○○シリーズ
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付き合うっていっても侑は部活ばっかりだしアニメに興味なさそうじゃない? 合わないものを付き合わせるのもなんだから「大丈夫です」って送ったら「しばくぞ」と返ってきた。相変わらず物騒な男である。
そんな物騒な男にしょっちゅう「自分、男できひんやろうなぁ」とか「色気がないねん色気が」とか「気になる男できたら見定めてやるわ。まー無理やろうけどな」とか言われてるのが私である。最初は戸惑いがちに宮くんって呼んでたけどその失礼のオンパレードについにキレて「うるせー侑! バレーやっとけバレー馬鹿!」と返してからどんどん口が悪くなっていってる自覚がある。侑は私の態度にブチ切れるかと思ったけど普通に言い返してくるだけで全然怖くなかった。なんならいい音のするおもちゃだと思われてそう。「名字はモテませんからねえ」とニヤニヤ楽しそうに言われるのだ。性格悪い。
怖かったのは一回試合見に行ってサーブの邪魔した相手(味方)に睨みつけてたときと双子の片割れの宮治くんと乱闘してるときくらいだ。なんであんなのが名物扱いでわいわいされてるのかが分からない。
そんなことを考えてると侑から電話がかかってきた。既読つけてから数分なのに。そう思いつつ電話に出る。
「もしも『調子乗るなや』はい?」
もしもしも言わせないのかこの男。
『モテ期は人生で三回あるって言うやろ。その三回分を使い切っただけや』
「なんで私だけ三回消費制なんだよ」
というかナンパで使いたくないわモテ期。
『やからもう二度とおまえは男に言い寄られることはない』
「断言やめろ。分からないでしょ」
『趣味アニメとマンガの地味オタクが高くくるんやないわ』
「おまえ今オタクを敵にしたからな。あとキャンプも好きですぅ」
『ソロキャンプとか言わんやろうな!?』
「なんで怒る。家族とか親戚とかご近所さんとかとやるの。ソロキャンプは……向いてそうだな」
我ながらひとりの時間も楽しめるタイプだから。ひとり用のキャンプ道具を買う妄想してたら「あかん! 絶対にあかん!」と電話口で侑が叫ぶ。
『勘違いしたおっさんが若い女に近寄るチャンスと思って話しかけるパターンがあるから絶対にあかん!』
「具体的で笑う」
『笑うやないねんアホぉ!』
「ん? なんか心配してくれてる侑?」
『な、んで俺がおまえの心配せなあかんねん』
「だよね。私達犬猿の仲だもん」
『えっ』
「え?」
侑の素っ頓狂な声に同じ言葉を返したけど侑からは返事がない。
「侑? 侑さーん?」
『おまえ俺のこときらいなんか』
その言葉と同時に電話口からガタンガタンと音がした。ついでに「うっさいわ。机の下に隠れてなにやっとんねん」という声も聞こえた。宮治くんかな。というかなんで避難訓練みたいなことやってるの侑。
「侑が私のこと嫌いなんでしょ」
『そんなこと言うたことない』
「態度が物語ってますよ?」
『そんな態度とってへん』
嘘だろ……と心の底から動揺した。この男、普段のイヤミたっぷりな言動はただのコミュニケーションだったとか言わないよね。……言わないよね?
「じゃあモテないとか言わないでよ。傷つく」
『それは……言う』
「なんでじゃこら」
『そう言っとったらモテへんやろ。そんな女やと周りも思うやろ』
「呪詛かけてたって自白してますけど?」
やっぱり嫌いでしょこれ! と突っ込むけど侑の言葉は「嫌いとか言うたことあらへん」の一点張り。そりゃ直接言われたことはないけど。おまえのやってることただの嫌がらせなんだよ。気づいて人でなし。
『おまえは俺のこときらいなんか』
再び聞いてきた問い。嫌い。嫌い……うーん、嫌いかと言われるとなんか違う気がするなぁ。
「強いて言えば苦手?」
そう言うとガツンと耳元から音がした。たぶんスマホを落とした音。びっくりした。
「侑?」
『…………』
「侑さん? 寝落ちした?」
いやでも机の下にいるんだよね。そこで寝落ちは逆に起用すぎるか。
『ツムなにやってんねん。落ちたスマホ通話中になっとるやん。……なんでそんな屍みたいな顔になっとるん。死神とでも通話しとるんか』
宮治もなかなか失礼なやつである。誰が死神じゃ。宮兄弟と相性悪いのかもしれない。
パタパタ歩く音とスマホを拾う音がしたあと「あ? 名字さんやん」と宮治が言った。今までクラス一緒になったことないから存在認識されてたとは思わなかった。そんなことを考えてたら「ついに振られたんか」と宮治は言った。……振られたんか? その言葉に硬直していると「振られてへんわ!」と侑の声がした。なんかさっきより周りの音が聞こえやすい気がする。スピーカーにしたのかもしれない。
『にがっ苦手って言われただけやわ!』
『振られとるようなもんやんけ。そらあんなにモテへんモテへん言う奴好きにはならんわな』
『ナマエちゃんのこと可愛い言うアホがおるからやろうが!』
ナマエちゃん。初めて聞く呼称に再び固まった。でもそんな私に気づくわけもなく宮兄弟は会話を続ける。
『それで周り牽制しとるつもりでも本人からしたら嫌な事言う男なだけや』
『なんで早くそのこと言わへんねん!』
『なんで俺がおまえの恋路を応援せなあかんのや。あとこの会話聞いとるからな名字さん』
『は?』
ばしっとした音の後で「なんでスピーカーやねん!」と侑が言った。
『…………ナマエちゃん……?』
呼称が戻ってない。もしかして私のいないところではそう呼んでるのかな。そう思いつつ「はい」と返事する。
『聞いとった……?』
「丸聞こえ」
『…………』
どうしよう。ここで振ったら止めさすもんだよね、と思ってたら侑は思いがけないことを言い出した。
『友達になって』
「え?」
『苦手にさせたんは俺が悪い。だから挽回させて。友達になって』
侑の声は迷子の子供みたいな声だった。
『俺、ナマエちゃんと話せんと寂しくてしゃーない。今までの全部謝るからお願い』
親を、家族を探してる小さな子供。寂しくて寂しくて下を向いている子供。大事なものをなくしてしまって泣きそうな顔をしている子供。そんな印象をあの侑に対して思ってしまった。
ちなみに私は4人兄弟の一番上だ。一番下はまだ小学生。わがままだけど寂しがり屋でもあって甘えん坊。お姉ちゃんお願いと言われたらめっぽう弱い。そう、めっぽう弱いのだ。
「と、友達なら」
まだ苦手意識はあるけどそう返す。
『ほんまに!? ありがとうナマエちゃん! 俺、ナマエちゃんのこと大事にする! 絶対に!』
え? 友達だよね? と思ったけど侑の声があまりにも嬉しそうで水をさすことは出来なかった。
のちに義理の家族になる治くんから言われたのだけど。
「ツムのバレーやっとるときの精神年齢下がるとこ、あんたの相手しとるときと同じやわ」
好きな子いじめから好きな子大好き大好きモードに変わった侑に抱きしめられながら「好き。めっちゃ好きナマエちゃん。はよ結婚しよ。あ、もう俺の嫁さんやったわ」と言われた私は確かに……と大きな背中をポンポンしながら納得したのだった。