迷走ソネット
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『……そんなに喜ばれると嫉妬してたのがバカらしくなっちゃうな』
嫉妬。嫉妬とはなんだ。
名前は布団の中で頭を悩ませていた。潔の言葉に引っかかりを覚えたのである。その場ではすぐに話題が入れ替わったので詳しく聞けなかった。なんとなく聞いちゃいけないと思ったのだ。
嫉妬といえば。大学時代に「こんなおチビさんがこんな所にいるなんて不相応じゃないかい? ママのところ帰んな」と定期的に絡まれていたのを思い出す。受験に受かったからここにいるのに何でこんなこと言うんだろうと思っていたところ、年上の友人曰わくただの嫉妬だからスルーでいいんだよ、とアドバイスを受けた。どうせ講義についていけなくなる者達で名前が羨ましいだけなんだから、と。
身近にあった嫉妬いえばそれしか思いつかなかった。潔が名前を羨ましがっている? ……あり得ない。彼はNo.1ストライカーになりにここにいるのだ。ブルーロックでうろちょろしてる自分にそんな感情を抱くとは思えない。……だったらなぜ? 名前は首をひねった。
残念なことに幼少期は同世代から腫れ物扱いされてきた名前に恋愛方面の嫉妬という知識はあっても発想は微塵もない。大学時代は友人達とは年が離れていたために恋愛感情というものが発生しなかった。恋愛に縁のない人生を送っていたのだ。悲しい生き物である。
分からないので名前は検索をしてみた。文明の利器の活用である。友だち、嫉妬。それで検索した。してしまった。しかも出てきたのが知恵袋だった。
《私にはA子という友だちがいます。A子は小さい頃から仲良しで何でも言い合える仲で一番信用しています。しかし最近B子という子がA子に対して、私からみて執拗に仲を迫っているように見えるのです。A子はとくに気にした様子もなくB子の相手をしています。仲がよくなっていってるみたいでそこにモヤモヤしていまい、楽しくなくて嫉妬しまうのです。一番仲がいいと思っていたのに。どうしたらよいのでしょうか》
名前は執拗に迫ってくるB子に心当たりがあった。これだと思った。──乙夜選手だ!!
確かにあのとき執拗に連絡先を聞かれていた。そして潔も言っていた。「連絡先知らないのに先越されそうになったから」と。つまり潔は一番最初に名前の連絡先を知りたかったのだ。なにそれ嬉しい! 名前ははしゃいだ。特別感が嬉しかったのである。しかし名前は微妙に間違っていた。
潔が言いたかったのは自分も知らない連絡先を他の男に先に知られるのが業腹だったというストレートな理由だ。なんなら俺以外知らなくていいんじゃね? とも思っている。彼はエゴイストなのである。
名前の勘違いは続く。
《A子はとくに気にした様子もなくB子の相手をしています。仲がよくなっていってるみたいでそこにモヤモヤしていまい、楽しくなくて嫉妬しまうのです。一番仲がいいと思っていたのに。》
一番仲がいい友だちでも嫉妬は発生してしまう。名前は学んだ。つまり潔は乙夜との仲を嫉妬したのだ。仲良しに見えたから。……全然仲良くないよ乙夜選手!? 名前はびっくりしたが、潔にはそう見えたのだろう。節穴ではないかと少し心配もした。節穴はおまえである。
「つまり潔くんにとって私は仲良しの友だちになっているということ……? えー嬉しい。……いや! この質問者さんも悩んでいるんだから簡単に嬉しいとか思っちゃだめだよね!」
潔の心に寄り添わなければと一念発起する名前。気合いを入れる場所が違っていて潔がいたら頭を押さえていたことだろう。
「とりあえずB子じゃない、乙夜選手とは仲良しじゃないって知らせて、あとは……あとはなんだろう。潔くんは特別って、つた……える?」
あれ、なんか恥ずかしい。なんで。
布団のなかで寝返りをうつ。そわそわが止まらなかったからだ。それでも止まらず枕に顔をぐりぐりした。頬に熱がこもっているような気がした。
人間関係がポンコツの名前はまだその感情に気づかない。