○○シリーズ
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岩ちゃんが私がいるショッピングモールにいまから来る。ナンパ男にそう言うと「岩ちゃんって誰?」と当然の疑問を聞かれた。
「岩ちゃんは幼なじみで一番頼れる存在で一番カッコいい人」
「……彼氏?」
「違うよ?」
「じゃあ片思いか」
「片思い?」
「えー……嘘でしょこの子」
ナンパする子間違えたなぁとナンパ男は頭をかいている。間違えたって言われても話しかけたのはあなたです。それに岩ちゃんが来るまで暇だ。話し相手になってもらおう。
「ナンパ男さん」
「合ってるけど呼び方よ」
「岩ちゃんと遊ぶの久しぶりだから何したらいいでしょう」
「岩ちゃんは遊ぶつもりで来るんじゃないでしょ。多分。岩ちゃんは忙しい子なの?」
「岩ちゃんはバレー頑張ってるの。オフの日は夢の為に勉強してる。今日はオフ」
「岩ちゃん偉いな」
「カッコいいでしょ」
「何かを頑張れる子はカッコいいね」
話が分かるこのナンパ男。テンション上がってきた。
「岩ちゃんの話してもいいですか?」
「ナンパ失敗したしいいよ。俺も岩ちゃんみたいし」
「岩ちゃんは及川は殴るけど、生意気なやつも殴るけど、私には仕方ねぇなぁって感じでぐしゃって頭撫でてくれてギャップがいいの」
「女の子は普通殴らんでしょって言おうと思ったけど待って? 俺が殴られる可能性出てきた? あと及川ってだれ」
「岩ちゃんは何もしてない人は殴らないよ。及川は一応もう一人の幼なじみ。一応。一応」
「岩ちゃん判定で何もしてないになればいいんだけどねぇ……。あと及川くんと岩ちゃんの扱いの差よ」
「一緒にしたら無礼罪発令するくらい無礼」
「及川くんも気になってきたわ」
「とるに足らない存在です」
「本当に幼なじみ?」
だって及川私のことゴリラ扱いしてくるんだもん。「ナマエちゃん何で俺だけ扱い雑なの!?」と嘆いてるけど集合時間に来ないで女の子にキャーキャーされてたり、修羅場に巻き込まれたとき勝手に私の名前使ったりと前科ありまくりなのだ。だから私が殴るのは及川だけです。
「でも」
「でも?」
「及川のバレーへの想いは疑ってないです」
「…………なんか一周まわって及川くんが好きにも見えるなぁ」
「? 及川は及川です」
変なこと言う人だなと思っていたら「岩ちゃんこれ複雑そうだな」となぜか岩ちゃんの気持ちを代弁しだした。岩ちゃんに会ったことないでしょあなた。そんなときだった。
「ナマエ!!」
「岩ちゃん」
「なにかされて、……ねーみたいだな?」
走ってやってきた岩ちゃんは並んで缶ジュースを飲む私とナンパ男を交互に見て疑問符を浮かべてる。おごってくれたのです。
「この子が岩ちゃんか」
「カッコいいでしょ」
「スポーツマンってかんじ」
「おい、何で和やかに話してやがる」
なびいてねえだろうな、と頭を片手でぐりぐりされる。
「なびくって?」
「なびくはなびくだ」
「この子鈍いから大変でしょ岩ちゃん。コーラでいい?」
「何でナンパ野郎が岩ちゃん呼ばわりしてんだよ! あとなんでコーラだ!」
「話すの長くなりそうだし」
「話すことはねーよ!」
「このナンパ男さんはけっこう見る目がありますよ岩ちゃん」
「おまえも初対面、つーかナンパしてきた男に気ぃ許すな!」
岩ちゃんに肩を抱かれてその場から連れて行かれそうになる。ジュースのお礼はしないとと顔を向けたら「及川くんとの事があるから一歩踏み出せないのかな?」と言い出した。
「……ああ?」
そしたら岩ちゃんがめちゃくちゃ低い声を出した。キレてる。これはキレてる。このナンパ男、及川か。一言で岩ちゃんをキレさすなんて。
「なんでてめーから及川の名前が出るんだ」
「ナマエちゃんから聞いた。ナマエちゃんが及川くんのこと真っ直ぐに見てるから足踏みしてるのかなーって」
「てめーには関係ねえべや」
「大事な子に意識してもらいたいなら幼なじみの立場に甘えるのは厳禁だよ」
「うるせえ」
そう言って岩ちゃんは私の肩を抱いたまま歩き出した。ピリピリしてる。あの男、何てことしてくれる。顔を向けると呑気に手を振っていた。バイバイじゃないんですけど。そう思ってたら「あんな男みるんじゃねえ」と岩ちゃんから怒られた。
「い、岩ちゃんっもうちょっとゆっくり歩いて」
「……悪りぃ」
「うん。ありがとう」
顔を合わせてそう言うと岩ちゃんは苦いものをみたみたいな顔をした。なんでよ。
「岩ちゃん、今さらだけどラインしてごめんね。勉強中だったでしょ? びっくりしてしちゃった」
岩ちゃんは制服だ。多分図書室で勉強してたんだろう。
「いい。こういうときは頼れ。遠慮される方がやるせねえ」
「……うん。ありがと岩ちゃん」
心が温かくなる。岩ちゃんの優しさが染みていくみたいに。顔がほころんで岩ちゃんを見ると岩ちゃんは一瞬固まって、瞬きしてからゆっくり目を開いた。その目は真っ直ぐで真剣で、一気に引き込まれた。
「おまえ俺のことカッコいいって言うけどな」
「うん」
「どういう意味だ」
「どういう意味……?」
足が止まる。岩ちゃんに手を引かれて端っこに移動して向き合った。岩ちゃんから見下ろされる眼差しはやっぱり強い。
「カッコいいは、カッコいい、です」
「及川は」
「及川?」
「及川のことどう思って……あ゛ーっ!!」
「!?」
「まどろっこしい!」
岩ちゃんは頭をぐちゃぐちゃにして叫んだ。びっくりしていると腕をぐいっと引っ張られて岩ちゃんの腕のなかに包まれた。大きな手が背中に回る。
「こういうこと、及川とできるか」
「…………」
「俺と、キスできるか」
「…………」
「俺はおまえとしたい。ガキの頃からずっと好きだからだ」
「…………」
「……おい、いい加減返事し……ろ、」
「…………」
「……顔真っ赤すぎるだろ」
岩ちゃんはそう言って気の抜けたように笑った。ガチガチの私の背中をぽんぽん叩いて「おまえはなぁ」と笑いを含んだ声で話し出す。
「呑気でマイペースだからって思ってたけどこんな顔出来るならさっさとやればよかったわ」
「い、岩ちゃん……」
「なんだ」
「心臓がバクバクして、飛び出そう……」
「人間はそんなにやわじゃねえから大丈夫だ」
「岩ちゃん」
「なんだ」
「及川とは出来ないです」
頭がぐるぐるして、心臓が飛び出そうで、身体が熱くて、それでも岩ちゃんが切なそうに言った言葉にちゃんと言葉を返したくてそう言った。想像したら普通に気持ち悪かった。ギャグ漫画でも有り得なかった。岩ちゃんは私の言葉に「そうか」と言って至近距離で私と目を合わせる。熱がさらに上がる。
「じゃあ俺とは?」
「…………したい、です」
出来るか出来ないかじゃなかった。想像したらそれはとても恥ずかしくて身体がバタバタしたくなって仕方なかったけど、それはとても幸せなことだと思った。
「そうか」
「そうです……」
「じゃあ今度やるからな。ここじゃさすがにできねえ」
「うっ」
「やるからな」
「……はい」
「あと」
「はい」
「今日から恋人な」
岩ちゃんの声がすごく嬉しそうで胸がぎゅっとなった。恋人。心の中で呟く。恥ずかしくて嬉しくて幸せな複雑な気持ちをどうすればいいのか分からなくて、岩ちゃんの胸に頭をぐりぐりして誤魔化した。