○○シリーズ
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「倫太郎っハグしたらストレスが減るんだって! お得! しよ!」
角名の彼女は好奇心旺盛で自由で単純で結構うるさい。主に言動が。両手を広げて反復横飛びのように横移動する奇妙な姿にぶっと吹き出した。
「今ストレスないから大丈夫」
「わからないよ? ストレス社会といいますし」
笑ってもストレス発散になると聞いたことがある。だったらナマエといる限りその心配がなくなるな、と口にはしないことを思う。角名が応じないと察したナマエはむーっとした顔をして「いいの! 他の人とハグしちゃうよ!」と脅してきた。
「どうせ相手女子でしょ」
「…………」
図星をさされてさらにむーっとなる。その顔が、嘘でも男子とハグすると言えないのが可愛くて片手で頬を挟んでぷにぷにしていると「スキンケア頑張ってるからもっと触って」と要望が入った。すねてたのがもうどこかに行ったらしい。相変わらず単純だなこの子と思いつつ、スキンケアを頑張ってるらしい肌触りのいいほっぺを触ってると「マネージャーちょっとええか」とナマエに声がかかる。ナマエは「はーい」と返事して呼んだ北の下へ走っていった。結んだ髪がぴょんぴょん跳ねていてなんだか頬が緩んだ。
「おまえら仲良くてええな!」
銀島にそう言われて「まあ普通に」と返す。仲はいい。喧嘩もしたことがない。ナマエが拗ねることはあるけどそれはささいな可愛げのある、先ほどのようなもので。そして単純なのですぐに機嫌もなおる。人によったらめんどくさいと思うかもしれないが、角名にとったら可愛いもので。
そう、角名の彼女は可愛いのだ。明るくて周りも明るくしてくれる元気な子。見た目も整っている。そんな子がモテないわけがなく、入学時に稲荷崎バレー部のマネージャーとして入った際に部内がざわめいていたくらいだ。その時は当時いた三年生の女のマネージャーの先輩が「手ぇ出したら殺す」と目を光らせていたのでナマエに告白する人間などいなかった。いなかったが、逆にナマエが角名に告白してきた。顔を真っ赤にして夏だったので緊張からおでこに汗をかいてとにかく一生懸命ですといった顔で告白された。なんで俺? と思った。顔が整っていて華やかな双子も同級生にいるし、ナマエと仲のいい仲間思いの銀島もいるし、頼れる先輩もいた。特に優しくした記憶もない。分からないので普通に聞いた。
『なんで俺?』
そう聞くとナマエはぱちりと瞬きしてふんわりと笑った。典型的な表現だと思っていたが、花が咲いたような笑顔で目が惹かれた。
『私を特別扱いしないで名字ナマエとして見てくれるから』
整った顔はそれなりの苦労もあるらしい。言葉からそう思っていたら「それに、」と話が続く。
『一緒にいて落ちついて、なんだか空気が好きだなぁって思ったの。そう思ったら毎日角名くんの顔が頭に浮かぶの。涼しい顔を笑わせたいなぁって思ったの。ちょっと喋っただけで好きだなぁ嬉しいなぁってなるの』
あまりにも幸せそうに話すのでさすがに角名も恥ずかしくなって「分かったから」とストップをかけた。「まだ言いたりないっ」とナマエは不服そうだったが。その顔が可愛いなと思ってしまって、ああこれ駄目だと思った。今まで顔が整っているな元気だなくらいしか思わなかったくせに、告白されたからか、それともさっきの笑顔に惹かれたからか、告白の返事を不安そうな顔で待っているナマエを安心させたいと思ったからか。──多分全部が理由で。
『……俺でよかったら、付き合う?』
気づけばそう返していた。ナマエは口をぽかんと開けて数秒して「付き合うー!」と笑顔で言った。やっぱりその笑顔は花が咲いたように華やかで、角名の胸がキュッとなるのが分かった。これも一目惚れに入るのかなと思った。
そして付き合いは瞬く間に広まった。角名はダークホースだったらしく部活の上級生からは「角名く~ん?」と囲まれはしたが北や大耳、尾白といった面々が「二人が納得しとるのに他が口出すのは変でしょう」と口添えしてくれて上級生は割とすぐに引いていった。問題だったのは同級生。部活内外関わらず「角名く~ん」と言われた。曰く裏切り者と。角名は知らなかったがモテるナマエに対する紳士協定のようなものが作られていたらしい。言い換えると「抜け駆けすんなや」協定。それは怒られるな。そう思ったがナマエから告白してくれたとは言わなかった。あの光景は自分だけのものだ。言うわけがなかった。
まあ同級生達も半年も経てば諦めはじめた。逆にナマエに告白する者もいたらしいがナマエは「倫太郎一筋です!」と断固として靡かない様子から二年に上がってからは告白されたと聞いたことはない。後輩も最初はナマエを見てそわそわしていたが、クラスも同じになった角名に嬉しそうにくっ付くナマエを見て肩を落として諦めていった。来年も見そうだなこの光景、と思った。
そんなことを思い出しながら北と話すナマエを見つめる。あの北とでもにこにこ楽しそうに話している。北は真顔だが全く気にならないらしい。……一歩違えればナマエは北に惚れてたかもしれない。ふとそう思った。北はナマエに女としての配慮はするが特別扱いはしない。あの人は誰とでも対応は変わらない。だからナマエも北に懐いている。それにジリッとした気持ちがないとは言えない。でもそれ以上に……
ぱちりとナマエと目が合った。途端に目尻を下げてブンブン手を振ってくるナマエ。なんなら「倫太郎大好きー!」と叫んだ。
「北さんに怒られとるなアレ」
「そりゃ話してる途中で叫んだら怒られるでしょ。相手北さんだし」
そう言いつつも頬は緩んだ。嫉妬はしてもナマエの気持ちを疑ったことは一度もない。どこまでも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるナマエに疑うなんてする暇もない。
可愛い角名のナマエ。同じだけ気持ちを返せているだろうか。そう思って普段は二人きりのときしか言わない好きを口パクで返した。ナマエにばっちりと伝わったらしく「私も好きー!」と再び叫んで北に怒られていた。
しょんぼりして怒られる顔も可愛くて、何でも可愛くてあの子ずるいなぁと思った。