迷走ソネット
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「名前ちゃん自慢してるの?」
「私達のこと馬鹿だと思ってるんでしょ」
「一緒にいたくない。だってあの子変何だもん」
名前はうなりながらのっそりと起きた。やな夢みたな、と欠伸をひとつ。目覚まし30分前に起きたのは何か良いことがあるのだろうか。
名前の絵本は年の離れた姉の学校の教科書だった。どの教科でも普通の絵本のようにして読み進め学習していく名前に名前の家族は気持ち悪い……とは一切思わず「うちの子天才! 天才が生まれちゃった!」と褒めちぎった。そして同時に名前と他の同年代の子は違うんだよということも教え込んだ。名前の頭脳は素晴らしいことだけど、人を貶す理由に使っちゃいけないからね、と。
だから名前は自分が他の子より頭がいいことを理解して、馬鹿にしたりしないようにした。ひらがなの勉強のときも、足し算の勉強のときも、最初は我慢した。しかし次第にやっている内容に物足りずに姉の参考書を持ち込むようになった。日本の学習は調和を大事にする。名前は異端児だった。教師すら手に負えない子供を同じ子供達はどう扱うか、火を見るより明らかだった。名前に友だちはいなかった。それは小学五年生まで続いた。
名前の現状に憂いた家族は名前の頭脳にあった環境を作ることにした。家族みんなで海外へ行くことにしたのだ。父と姉の仕事の関係性も良かったのが要因した。名前は言われるままに入学試験を受けてそのまま受かって大学へ入った。そこは名前を天才と扱うが、それを異端とはとらずに才能だという者の集まりだった。嫉妬を受ける場面もなかったとは言えないが、それを庇ってくれる人々にも恵まれた。名前はそこでやっと息ができるような感覚を覚えたのだ。
年上の同級生たちと友人となり、物作りやプログラミングを教わりながら順調に過ごしていった。楽しいを覚えた名前は最強だった。スポンジのように何もかも吸収していったのだ。そして大学院まで進むか悩んでいたそのとき、絵心甚八に捕まったというわけだ。
「潔くんに蜂楽くん」
えへへ、と枕に顔をつっこむ名前の顔は緩んでいた。はじめての同年代の友だちだ。どうしよう。大丈夫かな。仲良くなれるかな。初めて学校に行く子供のように不安と期待を抱え、足をパタパタさせる。
「……潔くん」
その名を呼ぶ声色が期待以外のものを含んでいるのに気づかず、パタパタ、パタパタと足を動かした。
***
「あの狸のおっさんに喧嘩売った!?」
「名前ちゃん、一応会長だから、ね?」
「日時はまだ決まってないがU-20との試合だ。青い監獄の進化をみせるときだ。お前も心しておけ」
「りょ、りょうかいです……あ、甚八くんイヤホン高評価だったよ。量産始めるって」
「よくやった」
「んふふ、でしょでしょ!」
スポンサーサイドは何だっけ。宇宙旅行の為だっけ。まあ早く作ってくれるならなんだっていいか。……これ試作品だからもっとクオリティあげなくちゃいけないことに今更気づいた。がんばれ未来の私。
そして選手たちは今英語の勉強中だ。
「小学生から高校生まで英語勉強してるのにここでも勉強するの?」
「日本の英語教育の身につかなさ舐めてるなお前。必要なんだよ」
「そうなんだ……」
「……今さらですが名前ちゃんが頭いいって実感しました」
「普段の言動がアレだからな」
「もしかして侮辱されてる?」
なんで?
「……勉強の補佐的なのに行ったりしちゃ「駄目だ」早いよ! なんで!」
「勉強より女に浮つきそうな奴がそこそこいるからだ」
「潔くんと蜂楽くんは浮つかないもん!」
「他の班にいるんだよ。そもそもおまえその二人が目的なのは何故だ」
「えっ……友だちになりました、ので」
「友達? お前が?」
タブレットに目線をやっていた甚八くんがじろりとこっちを見る。お、怒られる流れ……?
「こないだ友だちになろって、言ってくれたの……です」
「…………そうか」
何その間! 怖いよ!
ビビり散らかしていた私は気づかなかったのだけど甚八くんの口元はうっすら上がっていた。
「友達なら邪魔だけはするなよ」