迷走ソネット
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「甚八くんこれありなの!?」
10対12のチーム戦。チームZとチームWの試合は混沌を極めていた。
「ルール上問題はない」
「なにそれ! ポンコツルール! おかっぱメガネ!」
「俺にあたるな。それに憤るのは早い。チームZはまだ諦めていない」
モニターにはパスを回して攻撃に転じようとするチームZの選手達がいる。そうだここで私が怒ってもなにもならない。冷静に……と思うがやっぱりムカつくものはムカつくのだ。裏切り糸目くんと呼んでやる。
ふん! と鼻を鳴らしながらイスに座る。時間はアディショナルタイムに入った。その瞬間潔選手の様子が変わった。個人でボールを取ろうとし始めたのだ。それに呼応してチームも動き始める。そしてこぼれたボールが千切選手の元に行ったのだが……
『どけ!!!!』
千切選手を押し出してボールを奪った潔選手。その気迫に唾を飲み込む。そのまま個人技に回るのかと思うほどのボールへの執念。パスしろの声が届いているのかどうかは私には分からなかった。
「あっ!」
左サイドへのパス。そこに味方はいない。いないはずだった。それなのに敵に回った裏切り糸目くんを追い抜いて押し出したのは千切選手だった。千切選手はそのまま駆け抜けてパスを出す。誰もいない空間に。
『自分で追いつく気か……!?』
ファウル前提のWチームの9番も押しのけて走っていく。ただボールを求めて。ゴールを目指して。
キーパーと千切選手。ボールに触れたのは千切選手だった。ボールは弧を描きゴールポストへ入っていった。
「やったぁ!」
立ち上がってガッツポーズをする。4-4で試合終了だ。
「やった! Zチームが勝った!」
「勝ってない。引き分けだ」
「でも負けてない! 勝ったのと一緒!」
「おまえは頭脳は天才の癖に根本的な部分は馬鹿だな」
なんとでも言うがいい。10対12で引き分けたんだから本当にすごい。本当に頑張った。いつの間にか握っていた手のひらには汗がたまっていた。
***
お腹が減った。つまり食堂だ。ZチームとWチームの奮戦でテンション上がりまくりの私はそのままのノリで食堂へ向かった。すると入り口近くにたまっているZチームを見かけた。待ってまだそんなにご飯食べてない人いるの? なんでよりによって入り口? コミュ障のハードル上げるの得意な人達?
ヒーロー扱いしてたのを手のひら返ししてぐぬぬと立ち止まる。すると一番前にいた潔選手と目が合った。き、きまずい。ハンバーグ事件を思い出す。しかし潔選手は何故かひょいひょいと私を手招きするように手を動かした。私? と自分に指をさしてみたらうんと頷かれた。
恐る恐る入り口の逆サイドにぴったりくっつく。ここが限界だった。でもここで合ってたらしく中を覗くようなジェスチャーをされたのでそのまま中を覗くと、そこにはユニフォーム姿のままの裏切り糸目くんがいた。裏切りものめー! ここで会ったが100年目! 背を向けた3人になにやら話してるようだ。
「チームZの情報を流すから君たちなら0点に抑えられるだろ? そしたら得点王で俺がこのまま勝ち上がれる! そうなったら次の二次選考でなんらかのアドバンテージを約束する! 他のチームの足を引っ張ったり! 君たちのゴールをアシストしたり!」
裏切り糸目はやっぱり裏切り糸目くんだったようだ。ふんぬと怒りが沸き上がってくる。「もう殺す……」と言ってる人と同じ気持ちだ。同じチームなら私よりもっと怒りのボルテージは強いだろう。うんうんと頷いて遺憾の意を表現する。
「でもまた10人で戦うことになったら……マジで俺たちに勝ち目なんてなくなるぞ……!?」
潔選手の言葉にいっちょ文句言ってやろ! と足を踏み入れようと食堂に入る。というか二次選考舐めすぎだ! 一次選考もだけど!
「とにかく俺と契約すれば二次選考でも勝ち上がれる確率がぐんと上がる! な!? どうだ!? 俺と組まないか!?」
「断る」
「めんどくさーい……」
「つまんねぇ」
3人のキッパリした言葉に空気が固まった。
「お前の言ってることは俺たちのメリットには何もならん。むしろデメリットだ。つまり物事のプライオリティが……イニシアチブなメソッドってやつだ……あれ? どう? これ使い方あってる?」
「やめとけバカ斬鉄。バカのクセに賢くみせようとするんじゃねぇバカ。つーか俺はダセェ奴とつまんねぇ奴は嫌いなの。お前はその両方だな」
「もういいよレオ。この話めんどくさい。つかもう咀嚼すらめんどくさい……帰ろーおんぶしてー」
この3人キャラ濃くない?
怒りが一気に引いてええ……って気持ちに変わる。ほんとにうんしょーとおんぶしてもらってる。身体大きいのに。子どもみたいだ。
「待ってくれ! もう少し話を……!!」
「ねぇレオ。なんでこの人こんな必死なの?」
「勝つためだろ?」
「ふーん……頑張んなきゃ勝てないなんて弱い奴ってめんどくさいね。俺なら辞めちゃうけどなぁ……ねぇレオ。負けてもやりたいほどサッカーって面白いの?」
なんだこの人。さっきとは別の理由で気持ちが引いてくる。ここでサッカーをやっているとは思えない発言だった。
「おい待てよ」
「……なんだお前?」
「サッカーなめんな!」
「だから誰だよてめぇ」
「チームZ潔世一。お前らに勝つ人間だ!!」
私はまたチームZを応援することになりそうだ。ふん! と気合いを入れる。
「とまぁお前らのことは分かったけどそっちの子は? 絵心名前ちゃん?」
「え」
「俺のこと分かる? 御影玲王」
「御影……? 御影……コーポ、レーション」
「そうその御影」
「うちの会社の最大手のすぽんさー……」
「そうそう。パーティーで会ったことあるよな」
「……ワタクシはチームVを応援します」
「おいこっちの味方面してただろうが絵心妹ぉ!!」
スポンサーは大事なんだよ雷市選手。あと妹じゃないです。