○○シリーズ
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「おい原辰徳」
「だれが原辰徳だ!」
あっ、と思ったときには遅かった。侑がすぐ後ろにいた。
「よお三日も避けてくれましたねえ」
ニコニコ笑う侑。
「なんですか宮くん」
「人を避けとった人間のとる態度ちゃうねん。あと宮くん言うな」
「は? 宮さまって呼ばれたいの?」
「アホぉ! 侑って呼んどったやろが!」
パシコーンと音だけがいいツッコミが入る。全く痛くないのが手慣れてる。さすが関西人と場違いに感心してたら「おまえ今全然関係ないこと考えとるやろ」とじろりと見られる。なんで分かった。
「そんなもんずっと見とったからに決まっとるやろうが」
心のなかの疑問にまで即座に返してくる侑。顔が赤くならないように侑の今までの非常識さを思い出す。貸したもの返ってこないとか、人でなしなとことか、スカート短いとか言って勝手にお腹とわき腹触って曲げてるスカート下げようとしたとことか。最後なんて普通にセクハラだ。よく許したな私。スッと冷静になれた。相手は侑だ。侑。ずっと頭の中にいるとかそんなの認めない。
「言うとくけど俺は遠慮せんからな」
「なにが」
「振られた女に優しくせえへんし、配慮もせんし、慰めたりもせん」
「振られた言うな!」
「振られたやろうが。あの優しいだけが取り柄なのにおまえを振った優男に」
「侑のあほ! デリカシー拾ってこい!」
「そんなもん満ち溢れとるわ」
侑と話していても埒があかない。そう判断してくるりと半回転して無視して教室から出ようとする。ついて来たら治のところに行って侑押し付けよう。
そのときだった。
ぐいっと腕を引かれて後ろに体勢が傾く。倒れると思った瞬間、身体を覆ったのは私より大きな温かい身体。背中がピタリとくっついて長い両手で囲まれた。
「俺が優しくするのは俺の女だけや。俺にあいつみたいな誰でも平等に行き渡る優しさなんか求めんな」
「っ」
「だから早く俺の女になれや。そしたら優しくしたる。甘やかしたる。泣いとったら笑わせたる。俺を早く選べや」
ぎゅう、と侑に後ろから抱きしめられる。腕で押すけど体格差から抵抗にもなっていない。ここは教室の真ん中。みんな見ている。それなのに侑はやめない。
「明らかにおまえだけ特別扱いしとったのに図書室で静かに本読んどるだけの男に惹かれよってこのアホぉ。何が英検の試験で消しゴム忘れたときに消しゴム割ってくれたや。そんだけで惚れおってこのアホぉ。別におまえだけじゃなくて誰でもやるわあの優男は」
「~~~っ」
「泣いてもやめへんぞ。あの優男が心から気に食わんからな俺は。おまえから特別扱いされとったのに困った顔してそのくせ拒否もせんで中途半端に優しくしておまえを増長させたクソ男やわあんなの。どこが優しいねん。ホンマ見る目ないわおまえ」
ぽたぽた流れる涙をごしごし拭う。侑に図星刺されて泣くなんて侑の思うつぼだ。
「告白されそうになって逃げる男なんかタマナシやボケ」
「う、うるさいぃ……! あつむのばかぁ!」
「バカ言うなアホ」
侑のせいで出ている涙なのに侑の長い指で拭われる。指先が固い。バレーボールを頑張ってる侑の手。それが私に向いている。ぎゅっと口を結ぶ。嗚咽が出そうになった。
「俺にしとけやナマエ」
三日前。ラインをもらった次の日だった。
侑の言っていることが頭で理解出来ずに考えるのを拒否した。だからいつも通り侑に会ったときに挨拶した。「侑、おはよう」と。そしたら侑は目をつり上げて私の腕を引っ張って無理やりキスした。下駄箱で。みんなが見てる前で。
『もうお友達ちゃうねん』
侑は怒っていた。
侑とは小学校で兵庫に引っ越してからの仲だった。宮家のお隣に引っ越してきた私を侑と治は面白がって色んなところに引っ張っていった。ハチャメチャでめちゃくちゃなふたご……というか侑に振り回されてたけどそれでも楽しかった。
侑が好きになった。でも侑が好きなのはバレーボールだ。私の比重は絶対に負けている。それに中学生のとき聞いてしまった。
『女の相手する暇あったらバレーするわ』
侑に告白した子に向けた言葉は私にも刺さった。だから蓋をした。女じゃなくてただの友達を選んだ。優しい先輩に惹かれたのも嘘じゃない。あれは恋だった。でも侑の持ってないところを探して無理やり見つけた恋だった。侑と重なったら蓋が外れてしまうから。
「ううぅばかぁ……あつむのばかぁっ」
「バカ言うな言うとるやろ」
「バレーボールと結婚するんじゃなかったのっ!」
「は? 言うたことないわそんなこと」
お腹に回った侑の腕をさわる。ギュッと掴んで、もう離してやらないと誓った。
「やさしくして」
「俺の女になるならな」
「……だからやさしくして」
そう言うとぐるりと侑の方に体勢を向けられた。侑は、バレーボールをやってるときみたいな真剣な顔をしていた。
「前言撤回はきかんからな」
「こっちのセリフ。バレーボールの次に優しくしないと許さない」
「バレーしとらんときはおまえの相手したる。……ガキんときから好きやった」
侑の顔が近づいてくる。目を自然と伏せた。……ら、バシン! と何かが響く音がした。
「い、ったいわ誰やアホ!!」
「教室の中心でちゅーしようとするアホ止めたったんや」
「止めんなやサム!」
「止めなあとでナマエが我に返って恥ずかしがって学校来られへんようになるわアホ」
「ノリノリやったわナマエも!」
なあ!? とこっちを向いてくる侑の言葉を返せなかった。顔が熱すぎてそれどころじゃなかったからだ。……教室でなにやってるの。
「うあああああ!!」
「ナマエ!?」
「ほら言うたやろ」
気にせえへんよーとクラスメートから声がかかるけど答える余裕もなく自分の席に座ってカタツムリになった。侑がついて来て「なあ!ちゅーは!?」ってしつこかったけど無視した。