を下げた。脳裏に浮かぶのは泣き叫ぶ慊人の姿。置いていかないでと泣く小さな慊人。心が動かないと言ったら嘘になる。自分の中の十二支が慊人を独りにするなと言ってくる。
──それでも。それでもナマエと共に生きていくと決めた。「はとり」と呼ぶナマエの顔。それだけで倖せと伝えてくる。愛情を一心に伝えてくる。それにどれだけ心が癒されているか。穏やかに笑えているか。はとりの未来にはナマエがいる。隣で笑うナマエが。
「そうなった際にご迷惑をおかけすることになります。先に謝罪することしか出来ないこと、一人娘のナマエを連れ出すこと、深くお詫び申し上げます」
しばらく沈黙した。はとりは頭を下げ続けた。
「……頭を上げなさい、はとりくん」
「…………」
「顔をみて話がしたい。顔を上げてくれ」
ゆっくりと顔を上げる。そこにあったのは眉を下げて不器用に笑うナマエの父親と涙ぐむナマエの母親の姿だった。
「先程の話には、君が危害を加えられた場合の話がなかったな」
「…………」
「当主が再び君に害をなそうとした場合でも、二人で外に行きなさい。ナマエは自分が傷つくより君が傷つくほうが悲しむ。娘が悲しい顔をするのは見たくない。会えなくとも遠くで笑ってくれるほうが何倍も倖せだ。なぁに。当主がその責任だなんだと言ってきても気にすることはない。そうなったら、草摩の実権を握らせてもらうまでだ。
「それは、」
「神様と十二支の絆。知ったことではないな。生きている者達はみな人と人の話をしているんだ。それなのに君達は強制的に視野が狭くさせられている。哀れだと思うよ。……それでもナマエを守ろうとする答えを出した君を信頼する」
ナマエの両親ははとりに頭を下げた。
「ナマエをよろしくお願いします」
「……その信頼を裏切らない努力を続けます。信頼して下さってありがとうございます」
はとりも頭を下げた。そして再び決意した。ナマエを守り通す決意を。
「もうっ辛気くさい話は終わりよ! ナマエったら私にもはとりくんのこと話さないんだから!」
「慊人にバレないように気を回したのだと」
「そんなに口が軽いと思われてるなんて心外だわぁ」
「おそらく念の為だと思います」
「こら、はとりくんを困らすんじゃない。はとりくん。このあと仕事は残っているかな?」
「いえ、終わらせて参りました」
「だったらいい酒があるんだ。一緒に呑もう。ナマエは一人娘だからね。息子と呑むことになることを楽しみにしていたんだ」
「……恐縮です」
「はとりくんったらお堅いわぁ。家族になるのだから気を抜いてちょうだい」
「善処します」
「ああ、でも酒を呑む前に婚姻届の証人の欄を書いておこうか。先に夫婦になっておけば何かと都合がいいだろう?」
「……都合だけで決めるのではないのですが」
「分かってるわよはとりくん! じゃあお役所がしまる前にとっておきましょう! 行ってくるわね!」
「頼むよ」
はとりが口を挟む前にとんとん拍子に進む話。二人とも楽しげだ。
「夫の欄と証人の欄が埋まった婚姻届を見たらナマエは驚くだろうな? な、はとりくん」
「……」
想像してみた。目を丸くして何度もはとりの顔を見るナマエ。そしてきっと泣きながら笑うのだ。なにこれ! と言いながら。その光景は思った以上に倖せで、その日が来るのが待ち遠しかった。