迷走ソネット
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三次選考待機ルームで仮眠をとっていた潔はモニタールームへ向かう。第三試合はそろそろ始まっているだろうか。
「あ、潔くん起きたで」
「え……あれ?」
そこには何人もの選手達の姿があった。
「もう第三第四試合終わったぞー」
「寝ぼすけー」
「潔さんおはよっす」
「あれ……俺結構寝てた?」
「ハイ! たぶん12時間くらい。疲れてたんですよきっと。起こしたけど起きなかったのでほっときました!」
朗らかに言う七星に気恥ずかしく思う。思っていた以上に寝てしまっていた。見逃した試合は録画でも観れるのは幸いした。
そして試合結果はAが全勝していたが、対戦相手であった蜂楽や馬狼もゴールを決めていた。
「で、第五試合も終盤戦で……あ、今ラストのいいトコっすよ!」
七星が指をさしたモニターを観ると凜と士道がパスされたボールを追っていた。そしてキーパー前で身体が接触。士道が凜の顔を手で押しやりながらも、凜がシュートを決めていた。二人は同時に地面に倒れ込んだ。5-4。チームAの勝利だ。そうアナウンスされた瞬間、凜と士道はざっと距離をとって見合う。イヤな予感がした。
『おいおいやめろ!!』
『試合終わったんだよ!?』
嫌な予感は的中した。二人は殴り合いを始めたのだ。
『終わったから心置きなくブチ殺せるぜ……実力不足のゴミ虫野郎』
『ああ、完全に同意よ。再起不能にしてやるよ!!』
そう言って士道は膝で凜の顔を蹴り飛ばした。凜はその衝撃で体勢が下がる。士道は高く飛び上がった。頭をかち割ろうとしている。それはダメだろとモニタールームでも突っ込みが入ったときだった。士道の身体に電撃が走った。
『いい加減にしろお前ら。ボディスーツに仕込んだ対暴動用の電気ショックなんか使わせやがって』
「いやなんだその仕込み!?」
雷市が吠える。完全同意だった。なんつーもん着せてるんだ。潔の口元が引きつった。絵心(人でなし)はこっちの心情を丸ごと無視して話を続ける。
『”適性試験“は完了した。これより六時間後、U-20日本代表に挑むレギュラーを発表する』
ついにこの時がきた。モニタールームの空気がビリッとするのが分かる。みな同じ心境なのだ。気持ちを引き締め望まなければならない。
そのときだった。モニターで小さい影が走ってくるのが見えた。名前だ。
名前は手に四角い箱のようなものを持って凜の元へ走っていった。そしてその場でしゃがんで箱を開く。救急箱のようだ。
『糸師選手、これで血を押さえてください』
『ああ』
『あとちょっとすみません、失礼します』
『……あ?』
「ああー!!」
誰かが叫んだ。潔も叫びそうになった。なぜなら名前は凜の両頬に両手をやり、ぐっと顔を近づけたからだ。まるでキスする寸前かのように。凜の顔をじっと見つめる名前。「そこ代われ凜!」誰かが叫んだ。全く同意だった。いや、名前さんなにやってるの。顔が再び引きつる。だが理由はすぐに分かった。
『……うん。鼻は曲がってないですね。頭痛や吐き気はないですか?』
『ああ』
『じゃあメディカルルームへ行きましょう。アイスノンで額から鼻まで冷やしてください。血が止まらなかったら病院へ』
『仰々しくしてんじゃねえよ』
『念のためです! 異論は認めません! 行きますよ!』
『……チッ』
『あとでアンリちゃんが来るのでこのおバカさんを運ぶの手伝ってあげてください』
『は、はい』
名前は時光にそういって救急箱を拾い上げ、凜の腕を掴んだ。そしてそのまま引っ張っていく。凜は煩わしそうな顔をしたが黙って連れられて行った。いつもの反抗期どうしたコラと言いたくなった潔だった。というか非常時は人見知りがなくなるのね名前ちゃん……と微妙な心境になる。
「いいご身分だなNo.1様よお……!!」
誰かの怨念の籠もった声。それに同意する男共。もちろん潔も同意した。