迷走ソネット
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『でもお前ってマジ“ラッキー”だよなぁ。ラストワンプレーのあのごっつぁんゴール……100%“運”だもんなぁ!』
『え? だってあのボールたまたまお前のトコに落ちてきただけだろ?』
友の言葉に傷ついたわけではない。知らないからそう見える。そう感じる。それがあの言葉に繋がっただけだ。
そうは理解しても憤りを感じたのは確かだった。どれだけの想いで青い監獄で戦ってきたと思っている。そんな憤りを。
手持ち無沙汰にスマホを弄る。画面に現れた名前は青い監獄での自分を知っている子。大事な子。特別な子。声が聞きたいと思った。
その気持ちに従って発信ボタンを押す。しばらくメロディーが流れて通話が繋がった。
《もしもし? 潔くん?》
柔らかい声にささくれ立った心が癒されるのが分かった。たった数文字数秒で。単純だなと自嘲する。
「今大丈夫?」
《うん。もうホテルについたから》
「えっホテル?」
《うん。日帰りの自力で青い監獄帰るの大変だから今日はホテルでお泊まりにしたの。ちょうど暇してたよ》
「そっか。ならよかった」
《何かあったの? 電話はじめてしてくれたけど》
「……うん。あったんだけど名前の声聞いてたら大丈夫になったよ」
《………》
「名前?」
《こういうことしたら勘違いさせるんだぞって言ったの潔くんだよ》
「え?」
《私のこと好きなんじゃないかって思わせること言うの》
「……うん。好きだからいいんだよ」
自然と出た言葉。虚勢も驕りもなくあふれ出た。
《…………》
「…………」
《……私ね、潔くんのインタビューみて寂しくなったの。何でかなってずっと思ってたけど今日わかっちゃった》
「……なに?」
《潔くんがもっと凄くなって見えない位置まで行ってしまうと思ったから。私のこと忘れちゃうんじゃないかってくらい遠くに行っちゃうって》
「行かないし忘れないよ」
《分かんないよ? 潔くんサッカーバカだもん》
「サッカーバカ……」
《だからね、サッカーしてないときの時間を私にちょうだい? 1日のうち数分でもいいの。電話でもメッセージでもなんでもいいの。ただの潔世一を感じさせて? そしたらきっと寂しくなくなると思う》
「あげるよ。それで名前が安心するなら全部あげる。だから俺のこと好きって言って?」
《うん、好きだよ潔くん》
「うん。……うん、俺も好き」
直接会ってなくてよかった。会ってたらもっと気持ちをぶつけてしまっていたかもしれない。この滾るくらいの重い気持ちを。
《……選手に手出したって言ったら甚八くんに殺されるかな》
「殺されるのは俺のほうだと思うけど」
なんだかんだ言って二人の関係は良好のようだから。
「それに手ぇ出すのはこっちだから」
《…………なんか響きがえっちです》
「ノーコメントでお願いします」
《!!》
息を飲んだ名前に喉で笑う。可愛いな。何回思ったか分からないことを想う。これからはもっと思う日が増えるのだろう。そんな予感がした。
完