日向ごっこ
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杞紗と母親が抱き合う姿をみて柔らかく微笑む姿。それをみてなぜか別人を見ているように感じた。
草摩ナマエは小さい頃から物怖じしない子供だった。癇癪癖のある慊人にも「慊人はしかたないなー」とのんびり相手していたし、慊人に怯える由希相手に、慊人にバレないように優しく相手する頭のよさもあった。時には緩和材のように自分を扱って、慊人と由希の間に入っていた。まあそれは全部素でやっているもので要するに根っから人がいい子だったのだ。素直すぎてポロリと失言することもあったが。それでも元気で明るい子供は可愛らしい。「はとり!」と懐かれていた自覚もあった。はとりも懐くナマエが可愛かった。
紫呉は特別扱いされるナマエが気に入らず大人気なく八つ当たりを続けていたが。それを毎回諫めるのははとりで、ナマエが泣きつくのもはとりで、内緒話を聞かされるのもはとりだった。
ナマエはいくつになっても変わらない。そう思っていた。
ナマエが家を出られなくなったのは高二の冬だった。寒いある日。学校で倒れた。救急車で運ばれて、運ばれた病院で過呼吸を起こした。それでひどいパニックを併発させて一通りの検査をした結果。外出恐怖症。一定の場所で何か不調が起きたときに逃げられないと恐怖に思う。不安で恐怖が高ぶってしまう。発汗に震え、息切れにふらつきに発熱。病院でもナマエは安心できなかった。だから病院には長くいられずはとりの元で診察することになった。そこで自宅とはとりの診察所も兼ねてる家は大丈夫だと分かり、ひとまず安心したのを覚えている。そうじゃないとナマエが生きにくすぎる。
ナマエに症状に心当たりはあるかと訊ねた。ナマエは「言えない」と答えた。だから自分でその心当たりに向き合って折り合いをつけることは可能か訊いた。
「時間がほしい。はとりの時間を少しちょうだい。そしたら大丈夫になるから。大丈夫にするから」
青白い顔でそんなことを言うものだからいくらでもやるから少しずつ治していこうという言葉と共に誓った。ナマエが生きやすくなるようになるなら何でも協力すると。前のように笑うナマエを見たいというはとりの我が儘と、佳菜と別れた時期とも近く、何かに没頭しておきたい気持ちもあった。
春になり学年が三年に上がってから少しずつ少しずつナマエは外に出る努力を続けた。草摩経営の学校だった上に成績のいいナマエの登校への融通が効きやすいのが幸いだった。本人は最悪卒業認定試験を受けると決めていたので、そこらの心のゆとりはあった。ナマエはゆっくりと外に出られるようになった。少なくとも両親やはとり、紅葉の前ではいつも通りのナマエだった。しかし慊人とはその間一切会うことが出来ずに過ごし、今のように普通に話すようになったのは卒業の数ヶ月前だった。慊人もナマエの病状を聞いて無理に会おうとはしなかった。
そして大学生になった現在。ナマエの病状はほぼ完治したと思っている。紫呉の家や別荘に泊まることも出来てる。「はとり!」と笑いかけ、紫呉に八つ当たりをされたらはとりに泣きつき、今日は何があったかはとりの家で話してくる。笑顔で楽しげに。はとりの毎日にナマエがいる。それがここ数年のはとりの日常となった。
だからびっくりした。いつからそんな顔をするようになったのかと。ナマエははとりの中では女の子だった。でもそこにいるナマエは立派なひとりの女性だった。
「杞紗、ひとりじゃないからね。忘れちゃだめだよ」
「うん。ありがとうナマエお姉ちゃん」
「杞紗ママも。いつでも頼ってください」
「ありがとう、ナマエちゃん」
杞紗を見る目がどこまでも優しい。杞紗の母を気づかう言葉は慈愛に満ちている。誰だこれは。はとりは目が覚めたような感覚に陥った。
「ひとまず大丈夫そうだねはとり」
「…………」
「はとり? はとりさーん!」
「……聞いている」
「そう? 私は杞紗の勉強みて杞紗ママとお話しただけだけどはとりは違うでしょ? だからお疲れさまはとり」
目が柔らかく弧を描く。細い肩から流れた髪がふわりと動く。綺麗にリップが塗られた唇が嬉しそうに上を向く。身長差が相まってナマエの華奢さが嫌に目に付いた。
どこまでいってもナマエは女で、はとりは男だ。それを自覚した途端、ドクンと胸が打った。これは知っている。この感情をはとりはよく分かっている。駄目だ。出てくるな。そんな資格はない。大事な人を壊してしまった自分にこの感情は不適切だ。それにはとりを一心に信頼しているナマエへの裏切りだ。隠せ。隠せ。奥にしまえ。ナマエに気づかれるな。
「ご飯食べよ! 最近私お母さんの手伝いで家庭の味を学んでる最中なんだよ」
「おまえの母親が料理上手なのは知っているが……」
「その間なに! ちゃんとお墨付きもらってますー」
はとりに振る舞ってあげる。そんなことを嬉しそうに話すナマエに手が触れそうになって必死で押さえた。
草摩ナマエは小さい頃から物怖じしない子供だった。癇癪癖のある慊人にも「慊人はしかたないなー」とのんびり相手していたし、慊人に怯える由希相手に、慊人にバレないように優しく相手する頭のよさもあった。時には緩和材のように自分を扱って、慊人と由希の間に入っていた。まあそれは全部素でやっているもので要するに根っから人がいい子だったのだ。素直すぎてポロリと失言することもあったが。それでも元気で明るい子供は可愛らしい。「はとり!」と懐かれていた自覚もあった。はとりも懐くナマエが可愛かった。
紫呉は特別扱いされるナマエが気に入らず大人気なく八つ当たりを続けていたが。それを毎回諫めるのははとりで、ナマエが泣きつくのもはとりで、内緒話を聞かされるのもはとりだった。
ナマエはいくつになっても変わらない。そう思っていた。
ナマエが家を出られなくなったのは高二の冬だった。寒いある日。学校で倒れた。救急車で運ばれて、運ばれた病院で過呼吸を起こした。それでひどいパニックを併発させて一通りの検査をした結果。外出恐怖症。一定の場所で何か不調が起きたときに逃げられないと恐怖に思う。不安で恐怖が高ぶってしまう。発汗に震え、息切れにふらつきに発熱。病院でもナマエは安心できなかった。だから病院には長くいられずはとりの元で診察することになった。そこで自宅とはとりの診察所も兼ねてる家は大丈夫だと分かり、ひとまず安心したのを覚えている。そうじゃないとナマエが生きにくすぎる。
ナマエに症状に心当たりはあるかと訊ねた。ナマエは「言えない」と答えた。だから自分でその心当たりに向き合って折り合いをつけることは可能か訊いた。
「時間がほしい。はとりの時間を少しちょうだい。そしたら大丈夫になるから。大丈夫にするから」
青白い顔でそんなことを言うものだからいくらでもやるから少しずつ治していこうという言葉と共に誓った。ナマエが生きやすくなるようになるなら何でも協力すると。前のように笑うナマエを見たいというはとりの我が儘と、佳菜と別れた時期とも近く、何かに没頭しておきたい気持ちもあった。
春になり学年が三年に上がってから少しずつ少しずつナマエは外に出る努力を続けた。草摩経営の学校だった上に成績のいいナマエの登校への融通が効きやすいのが幸いだった。本人は最悪卒業認定試験を受けると決めていたので、そこらの心のゆとりはあった。ナマエはゆっくりと外に出られるようになった。少なくとも両親やはとり、紅葉の前ではいつも通りのナマエだった。しかし慊人とはその間一切会うことが出来ずに過ごし、今のように普通に話すようになったのは卒業の数ヶ月前だった。慊人もナマエの病状を聞いて無理に会おうとはしなかった。
そして大学生になった現在。ナマエの病状はほぼ完治したと思っている。紫呉の家や別荘に泊まることも出来てる。「はとり!」と笑いかけ、紫呉に八つ当たりをされたらはとりに泣きつき、今日は何があったかはとりの家で話してくる。笑顔で楽しげに。はとりの毎日にナマエがいる。それがここ数年のはとりの日常となった。
だからびっくりした。いつからそんな顔をするようになったのかと。ナマエははとりの中では女の子だった。でもそこにいるナマエは立派なひとりの女性だった。
「杞紗、ひとりじゃないからね。忘れちゃだめだよ」
「うん。ありがとうナマエお姉ちゃん」
「杞紗ママも。いつでも頼ってください」
「ありがとう、ナマエちゃん」
杞紗を見る目がどこまでも優しい。杞紗の母を気づかう言葉は慈愛に満ちている。誰だこれは。はとりは目が覚めたような感覚に陥った。
「ひとまず大丈夫そうだねはとり」
「…………」
「はとり? はとりさーん!」
「……聞いている」
「そう? 私は杞紗の勉強みて杞紗ママとお話しただけだけどはとりは違うでしょ? だからお疲れさまはとり」
目が柔らかく弧を描く。細い肩から流れた髪がふわりと動く。綺麗にリップが塗られた唇が嬉しそうに上を向く。身長差が相まってナマエの華奢さが嫌に目に付いた。
どこまでいってもナマエは女で、はとりは男だ。それを自覚した途端、ドクンと胸が打った。これは知っている。この感情をはとりはよく分かっている。駄目だ。出てくるな。そんな資格はない。大事な人を壊してしまった自分にこの感情は不適切だ。それにはとりを一心に信頼しているナマエへの裏切りだ。隠せ。隠せ。奥にしまえ。ナマエに気づかれるな。
「ご飯食べよ! 最近私お母さんの手伝いで家庭の味を学んでる最中なんだよ」
「おまえの母親が料理上手なのは知っているが……」
「その間なに! ちゃんとお墨付きもらってますー」
はとりに振る舞ってあげる。そんなことを嬉しそうに話すナマエに手が触れそうになって必死で押さえた。