完結済み
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小さい頃から一緒にいた女の子。最初は男と女の違いなんか分かっておらず、毎日泥だらけになりながら一緒に遊んだ。
「おれ、大きくなったら名前ちゃんをおよめさんにする!」
そう言ったのは同じりんご組の男の子で。辻はそこで名前は“女”で自分は“男”なのだと理解した。すると途端に名前と一緒に遊ぶのが恥ずかしくなって「しんちゃん鬼ごっこしましょー!」と誘ってくる名前を避け始めた。昔から涙腺の緩かった名前は辻が名前を避ける度に泣いていたのだが、それを構う余裕もなく逃げるようにして名前から離れていった。
「新之助、何で名前ちゃんを避けるんだ?」
昔から名前とは家族ぐるみの仲だった為に、辻が名前を避けていることは名前の母親から辻の母親へそして父親にすぐに伝わった。いつも穏やかな父が眉をひそめてそう訊ねるので自分がやっていることを責められているような気分になった。
「だ、って……名前は女の子だから……」
「女の子の名前ちゃんと遊ぶのは嫌なのか?」
「ちがう! ……でも、なんか……はずかしい」
しどろもどろになりながらも辻がそう答えると父の眉間のシワはなくなり、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「そうか。新之助は名前ちゃんが好きなんだな」
「うん……? すき?」
「お嫁さんにしたい女の子って意味だよ」
「およめさん……」
父の言葉に思い出したのは同じもも組の男の子だった。途端に焦りが生まれた辻は同じ目線に腰をかがめた父に引っ付いた。
「たけるくんも名前の事をおよめさんにしたいっていってた!」
「おお、じゃあのんびりしていたら健くんに名前ちゃんとられてしまうなぁ」
「! いやだっ」
すぐに家を飛び出した辻は隣の家のチャイムを鳴らす。名前と辻用に置かれた長い棒を使ったのは久しぶりだった。前はこの棒を使ってお互いの家のチャイムを鳴らしていたのに。
その事に少し寂しく思いながら扉の前で待っていると出てきたのは名前の母親で。「名前いますか!」という辻の必死の様子に名前の母親はあらあら、と柔らかな声を出して名前を呼んだ。そして母親の呼ぶ声に「おかいものですか! シュークリームたべたいです!」とドタドタ走ってきた名前は玄関にいる辻を見つけると、ぱちくりと瞬きを数回して、辻に飛びついた。
「う、」
「うわああん! しんちゃあああん!!」
ぎゅうと辻に抱きつきながら大泣きする名前にはずかしい気持ちを必死に抑えて背中に手を回して名前を宥めた。さけてごめんね、という言葉と共に。
それからはと言うと「お嫁さんにしたい女の子を避けるなんて絶対したら駄目だぞ。恥ずかしくても、絶対駄目だ」という父の言葉に従って辻は今まで以上に名前と一緒にいるようになった。その甲斐あってか、歳を重ねる毎に一緒にいるのが恥ずかしいから嬉しいに、嬉しいが愛おしいにと辻の気持ちが変化していった。逆に名前以外の女は駄目になってしまったというオチ付きだが。
「名前ちゃん! 大きくなったらおれのおよめさんになって!」
「! だ、だめだよ! 名前はぼくのおよめさんになるんだから!」
顔を真っ赤にしつつ辻がそう言うと名前は満面の笑みを浮かべながら辻の手を握った。
「はい! 名前をしんちゃんのおよめさんにしてください!」
****
「───つまり? 辻ちゃんが名字ちゃんのことが平気なのは小さい時からずっと好きだったからで? その反動で他の女は駄目になったと? 犬扱いどころか好きな女の子として大切にしてきたつもりでいた、と」
「………っ、」
「ああうん。分かった、分かったからそんな顔真っ赤にして何回も頷かなくて大丈夫だから」
まさかこんなオチとは。
犬飼はそっと額を押さえた。分かり難く過ぎでしょこの子。あの甲斐甲斐しいペット教育? は辻なりの愛情表現だったらしい。いや、確かに大切にしてるのは分かってたよ。分かってたけどどこからどう見ても好きな女じゃなくて大切なペットを見てる目だったよ! ……と突っ込みたくなるのを必死に抑えた。真面目な堅物の恋は大きく斜め上に逸れていた。そしてあの名前が女として好きなんて。初恋って怖いと犬飼は密かに震えた。
「うちの両親も名前の両親も白無垢かドレスか今から楽しみにしていて……名前も『ドレスがいいです! ふわふわなのが着たいです!』って言ってたので、分かってっ、分かっているかと……」
「あー多分それ名字ちゃんは七五三のノリだね」
「…………」
真っ赤だった顔を真っ白にした辻。小さいときの約束が全く覚えられていなかったというショックが思った以上にキてるらしい。「縁切りって名前が言うから……離婚されるのかと……そもそもあの約束覚えてなかった……?」とブツブツ呟きだした辻に「落ちついて辻ちゃん! そもそもまだ結婚してないから離婚もなにもないよ!」と必死に宥める犬飼。そして元凶が名前だと分かった二宮は席を立った。
「ちょっ、二宮さんどこに行くんですかっ こんな辻ちゃん置いて行かないでくださいよ!」
「知るか」
そう言って出て行った二宮に犬飼は気が遠くなるのが分かった。あの人さっきのこと根に持ってる。何だかんだ言って心配してたくせに! と心の中で叫ぶ。そしてそりゃ離婚宣言された(と思ってる)のなら落ち込むよなぁ、というか典型的な幼なじみ青春やりやがって、と犬飼の中で様々な感想が飛び交う。普段なら一歩引いて見守る(楽しむ)犬飼もさすがに目の前で茸を生やす人間は放っておけなかった。
「名前……」
そう辻が呟き、犬飼が慰めの言葉を頭の中で考えていると何やら外が騒がしいことに気づいた。何も知らない外野は楽しそうでいいね、と皮肉を心の中でかけて「あのね辻ちゃん、」と口を開きかけたときだった。
「二宮さん! 名字先輩めっちゃ泣いてますから!」
「二宮誘拐は駄目だぞ!」
「この状況なに!? え! 二宮さんが誘拐犯!?」
騒ぎがどんどんこちらに近づいてくるのが分かる。というかうちの隊長の名前がめっちゃくちゃ聞こえるんですけど、と腰を上げたときだった。作戦室の扉が大きな音を立てて開いた。そこにいたのは仏頂面を極限にまで高めた二宮と多くの野次馬、そして二宮に米俵のように捕まえられて大泣きしている名前の姿だった。
「なまはげこわいです……」
20230722
「おれ、大きくなったら名前ちゃんをおよめさんにする!」
そう言ったのは同じりんご組の男の子で。辻はそこで名前は“女”で自分は“男”なのだと理解した。すると途端に名前と一緒に遊ぶのが恥ずかしくなって「しんちゃん鬼ごっこしましょー!」と誘ってくる名前を避け始めた。昔から涙腺の緩かった名前は辻が名前を避ける度に泣いていたのだが、それを構う余裕もなく逃げるようにして名前から離れていった。
「新之助、何で名前ちゃんを避けるんだ?」
昔から名前とは家族ぐるみの仲だった為に、辻が名前を避けていることは名前の母親から辻の母親へそして父親にすぐに伝わった。いつも穏やかな父が眉をひそめてそう訊ねるので自分がやっていることを責められているような気分になった。
「だ、って……名前は女の子だから……」
「女の子の名前ちゃんと遊ぶのは嫌なのか?」
「ちがう! ……でも、なんか……はずかしい」
しどろもどろになりながらも辻がそう答えると父の眉間のシワはなくなり、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「そうか。新之助は名前ちゃんが好きなんだな」
「うん……? すき?」
「お嫁さんにしたい女の子って意味だよ」
「およめさん……」
父の言葉に思い出したのは同じもも組の男の子だった。途端に焦りが生まれた辻は同じ目線に腰をかがめた父に引っ付いた。
「たけるくんも名前の事をおよめさんにしたいっていってた!」
「おお、じゃあのんびりしていたら健くんに名前ちゃんとられてしまうなぁ」
「! いやだっ」
すぐに家を飛び出した辻は隣の家のチャイムを鳴らす。名前と辻用に置かれた長い棒を使ったのは久しぶりだった。前はこの棒を使ってお互いの家のチャイムを鳴らしていたのに。
その事に少し寂しく思いながら扉の前で待っていると出てきたのは名前の母親で。「名前いますか!」という辻の必死の様子に名前の母親はあらあら、と柔らかな声を出して名前を呼んだ。そして母親の呼ぶ声に「おかいものですか! シュークリームたべたいです!」とドタドタ走ってきた名前は玄関にいる辻を見つけると、ぱちくりと瞬きを数回して、辻に飛びついた。
「う、」
「うわああん! しんちゃあああん!!」
ぎゅうと辻に抱きつきながら大泣きする名前にはずかしい気持ちを必死に抑えて背中に手を回して名前を宥めた。さけてごめんね、という言葉と共に。
それからはと言うと「お嫁さんにしたい女の子を避けるなんて絶対したら駄目だぞ。恥ずかしくても、絶対駄目だ」という父の言葉に従って辻は今まで以上に名前と一緒にいるようになった。その甲斐あってか、歳を重ねる毎に一緒にいるのが恥ずかしいから嬉しいに、嬉しいが愛おしいにと辻の気持ちが変化していった。逆に名前以外の女は駄目になってしまったというオチ付きだが。
「名前ちゃん! 大きくなったらおれのおよめさんになって!」
「! だ、だめだよ! 名前はぼくのおよめさんになるんだから!」
顔を真っ赤にしつつ辻がそう言うと名前は満面の笑みを浮かべながら辻の手を握った。
「はい! 名前をしんちゃんのおよめさんにしてください!」
****
「───つまり? 辻ちゃんが名字ちゃんのことが平気なのは小さい時からずっと好きだったからで? その反動で他の女は駄目になったと? 犬扱いどころか好きな女の子として大切にしてきたつもりでいた、と」
「………っ、」
「ああうん。分かった、分かったからそんな顔真っ赤にして何回も頷かなくて大丈夫だから」
まさかこんなオチとは。
犬飼はそっと額を押さえた。分かり難く過ぎでしょこの子。あの甲斐甲斐しいペット教育? は辻なりの愛情表現だったらしい。いや、確かに大切にしてるのは分かってたよ。分かってたけどどこからどう見ても好きな女じゃなくて大切なペットを見てる目だったよ! ……と突っ込みたくなるのを必死に抑えた。真面目な堅物の恋は大きく斜め上に逸れていた。そしてあの名前が女として好きなんて。初恋って怖いと犬飼は密かに震えた。
「うちの両親も名前の両親も白無垢かドレスか今から楽しみにしていて……名前も『ドレスがいいです! ふわふわなのが着たいです!』って言ってたので、分かってっ、分かっているかと……」
「あー多分それ名字ちゃんは七五三のノリだね」
「…………」
真っ赤だった顔を真っ白にした辻。小さいときの約束が全く覚えられていなかったというショックが思った以上にキてるらしい。「縁切りって名前が言うから……離婚されるのかと……そもそもあの約束覚えてなかった……?」とブツブツ呟きだした辻に「落ちついて辻ちゃん! そもそもまだ結婚してないから離婚もなにもないよ!」と必死に宥める犬飼。そして元凶が名前だと分かった二宮は席を立った。
「ちょっ、二宮さんどこに行くんですかっ こんな辻ちゃん置いて行かないでくださいよ!」
「知るか」
そう言って出て行った二宮に犬飼は気が遠くなるのが分かった。あの人さっきのこと根に持ってる。何だかんだ言って心配してたくせに! と心の中で叫ぶ。そしてそりゃ離婚宣言された(と思ってる)のなら落ち込むよなぁ、というか典型的な幼なじみ青春やりやがって、と犬飼の中で様々な感想が飛び交う。普段なら一歩引いて見守る(楽しむ)犬飼もさすがに目の前で茸を生やす人間は放っておけなかった。
「名前……」
そう辻が呟き、犬飼が慰めの言葉を頭の中で考えていると何やら外が騒がしいことに気づいた。何も知らない外野は楽しそうでいいね、と皮肉を心の中でかけて「あのね辻ちゃん、」と口を開きかけたときだった。
「二宮さん! 名字先輩めっちゃ泣いてますから!」
「二宮誘拐は駄目だぞ!」
「この状況なに!? え! 二宮さんが誘拐犯!?」
騒ぎがどんどんこちらに近づいてくるのが分かる。というかうちの隊長の名前がめっちゃくちゃ聞こえるんですけど、と腰を上げたときだった。作戦室の扉が大きな音を立てて開いた。そこにいたのは仏頂面を極限にまで高めた二宮と多くの野次馬、そして二宮に米俵のように捕まえられて大泣きしている名前の姿だった。
「なまはげこわいです……」
20230722