迷走ソネット
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三次選考に進出するチームが決まった。全7チーム。35人だ。そしてU-20日本代表との特別壮行試合は三週間後となった。それによってレギュラーを賭けた適性試験が行われる。主張と共存。それが鍵だと甚八くんは選手たちに話している。最後にはトップ6に選ばれた選手たちを凌駕してみろと。ここまで聞いていいこと言うなぁと思っていたけど、そのあとの踏み台発言はああ……ここブルーロックだもんな……と思った。共に戦う仲間じゃなく最高の共闘相手。選手たちはどうやって決めるのだろう。期間は24時間。そう長くはない。
そんなことを考えながらモニタリングルームで今までの試合映像が観られるようセッティングしている。選手たちがご飯やお風呂入っているうちに終わらせないと。一次選考から二次選考までのトップ6の選手達の全試合数まとめなければならない。……これもっと早く言ってくれてたら良かったんじゃないかなぁ。トップ6に決まる人、目星つけてたんだろうし。まあ映像加工したりしないでいいから大変な作業にならないからいいんだけど。
一時間ほどで終わらせてひと休憩。まだ選手達は来ていない。映像流しっぱだけどリモコン置いてたら分かるかな。一応トップ順にモニター連動させてるんだけど……しばらくここにいて説明したほうがいいかな。……説明できるかな。自分のコミュ障ぶりが心配になる。
いや、ちゃんと役に立たないとダメでしょ。ふん、と気合いを入れる。誰でもかかってこい! ……出来れば穏やかな人がいいです。
ウイーンと扉が開く音がしてドキドキしながら振り返る。そこにいたのは……
「あれ、名前ちゃん」
「潔せん、……潔くん!」
「ん、呼び方正解」
にこりと笑う潔くんだった。良かった……! 顔なじみで、と、友だちの潔くんで。まだ友だちというのはちょっと照れてしまう。
「どうしたの? こんなところで」
「モニターの操作説明に残ってたんです」
「それは助かる」
じゃあ教えて? と首を傾げる潔くんに誰の試合が観たいのか訊ねると凪選手と糸師選手の試合が観たいらしい。だったら6番と1番だな。
「六つあるリモコンとモニター同士がトップ順に連動していて、凪選手のはこっちで糸師選手のはこっちの画面です」
「あーなるほど」
「説明なくても分かりますかね……?」
「うーん、リモコンとモニターに番号振ってあったら分かりやすいかな?」
「養生テープ持ってきます!」
それでリモコンとモニターの下に番号振ろう。やったね。違うやったねじゃない。説明で残らなくてすむからって喜んでいるんじゃない。決して。
自分に言い訳しながらモニタリングルームを出て素材置き場へ向かう。途中で御影選手とすれ違って一応ぺこりとしたらぺこりと返してくれた。いいひとかもしれない……! スポンサー様の息子さん。……顔色が良くなかった気がした。大丈夫かな……?
素材置き場はモニタリングルームから遠い場所にあるから時間がかかってしまった。ばっちり黒ペンも装備した。よし戻ろう。
「あれ名前ちゃんじゃん」
「はぐっ」
「反応かわいい。ね、ライン交換しない? 俺今スマホないけど」
「お、乙夜選手……!」
「めちゃくちゃ警戒されてる。猫みたいで可愛い」
可愛いと言いながら距離を詰めてくる乙夜選手。じりじりとその分下がる。この人パーソナルスペース近い!
「じ、甚八くんが連絡先聞かれたら失せろって返せって言ってたので……」
「保護者言葉つよ。うーんそこは内緒でさ」
「アンリちゃんが内緒とか今だけとか言うひと信用しちゃ駄目だって、」
「保護者もう一人いるのね手強い」
手強いといいつつ全く怯んでいる気がしない。なんか手慣れてる感がある……! 勝てる気がしない! ……連絡先くらいいいのでは? 別に価値があるものでもないし。この場を乗り切れるのなら別にいいかもしれない。そう思ってスマホをポケットから出そうとしたときだった。
「名前ちゃん。絵心さんが探してたよ」
「潔くん!」
「えーそれ本当に? タイミングよすぎじゃない?」
「本当だって」
「……まー今回はいいか。今度教えてね名前ちゃん」
そう言って去っていく乙夜選手。ほっと息をつく。甚八くんナイス。多分なにかまた仕事押し付けれるんだろうけど。
「潔くん、呼びに来てくれてありがとうございます」
「……ちょっと心配になるな。名前ちゃん少し鈍感じゃないか?」
「どんかん」
初めて言われた。
「初めて言われたって顔してるし……絵心さんが呼んでたってのは嘘で、俺がなんで嘘ついたかわかる? 理由二つあるんだけど」
「え、嘘? ついた、理由……? ……乙夜選手から助けてくれた……?」
「あ、そこは分かってくれるんだ。良かった。もう一個は?」
「…………分かりません」
「俺も名前ちゃんの連絡先知らないのに先越されそうになったから」
ぱちりと瞬きする。潔くんの連絡先。……それは知りたいかもしれない。友だちの連絡先。うん、それは凄く希少価値がある。絶対に知りたい。
「だったら連絡先交換してください!」
「え、そういう反応?」
「え? だ、駄目ですか」
「や、スベってはずいだけ。全然大丈夫だよ。スマホ貸して? ID入力するから」
スベったの理由は分からないけど快く教えてくれるようだ。指紋認証を解除してスマホを潔くんに渡す。慣れた手つきで入力していくのが分かる。
「……これでよしっと。はい返すね」
「ありがとうございます!」
「うん」
スマホを胸の前で握りしめる。潔くんの連絡先がこの中に入っている。嬉しい。顔がほころんでしまう。嬉しい。
「……そんなに喜ばれると嫉妬してたのがバカらしくなっちゃうな」
「はい?」
「んーん。何でもない。モニタリングルーム行くんだろ? 手伝うよ」
「わ、ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」