完結済み
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嘘つきだと思った子は本当に心が読める子で、二人きりのときは泣き虫だった。
隣のクラスだった名前はいつもひとりだった。ひとりで遊んでいた。同じ園児達も名前を怖がったり嫌ったりしてハブいていたし先生達も名前を見ないようにしていた。子供からも先生達からもそんな扱いをされている名前は保護者からも疎まれていた。子供だから何言ってるか分かってないと思って大きな声で大人達は言う。気味が悪いって。分からないわけがないのに。
名前はそんな態度や言葉全部に傷ついていたのにひとりの時は俯いても、それでも平気そうな顔をする。ずっとひとりで遊んでて、誕生日会で名前を呼ばれなくても、折り紙の金メダルを貰えなくても、お昼寝で寝れなくて体調が悪くても、平気なふりをする。全然平気じゃないのに。
名前は手を繋いだらすぐに泣く。最初は嫌なのかなと思って離そうとしたけど泣きながら「いやじゃないっ」と言葉をつっかえて言うからそのまま繋いでいた。おれに名前の気持ちは伝わらないけど、いつも泣けない名前が泣ける時間だと思うと大切な時間だと思った。
「澄晴、あの子とよく話してるって先生から言われたのだけど」
「あの子って名前?」
「そう、名字名前ちゃん。問題のある子みたいだけど大丈夫なの?」
親の言葉に傷ついてるのが分かった。自分の安心できる場所 が名前を悪く言う。何も知らないのに。
「名前はなにもしないよ。いっつも泣くだけ。手つないだだけで泣くの。たぶんさびしいって泣いてるんだよ。それだけで名前はわるい子?」
親に抱きしめられた。ごめんなさいと謝られた。友達を悪く言われたら哀しいよね、そんなことをしてごめんなさい、と。頬に伝う涙に気づいたのは親に拭われてから。何で泣いてるのかな。名前の泣き虫が移ったかなとぼんやり考えていた。
名前に友達を作ろうとおれなりに輪の中に入れようとしたけどダメだった。みんな名前を嫌がってしまう。怖がってしまう。ただの泣き虫で寂しがりな子なのに。途中から名前はもういいよ、と諦めたように言った。おれの手をぎゅっとして「これだけでうれしいの」と笑う顔はずっと心に残っている。
名前との関係は小学生になっても変わらなかった。放課後や休み時間に会って手を繋ぐだけ。学年が上がるにつれて名前は泣かなくなった。その代わり嬉しそうに「すみくん」とおれの名前を呼んで笑った。なんてない話をした。それだけで名前は幸せそうにするから、おれはいろんな話を名前にした。したかった。おれが名前を笑顔にしたいと思った。名前の笑顔に癒されてるのが分かった。
それが変わってしまったのは中学に上がってから。同級生が兄のAVを盗み取ったから見ようぜと誘われて、どうでも良かったけど腕を引っ張られて連れて行かれた。こんなことより名前と話したいと思っていたら、強烈な映像が目に入り込んだ。苦しいのかと思うほどに泣き叫ぶ女優。見るのも憚れる光景。音。それなのに目が離せない。最悪だと思った。でももっと最悪なのは、その女優と名前を重ねてしまったこと。
「彼女できたらやりてーよな!」
誰かが言った。彼女。好きな相手。……好きな相手? そう心で自問したら出てきたのは名前の顔だった。笑顔で笑いかけてくる名前が浮かんでくれたら良かったのに出てきたのは嬌声を上げて泣く名前で。自分の気持ちが汚れてると思った。
「すみくん」
ある日の放課後。名前がいつも通り手を伸ばしてきた。おれの脳裏にあるのはアノときの名前。思わず手を払った。名前は目を瞬いて固まっていた。
「触らないで、ほしい」
震える声で言った。だってあんなの読まれるわけにはいかない。自分の気持ちを守るのに精一杯で名前を気づかう余裕がなかった。だから遅れた。ぽたりと静かに涙を流す名前に。この涙は嬉しくて流す涙じゃない。寂しくて流す涙じゃない。初めて見たのに分かってしまった。
「ごめんね。気持ち悪いよね」
悲しくて流す涙だ。
違うといって手を伸ばそうとしたけどやっぱり尻込みする気持ちがあって。そうこうしてるうちに名前は走って行った。追うことなんて出来なかった。
大切に囲んでいた可愛い子。傷つきやすい子だって知ってたからいっとう優しくしてたのに、一番傷つけたのはおれだった。
名前と話そうとしても名前自身に避けられたら会う機会がなくなる仲だと知らしめられて。学年が二年に上がってしばらくしてから起きたのが第一次ネイバー侵攻。おれの家は大丈夫だった。でも名前の家は壊されて、家にいた名前が瓦礫に埋もれてしまったと聞いたときは、いても立ってもいられずに名前の家のあった場所にいこうとして家族に止められた。名前は助けられたからと必死に言われてやっと止まれた。そう言われるまで息の仕方が分からなくなった。
そしてテレビに映る名前を観た。目立つ赤い服を着る名前は違和感があるのに一切動じずにそこに立っていた。マスコミからの受け答えも問題なくこなしているおれの知らない名前がいた。
嵐山隊の名字名前。そうなった名前に話しかけることは出来なかった。小学生、中学生と名前を避けていたくせにセンセーショナルなボーダー隊員とは関わりたい人間達が壁になって。名前は困ったような顔をしたけど、そんな相手達にも名前は真摯に対応していた。おれの知る名前はいなかった。ボーダー隊員になった名前は強くなったらしい。居場所が出来たんだな。頭の隅でそう思った。
その居場所が奪われたのは嵐山隊が広報として有名になってから。根も葉もない噂。名前の能力は確かに人の心を読む。けれど、それを人に話したりなんてするはずがない。名前の能力のことを伏せておれが擁護しても「でもさぁ」と流される。人気者の陥落が楽しいのだ。それでも名前は背を曲げずに学校に来ていた。強くなった名前は幼稚園のときのように俯いたりしなかった。……ひとりでは泣けない名前も変わったのだろうか。
隣のクラスだった名前はいつもひとりだった。ひとりで遊んでいた。同じ園児達も名前を怖がったり嫌ったりしてハブいていたし先生達も名前を見ないようにしていた。子供からも先生達からもそんな扱いをされている名前は保護者からも疎まれていた。子供だから何言ってるか分かってないと思って大きな声で大人達は言う。気味が悪いって。分からないわけがないのに。
名前はそんな態度や言葉全部に傷ついていたのにひとりの時は俯いても、それでも平気そうな顔をする。ずっとひとりで遊んでて、誕生日会で名前を呼ばれなくても、折り紙の金メダルを貰えなくても、お昼寝で寝れなくて体調が悪くても、平気なふりをする。全然平気じゃないのに。
名前は手を繋いだらすぐに泣く。最初は嫌なのかなと思って離そうとしたけど泣きながら「いやじゃないっ」と言葉をつっかえて言うからそのまま繋いでいた。おれに名前の気持ちは伝わらないけど、いつも泣けない名前が泣ける時間だと思うと大切な時間だと思った。
「澄晴、あの子とよく話してるって先生から言われたのだけど」
「あの子って名前?」
「そう、名字名前ちゃん。問題のある子みたいだけど大丈夫なの?」
親の言葉に傷ついてるのが分かった。自分の安心できる
「名前はなにもしないよ。いっつも泣くだけ。手つないだだけで泣くの。たぶんさびしいって泣いてるんだよ。それだけで名前はわるい子?」
親に抱きしめられた。ごめんなさいと謝られた。友達を悪く言われたら哀しいよね、そんなことをしてごめんなさい、と。頬に伝う涙に気づいたのは親に拭われてから。何で泣いてるのかな。名前の泣き虫が移ったかなとぼんやり考えていた。
名前に友達を作ろうとおれなりに輪の中に入れようとしたけどダメだった。みんな名前を嫌がってしまう。怖がってしまう。ただの泣き虫で寂しがりな子なのに。途中から名前はもういいよ、と諦めたように言った。おれの手をぎゅっとして「これだけでうれしいの」と笑う顔はずっと心に残っている。
名前との関係は小学生になっても変わらなかった。放課後や休み時間に会って手を繋ぐだけ。学年が上がるにつれて名前は泣かなくなった。その代わり嬉しそうに「すみくん」とおれの名前を呼んで笑った。なんてない話をした。それだけで名前は幸せそうにするから、おれはいろんな話を名前にした。したかった。おれが名前を笑顔にしたいと思った。名前の笑顔に癒されてるのが分かった。
それが変わってしまったのは中学に上がってから。同級生が兄のAVを盗み取ったから見ようぜと誘われて、どうでも良かったけど腕を引っ張られて連れて行かれた。こんなことより名前と話したいと思っていたら、強烈な映像が目に入り込んだ。苦しいのかと思うほどに泣き叫ぶ女優。見るのも憚れる光景。音。それなのに目が離せない。最悪だと思った。でももっと最悪なのは、その女優と名前を重ねてしまったこと。
「彼女できたらやりてーよな!」
誰かが言った。彼女。好きな相手。……好きな相手? そう心で自問したら出てきたのは名前の顔だった。笑顔で笑いかけてくる名前が浮かんでくれたら良かったのに出てきたのは嬌声を上げて泣く名前で。自分の気持ちが汚れてると思った。
「すみくん」
ある日の放課後。名前がいつも通り手を伸ばしてきた。おれの脳裏にあるのはアノときの名前。思わず手を払った。名前は目を瞬いて固まっていた。
「触らないで、ほしい」
震える声で言った。だってあんなの読まれるわけにはいかない。自分の気持ちを守るのに精一杯で名前を気づかう余裕がなかった。だから遅れた。ぽたりと静かに涙を流す名前に。この涙は嬉しくて流す涙じゃない。寂しくて流す涙じゃない。初めて見たのに分かってしまった。
「ごめんね。気持ち悪いよね」
悲しくて流す涙だ。
違うといって手を伸ばそうとしたけどやっぱり尻込みする気持ちがあって。そうこうしてるうちに名前は走って行った。追うことなんて出来なかった。
大切に囲んでいた可愛い子。傷つきやすい子だって知ってたからいっとう優しくしてたのに、一番傷つけたのはおれだった。
名前と話そうとしても名前自身に避けられたら会う機会がなくなる仲だと知らしめられて。学年が二年に上がってしばらくしてから起きたのが第一次ネイバー侵攻。おれの家は大丈夫だった。でも名前の家は壊されて、家にいた名前が瓦礫に埋もれてしまったと聞いたときは、いても立ってもいられずに名前の家のあった場所にいこうとして家族に止められた。名前は助けられたからと必死に言われてやっと止まれた。そう言われるまで息の仕方が分からなくなった。
そしてテレビに映る名前を観た。目立つ赤い服を着る名前は違和感があるのに一切動じずにそこに立っていた。マスコミからの受け答えも問題なくこなしているおれの知らない名前がいた。
嵐山隊の名字名前。そうなった名前に話しかけることは出来なかった。小学生、中学生と名前を避けていたくせにセンセーショナルなボーダー隊員とは関わりたい人間達が壁になって。名前は困ったような顔をしたけど、そんな相手達にも名前は真摯に対応していた。おれの知る名前はいなかった。ボーダー隊員になった名前は強くなったらしい。居場所が出来たんだな。頭の隅でそう思った。
その居場所が奪われたのは嵐山隊が広報として有名になってから。根も葉もない噂。名前の能力は確かに人の心を読む。けれど、それを人に話したりなんてするはずがない。名前の能力のことを伏せておれが擁護しても「でもさぁ」と流される。人気者の陥落が楽しいのだ。それでも名前は背を曲げずに学校に来ていた。強くなった名前は幼稚園のときのように俯いたりしなかった。……ひとりでは泣けない名前も変わったのだろうか。