迷走ソネット
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「甚八くんやっぱりクロックスで行くの?」
「野郎の足元なんて誰も気にしねーよ」
「確かに」
甚八くんの場合他のインパクトが凄いからね。口の悪さとか。レスバの強さとか。
納得しながら選手の記録をセントラルルームの大画面モニターで見られるよう甚八くんのタブレットと連動させる。その際に誰がレギュラーに選ばれたかすでに教えて貰っている。……潔くんと蜂楽くんは見事レギュラー入りだ。心の中でおめでとうを言う。態度に隠せず鼻歌歌ってたのはきっとバレてない。たぶん。
連動も終わったので次に作るのはパワーポイントだ。内容はFLOWについて。最終合宿初日にミーティングルームで説明するために使うやつ。音楽流していい? と聞いたらシャラップと言われたので断念した。いいじゃん音楽。頭に入ってきやすくない? 少しがっかりしながらまとめていく。……U-20代表に勝つための鍵はFLOWにある、かぁ……。まとめてるだけの私には知識でしか存在しえないもの。でもきっと選手達には心のどこかに存在してあるのだろう。
「……がんばれ」
結局私が言えるのはこれだけだ。
無力な自分を実感した。
***
就寝近くの食堂。半分うとうとと眠りそうになりながらうどんを食べる。早く食べないと伸びる。なんでこれにしたの。もっとゆっくり食べられるものあったでしょ。おばか。
試合は明日に迫っていた。選手達もそうだけど裏方の私達も毎日仕事に追われていた。なんせ負けてしまったらブルーロックが解散になるのだ。できる限り以上のことはしなくちゃならない。選手達も甚八くんもアンリちゃんも頑張ってるんだから私ひとり休んでるわけにはいかない。積極的に仕事をもらいにいった。
そしてその結果がこの疲労困憊状態だ。張り切りすぎた……。まだ17才なのに体力なさすぎるかもしれない……。
瞼をぱちぱちして眠らないようにする。するけれどやっぱり眠たい。頭ががくん! となりそうになった。
「わ、やっぱりやると思った」
「潔くん……?」
「頭ふらふらしてたから器に顔突っ込むかと思って」
私の背後には潔くんがいた。頭とお腹に腕が回っている。あったかい。ぽかぽかする。
「ちょっとちょっと、名前ちゃん? 寝ないでくださーい」
「ぬくくて安心する……」
「男の腕のなかにいて安心するはダメでしょ」
ったく、と少し呆れた口調で潔くんは言う。うーん……頭が回らないけど迷惑かけてる気がする。目をごしごしして眠気を誤魔化す。顔を横に向けると私のほっぺたと潔くんのほっぺたがピタッと当たった。
「……目、覚めました」
「そ、うですか」
手、離すからね? と言われて無言で頷く。なんか、今、凄い近かった……。胸がドキドキ鳴りながらそっと後ろを振り返ると、潔くんは口元を押さえて違う方向を向いていた。
「あの、ありがとうございます」
「ん、」
「うどんも死守してくれて」
「うどんはともかく怪我したら危ないから気を付けてね?」
「はい」
このうどんふにゃふにゃ確定だな……とちょっとげんなりしながら潔くんの様子をみる。なんだか顔が赤いような……? 節電対策で電気絞ってるからよく見えない。気のせいかな。
「潔くんは何故ここに?」
「水飲みにきたんだ。そしたら名前ちゃんが頭ふらふらさせてたからさ」
「ご迷惑おかけしました……」
「いいえ、名前ちゃん達も試合の為に頑張ってくれてたのは知ってるから。ありがとな」
「! はい! いいえ!」
「ぷっ、はいいいえってどっち」
あははと笑う潔くんにこちらの口元も緩んでしまう。穏やかな空気が流れてほっとする。そしてはっとする。潔くん明日試合……!
「い、潔くん早く寝ないと! 邪魔したの私だけど!」
「まだ就寝時間前だから大丈夫だよ。それに、」
「それに?」
「名前ちゃんと話すの元気になるって言っただろ? だからもうちょっとだけ顔みせて?」
潔くんの言葉に顔が熱くなるのが分かる。ストレートに照れてしまった。だって顔みせて? って優しく言うから……。
「こ、こんな顔でよければ」
「うん。一番見たい顔だったから……そうだ名前ちゃん、ずっと言いたかったんだけど」
「はい?」
顔を上げるとその反対に潔くんは少し屈んで視線を合わせてきた。何だろうと思った瞬間、両頬が潔くんの両手に包まれていた。
「!?」
「あ、羞恥心はちゃんとあるんだ。よかった」
「なななななんで、」
「名前ちゃんも凜にやってたでしょこれ」
「糸師選手に……?」
「やっぱり無意識か。そうだよな、名前ちゃんだしな……」
少し諦めたように言う潔くんにちょっとムッとする。な、なんかちょっと失礼なこと言われてる気がする!
「こういうことされたら勘違いするから気を付けてって言おうと思って」
「勘違い」
「俺のこと好きなんじゃないかってこと。相手は凜だったから何ともなかったけど。分かった?」
「は、はい」
視線を反らしながら返事をすると、よし、と言って手が離された。呼吸の仕方忘れたかと思った……。ひとまず深呼吸する。うん、落ち着いてきた。
「……明日の試合、…………がんばってください」
「なんでそんな顔しわしわになって言うの」
「がんばってしか語彙力がなくて……未熟者だなって……」
「でたな未熟者。……ふふ、もうずるいな」
「?」
「ちゃんと元気でるんだ。顔しわしわの頑張れでも。ありがとうな」
「……うん」
なんだか胸いっぱいだ。そう思いながら頷くと潔くんは楽しげに笑った。