完結済み
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ゴメンナサイしても犬飼くんは変わらなかった。隣の隣のクラスだと言うのに毎日のように私のクラスにやってきて手を繋いで「可愛いね」(一番可愛い)「手ちっちゃくて安心する」(ずっと繋いでいたい)「今日も好きだよ」(ずっと好きだよ)と言葉と心で伝えてくる。ブンブン手を振って離そうとしても絶妙な力加減で私の手を掴んで離さない。周りは最初は驚いていたけど最近では「またやってるよ」くらいですんでいる。クラスメート達、またやってるよですまさないでほしいです。
「あらッ! 荒船くんっ! 二宮金次郎について話し合いませんか!?」
「俺を巻き込むな」
「逃げようとして出た話題が二宮金次郎かー。可愛いね」
逃げようとしたのが分かってるのに犬飼くんは楽しげに笑っている。顔がいいので普通にドキドキする。それでも、犬飼くんは駄目なのだ。
「犬飼くん、は、モテるのでこういうのは困ります」
「モテてるけどそれでも好きな子に好かれてほしいと思うのは駄目なこと? ちなみに根回しは終わってるから、おれが名字ちゃんに気持ちを伝えることに何か言う人はいないよ」
「ね、根回し……?」
「全部聞きたい?」
「遠慮します」
なんだか怖いので。
手をブンブンするのも疲れたのでぐったりして手を放ったけど犬飼くんの手はそのままで。
(好きだよ名前)
真っ直ぐ伝わってくる気持ちに唇をぎゅっと噛み締めた。
****
「きみが人の心がわかるうそつきの子?」
幼稚園でひとりで砂場遊びをしていたときのことだった。すでに先生にも恐がられてぼっちを極めていた上、教室は人が多くて避けられてるという事実を突きつけられてしまうので、幼稚園では外でひとりでいることが多かった。山を作って穴を掘ってひとりで貫通式。むなしかったけどやることもないのでそれを繰り返していたときのことだった。心が読める嘘つきの子。それは自分だと鬱々とした気持ちで顔を上げるとそこにいたのは見たことない茶髪の男の子だった。
「うそじゃないもん」
子供のときは誤魔化すとかそんな発想はなくて真正直に自分の能力について話していた。その結果がぼっちという状態になってもなお、嘘つきと思われるのだけは嫌だったのだ。
「そんなのわかるわけないでしょ。だからうそつきだってみんな言ってる」
「じゃあ手かして」
勝手に男の子の手を触る。
(砂つくんだけど……)
「砂つくんだけどって言った」
そう言ってぱっと離す。このあとの反応は決まっている。怖がって近寄って来なくなるんだ。砂をペタペタするのを再開して男の子が去るのを待つ。でもしばらくしても男の子はどこかに行ったりしなくて。不思議に思って顔を上げると男の子は目をキラキラさせて私を見ていた。
「すごいね! なんでわかったの!?」
「なんでって……分かんない……ちっちゃい時から分かる……」
「おれの名前当ててみて!」
そう言って私の手をぎゅっと握ってきた。家族以外の熱にびっくりして手を払ったけど男の子はぎゅうとして離そうとしなかった。
「当ててみて!」
(いぬかいすみはるだよ)
「……いぬかいすみはるくん」
「すごい! また当てた!」
楽しそうにするすみはるくんに困惑する。何でこの子は怖がらないんだろう。先生でも私に触ろうとしないのに。手を繋いでくれないのに。他の子とは繋いでくれるのに。なんで。
一気に寂しさを思い出して目がぱしぱしになる。泣いても幼稚園 じゃ誰も私を見てくれない。家に帰ってからじゃないともっと悲しくなるのは知っている。なのに涙が流れ落ちる。うぅ……と声が出る。涙を拭おうとしてすみはるくんに止められた。
「手、砂ついてるから目いたくなっちゃうよ」
そう言ってスモックを手まで伸ばして私の涙を拭うすみはるくん。
「おれがうそつきっていったから? ごめんね」
「ちが、ちがうぅ……っ」
「じゃあなんで?」
「う、ううあああん!」
「もっとないちゃった……おれも心がわかったらよかったのに」
困ったように言ったすみはるくんの言葉。そんなことない。こんなのが分かるせいでみんなから嫌われてる。避けられてる。嫌がられてる。そう思うのにすみはるくんは本気で言っていることが繋がった手の先から伝わってくる。
(泣かせてごめんなさい。なんで泣いちゃったかはわからないけど)
(こうやってつないでたら理由わかるかな。わかったらいいな)
(泣かないで。ごめんね。泣かないで)
優しい心の声。家族以外で初めて聞く私を想ってくれている心の声。あったかくて嬉しくて、みんなすみはるくんみたいだったら良かったのにと思ったら寂しくて。それでも嬉しさが勝って。初めて他人の手をぎゅうと握りしめた。
「あらッ! 荒船くんっ! 二宮金次郎について話し合いませんか!?」
「俺を巻き込むな」
「逃げようとして出た話題が二宮金次郎かー。可愛いね」
逃げようとしたのが分かってるのに犬飼くんは楽しげに笑っている。顔がいいので普通にドキドキする。それでも、犬飼くんは駄目なのだ。
「犬飼くん、は、モテるのでこういうのは困ります」
「モテてるけどそれでも好きな子に好かれてほしいと思うのは駄目なこと? ちなみに根回しは終わってるから、おれが名字ちゃんに気持ちを伝えることに何か言う人はいないよ」
「ね、根回し……?」
「全部聞きたい?」
「遠慮します」
なんだか怖いので。
手をブンブンするのも疲れたのでぐったりして手を放ったけど犬飼くんの手はそのままで。
(好きだよ名前)
真っ直ぐ伝わってくる気持ちに唇をぎゅっと噛み締めた。
****
「きみが人の心がわかるうそつきの子?」
幼稚園でひとりで砂場遊びをしていたときのことだった。すでに先生にも恐がられてぼっちを極めていた上、教室は人が多くて避けられてるという事実を突きつけられてしまうので、幼稚園では外でひとりでいることが多かった。山を作って穴を掘ってひとりで貫通式。むなしかったけどやることもないのでそれを繰り返していたときのことだった。心が読める嘘つきの子。それは自分だと鬱々とした気持ちで顔を上げるとそこにいたのは見たことない茶髪の男の子だった。
「うそじゃないもん」
子供のときは誤魔化すとかそんな発想はなくて真正直に自分の能力について話していた。その結果がぼっちという状態になってもなお、嘘つきと思われるのだけは嫌だったのだ。
「そんなのわかるわけないでしょ。だからうそつきだってみんな言ってる」
「じゃあ手かして」
勝手に男の子の手を触る。
(砂つくんだけど……)
「砂つくんだけどって言った」
そう言ってぱっと離す。このあとの反応は決まっている。怖がって近寄って来なくなるんだ。砂をペタペタするのを再開して男の子が去るのを待つ。でもしばらくしても男の子はどこかに行ったりしなくて。不思議に思って顔を上げると男の子は目をキラキラさせて私を見ていた。
「すごいね! なんでわかったの!?」
「なんでって……分かんない……ちっちゃい時から分かる……」
「おれの名前当ててみて!」
そう言って私の手をぎゅっと握ってきた。家族以外の熱にびっくりして手を払ったけど男の子はぎゅうとして離そうとしなかった。
「当ててみて!」
(いぬかいすみはるだよ)
「……いぬかいすみはるくん」
「すごい! また当てた!」
楽しそうにするすみはるくんに困惑する。何でこの子は怖がらないんだろう。先生でも私に触ろうとしないのに。手を繋いでくれないのに。他の子とは繋いでくれるのに。なんで。
一気に寂しさを思い出して目がぱしぱしになる。泣いても
「手、砂ついてるから目いたくなっちゃうよ」
そう言ってスモックを手まで伸ばして私の涙を拭うすみはるくん。
「おれがうそつきっていったから? ごめんね」
「ちが、ちがうぅ……っ」
「じゃあなんで?」
「う、ううあああん!」
「もっとないちゃった……おれも心がわかったらよかったのに」
困ったように言ったすみはるくんの言葉。そんなことない。こんなのが分かるせいでみんなから嫌われてる。避けられてる。嫌がられてる。そう思うのにすみはるくんは本気で言っていることが繋がった手の先から伝わってくる。
(泣かせてごめんなさい。なんで泣いちゃったかはわからないけど)
(こうやってつないでたら理由わかるかな。わかったらいいな)
(泣かないで。ごめんね。泣かないで)
優しい心の声。家族以外で初めて聞く私を想ってくれている心の声。あったかくて嬉しくて、みんなすみはるくんみたいだったら良かったのにと思ったら寂しくて。それでも嬉しさが勝って。初めて他人の手をぎゅうと握りしめた。