迷走ソネット
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チームZの勢いに傾くかと思ったときだった。今までパスをもらってばかりいた凪選手が自分からボールをもらいに行った。それからは水を得た魚のような動きでゴールに走り、ディフェンスをかわしていく。途中で斬鉄選手へのパスも回り、一気にチームVの動きが変わっていた。凪選手の動きと共に。
凪選手は近接サイドへの切り込んだパスをシュートせずトラップし、そのまま身体を回転させてシュートを撃ち込んだ。超絶技法だ。言葉が出ない。4-3だ。
「残り15分……」
潔選手から蜂楽選手、千切選手へとボールが回る。そのままサイドから抜き去ろうとするが、斬鉄選手が先回りしていた。最速力で斬鉄選手を追い抜こうとした千切選手の先にいたのは凪選手。ボールはチームVに渡るかと思ったときだった。
『奪うならこの位置だ!!』
潔選手がボールをカットして再び千切選手へボールが渡った。そのままゴールかと思いきやキーパーのカットでボールが弾かれる。そしてそのこぼれ球のシュートを狙ったのは我牙丸選手。キーパーは体制を戻せていない。いけ!
そう願ったのも束の間、ゴール前で御影選手がシュートを防いだ。
これでも決まらないのかと両手を握りしめていたときだった。再び弾かれたボールを狙う人がいた。國神選手だ。あの距離は彼のテリトリーだ。
『ウラァ!!!』
國神選手のシュートが決まり、4-4となった。
「疲れる……疲れるよ甚八くん、」
「黙ってみておけ」
「どっちもすごいぃ……」
情けない声を上げる私をよそに試合は続行される。チームZは二回のシュートを弾かれチームVのカウンター攻撃が始まった。斬鉄選手のサイドチェンジの超ロングパスの先にいたのは凪選手。チームZは潔選手しか自陣に戻っていない。そして警戒する潔選手をあざ笑うかのような背中でのトラップ攻撃。凪選手は一瞬でゴールまで駆け抜けていく。
1対1。シュートモーションに入った凪選手を止めたのはキーパー伊右衛門選手ではなく裏切り糸目くん……久遠選手だった。
「え、どうして……」
「感化されたんだろ。自分のチームに」
「…………なんか複雑な心境」
「でもそのおかげでチームZの首の皮一枚繋がったぞ」
「うむむ……」
だったら最初から裏切らなければよかったのにと思ってしまう。久遠選手の事情なんて分からないけどさ、ズルだけで勝ち上がれるわけもないんだから。と自分本意な考えを巡らせている間にフリーキックが始まろうとしていた。
キッカーは御影選手。凪選手か斬鉄選手かどちらかにパスかと思いきや直接のシュート。それを見事に止めた伊右衛門選手。
こぼれたボールは斬鉄選手がとり、そのままシュートしたけれど雷市選手がそれを防ぎ、再びこぼれたボールは凪選手の元へ。ディフェンスをよけたふわりとしたシュートは我牙丸選手が突っ込んで止める。
ゴールポストに当たったボールは潔選手のもとへ降り注いだ。
『さあ最後の反撃だ』
潔選手以外に走り出しているのは千切選手、國神選手、蜂楽選手。まずは蜂楽選手へパスが回りドリブルで敵陣を乱していく。ファウル覚悟のディフェンスは蜂楽選手の動きを止め、再びパスは潔選手へ。ボールはそのまま流れるようにして千切選手へ回った。千切選手の速さでディフェンスを二枚剥がしたが、前方三枚のディフェンスがつく。すかさずボールは位置取りをしていた潔選手の元へ。潔選手はそのまま中央へ切り返した。
チームZもVもゴール前人数は二人のみ。そう思った瞬間、潔選手と國神選手の間に割り込んだのは斬鉄選手。ボールは外に出ようとしていた。
『ヴァァ!!!』
『雷市!?』
『アイツ……!? 体力どんだけ……』
『決めろって言ってんだろ……殺すぞ……行けオラぁ!!』
雷市選手のカバーにより蜂楽選手にボールが渡った。蜂楽選手がパスした相手はゴール左に走ってきていた潔選手だった。
そしてその後ろには凪選手が走ってきていた。
「がんばれ……っ!」
瞬きの間。潔選手はシュートモーションへ入った。そしてボールをそのまま撃ち抜き、ボールはゴールネットを大きく揺らしていった。
「…………かった」
勝ち抜いたんだ。彼らは。
「~~~~っ! やったぁ、いたぁ!?」
「贔屓はそこまでだ。観測者は止めたんだろ?」
「うう……だからって叩かなくてもいいじゃん」
「さっさと切り替えろ。次は二次選考だ」
「……はーい」
モニターの中には抱き合って喜んでいるチームZの選手達がいる。心の中でおめでとうを返した。