○○シリーズ
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バン!
朝、登校して窓際の席で椅子を横向きに座って友達とおしゃべりしていたときだった。少し暗くなったと思ったら顔の横に手をバン! とされた。しゃべってた友達が「窓バン……」といらんこと言っている中、恐る恐る顔を上げると無表情の宮治がいた。
「おはようさん?」
「おはようございます宮さん……」
「他人行儀な呼び方せんでや。治って呼んで?」
「呼んだら魂抜いたりしませんか……?」
「どこの吸魂鬼やねん俺は」
軽くおでこで小突かれる。距離が縮まる。すぐそこに宮がいる。
『ずっと好きやったから彼氏にしてや』
友達だった。仲がいいと思っていた。けど宮は違っていた。宮の整った顔をちらりと見ると無表情のくせに熱情のこもった目で私を見ていて身体の熱が連鎖していくようだった。
「ちか、近いです」
「誰かさんがライン無視せえへんやったらこんなことせん」
「今から返信します……っ」
「もうええわ。で、どうするん? 愛がほしいんやろ? 俺がやるって話でええよな?」
「お弁当捧げますので……!」
「俺を祟り神かなんかと思っとるな。ただのおまえに惚れた男や」
びびんなや、と頬を撫でられて熱が上がる。
「うひゃぁあああっ!」
「!?」
「もうだめ! バリアー!」
「避難訓練すな。でてこいバリアーなし」
奇声を上げて宮がひるんだ隙に机の下に隠れた。椅子を引いてガードしてたら横から手がにゅっと入ってわき腹こちょこちょされた。
「にゃふっあはははは!」
「出てくるまでやめへんぞ」
「宮、宮っ! そこはっだめです! あはは!」
「出てこい」
「出ますぅうう!」
膝をついて机からでる。はあ、はあと下を向いて息を切らしていると顔をくいっと上げられた。再び宮治。こんにちは。
「おまえが俺を欲しがったんや。絶対逃がさん」
「……ひゃい」
プレッシャーに負けて弱々しく返事をすると宮はやっと無表情をやめて顔を緩めた。そして私と話してた友達に目をやる。
「名字に彼氏の話してくれてありがとおな」
「因果関係が分からへんけどどういたしまして? ていうかあんたら付き合うん?」
「そうやで」
「そうやで?」
「そうやろ?」
「そうです……?」
「ナマエあんた圧に屈しとるで」
知ってます。知ってるけど普段おっとりしてる分、今の宮の圧は怖い。双子の片割れとケンカしてるときとはまた別の怖さがある。腕をひょいと掴まれて立ち上がる。身長差があるのでゆっくり恐る恐る見上げると宮は屈んでおでこでぐりぐりしてきた。猫みたいな動きだった。
「怖がんなや。別にすぐに食ったりせん」
「すぐに……?」
「そこ引っかかんな。話が進まん」
「はい」
「彼女になってくれるなら待てる。一口食べたら余計に腹減ってまうけど待ったる。だから俺のになってや」
手をぎゅっとされる。ここで離さなかったら私は宮の彼女になる。だからちゃんと考えないといけない。
『名字、なにしてんねん』
『黒板消し』
『上消せてへんやん。言えや』
『名字それ何食うとるん?』
『肉まんじゅう。食べる?』
『食う』
『名字。寒いならこれ羽織っとき』
『これ宮のジャージじゃん。宮が寒くなるよ。忘れた私が悪いんだから』
『動いとったら寒くないわ』
『名字。寝癖ついとる』
『えっ! 直してきたのに!』
『櫛かしてや。やったる』
『女の子の髪触ったことあるの?』
『なんとかなる』
『名字、なんで目腫れとるんや』
『動物の映画みたの~泣けたー!』
『ならええわ』
なんてない日常。思い出すのはそんな日々。それでも宮がいる日常は楽しい。ほっとする。そしていつも宮が話しかけてきてくれていた。気にしてくれていた。いつからだろう。いつから宮は私のこと好きになってくれたんだろう。
宮の顔をみる。真剣な顔。こっちが気後れしそうなくらい圧のある真剣な顔。でもこれはそれだけ私のことを想っていてくれている証拠だ。だから、
「……治って呼んでもいいですか」
それに答えたいと思った。
「……ええって言いよるやろ」
ふっ、と笑って再びおでこをぐりぐりされる。なんだか恥ずかしい。宮……治が彼氏。照れちゃう。恥ずかしい。
「顔赤くなってかわええなおまえ」
「うーるーさーいー」
「ナマエ」
「!」
「って呼ぶけどええな?」
「……どうぞぉ」
「声ちっさ」
笑いながら長い手が背中に回る。内心悲鳴を上げてた。手をどうしたらいいか分からなくて胸の前で構える。
「俺の背中に手ぇ回せや」
「はずかしいのです」
そう言って目をぎゅっと瞑ると「なに? キスしてええってこと?」って聞かれたので勢いよく目を開けたらめちゃくちゃ笑われた。
「かわええなあ」
しみじみ言う治に「かわいくない……」と蚊の鳴くような声で返したけどご機嫌な治には聞こえてなかった。