○○シリーズ
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「ツムの昼休みに来るくせに話しかけずにチラチラみてから帰っていくのなんやねん」
「あー……」
初ちゅー事件から五日目。侑はまだ気まずい、けど私が嫌になったと思われたと言ったから顔だけは見せてくるようになった。話しかけに来ないけど。なんか定期的に現れる野良猫みたいな動きにしている。餌確認しに来たみたいな。治は事情を知らないからただただ奇妙な行動にしか見えてないけど。どうやら初ちゅー事件は治に話してないらしい。……話さないかさすがに。
「まあそのうち元に戻る?」
本人が中学生みたいでダサいと気にしてるのがなくなったら。……一応侑が初彼氏だから勃ったのなんだの言われて動揺したんだけど、当の侑があれだから一周まわって微笑ましくなってきた。……中学生扱いしてるのは私もかもしれない。
「でもええんか?」
「なにが?」
「ツムのクラスのなんやっけ……モデルやっとる奴」
「ああ、はいはいあの人ね」
スタイルよくて可愛い子。うちの学校じゃ有名だ。
「その子がなに?」
「最近ベタベタしとるみたいやで。ツムと」
「は?」
「満更でもなさそうやったでツム」
「は?」
持ってたプリントがぐしゃりとなる。ボランティア来てね! と可愛く言ってるハムスターのプリント。ごめんねハムスター。今それどころじゃない。
「は?」
「俺に凄むなや」
「……そうだよねぇ言うべきは本人だねぇ」
「こわ」
ツムついにお縄につくんやな、と完全に他人事の治に日誌を押し付けて侑のクラスに向かった。隣のクラスだからすぐだ。そしてそこで見た光景は……
「もお~侑ったらほんまおもろいわぁ」
「せやかてしゃーないやろ」
「で、どうなったん?」
一つの机で向き合って至近距離で話す男女。顔近い。女の子の声甘々。侑満更でもない。ちっ! と舌打ちした私に入り口近くの席にいた子がびくっ! と肩を揺らした。
「あ、ごめんね?」
「いえっいえっ! 侑ですか!?」
「自分で行くから大丈夫」
にこりと笑ったのになぜかごめんなさい! と言われた。あの人の情緒が分からない。でもそれどころじゃないから二組に入って足を進める。その間に女の子の方は侑の腕に触って「もー!」と甘えている。牛かてめぇ。侑は特に払ったりしない。てめぇ。てめぇ。
「あーつーむーくーん」
近づきながら話しかける。侑は肩を大げさにびくっ! ってしてこちらをばっ! と見た。なんだそのお化け見つけたみたいな反応は。女の子は不機嫌そうな顔で私を見た。はい、お互いに敵認定ね。了解了解。
「お話しようか?」
「なっ、なにをやねん……?」
「なにをやねん?」
首を傾げて言葉を繰り返しただけなのに侑はスッと背筋を真っ直ぐにして立ち上がった。なんだその北先輩がいたときみたいな反応は。まあそのおかげで女の子の手が侑から外れたからよし。……と思ってたら女の子は侑の手を握った。
「今話しよったの私やろー? なんなんおっかない顔してこわーい」
「怖い、ねえ。ねえ、侑? この子私が怖いんだって。でも私は侑に用があるの。どうする侑? 怖くない子と一緒にいたい? ねえ手繋いでる侑くん?」
ばっ! と手を抜いた侑にとりあえずうんうん、と頷いて笑顔を向けたら「ナマエさん優先です!」とビシッとしながら言ってきた。
「だって」
「~っ、めっちゃ性格悪いやん! 侑の彼女!」
彼女と思ってながら手繋いだの自白したな。この女、ここで潰す。そう決心して侑の緩んだネクタイをぐいっと引っ張る。侑は体勢を崩してこちらに向かってくる。
ちゅ。
侑のほっぺに音をたててキスした。侑は固まってた。上目遣いに侑を見つめる。
「侑? 侑の好きな相手はだれ?」
「ナマエさんです」
「だよね。じゃお話しよっか」
指を絡めて手を繋いで侑を引っ張る。教室を出るとき女の顔をみてにっこりしておいた。すごく悔しそうな顔してて満足した。
しばらく歩いて空き教室に入る。そこでこの男どうしてやろうかと思ってたら侑は足を抱えてしゃがみ込んだ。
「侑?」
「…………」
「なんでしゃがむの」
目の前に私もしゃがみ込むと侑は頬を染めて顔を膝にうずめた。なにその反応。ピュアっ子みたいな反応して。自分の腹の色忘れたのか。真っ黒でしょ。
「あーつーむー」
「………」
「顔みして?」
そう言って頭を触ると「さわるなや」と弱々しい声で返ってきた。腹から声出せ。
「どうして?」
「…………」
「言わないならあの女とベタベタしてた件。やり返すよ」
「は?」
「私も他の男と同じことする」
「やめろや!」
「その反応するってことはあの女の気持ち分かった上でされるがままだったってことね。さらに罪深い。理由言わないなら絶対許さない」
「…………ったんや」
「腹から声出せ」
「勃ったんや! ぼけ!」
顔を赤くしてそう叫ぶ侑に思わず該当箇所に視線を向けようとすると「見んなや!」と片手で視界を塞がれた。仕方ないのでそのまま話す。
「なんで勃つ……?」
「おまえがちゅーしたからやろうが」
「ほっぺじゃん」
「ちゅーやろうが。あと上目遣いしてきた」
「侑……ちゃんと抜いてる?」
あまりに刺激(ともいえない)に弱すぎないか。思わず下世話なことを言ってしまった。侑は「変態女! 抜いとるわ!」と叫んだ。教えるんかい。
「お前が悪い」
「なんでよ」
「えろい身体と唇しとるからこんな事になったんや」
「責任転嫁では」
「その証拠に似た体型のあの女やとピクリともせんかったわ。だからお前のせいや」
「……もしかしてそれ確かめるためにあの子とイチャイチャしてたの?」
「イチャイチャやないわ確認や」
「イチャイチャだから。次やったらこのこと治に言うから」
「絶対やめろ!」
「こっちのセリフじゃ」
なんなのその理由。あの女は許さないけどほんの少し同情した。侑に試金石にされてたってことでしょ。ぶっちゃけると勃つかどうか。
「侑くんさぁ」
「なんやねん」
「私のこと大好きだからそうなるんでしょ。他の子と比べても仕方ないでしょ」
バレーでは頭の使うセッターやってる、しかもユースに選ばれるくらいの実力のくせにこんなことも分かってないとか。理由に気が抜けて、バカらしくて、侑が可愛くみえてしまった。一部可愛くなってないところあるけど。
「ちゅーは私達はまだ早いみたいなので、手を繋ぐからしよっか。それならまだ平気でしょ?」
「…………」
「侑ー?」
「今静めとんねん」
「はいはい、黙ってます」
「黙らんでええ」
「わがまま」
でもこのわがままが好きなんだよな私も。そう思うとお似合いな気がして笑みがこぼれた。