迷走ソネット
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潔が待ち合わせ先の喫茶店についたとき、反対方向からちょうどよく名前がやってきた。
白のカットソーに膝下の黒のハイウエストチュールスカート。茶色の編み上げショートブーツにアイボリーのカーディガンを羽織っている。髪の毛は緩く巻いているようだ。
デートじゃん。視界の隅に蜂楽と千切が見えなかったらそう勘違いしていた。可愛い。いつも可愛いけど今日は一等可愛い。こんなに可愛い子と今日1日一緒なの? 大丈夫? どっか連れて行かれない? 潔の頭は混乱した。
「あ、潔くん。時間おんなじだね」
「あ、ウン」
「?」
不思議そうな顔をされたが、ちょっとまってほしい。可愛いのアップデートするので。
「お! 潔と名前ちゃん来た」
「おっすー」
「うっす蜂楽、おっす千切」
「こ、こんにちは」
ちょっとだけ人見知りをしてるけど全然マシなやつ。千切も友だち枠に入ったからだろう。千切の隣に腰を下ろし、更にその横に名前も座った。
「潔と名前ちゃん何頼む? うまいよこのハチミツキャラメルクリームココアラテ♪飲む? 蟻も溺死するほどの甘さ!」
「ハハ! 子ども舌!」
「凄い名前ですね……」
「いらねーし! てかあれ? メンバーこれだけ?」
メニュー表を名前のいる方向に開いて一緒に見る。名前は髪の毛を耳にかけてメニュー表を覗き込んだ。思春期は好きな子の動作ならなんでも反応してしまうんだと実感してしまった。
「雷市と二子は誘ったけど来ないってさ。氷織も実家が遠いからNG。俺は姉ちゃんが東京住んでるからいけたけど」
「イガグリは実家の寺の手伝いで我牙丸は山に籠もるからって連絡つかなくなった」
「山籠もり……?」
名前は想像したらしく顔がうん? となっていた。そこは深く考えちゃいけない。野生児なので。
「國神とかは連絡先わかんなかったな……誘いたかったけど……」
「潔は誰誘ったの?」
「一応……凪は来るっていってたけど……あ、連絡来てる」
《いま起きた》
簡潔なメッセージによく分からない生き物のよろしくやっててスタンプ。「アイツ……」と言葉が重なった。
「名前ちゃんメニュー決まった?」
「うーん、キャラメルラテにしようかな」
「じゃあ俺も。注文いこっか」
「うん」
二人で店内に入って列に並ぶ。デートじゃん。再び思った。そしてふと感じる視線。周りを見渡すと複数の男性客が名前を見ていた。おい、見んな。そんな気持ちを込めて一歩距離を縮めた。男共は潔の行動で視線を逸らした。よし。まあ名前は気づかなかったのだが。……この子本当にほっといたら誘拐されそう。潔は心配になった。
注文を終えて席に戻り背伸びする。何はともあれ開放感がすごい。しかも好きな子と一緒に遊んでる。最高だ。
「んぁー! 久々の自由! 最っ高ー!!」
「ヤバいよな開放感!」
「うん! 外界! 新鮮!」
「何して遊ぶ?」
名前の様子を伺うと潔達の反応を微笑ましそうに見てニコニコしてキャラメルラテを飲んでいた。よし、ちゃんと空気に入ってきてるな。
「何でもいい! 予定無ーし!」
「脱獄フリーダム!」
「あ、そーだ。ニュース観た3人とも?」
「「何の?」」
「青い監獄の記事ですか?」
「そうそれ! “青い監獄”有名人!」
そう言ってスマホ画面を見せてくる千切。画面にはブルーロックが日本サッカーに革命を起こすと見出しが書いてあった。
「おぉ! マジか!?」
「凄ぇ!! なんて書かれてんの?」
「“この試合は糸師冴の代表初招集という名目で注目を集めていた。しかし蓋を開けてみれば新しい驚きとスペクタクルを我々に突き付ける結果となった。世界一のストライカーを日本に誕生させるという絵心甚八の夢物語が牙を剥き、このセンセーショナルなコンセプトチームの試合は国内のみならず世界のサッカーシーンの話題を攫っている。この人気高騰ぶりにJFU不乱蔦会長は『青い監獄は日本サッカーの未来を創る。私の信じてきた道は開けた』と答えている”だってさ」
「よーく言うよあの銭ゲバ狸。手のひら返しで手首捻挫しろ」
「骨折でいいよ! 骨折で!」
「おお、名前ちゃんたまってんね」
「あの狸、甚八くんにめちゃくちゃ言うんだもん。……甚八くんもめちゃくちゃいうけど……」
ぶすくれた顔も可愛い。しかし思いの外いとこのこと大切に思っているらしい。そして後半のセリフは簡単に想像がついた。
「でも本当に凄ぇコトしたんだな青い監獄……」
「あぁ。青い監獄に入る前とは何もかももう……ん? ちょっと待て。あの店にいるのって……」
「え」
「うん?」
「あー! アイツらじゃん!」
向かいの店にいたのは玲王、烏、時光、乙夜、蟻生、雪宮だった。すぐさま突っ込んでいった蜂楽を後目に名前の様子を確認する。固まっていた。やはり。
「名前ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫……! 六分の三は友だちだから……! 勝ってる!」
何が勝ちかは分からないが頑張るみたいだ。これは応援しなければならない。
「なんでおんねんお前ら!? ……ああ、遊びにいく言うとったな」
「そうこっちは普通に遊びだけどお前らこそ何やってんだよ?」
「え、普通に株の勉強会」
「あとアパレルブランドの立ち上げの相談とか」
「将来のことに決まってるやろ」
「オシャ最先端サミット」
意識高い組にちょっとおののいた。そんなことを考えてると玲王が名前に声をかける。
「あ、名前ちゃん。この会社の株どう思う?」
「へ!? ……そこの会社は新製品の開発結果がいまいちなので、微妙かもしれません」
「ん。だよな、ありがと」
「い、いえ」
そうだこの子も意識高いんだった。玲王にびびりながらも意見する名前にそう思った。
「俺は渋谷の女の子の生態系チェックだし。一緒にすんな。名前ちゃんその格好可愛いね」
「えっあ、ありがとうございます……」
照れ照れする姿にそういえば格好のこと褒めてなかったとショックを受ける。先越された……! おいお前と言わんばかりに千切から叩かれる。甘んじて受け入れた。失敗した。