○○シリーズ
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ベッドからバタンと落ちた。クロのメッセージにびっくりし過ぎて。するとその音はクロに伝わったらしい。クロは勢いよく扉を開いて入ってきた。
「おい! 大丈夫か!? なんだ今の音!」
「ふぎゃあああ!!」
「どっちその叫び!?」
ベッドの下で膝をついてる私をみてクロがやってくる。一途さは研磨が保証済みの、クロがやってくる。
「くろーさん」
「なんでさーむらさんみたいな呼び方すんの」
「私のことがすきなんですか」
クロはパチリとまばたきしてふっと笑った。そしてしゃがみこんで大きな身体を丸めて視線を合わせてくる。
「好きですよ? 子供のときから」
「し、しらないそんなの」
「言ってないから。まあ研磨にはバレバレだったけど。……夜っくんにもバレてるか。あと海にも」
「けっこうバレてる……」
「けっこうバレてるねえ」
手を伸ばして手の甲で頬をふにふにされる。固い手。子供のときとは全然ちがう、男の人の手だった。
「涙のあとついてる。まぶたも擦っただろ。赤くなってる」
冷やさないとなーと話すクロはいつも通りで。
「で、俺にする話はどうですか? 身長高くて大人っぽいと女子の後輩たちには結構評判なんですけど?」
でも私を見る目は全く違っていた。いや、私が気づかなかっただけでクロはいつもこんな目をしてたのかもしれない。こんな慈悲むような優しい目。愛おしいものを見るような目。
「まあ答えなくてもいいよ。今日から勝手に彼女扱いするし」
「!?」
「よいしょっと」
クロの言葉に混乱しているとクロは私の身体に手を回してひょいと抱き上げた。
「え、え、えっ!?」
「ナマエちゃん、首に手を回してもらったほうが安定するんですけど」
「ぎゅってしたらクロが近くなるのでは……?」
「なるねえ。おばさーん、アイスノン貸してくださーい」
「はいはいナマエ泣き止んだ? あーもうまた鉄くんに甘えて! 何歳になったと思ってるの!」
「17歳です……」
でもその17歳を抱っこし始めたのはクロです。それは言えなくてアイスノンをお母さんから受け取ったクロにソファに下ろされてまぶたを冷やしてもらっていた。貸してっていっても「いーや」と貸してくれなかった。
「クロ、」
「んー?」
「彼女扱いってなんでしょうか」
「登下校一緒にしたり」
「今も一緒」
「じゃあ手も繋ごっか」
「! 研磨もいるっ」
「気にしないでしょーよ」
「恥ずかしい……」
「慣れてください。というわけで予行練習」
アイスノンを持ってない方の大きな手で手を繋がれた。豆のある固い指とか、ごつごつした手とか、体温の高さとか、一気に色々伝わってきてカーッと顔が熱くなる。
「ウブで可愛いねえ」
「ばかにされてる……」
「嬉しいだけ。俺がこれから全部教えられるから」
「か、彼女になるって言ってないっ」
「ナマエはぽやぽやしてるからそのうちに周りに周知させるので諦めてください」
「悪徳業者の方ですか……?」
「ナマエを手に入れられるならそれでもいいよ」
ぎゅっと力を入れられる。クロの真剣な目にそらしたくなったけど、ここでそらしたらクロの気持ちを見なかったことにするみたいで出来なかった。失恋したから分かる。なかったことにされるのは悲しい。
同じ委員の人だった。「私があなたを好きって言ったらどうする?」って聞いた。彼は目を見開いてから少しして「俺と名字はそんなんじゃないだろ」と笑って言われてしまった。その笑い方はいつものとは違って困った笑い方だった。
「……いっぱい泣いたけどまだあの人が好きだよ?」
泣いたからって恋がすぐに流れてくれるわけじゃない。想う気持ちがなくってなんかくれない。気持ちをなかったことにされても。
「いいよ? これから好きになってもらうから」
それなのにクロは軽々とそう言いのけた。
「クロだけが損してるよ。クロは彼女にした相手に絶対に優しくする。そんなのダメだよ」
「損? 好きな子が彼女って得でしかないでしょ」
「同じ気持ちはないんだよ」
「好きになってもらうって言ってるでしょ。根気はあるつもりだよ? どんだけ片思いしてたと思ってるの」
そう言ってクロは私の指と自分の指を絡めて自分の頬に手の甲を当てた。
「他の男のこと見てるナマエを見る方がよっぽどきつかったよ。何で怖がってたんだって思った。幼なじみの関係に甘えてた自分が恥ずかしかった」
「クロ……」
「ナマエ、チャンスをちょうだい?」
一瞬だけクロの手が震えた。でも目の力は変わらず強かった。
「ナマエ、俺を選んで」
「…………」
もし、を考えた。クロの隣にいる自分。手を繋いで一緒の道を歩く姿。笑いあう姿。それを考えたら心がふんわりと温かくなった。幼なじみの情かもしれない。今まで積み上げてきたものが崩れるのが怖いだけかもしれない。それでもその光景は心地いいなと思ったから、クロの手をぎゅっと握りかえした。クロは途端に破顔した。そして身体を上げて私のおでこにキスした。……キスした? ゆるゆるとおでこを触る私にクロは目尻を下げた。
「ナマエ好きだよ。愛してる」
その声があまりにも優しくて、なぜか泣きそうになって、言葉が出なかったから小さく頷くしか出来なかった。