○○シリーズ
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約10年のつき合いだから分かる。このクロは本気で怒ってる。急いで研磨にラインする。
『クロの怒りをしずめてください』
『むり』
『早い! がんばってよ!』
『おれは関わりたくない』
そこでラインは切れた。部活再開したのかもしれない。今日は土曜日。多分夕方くらいに部活は終わる。……逃げねば。スマホと財布を持って家から出る。お母さんから「どこにいくの?」って聞かれたけどクロがうちに来る予定なのだ。正直に言うわけがない。
「友達の家!」
「今から?」
「今から!」
「今から行ったらお夕飯までお邪魔するんじゃないの? お休みの日にダメよ」
「……遊びに行ってくる!」
扉に向かっていると「あなた何かしたわね」と言われた。何でバレたの。母の勘というものかな。そう思いつつ「いってきます!」と家を出た。
しばらく適当に近所を遊ぶ。図書館行って本を読んだり、駄菓子屋さん行って駄菓子食べたり、そこにいた小学生達と公園で鬼ごっこ(本気)したり。そうこうしているうちに夕方になった。小学生達はバイバーイとお家に帰って行った。……暇になってしまった。図書館も夕方までだし。お金あんまりないからファミレスもいくのもなぁ。今月はいっぱい遊ぶ予定があるのだ。それに晩ごはんあるし。ドーム型の遊具の中に入って三角座りでどうするか悩む。とりあえずお母さんにクロが家に来て帰ったら教えてとラインしておいた。
『鉄くんを困らせないの』
しまった。お母さんは圧倒的クロ派なのだ。クロは大きくなってから何というか気づかいとかそういうのを自然と出来るようになって年上受け抜群になったのだ。これは帰ったよって言ったのに家にいるパターンかもしれない。なんならうちでご飯食べていきなさいって誘われてる。……研磨のお家行こうかな。灯台もと暗し。クロと気まずいの! って言ったら研磨のおじさんとおばさんは「あらあら」で終わらせてくれるからいいかもしれない。研磨は口止めだ。……そもそも何でクロを怒らせたんだっけ?
事の発端をさかのぼる。スマホを操作してクロとのラインを見返す。お兄ちゃんって言ったら否定されてお父さんと言ったら怒られた。……18歳でお父さんはダメだったか……。私もお母さん扱いされたらムッとなる。これだ。クロにラインする。
『お父さんって言ってごめんね』
『ナマエ今どこにいる?』
許してくれなかった。クロは私に甘いのに! だからお兄ちゃん扱いしてたのに! というかどこにいるって聞くということはうちに来たってことだ! 想定より早い! 焦ってるとお母さんから『鉄くん家に来たわよ。帰ってきなさい』とラインが来た。素直に帰って怒られるか、うやむやにしてうやむやするか。……あれ? 家にいてって言ってたのなんだっけ? 再びラインを見る。
『どれだけおまえが好きか伝えるから家にいて』
好きを伝える。……今さら? クロに好かれてるのは分かってる。だって幼なじみだし。仲良しだし。研磨と三人で今も一緒にゲームするし。クロも自分の同級生にいつも「可愛い幼なじみ」って紹介してくれるし。好かれてなかったら可愛いなんて言わない。うんん? と首を傾げる。そのときだった。
「やっぱここにいた」
「!?」
バッと振り返るとそこにいたのは大きな身体を縮こませてドーム型の遊具に入ろうとしているクロだった。スマホをボトリと落とす。
「なんで!? なんで分かったの!?」
「ナマエは小さい頃から何かあったらたいていここに逃げ込むでしょ」
「…………」
心当たりがありすぎて言葉が出なかった。
「さてと。逃げ出したナマエちゃん? お話しようか?」
顔の横に手を置かれて退路をたたれた。そもそもクロの大きな身体で遊具の中で自由に逃げ回るほどスペースがない。笑顔のクロに「ひっ」と情けない声が出た。
「なんでそんな声出すの? 俺はお話しようって言ってるだけだろ?」
「クロ怒ってるもん!」
「誰のせいですか?」
「……私です……」
「言うことは?」
「……逃げてごめんなさい」
「とりあえずよし」
そう言ったクロは私の背中とお尻に両腕を回して身体をふわりと浮かばせる。浮遊感にびっくりしているうちにあぐらをかいたクロの太ももの上に身体を横向きに置かれた。
「……なんでこの体勢?」
「全然焦らないねぇ」
「びっくりはした」
「それだけでしょ。まー俺のせいでもあるんだけどさ」
離れられないように甘やかしたから。そう言ってクロは顔を近づけてきた。顔が静かに重なる。唇に柔らかいものが当たっていた。クロの匂いがする。場違いにそんなことを思っているとクロは顔を離した。
「…………ちゅーされた?」
「ちゅーしたね」
「なんで」
「好きだから。お嫁さんにしたいって意味で」
「およめさん」
「お嫁さん」
私の復唱にクロは返して次はちゅ、ちゅ、と音をたてて何度も口付けてきた。今度は手でクロの肩を押したけどびくりともしない。唇が離れる瞬間に文句を言おうと口を開いたら、深く口同士が重なって濡れた感覚が伝わってきて焦った。んー! とクロの肩を叩いてたらぺろ、と舌で唇を舐められてから唇が離れていった。
「舐められた!」
「舐めました」
「えっちだ!」
「俺はもっとえっちなのしたいけど」
身の危険を感じてクロの上から逃げようとしたけど両腕を身体に回されて逃げられなかった。
「俺がナマエのこと幼なじみじゃない好きだって分かった?」
「わ、分かったから離して」
「ダメ。ここで分からせないとまた父親とか言い出すから」
「もう言わない!」
強く主張するけどクロは離してくれない。右側に当たる硬いクロの身体を変に意識してしまう。私の顔を触る大きな手が男の人だって言ってくる。
「クロぉ……」
なんだか知らない人みたいで目が潤んできてしまった。
「泣いてもだーめ。今日は話し合いの日です」
「話し合い……」
「話し合い。……ナマエは俺とどうしたい?」
「どうって」
なにが? と首を傾げていたらクロは苦笑した。
「俺とナマエは幼なじみだけど男と女なんだからずっと一緒ってわけにはいかないんだよ」
「…………」
「俺は来年大学入るし距離も出来ちゃうよ? 今までみたいにナマエに構ってあげられなくなるし、大学でも新しい出会いがある。それでナマエのこと忘れちゃうかもね」
「っ」
「ナマエはそれでも平気?」
「やだ」
即答してクロのジャージを両手で握りしめる。離したくないって気持ちが溢れ出て仕方ない。うぅ、と涙が流れた。
「やだ、だめ。だめ。クロはあげない。忘れるのもだめ。クロは私と研磨の」
「研磨は俺いらないって言うと思うけど」
「じゃあ私の」
「言ったな? 訂正はもう無理だから」
「訂正なんかしない。クロはあげない」
「それどういう気持ちだと思う?」
「?」
「独占力。嫉妬。……ただの幼なじみじゃ出てこない気持ちだよ」
頭の後ろに手を回される。ゆっくりと、避けてみろと言わんばかりの早さでクロは顔を近づけてくる。何をされるかもう分かっている。でももう逃げようなんて一ミリも思わなかった。
ふんわりと当たったキスは心地よかった。
「ナマエは研磨とキスできる?」
首を横に振る。絶対にできない。想像すらできなかった。
「じゃあ何で俺とは出来たの?」
「……クロが、」
「俺が?」
「特別だから……?」
「もう一声」
ちゅ、とキスされる。離れた瞬間、追いかけて私からもキスした。途端に心に広がる充実感。クロが私のものだって感じる。離れたくなくて唇が触れそうな距離のままでクロの首に手を回した。
「誰にもあげない。私だけのクロにする」
「ん。じゃあナマエも俺だけのもの」
「うん」
「ハグもちゅーもそれ以上も俺だけ」
「うん」
「まずは彼氏彼女からで大学出て数年経ったら結婚ね」
「いいよ」
「うん、いい子」
クロはそう言って笑って私にキスした。私は目をつむって全部受け入れた。
*****
「クロさぁ」
研磨がスマホを触りながら話しかけてきた。部室にはまだ黒尾と研磨しかいない。
「ナマエのこと子供のときから独占して依存させてクロ一色にさせてたんだから、兄とか父親扱いされても怒る資格ないよね」
「あー」
「可愛い幼なじみって言ってくっ付いてナマエ狙う奴睨んで牽制してよくやるよ」
「俺がいなくなる一年間は研磨の役目だから」
「おれを巻き込まないで」
本気で嫌そうな顔をする研磨に喉を鳴らす。こんな顔をしつつもどうせほっとけないくせにと思う。
黒尾の可愛いナマエ。小さいときから大事に大事にしてきたナマエ。本来の計画ではもう少し幼なじみ期間を楽しむつもりだったが、ナマエがナンパされたと聞かされて考えが変わった。どこぞの男にかっさらわれる可能性が出てきたのだ。そんなの許容できるわけがない。ナマエは黒尾のなのだから。
ジャージの前を上げる。バレーシューズを持って立ち上がった。研磨はぽつりと呟いた。
「真っ当に告白して両思いになればよかったのに。どうせ離れるとか言って脅かしたんでしょ」
「ナマエも悪いでしょ。クロのお嫁さんになる! って言ってたのに忘れてるんだから」
「子供のときのやつじゃん……」
「研磨は覚えてるし」
「クロが気持ち悪いくらい喜んでたから覚えてただけ。……ナマエが嫌がったら逃がすからね」
「そんなの有り得ないから心配しなくても大丈夫」
出入り口の扉をガラガラ開ける。空は眩しいくらい綺麗だった。
「ナマエは俺が幸せにするから」
どんな手段をとっても。