迷走ソネット
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「働け天才」
その言葉で株取引部屋から引きずり出された。なんだなんだとハテナマークを飛ばしてる内に色々契約書を持ってこられてあれやこれやとサインさせられた。詐欺師だったらもっと抵抗していたが、なんとこれは身内の犯行。いとこの甚八くんはサッカー協会に収集されてなんかコーチ的なことをやるらしい。その名も青い監獄プロジェクト。へーがんばってねと流せないのが先ほどの契約書類。サッカー選手育成における機器関連のプログラムの全権を委ねるとかなんたら。サッカーのことなんか分からない人にむちゃくちゃなことをしている。このような主張を甚八くんにしてみた。
「つまり自分にはそんな能力が欠片もないから出来ませんと言いたいのか?」
カッチーン。そんな音が出た気がする。「数年でブルーロックシステム完成してやらぁ! その代わりいっぱい褒めろよ!」と啖呵を切った。大学の年上の同級生たちによく言われた「名前は煽りとおだてに弱い」という言葉が少し過ったが関係ない。関係ないったら関係ない。プログラミング中にあれ……私なにやってんだろう……と我に返りかけたが関係ないもん。
約束の期日で甚八くんの要望どおりのブルーロックシステムを完成させた。作っててこれ刑務所と変わらないなと思った。建物も趣味が悪い。全部底辺と思わせないよう争わせるんでしょ? 繊細な私にはお腹が痛くなりそうな仕組みである。発起人である帝襟アンリちゃんは甚八くんと同じくらいイかれていた。ストライカー1人のために299人が犠牲になるのを是としてるなんて2人ともどんな肝っ玉してるのか。
「で、あれがブルーロックの頭脳である絵心名前。同年代に見えるだろうがあいつが作った機械でおまえらを成長させる」
ひっそりと舞台袖にいるのに指ささないでほしい。バインダーで顔を隠す。会うことはもうないだろうからこれでよし。
そんなかんじでブルーロックプロジェクトははじまった。
そして気づいたのだけど甚八くんに褒めてもらってない。あの野郎。
***
鬼ごっこ(鬼畜)から始まり3日間の体力テスト。脱落者が出たからランキングが上がったようで上がってないところがまたいやらしい。
一次選考は総当たりリーグ戦。単純なグループリーグマッチだから私の出番は全くない。主に二次選考で使うブルーロックマンが出てからが出番だ。ブルーロックマンは私の自信作だ。名前がまんまとかは言っちゃいけない。
そもそも不具合出さないよう何度もシミュレーションしてるから私はここにいる必要ないと思うんだけど、甚八くんの命令でここにいる。暇だろ? と。大学時代の友達とゲーム作ったりやったり株取引やったり暇じゃないんですけどー! と大声で言った。無視された。人を労るという心を育ててほしい。
「名前ちゃんお疲れ様」
「アンリちゃん」
ボケーッとモニター見てただけなんだけどジュースもらえた。やった。
「注目してる選手でもいるの?」
「えーっと……イトシリン? はすごいなぁって」
「糸師冴の弟ね」
「あ、はい」
誰だっけ糸師冴。知ってるはずだ。サッカー常識&知識は甚八くんに叩き込まれたからだ。でも興味の薄いことのアウトプットが絶望的に苦手だから結局「なんだっけ」の連鎖は止まらないのだ。ああそうだ。スペインの下部組織の選手だった日本人だ。あと下まつげ長かった。確かにイトシリンも下まつげ長い。血の繋がりを感じる。そのDNAうらやましい。ください。
タブレットを取り出してイトシリンのデータを出してみるとブルーロックの選手の中でもずば抜けた数値を叩き出している。糸師凜。綺麗な名前だなと思った。
「名前ちゃんは飛び級して大学卒業したのでしょう? 日本に帰って来て早々にプロジェクトに巻き込んで申し訳なく思ってるの」
「そ、そうなの?」
「ええ。でもあなたの力なしにブルーロックプロジェクトはなし得なかった。本当にありがとう」
じーんとした。これです。これ。こういうの言ってもらいたかったの。聞いてるか絵心甚八。聞いておけ絵心甚八。
照れ照れしながらモニター画面をいじると5-0の試合画面に切り替わった。0点の赤チームの11番がゴール前までボールをパスされたところだった。白チームの10番が対峙してどうするか迷ってるようだ。どうするのかな、と思っていたときだった。
11番はボンと右後方へパスを渡した。マークがついている味方の方に、だ。結果その味方の9番はゴールを決めたが11番の判断は非難されてるようだ。
「うーん……?」
「どうしたの? 名前ちゃん」
「今の11番の動き、全体が見えててやったような……?」
「11番……潔世一くんね」
潔世一。タブレットでみる彼の基礎データは下の方。でも、なんかなぁ……気になる。ぽちぽち詳しくデータを確認する私を甚八くんがニヤリとした顔で見ていたのに気づかなかった。