迷走ソネット
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打ち上げパーティーの最中。潔の可愛い子はオシャとかいぶつと前髪野郎に囲まれていた。これだけ聞いたら事案のようである。基本、友だちである蜂楽に寄っているみたいだが、意外にも蟻生と割と話せている様子。基本的にポジティブなことを言う男なので話しやすいのかもしれない。オシャの理屈は潔にはよく分からないが。二子も潔には好戦的でも女の子には優しくするだろう。そんな性格をしている。ひとまず大丈夫そうか?
そしてなぜ心配しながらも潔の可愛い子、名前に話しかけに行かないのか。それは潔が男共──赤豹、殺し屋、忍者に囲まれてるからである。
「で、一から話してもらおうか? 潔」
ニヤニヤしながら言ってくる千切に下手打ったなと内心舌を打つ。元凶は先ほどの控え室での出来事。泣いている名前をあやしていたシーンをほぼ全員がガン見していた。名前は全く気がついていなかったが。紅一点を独り占めした事実は男だらけの生活者共には反逆行為と見られても仕方がない。仕方ないが、納得はしていない。だってあの子は俺の特別なのだから。
内心で言い訳を連ねていても仕方がない。ある程度の事情を話すことにした。食堂で会ってアドバイスしてもらったこと、それから話すようになったこと。まさしく当たり障りのない内容だけを話す潔に男共は納得しなかった。
「名前ちゃんはねーパーソナルスペースが広いとみた。それなのに潔には至近距離で? 涙を拭われて? 服ちょこんと握ってて? 何もないわけないよな」
「乙夜……」
「やっぱりあの絵心が呼んでるは嘘だったんだろ」
あのときの嘘もバレた。否定も肯定もしないが。曖昧に笑っておく。
「笑って誤魔化すなや潔。で、実際どうなんやアホォ」
「……まあ仲はいいと思う。ブルーロック内じゃ一番」
「マウントとってくんなや」
「ただの事実だろ」
「独占欲隠れてねーぞ」
「ふーん、勝率どのくらいなわけ?」
「乙夜お前、名前ちゃん狙ってなかったか?」
「可愛い子に連絡先聞くのは礼儀でしょ」
曰わくまだそこまで行くほどではない、と。危ない。今回話せてよかったかもしれない。そこまで考えて少し肩を落とす。それだ、それなのだ。問題は。口は重いが相談するのは悪い選択ではないかもしれない。
「……名前ちゃん、同年代の友だちが俺と蜂楽が初めてみたいなんだ」
「え、まじで?」
「なんでや、非凡やからやっかまれてたんか」
「可愛いからな。嫉妬されるのはあり得そう」
「さあ、そこまで聞かなかったから」
烏と乙夜の話してる理由は天才だからと可愛いからに分かれてそうだ。どっちもあり得そうだ。まあ問題はそこじゃない。
「だからなんつーか、初めての友だちにはしゃいでる感が否めないというか……」
「「「あー」」」
三人一斉に納得された。くそ。
「だったら蜂楽との態度と比較してみればいいんじゃね?」
「比較か。悪くないんちゃう?」
「三人で遊びに行けば? せっかく休みにはいるんだし」
「あ、それ俺も追加で。見ててやるよ」
「おい千切野次馬根性みえてるぞ」
というわけで遊びに行くことが(勝手に)決定された。ついでにせっかくだから他のメンバーも呼ぼうぜと千切。楽しんでないかこいつ。
人見知りだから人が多すぎたら萎縮してそれどころじゃなさそうなんだけどな……と一抹の不安があるが大丈夫だろうか。そう思いながら名前の方をチラリと見るとちょうど目があった。ニコニコと手を振られた。可愛い。ご機嫌だ。三人とは上手くいったらしい。スマホを握りしめている。俺だけの連絡先願望は潰えたようだが。まあいいか。可愛いし。
「今呼んで聞けば? 遊ぼうって」
「え、今か?」
「名前ちゃーん! ちょっといい?」
早い早すぎるぞ。脚だけじゃないのか。
名前はあまり関わりのない千切に呼ばれて一瞬びくりとしたが、蜂楽になにか言われて頷いてこちらにやってきた。三人衆とともに。桃太郎みたいになってる。桃太郎が一番弱々だしお供の個性が強すぎるが。
「な、なんですか千切選手」
「あーまず、それ。千切でいいよ」
「呼び捨ては……」
「じゃあくんづけで。てか友だちになろうよ」
「友だち……!」
途端に目を輝かせる名前に嫌な予感がした。……実はチョロいんじゃないかこの子。疑惑が確信に変わるのは早かった。「じゃ俺も友だちやで」「俺も俺もー」と烏と乙夜に言われて照れ照れし出した姿。可愛いけど。可愛いけどさぁ! 潔の心境は複雑だった。
「今度二週間休みがあるじゃん。その時に遊びに行かない?」
「あそびにいく」
ロボット、初めての言語のような発音だった。多分キャパが追いついていない。
「にゃは! いいじゃん遊びにいこうよ!」
「で、でも私同年代と遊ぶの初めてで要領が分からないです……」
「そんなの遊んでるうちに分かるようになるって!」
「な、なるほど……」
蜂楽に押され気味だ。これはいけるか? そう思っていたときだった。名前は不安そうな顔で上目遣いで潔を見つめた。
「潔くんは来る……?」
「行く」
速攻で返事した。だって俺頼られてる。
好きな子に頼られて断らない男なんていないのだ。内心滾りながら平静を装って「どこ行こうか」と訊ねる。名前の好みをここで知って初デートのときは成功させよう。飛躍した考えを持ったエゴイストは表面上優しく微笑んだ。