迷走ソネット
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『ちょ待ってよぉーいいじゃん3人で楽しめばさぁー』
皮肉なことに。この最低な言葉ひとつで。名前は自分の気持ちに気づいてしまった。
名前の両親も姉夫婦も年上友人カップル、夫婦達も。互いのパートナー一筋だ。だから愛空の言葉を聞いて思ったのだ。3人でなんて楽しめるはずがない。本当に大切に想っている人がいるならば、許容できるわけがないと思ったのだ。自分だけを向いてほしいに決まってる。そこまで考えて気づいた。
そうか、私、一人占めしたかったんだ。
目の前で庇ってくれている優しい背中を。今回の試合でヒーローになった格好いい人。きっとファンが増えたはずだ。好きだと思う人も。もっともっと活躍すればもっと増えていく。彼の夢や目標が叶うのは嬉しい。叶ってほしいと思う。でもそこに付随していくものはイヤ。とんだわがままだ。
『俺が日本をU─20W杯で優勝させます』
遠く感じたのはこの人がもっと凄くなって見えない位置まで行ってしまうと思ったから。だから寂しかった。単純な話だ。好きになってしまったのだ。潔世一というエゴイストを。
***
「愛空選手のこと恨みます」
「メシ奢ってるのに!?」
「これとそれとは話が別です」
ぷいっとして焼き肉を頬張る。ボウリングに勝利したブルーロックに便乗した形で名前も焼き肉を奢ってもらっていた。席は両隣に蜂楽と千切がいてくれた。……が、斜め前は頭を悩ませる原因となった愛空だった。ちなみに愛空の隣は烏、その隣に乙夜が座っている。
「人見知りしてないの珍しい~」
「え、この子これがデフォじゃないのか?」
「人慣れしてない猫ちゃんだよな基本。今日一緒に遊んだブルーロックの面々は慣れたみたいだけど」
千切に猫ちゃん呼ばわりされてハテナマークがついた。もしやコミュ障のことを言っているのだろうか。随分可愛く装飾されてる。
「なーんでその猫ちゃんに恨まれちゃってるのかな俺は」
「愛空選手が浮気性だからです」
「浮気性って……博愛主義っていってくれ。ってもしかして俺に気があるの?」
「私が好きなのは潔くんです」
ふんだ、と鼻を鳴らしたらなぜか千切と烏と乙夜が噴いた。目をまん丸にして驚く名前に烏がバン! とテーブルを叩いた。
「ちょお待てや! 自分あっさりしすぎやろ!」
「だ、ダメですか?」
「ダメやないわアホぉ! よかったな!」
なぜか罵倒と励まされている。本当になぜだ。
「あっぶね~潔に脈無しって言おうとしてたわ」
「脈なし?」
「ああこっちの話」
千切は何か誤魔化すように名前の皿に肉を乗せた。さっきから微妙に皆と話が合わない気がする。でも食べる。お肉は悪くない。
「いつ告るの? 今から?」
「焼き肉屋さんで告白はちょっと嫌です乙夜くん」
「公開告白はいいんかい」
「愛空選手がいるからダメです」
「猫ちゃんやっぱり俺に辛辣だな」
もっと綺麗なシチュエーションで気づきたかったのだ。二股野郎の最低な言葉で気づくなんて悲しくなってくる。
「いつから好きだったの?」
蜂楽の言葉に考える。気づいたのは今日だけど潔のことが気になりはじめたのはずっと前だ。第一選考から気にはなっていた。……いつから恋に育ったのだろう。自分でも分からない。
「気づいたら気になってて恋になった、かな」
「いいじゃん♪初々しい~」
「……どうしよう初恋は実らないって誰かがいってた気がします!」
「あー誰か言ったか知らんけど確かにそう言うなぁ」
でもお前等は関係ないで。米を食べながら烏は思った。おもんな。あっさり両思いになりおって。心の中で主に潔に文句を言う。目の前の非凡の可愛い子は些か贔屓するが。初恋らしいし。まあがんばれやと。
「名前ちゃん、俺が恋愛テクを伝授しようか?」
「そんな凄いものが! ぜひ!」
「あ? でもお前浮気して目ん玉にビンタ食らった言うてたやんけ」
「やっぱなしの方向で乙夜くん」
浮気は今名前にとってはNGワードなので。
「じゃあここは年長者がアドバイスといこうか」
「愛空選手はもっとなしです」
「まあまあ聞くだけは損にならないだろ? 告白はするんじゃなくてさせるもんだ。特に猫ちゃんみたいな可愛い子は」
「? どっちがしても同じでは?」
「大違いだ。自分から手に入れたものと棚から降ってきたものとじゃ有り難みが全然違うだろう?」
「た、たしかに」
「自分から手に入れたものは執着する。あと猫ちゃんが潔にずっと夢中になっててほしいなら適度に餌やってコントロールするんだな」
「えさ……コントロール……」
まあこちらから告白したってこの子の場合は
棚ぼたにはならないと思うが。だって明らかに潔世一がこの子に執着していた。恋愛感情むき出しだったのだ。愛空が言ってたのは片思いから始まるパターンである。なんでこんなややこしいことを言ったのかというとちょっとした意地悪である。潔世一とさっきから爪をシャーシャー立ててくる可愛い猫ちゃんへの。
「告白させる技法なんて持ち合わせてない……」
しゅんとする名前に「いや、ほっとけば言っちまうよアイツは」と名前以外の人間が心の中でツッコんだ。その予言はすぐに当たることになる。