○○シリーズ
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「俺ばっかりがナマエのこと好きだったよな」
元カレの最後の言葉がこれだった。過去形な時点でもうやり直すとかそんな域ではないと分かってしまった。大ざっぱとか誰にでも愛想振りまいて嫌だったとか色々言われたけど、これが一番効いた。
私だって好きだった。言葉にも態度にも出していた。──でも伝わっていなかった。そんな結果になってしまってつき合ってる意味あったのかなと考えてしまって、虚しくなってしまって、勝手に涙が流れた。悲しいとかは不思議となかった。なんでかな。まだ実感がわいてないからかな。泣きながらぼんやり考えていたところで赤葦ライン襲撃事件が起きた。温度差で風邪ひくかと思った。
「赤葦ドリンク」
「ありがとうございます。今日も好きです」
「はいはいありがとね」
「伝わってないようですので抱きしめていいですか?」
「伝わっています! 伝わっています! 伝わっています!」
「ならよかったです」
そう言ってドリンクを飲む赤葦。平然とした顔でなんてことを言う。ううう……となりながらドリンクを渡して回る。同じマネの雪絵とかおりからは「遊ぶな~」「元気ね」と笑われたり飽きられたり。木兎なんかは最初は「名字のこと好きだったの赤葦!?」と騒いでたけど慣れたらしく最近は「あかーしめげねーな」と感心している。感心するな。
赤葦には「振られたばかりだからそう言う風に切り替えられない」とお断りの返事をした。そのときの赤葦の反応は「はあ」だった。知ったことではねーな感が凄くてこいつ……! ってなった。
その反応のとおり、赤葦はことある毎に私に気持ちを伝えてくる。こんにちはくらい気楽に言ってくる。それなのに軽々しく聞こえないのは赤葦の目がいつも真っ直ぐだから。正直その瞳の強さにそわそわしてしまう。落ちつかない。心臓がドキドキする。
『俺ばっかりがナマエのこと好きだったよな』
その度に元カレの言葉を思い出す。伝わっていなかった気持ち。ちゃんと好きだったのに。言葉にも態度にも出した。でもダメだった。なんだか自分に欠陥があるのではないかとさえ思ってしまう。そんな私が好きだって言ってくれる赤葦。どうしたらいいんだろう。
「ありがとうございましたー!」
練習が終わってみんなモップがけを始める。今日も大きな怪我なく終わってくれた。ホッと息をついていると「ナマエさん」と声をかけられる。少し待ってから振り返る。赤葦だ。
「今日送っていきます」
「えっなんで」
「ナマエさんの通学路、不審者情報出てるので」
赤葦はそう言い残してモップがけに戻った。不審者情報……それは……となってたら雪絵から「送ってもらいなよ~。心配だし」と少し眉を下げた珍しい姿をみて赤葦に甘えることになった。
「お、お願いします」
「はい。リュック、自転車カゴ入れていいですよ」
「だ、大丈夫です」
「遠慮がちなところも好きです」
「何でも好きって言うこの人……」
「顔がしおくちゃピカチュウみたいになってます。可愛い」
ほんとにほめ言葉かそれはと思ってたら赤葦はふっと笑って私の頬に手を当てた。
「好きな人の動作は何でも目に入るし可愛く見えるんです」
「…………私のどんなところが好きなの?」
「表情がころころ変わるところ、人なつっこいところ、意外と負けず嫌いなところ、大らかなところ、友達が多いところ、友達思いなところ、バレー部を大切に思っているところ、笑った顔、怒った顔、困惑した顔、猫好きなのに猫に逃げられてしょんぼりしてる顔……」
「もういい! もういいです!」
私は私のこと最近いやなのに、とちょっと卑屈になってたらそれ以上の勢いで吹き飛ばしてきた。というか今日のお昼に猫に逃げられたのなんで知ってるの。そう思いつつ一歩下がって赤葦の手から逃れた。ほっぺが熱い。
「ナマエさん、そろそろ俺のこと彼氏にしませんか?」
「そろそろ……?」
前後関係が不明すぎる。怪訝な顔をしていたら赤葦はだって、と言葉を続ける。
「ナマエさん、俺のこと気になってるでしょう」
「そ、れは毎日好きって言われたら当たり前でしょ」
「俺のこと考えない日ないでしょ」
「毎日会ってるから」
「俺と話してたら顔が赤くなります」
「っ、だって好きって言うから……!」
「不快な存在だったらそんな風になりませんよ。だから俺は彼氏にしていいラインに居ると思うんです」
そう言って片手を掴まれる。豆だらけの固い手。バレーをがんばってる手。
「ほら、手繋いでも払わない。ナマエさんは俺のこと好きになりはじめてますよ。絶対に」
「……私がそう思ってないのに?」
「俺には伝わってるので」
「…………」
伝わっている。その言葉になぜかまぶたが熱くなった。
「……ほんとは」
「はい」
「寝る前とか赤葦の顔思い出したりする」
「嬉しいです」
「スマホに赤葦のライン画面だしたりするの」
「なんでもメッセージ送ってください」
「……好きって言ったらそのまま受け取ってくれる?」
「全部受け取ります。それで十倍にして返します」
「俺の方が好きで嫌だとか思わない?」
「別にどっちかの比重が大きくてもいいでしょう。人それぞれです。万が一嫌だと思ったら俺と同じくらい好きにさせる楽しみがあるって考えます」
「……赤葦」
「はい」
「おんなじくらいの好きじゃないけど、赤葦といたいって言ったら困る?」
「喜ぶだけですね」
手を引っ張られて赤葦の肩に頭をくっつけられる。ぽんぽんと頭を優しく撫でられる。優しい手に安心して、泣きそうになった。今度は伝えられたらいいな。伝わったらいいな。真っ直ぐに私に気持ちを伝えてくれるこの人に。その努力をしよう。そう思って赤葦の耳に「あのね、」と話しかけた。