○○シリーズ
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角名にラインして寝落ちしたところで朝、通知がたまってるのに気づいて読み返した。期待した俺が悪い? 全部あげる? ……なにを? どういうことだと首を傾げて「もう一回お願いします」のスタンプを押した。
制服に着替えてネクタイをしめてのんびり朝ご飯を食べて学校に向かった。自転車で10分圏内で楽々だ。でも北さんの方が早いんだろうなぁ。北さんが主将になって私の持っている部室の鍵と体育館の鍵が活躍したことはない。
ふんふーんと自転車置き場に自転車を置く。体育館に向かっていると曲がる寸前でグイッと腕を掴まれた。びっくりしすぎて声が出なかった。学校内で変質者!? と思って身構えるとそこには見知った顔があった。
「なんだ、角名かぁびっくりしたぁ」
「…………」
「早くない? 私はドリンクの準備あるから早めだけど」
自主練かな? と思っていたらもう片方の腕も掴まれた。手錠みたいになってる。なにこれ。
「角名さん?」
「もう一回ってなに」
「もう一回?」
「この能天気な顔本当に分かってないやつだ」
はーっと大きなため息をつかれた。
「あのスタンプの意味考えて考えて考えてた俺の時間返してほしい」
「スタンプ……ああ! 朝の」
「よく分かってなくて適当なスタンプ押したでしょ」
「え、うん」
「適当に生きてるのどうにかして。唐突に愛を求めてきたくせに。で、俺以外に誰に求めたの」
おかしい。私は角名と話してるはずだ。なんで北さんみたいな圧迫感を角名から感じているんだ。背筋をシュッとしつつ口を開く。
「寝ました」
「は?」
「寝落ちしました」
「……つまり俺以外にラインした人はいないと?」
「はい」
「ならいいよ」
なんの許可……とおののいていると手錠状態の腕を上げられる。同時に角名は屈んで私の手に口を寄せた。
ちゅ。
そんな音が指の付け根からして柔らかいものが触れた感覚がした。
「愛をあげる。俺だけの。というか俺以外のもの受け取っちゃダメ」
「…………」
「この顔理解がついて来てないな。じゃあはっきり言うけど名字が好きだから。昨日のラインの好きな子は名字。急に愛をくださいとか言うから遠まわしに告白されてるのかと思って期待したけど、そんなことはなくて。いつもの適当大らかなやつだったから少し落ち込んだ。……というわけで俺の愛情全部あげるから俺の彼女になって」
「……角名、愛情、彼女……?」
「意識追いついてないな。名字はうんって言えばいいだけだよ」
「え、うん」
「うん。今日からよろしく彼女さん」
角名はそう言って今までに見たことない顔で笑った。
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「──じゃあ今日の練習はこの予定でいくで。何か質問あるか?」
「監督」
「なんや名字」
「彼氏が出来たときはどうしたらいいですか」
私がそう言うと隣にいた北さんが「おまえこれ部活の話やぞ」と突っ込んだ。でも監督は笑って話しかけてきた。
「彼氏できたんか! 名字!」
「なんか出来ました」
「その辺で拾いましたみたいに言うなや」
「だいたいあってる」
「だいたいあってる!?」
どないなってんねん! 最近の女子高生! と嘆く監督に「おまえいつもの適当さで返事したんとちゃうやろな?」と北さんは少しプレッシャーをかけてきた。なぜわかった。というか気づいたら頷いてたが正しいけど。
「怪しい奴ちゃうな? 大丈夫か?」
年頃の子供を持つ監督はおろおろと私を心配しているけど相手は監督もよく知ってる角名だ。全然怪しくない。だから大きく頷くと監督はほっとしたように息をついた。
「ならええけど。ちゃんと節度を保った付き合いするんやで?」
「はーい」
「返事を伸ばすな名字」
「はい、北さん」
「前から思っとったけどおまえ信介のほうが従順やないか……?」
気のせいです。気のせいということにしておきましょう。
そんな会議のあと朝練があって授業があってあっという間に昼休み。友達とご飯を食べてる。相変わらず彼氏の話している。そんなに好きか。
彼氏。私にもできたやつ。角名の顔を思い出す。ロードワークのショートカット探してサボろうとしてるの見つけたときの姿を思い出してしまった。たぶんこういうときに思い出すのはああいう場面じゃない。
彼氏。初めての彼氏だ。どうしたらいいか分からない。なんかそわそわするような変な感じがするけど。
「ナマエ聞いてる?」
「え、うん。火の輪くぐりしたんでしょ彼氏。すごいね」
「私の彼氏はライオンか!」
聞いてへんやったなとデコピンされた。肉食系って聞いてたので。
「ナマエはぽやーっとしとるからなぁ。なんや心配やわ。押し切られて変なのと付き合いそう」
「変なのではないはず」
「……うん? 彼氏おるみたいな口振りやけど」
なんかできたんだよ、と言おうとしたときだった。「ナマエ」と真上から声がして顔をあげた。角名だった。ぴきりと固まる。
「ナマエ、世界史の教科書持ってる?」
「…………」
「ナマエ?」
頬に手を添えられてぽんぽんと触れられた。大きなあったかい手にぶわわ、と顔が熱くなった。
「また意識飛んでる?」
「私はナマエですが、」
「? うん」
「なんで名前で呼ぶのですか」
「付き合ってるから」
角名の当たり前みたいな口調にそわそわが増した気がした。
「は!? あんたらいつから付き合おうとるの!?」
「今朝から」
「聞いてへんで! ナマエ! ……ナマエ、顔真っ赤やん」
どないしたん? と聞いてくる友達。毎日部活で無味乾燥と私に言ってきた彼氏持ちの友達。なんか言ってる意味がちょっと分かってしまった。名前呼びだけでこんなに世界の色が変わるなんて知らなかった。ドキドキするなんて知らなかった。
角名を見つめる。なんだか満足そうな顔をしている。なんだその顔。
「なんでうんうん、って顔するの」
「俺だけが意識するんだろうなって思ってたけどそうでもなかったから」
「意識……」
「手繋いでみようか」
ノーと言う前に角名の手が私の手を掴んでいた。大きさの違う手。豆があって硬くてごつごつしてて、男の人って手で。一気に角名が違う存在だと分かってしまった。熱い。身体が熱い。
「~~~っ、恥ずかしいから離して」
「可愛いからダメ」
「可愛い……?」
「うん、可愛い。好きだよナマエ」
「!!?」
心臓に攻撃されたかと思った。そのくらいバクバク言っている。この角名は誰だ。いつも私、低燃費みたいな顔してるのに。どうしよう。どうしよう。
「私……」
「うん」
「角名のこと好きになったら死ぬんじゃないかな」
「どうして?」
「だって今でもドキドキが止まらないのに好きになったら心臓が追いつかないよ……どうしよう」
「ナマエ」
「ここでキスなんかしたら張り倒すからな角名」
「邪魔しないでくれる?」
ライオンを彼氏に持つ友達とチベスナ似角名が睨み合う隅っこでああ……と頭抱える。適当に返事するからこうなるんや、と脳内北さんが私に言ってきていた。全くそのとおりです。助けて北さん。