迷走ソネット
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愛しのブルーロックマンのメンテを終えて食堂に向かう。食堂を使うのは大抵選手達の就寝時間だ。色んな種類のご飯食べてるの煽ってるの? って思われたら私がびびってしまうからだ。朝と昼は甚八くんと一緒にレトルトを食べている。せめて夜だけは夜だけは……! 普通のご飯を……! と甚八くんと交渉した結果、選手の少ない時間はOKとなった。今日はハンバーグ定食にした。職員ID様々だ。
ふんふん鼻歌混じりにトレイを持っていると「納豆飽きたぁ……」と声がした。え? っと振り返るとちょうど背もたれに寄っかかって逆さまになってる顔と目が合った。
「…………」
「…………」
「………こんばんは」
挨拶された!!!
「こ、こ、こんばんは……」
焦りながらトレイをどう隠すか、なんでこんな暗闇でご飯を食べてるのか、納豆生活の人なんだ、と色々思考が巡る。そもそも私は飛び級してるから同年代と会話したのなんて本当に久しぶりなのだ。年上以外コミュ障といっても過言じゃない。過言じゃないから選手達を避けてたのに! しかもハンバーグ定食持ってる! イヤミっぽい!
おろおろしていると「どうぞ」と座っている席の前を進められた。進められた!? 座るしかない……?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ハンバーグ食べてごめんなさい」
「えっ!?」
もう謝るしかないと思い頭を下げると相手が困ってるのが分かった。バッドコミュニケーションだこれ。どうしよう。
「いいから! 職員の、人? なんだから食べていいから!」
「殴ったりしませんか?」
「!? どういう人間だと思われてるの俺!?」
とりあえず殴られないらしい。あとはハンバーグ献上すればいいのかな。どうかな。相手の顔を確認すると優しげな顔をしていた。すごくおろおろしてるけどハンバーグ食し罪とか言ってこなさそうな雰囲気。ん? あれ? この人……
「潔選手……?」
「え、俺のこと知ってるの?」
「試合最後の方だけ観ました。ナイスパスの人」
「ナイスパスの人……」
あれ、なんか落ち込んじゃった。やばい。地雷が分からないぞ。コミュ障力を甚大に発揮してる。
「……ストライカーなのにパス回して情けないって思わなかった……?」
か細い声だった。それを悔いているかのような迷ってるかのような声。なんでだ。一点入ったのはこの人のおかげだったはずだ。
多分見ている視点が違うんだろうなと思いつつ口を開いた。
「一点いれたから今の悩みがあるんだと、思います」
「今の悩み……?」
「も、もしパスをしなかったら一点も入らなかったかもしれない。でも結果はパスアシストしたから一点ゴール入った。その結果から意識を反らすのは違うんだと、思います。どちらかというと、どうしてその結果になったかの過程を考えるのが大事なんじゃないかなぁ……と、あの私プログラミングが得意でして、プログラミングも過程があってプログラムが完成するというか……だからサッカーも……同じ、かも……? と思い、ました……」
お手本のようなダメダメ話しっぷりを披露してしまった。どうしよう。ただちに埋まりたい。サッカー知識を入れ込みはじめて数年の私が何を言っているんだ。ばかたれだ。埋まりたい。
「過程を考える……」
「あ、あの! これは私の一意見というやつでして、つまり潔選手がパスアシストしたのもちゃんとした過程があったのだと思います!」
「…………」
埋まります。なんなら甚八くんに罵倒されてから埋まります。ハンバーグ定食のトレイをそそっと差し出して逃げ出した。逃げながら鳴ったお腹は空気読んでと思った。