○○シリーズ
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告白するだけや? ……告白するだけや?
北の言葉に涙が引っ込む。いや、侑と治がぶん殴ろうとしてた下りで結構止まってはいたのだけど。
彼氏がいた。二年の三学期からつき合ってた彼氏。告白された。稲荷崎のバレー部は強豪だから部活動優先になるからと断ったのだけど、何度も何度も告白されるうちに絆された。私もつき合ったからには時間を作って彼氏と一緒に過ごしていた。うまくいっていたと思っていたけど、それは間違いだったらしい。
裏で私がいつ処女をくれるか賭けしていたらしい。最悪最低だ。見る目なさすぎる。それを彼氏とその友達が話しているところを侑、治(ケンカしようとしてたのを止めていた)と一緒にいるときに発見した。私は聞いた瞬間に逃げ出した。その場で一発ぶん殴ってやればよかったのに。そしたら後輩に怒らせることもしなくてすんだ。部活が忙しくて助かった。こんな奴に処女を渡さなくてすんだのだから。でもキスはくれてやってしまった。ちくしょう。そんな風に悪態はつけるのに涙は止まらない。私はあの彼氏に情を持ち始めていた。キスもイヤじゃなかった。だから悲しい。悲しくて勝手に涙が出る。
そしたらあのラインだ。侑、治の現場に北が介入してくれたと安心してたら「告白するだけや」どういう意味? そう思うのは相手が北だから。いつも冷静で焦ったところなんて見たことなくて淡々としていてロボットか! とアランに突っ込まれてるそんな北。そんな北からでる告白という言葉は甘い意味を持つとは思わない。……なんだ。何かしたっけ。ちゃんと部誌も書いてるし、今日の練習試合で使うビブスも前回ちゃんと洗ってるから問題なく使える。解れてた横断幕も縫ったし……ダメだ。正論パンチの使い手であり、ちゃんとやるが主義の北には私のちゃんと出来てないところが見つかっているのかもしれない。告白。おまえ○○が出来てへんぞ。ああ、脳内再生が簡単すぎる。あの人私が最悪の形で振られたの分かってるのかな。いや、厳しさの中で優しさを見せるタイプだからワンチャン……あるかなあ……? あってほしいなあ……。
そんなことを頭に浮かべているとがチャリと扉が開いてビクッと肩を揺らす。え? 鍵閉めてたよね? そう思ったけどそこにいる人物には関係ない。だって私と一緒で鍵の管理を任されているのだから。
「北……」
「部室私物化すんなや」
「第一声それかい」
足を抱えてベンチに座っていたのを下ろしながら突っ込む。正論パンチの使い手め。今はそういうのじゃないんです。まだ残っていた涙を拭ったら「こするな。赤くなってまうぞ」と共有の冷蔵庫へ足を進める北。そこから出したのはアイスノン。ポイッと投げられてキャッチする。
「冷やしや。もう遅い気ぃするけどな」
「………」
これである。厳しさのなかの優しさ。これが北信介だ。まぶたにアイスノンを当てる。同級生で同じ部活の仲間の優しさにふれてまた涙が出てきた。
「まだ泣けるんか。あの男にそんな情いらんねん」
「これは北が優しいからだよー……」
「優しくした覚えはないわ」
「そういうとこだぞ北信介ー……」
私の言葉に意味分からんといった顔をする。そういうとこなんです。北は足を進めてベンチに座ってる私の前にしゃがんだ。つむじ見えた。場違いなこと考えてると「フェアやないから言うけど」と言葉を続ける。
「あのお前のクソ男」
「もう私のじゃないし私も私のものだからお前のやめて」
「じゃああのクソ男」
「うん」
「おまえに本当はちゃんと惚れとったて抜かしたわ。友達の悪乗りに乗ってしもたけどちゃんと好きやったってアホなこと言いおった」
「…………」
「侑と治と大耳とアランに正座させられて囲まれてもそう抜かしたんやけどおまえはどう思う」
「おせーよバカ」
まだ心は傷ついている。でもそれは私の残っていた情の残滓が泣いているだけだ。もう一緒には歩けない。それが率直な気持ちだ。
「おそいよ……っ」
「…………」
まぶたをギュッとする。もう今日は厄日だ。絶対にそう。すると人の気配が近くにあるのを感じた。目を開けると目の前に北がいた。
「うわっ」
「じゃあ本題入るけど」
「いや、近いんですわ」
「おまえが泣くからや」
因果関係どこ……? と首を捻ってると膝に置いた右手を北の手で包まれる。バレーボールをしている人の固い手。骨ばった男の人の手だ。
「好きや。一年のときから」
「…………」
「俺にしとき。もう泣かさへんから」
「……告白って」
「うん?」
「告白ですか?」
「ラインで言うたやろ」
私のあほな言葉にも真面目に返す北。アイスノンがぽとりと落ちた。
「気づかなかった、です……?」
「そら態度に出さんかったからな」
「なんで……?」
「中途半端は嫌いやねん。でもレギュラーとれたからお前に告白したんやなくて、あのクソに泣かされるお前をもう見たくないと思ったからや」
北は私の包んだ手に優しく力を入れる。
「おまえを爆笑させるんは多分無理や」
「潔い」
「でも幸せにする。その努力も欠かさん。だから俺を選んでや」
「…………私は、」
「うん」
「あのクソに何度も告白されて絆されたアホです」
「せやな」
「そしてまた絆されそうになってるアホですが、それでもいいですか……?」
北の手を左手でさわる。震えていた。北はあのクソのようなことするわけがない。分かり切ってるのに怖かった。そんな私を見透かしたかのように北は笑った。
「そんなアホが好きなんやから当たり前やろ」
「う、ううぅ……っ」
「また泣くんか。泣かせんて言うたんやけどな」
「うれし泣きとほっと泣きですぅ……」
「ほっと泣きなんて日本語ないわ」
そう言いつつも北は制服からハンカチを出して私の涙を拭った。
「あのクソに引導渡したれ」
「北とラブラブですアピールしてもいい?」
「好きにせえ」
そう言って北は指を絡めて手を繋いだ。あったかい。安心する手。今日からよろしくお願いします。心でそう言って一緒に歩きはじめた。