完結済み
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「──というわけです。手始めに今日はひとりで学校に来ました」
「……………」
冷静で淡々と仕事をこなす辻の狼狽える顔が奈良坂には簡単に頭に浮かんだ。即座に「早く仲直りしろ」と返した。
「いやです! 意識してもらえるまで話しません!」
「無理難題を辻に押しつけるな」
「むり、なんだい……」
「おまえは180度どこから見ても小学生だ。百歩譲って中学生だ。どうやって意識すればいいんだ」
「お、お胸をばいーんと……」
「奇跡がそう簡単に起きると思っているのか」
「……………」
うるうると潤み出した名前の視線にも屈することなくバッサリと切っていく奈良坂。周りのクラスメイトたちは「言いすぎだぞ奈良坂ママ!」「奇跡くらい信じたっていいじゃない!」「ほら! 娘が泣いちゃうぞ!」と騒ぎ立てているが無視だ。一番の被害者は辻だ。甘やかすな、そしてこんな年頃の娘がいるか。同級生にその呼び方はやめろ。俺の性別を変えるな。
「……好きなひとに意識してもらいたいって思うのはダメですか」
「…………」
「他の女の子には顔を赤くするのに、顔を近くによせても、にらめっこだと勘違いされて、悲しいと思っちゃ、だめですか」
「………………」
「妹扱いから、卒業したいとおもっちゃ、だめですか……」
ああ、周りの視線が痛い。ついでにこの二年で勝手に作り上げられた友人としての情もチクチク痛む。……だから嫌な予感しかしなかったんだ。最初は全力で拒否しても結局名前に絆されてしまうのだから。
はあ、と大きなため息をついてポケットから出したハンカチを名前の顔に押し付けた。その途端沸き立つように起きた拍手。「よかったねぇ名字ちゃん!」「何だかんだ言ってお母さんだよね奈良坂くん」「娘には甘いよな奈良坂」と騒ぎ出したクラスメイトたちは無視した。
「ふぶっ」
「分かった。分かったから泣くな」
「奈良坂くん……!」
「ただし辻を避けるのは止めてやれ。もっと別の方法を考えよう」
「……………………はい」
「その間はなんだ」
協力しないぞ、と奈良坂がじっと睨むと「……分かりました」と口を尖らせる名前。そういった仕草が子供っぽいんだと言おうとしたらちょうど担任が教室に入って来た。
「……奈良坂、娘を泣かせるのは感心しないぞ」
「早くHR始めてください」
***
「……………名前、お昼ご飯……」
「………………はい。食べましょう」
「!」
悲壮感溢れる辻の顔に希望の色が浮かび上がった。そこまでキツかったのか。
名前と辻は毎朝一緒に登校、昼は名前の教室で昼ご飯、放課後も一緒に下校。もしくは一緒に基地へ向かう。家以外で離れている時間が授業中か任務中しかない。……確かにこれほど一緒にいて女扱いされないのはキツいかもしれない。いや、辻の性格からみてぞんざいに扱っているという訳ではない。むしろその逆で毎日名前が健やかに元気に過ごせるように気を使っている。ほっぺた一杯にご飯を詰めて食べる名前の姿に柔らかい視線を向けているのを多々見るのだから。
………ペット扱いだな。犬がいっぱいご飯を食べて「おお、いいぞもっと大きくなれ~」という視線だあれは。これは前途多難だと一つの机を使って向き合って座る名前と辻に渋い視線を送る奈良坂とその他クラスメイトたち。無駄に緊張感溢れる教室となった二年B組だった。
「……あ、よかったな、名前、オムライス、好き、だろう」
日本語を覚えて間もない外国人かのようにカタコトに話す辻にクラスメイトたちは切なくなりながら瞼を抑えた。辻くん、名字ちゃんに避けられたの気にしてる! めちゃくちゃ気にしてる! とそっと視線を逸らした。賑やかし大好き、つまりガヤだらけのこのクラスメイトたちがこんな顔をするとは……と神妙な顔をしたのは奈良坂だった。
「……はい。好きです」
「うん、よかった、な」
「……………」
いつものわんこモードを必死に抑えて静かに真っ直ぐに辻に好きと伝えた名前だったが、辻は会話が続くこの状況に密かに安心し、朗らかな笑みを名前に返しただけだった。それに口をムッと結ぼうとした名前に辻の後ろに座っているクラスメイトが口の前にバッテンを作った。ふてくされるの禁止、と。
子供扱い、妹扱い、ペット扱いを止めてほしいならすぐに顔に出る子供っぽい仕草を止めろというのが最初のアドバイスだった。ご飯もゆっくり食べろ、大げさな手振り身振りをやめろ……という言葉に最初は難儀を示していた名前だったが、とりあえず今は頑張っている。必死に抑えている。いつもなら「オムライス大好きです! デミグラスソースもケチャップソースもどんとこいです!」とはしゃいでパクパク食べている。ゆっくり味わうようにスプーンを動かす名前に「がんばってる……名字ちゃんががんばってる……!」とついに泣き出したクラスメイトたちにこいつらは名字の何なんだと白けた顔になる奈良坂。おまえたちの方が親みたいな事を言ってるぞ。クラス替えが一年に二回あればいいのに、と到底叶わない願いを心でボヤいたとき、辻が伺うようにゆっくり口を開いた。
「名前……大丈夫か? オムライスを前にがっつかないなんて体調でも悪いんじゃ……」
「……………」
あ、これダメだ。
奈良坂くん……と少し泣きそうな顔の名前を見てそう思った奈良坂だった。
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「……………」
冷静で淡々と仕事をこなす辻の狼狽える顔が奈良坂には簡単に頭に浮かんだ。即座に「早く仲直りしろ」と返した。
「いやです! 意識してもらえるまで話しません!」
「無理難題を辻に押しつけるな」
「むり、なんだい……」
「おまえは180度どこから見ても小学生だ。百歩譲って中学生だ。どうやって意識すればいいんだ」
「お、お胸をばいーんと……」
「奇跡がそう簡単に起きると思っているのか」
「……………」
うるうると潤み出した名前の視線にも屈することなくバッサリと切っていく奈良坂。周りのクラスメイトたちは「言いすぎだぞ奈良坂ママ!」「奇跡くらい信じたっていいじゃない!」「ほら! 娘が泣いちゃうぞ!」と騒ぎ立てているが無視だ。一番の被害者は辻だ。甘やかすな、そしてこんな年頃の娘がいるか。同級生にその呼び方はやめろ。俺の性別を変えるな。
「……好きなひとに意識してもらいたいって思うのはダメですか」
「…………」
「他の女の子には顔を赤くするのに、顔を近くによせても、にらめっこだと勘違いされて、悲しいと思っちゃ、だめですか」
「………………」
「妹扱いから、卒業したいとおもっちゃ、だめですか……」
ああ、周りの視線が痛い。ついでにこの二年で勝手に作り上げられた友人としての情もチクチク痛む。……だから嫌な予感しかしなかったんだ。最初は全力で拒否しても結局名前に絆されてしまうのだから。
はあ、と大きなため息をついてポケットから出したハンカチを名前の顔に押し付けた。その途端沸き立つように起きた拍手。「よかったねぇ名字ちゃん!」「何だかんだ言ってお母さんだよね奈良坂くん」「娘には甘いよな奈良坂」と騒ぎ出したクラスメイトたちは無視した。
「ふぶっ」
「分かった。分かったから泣くな」
「奈良坂くん……!」
「ただし辻を避けるのは止めてやれ。もっと別の方法を考えよう」
「……………………はい」
「その間はなんだ」
協力しないぞ、と奈良坂がじっと睨むと「……分かりました」と口を尖らせる名前。そういった仕草が子供っぽいんだと言おうとしたらちょうど担任が教室に入って来た。
「……奈良坂、娘を泣かせるのは感心しないぞ」
「早くHR始めてください」
***
「……………名前、お昼ご飯……」
「………………はい。食べましょう」
「!」
悲壮感溢れる辻の顔に希望の色が浮かび上がった。そこまでキツかったのか。
名前と辻は毎朝一緒に登校、昼は名前の教室で昼ご飯、放課後も一緒に下校。もしくは一緒に基地へ向かう。家以外で離れている時間が授業中か任務中しかない。……確かにこれほど一緒にいて女扱いされないのはキツいかもしれない。いや、辻の性格からみてぞんざいに扱っているという訳ではない。むしろその逆で毎日名前が健やかに元気に過ごせるように気を使っている。ほっぺた一杯にご飯を詰めて食べる名前の姿に柔らかい視線を向けているのを多々見るのだから。
………ペット扱いだな。犬がいっぱいご飯を食べて「おお、いいぞもっと大きくなれ~」という視線だあれは。これは前途多難だと一つの机を使って向き合って座る名前と辻に渋い視線を送る奈良坂とその他クラスメイトたち。無駄に緊張感溢れる教室となった二年B組だった。
「……あ、よかったな、名前、オムライス、好き、だろう」
日本語を覚えて間もない外国人かのようにカタコトに話す辻にクラスメイトたちは切なくなりながら瞼を抑えた。辻くん、名字ちゃんに避けられたの気にしてる! めちゃくちゃ気にしてる! とそっと視線を逸らした。賑やかし大好き、つまりガヤだらけのこのクラスメイトたちがこんな顔をするとは……と神妙な顔をしたのは奈良坂だった。
「……はい。好きです」
「うん、よかった、な」
「……………」
いつものわんこモードを必死に抑えて静かに真っ直ぐに辻に好きと伝えた名前だったが、辻は会話が続くこの状況に密かに安心し、朗らかな笑みを名前に返しただけだった。それに口をムッと結ぼうとした名前に辻の後ろに座っているクラスメイトが口の前にバッテンを作った。ふてくされるの禁止、と。
子供扱い、妹扱い、ペット扱いを止めてほしいならすぐに顔に出る子供っぽい仕草を止めろというのが最初のアドバイスだった。ご飯もゆっくり食べろ、大げさな手振り身振りをやめろ……という言葉に最初は難儀を示していた名前だったが、とりあえず今は頑張っている。必死に抑えている。いつもなら「オムライス大好きです! デミグラスソースもケチャップソースもどんとこいです!」とはしゃいでパクパク食べている。ゆっくり味わうようにスプーンを動かす名前に「がんばってる……名字ちゃんががんばってる……!」とついに泣き出したクラスメイトたちにこいつらは名字の何なんだと白けた顔になる奈良坂。おまえたちの方が親みたいな事を言ってるぞ。クラス替えが一年に二回あればいいのに、と到底叶わない願いを心でボヤいたとき、辻が伺うようにゆっくり口を開いた。
「名前……大丈夫か? オムライスを前にがっつかないなんて体調でも悪いんじゃ……」
「……………」
あ、これダメだ。
奈良坂くん……と少し泣きそうな顔の名前を見てそう思った奈良坂だった。
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