完結済み
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「宣言します!わたし、名字名前は大人の女性になると!」
朝、学校へ来てから最初に投げかけられた言葉がこれだった。今日はツイてない日だろうな、とそうそうに今日の運勢を諦めた奈良坂は息をついて自分の席に座りカバンを置いた。
その前に胸を張って仁王立ちする同い年の女生徒。…座っているはずの奈良坂と視線がほぼ同じという驚異の身長を誇る彼女は名字名前。奈良坂と同じボーダー隊員でポジションはスナイパー。所属は東隊。しかし師匠は当真というちぐはぐな経歴の彼女と奈良坂はボーダー入隊時からの付き合いだ。更に一年、二年と同じクラスで互いのことは大体分かるようになってきた。そう、大体分かるのだ。この後面倒くさいことに巻き込まれるということが。
「歌歩ちゃんが任務でお休みだから奈良坂くんぜひお手伝いを!」
そう言ってトコトコ黒板まで走る名前を何も言わず見守る奈良坂。それに気づいたクラスメイトたちが「おっまた たけのこ親子が何かするぞ」「名字ちゃん走ったら危ないよ~」「黒板に手ぇ届くかー?」と楽しげな表情を浮かべ賑やかす。本来なら自分はこうやってクラスメイトたちにネタ要員として騒がれるようなキャラではないのだがそれもこの二年余りで変わってしまった。前の平穏な学生生活を思い浮かべつつ、名前が背伸びして黒板に書き出した文字を読み上げる。【大人の女性になって新ちゃんをメロメロにします!作戦】右に行くにつれて傾いていく馬鹿丸出しのタイトルに奈良坂は溜め息をついてその他のクラスメイトは「おー」とよく理解出来ていないくせに拍手をした。
「ありがとう!ありがとうございます!」
そしてそれに対して教卓から小さい手を振る名前。あと五分でHRだ。ぎりぎりに来れば良かったなと後悔しつつ名前に「何が原因だ」と質問を投げかけた。
「はい、それは昨日のことです─」
****
「こんにちは!新ちゃんいますか!」
「………うるさい」
「あっ二宮さんこんにちは!相変わらずお顔が怖いですね!」
「…………」
二宮はすかさず舌打ちを漏らしたが名前には聞こえていなかった。そして二宮隊の作戦室へ視線をやり「あれ、二宮さんだけですか…」と少しシュンとした顔を見せた。名前の目的の人物は今し方出て行った。帰ってくるのはまだ先だろう。
「………チッ」
再び舌打ちを漏らし二宮は席を立ち上がった。冷蔵庫には自分が買っておいたジンジャエールしかない。顔を少し振り返らせて「好き嫌いはあるか」と聞くと「何でも食べますよ!」と先ほどのシュンとした顔は何だったのかと言いたくなるくらい元気な返事が返ってきた。そうだ、こいつ死ぬほどポジティブだったと今更思い出したがすでにコップは二つ用意している。
「おい」
「! わあ、ありがとうございます!」
「座って飲め」
「地べたですか!」
「椅子に座れ」
「分かりました!」
にこにこしながら二宮から受け取ったコップを両手で持ち、二宮の真向かいに腰を落ち着ける名前。それを見届けた二宮もコップに口をつけた。
名字名前と辻新之助は幼なじみだ。女を苦手とし、会話すらろくに出来ないあの辻が家族とチームメイト以外で話すことが出来るのが名前だ。
『名前、シュークリーム食べるか?』
『! 食べます!カスタードですか、生クリームですかっ』
『ダブルだ』
『うぁ…!嬉しさ二倍です!』
まあ幼なじみというよりも餌付けされた子犬とその飼い主といった方がしっくりくるが。名前の風貌が高校生ではなく高校の制服を着た小学生というのが一番の要因だろう。そして風間と並んでいたら兄妹にしか見えない。二人して子供料金でまかり通るレベルだ。その本人たちも「風間さんとは血のつながりがないとは思えません」「ああ、俺もだ」と謎のシンパシーを感じていた。
「辻に何のようだ」
「今日はわたしのお家でご飯を食べる日なんです。お迎えです」
「そうか」
「あ!良かったら二宮さんもご一緒、」
「結構だ」
「お鍋ですよ…?」
「結構だ」
「よ、よせ鍋ですよ…?」
「知るか」
お鍋なのに…と拗ねたような声を出す名前。鍋だから何なのだ。勝手に食べていろ。そう二宮の視線が語っている。
「むう…お鍋は大勢でつつき合うものなのに」
「犬飼でも連れていけ」
「犬飼先輩はわたしの好きなものを横から盗るのでダメです!二宮さんはお顔は怖いけど絶対しません!だからお誘いしました!」
「……………」
誰にでも尻尾を振る駄犬だと思っていたが違ったらしい。場違いに二宮はそう思った。「犬飼先輩はいやですー!」と頬を膨らませる名前の言葉が届いたのかちょうど犬飼が作戦室に帰って来た。
「あ、名字ちゃんだ」
「………こんにちはです」
「嫌そうな顔したなーこの子め」
「ほっぺをむにむにひないでくだはいっ!」
「あはは面白い顔」
完全にいじめっ子といじられっ子の光景だった。さすがにこれではあのアホ犬も懐かないかと止めもせずに観察する二宮。こういった光景を止めるのは辻か氷見なのだが残念なことにどちらもいない。名前もそれが分かっているのか「新ちゃん、ひゃみちゃんどこですかぁ」と情けない声を上げた。
「辻ちゃんならさっき加古さんに捕まって顔真っ赤にしてたじろいでたよ」
「顔を真っ赤?ですか?」
「そう。辻ちゃんは女が苦手って言うより少し意識し過ぎだよね」
「………意識、ですか」
「? どうしたの名字ちゃん」
髪をわしゃわしゃされているのに抵抗しなくなった名前に疑問符をつけながら顔を覗き込む。いつも花を飛ばしながら笑っている彼女らしからぬ、眉を寄せて苦言を浮かべるような表情をしていた。どうしたの、と再び犬飼が声をかけようとしたとき、名前のお目当ての人物が帰ってきた。顔が少し赤く、疲れた様子だったが犬飼に遊ばれている名前を見つけてすぐにこちらへやって来た。
「犬飼先輩、名前で遊ぶのは止めてください」
「遊ぶって人聞きの悪いこというね辻ちゃん」
「どう見ても遊んでいます。ほら、大丈夫か?名前」
犬飼から優しく引っ張り上げた辻は視線が近くなるように腰をかがめ、ぐちゃぐちゃになった名前の髪を直す。髪が元通りになると最後に軽くぽんぽんと撫でて目元を緩ませた。
「迎えに来てくれたのか?用意するからちょっと待ってて」
「…………ません、」
「? 名前、」
「お迎えじゃありません!」
握り拳を作り、至近距離で叫ぶ(というより吠える)名前に驚いたのか辻は半歩ほど後ずさった。だがすぐに困ったように眉を下げて再び視線を合わせる。
「待たせてごめん。お腹空いたよな、早く帰ろう」
「~~~!お腹はっ、……ちょっぴり空いてますがちがいます!」
「空いてるのね」
「だって今日はお鍋です!」
「うん。帰りに名前の好きな具材買って帰ろう」
「椎茸が食べたいです!」
「……………」
完全に流されている名前に二宮は目を細めた。何だこの馬鹿犬。何か言いたいのではなかったのか。思わずその事を突っ込むと「そ、そうでした!さすが二宮さんです!」と全く嬉しくない賛辞が返ってきた。
「新ちゃん、ちょっとしゃがんでください」
「?」
疑問符を浮かべつつ名前の身長に合わせて腰を下げる辻。そんな辻にぐっと顔を近づけて至近距離で辻を見つめる名前。その状態が30秒ほど続いて、先に口を開いたのは辻だった。
「………にらめっこ?」
「!!」
辻の言葉にショックを受けたようにふらりと後ろへ下がる名前。大丈夫か、と辻が声をかける前に名前は右手の人差し指をビシッと辻に向けた。
「縁切りです!!!」
「!?え、ちょっ…」
「新ちゃんに意識してもらえるまで新ちゃんとの接触を断ちます!!」
「名前!?」
いつも冷静な辻が素っ頓狂な声を上げた。見るからに狼狽えている。そして原因が分かった犬飼は「なるほどねぇ」とにやりと笑い、二宮は「くだらない」と吐き捨てた。
「今日は小南ちゃんたちとご飯を食べてきます!新ちゃんはお家でご飯を食べて下さい!」
「ちょ、名前っ帰りはどうするんだ、迎えに…」
「大人のレディーになるので結構です!!」
さようなら!!と大きな声を上げて二宮隊の作戦室から出て行った名前。その後ろ姿を中途半端に右腕が上がった状態で見送った辻。
「えんぎり……?きら、嫌われた…?」
声と腕を震わせる辻の顔は真っ青だった。懐いていた犬が逃げ出した、もしくは反抗的になったときの飼い主。まさしくそれだった。
「どうするんですか二宮さん」
「知るか」
「辻ちゃんも名字ちゃんの事大好きだからあの状態じゃ使い物になりませんよ」
「……………」
簡単に想像が出来た。なんせ目の前に「何かしたか…?やっぱり待たせたのが……」と絶望に打ちひしがれる辻がいるのだから。……馬鹿犬め、と二宮は本日三回目の舌打ちを漏らした。
(20160805)
朝、学校へ来てから最初に投げかけられた言葉がこれだった。今日はツイてない日だろうな、とそうそうに今日の運勢を諦めた奈良坂は息をついて自分の席に座りカバンを置いた。
その前に胸を張って仁王立ちする同い年の女生徒。…座っているはずの奈良坂と視線がほぼ同じという驚異の身長を誇る彼女は名字名前。奈良坂と同じボーダー隊員でポジションはスナイパー。所属は東隊。しかし師匠は当真というちぐはぐな経歴の彼女と奈良坂はボーダー入隊時からの付き合いだ。更に一年、二年と同じクラスで互いのことは大体分かるようになってきた。そう、大体分かるのだ。この後面倒くさいことに巻き込まれるということが。
「歌歩ちゃんが任務でお休みだから奈良坂くんぜひお手伝いを!」
そう言ってトコトコ黒板まで走る名前を何も言わず見守る奈良坂。それに気づいたクラスメイトたちが「おっまた たけのこ親子が何かするぞ」「名字ちゃん走ったら危ないよ~」「黒板に手ぇ届くかー?」と楽しげな表情を浮かべ賑やかす。本来なら自分はこうやってクラスメイトたちにネタ要員として騒がれるようなキャラではないのだがそれもこの二年余りで変わってしまった。前の平穏な学生生活を思い浮かべつつ、名前が背伸びして黒板に書き出した文字を読み上げる。【大人の女性になって新ちゃんをメロメロにします!作戦】右に行くにつれて傾いていく馬鹿丸出しのタイトルに奈良坂は溜め息をついてその他のクラスメイトは「おー」とよく理解出来ていないくせに拍手をした。
「ありがとう!ありがとうございます!」
そしてそれに対して教卓から小さい手を振る名前。あと五分でHRだ。ぎりぎりに来れば良かったなと後悔しつつ名前に「何が原因だ」と質問を投げかけた。
「はい、それは昨日のことです─」
****
「こんにちは!新ちゃんいますか!」
「………うるさい」
「あっ二宮さんこんにちは!相変わらずお顔が怖いですね!」
「…………」
二宮はすかさず舌打ちを漏らしたが名前には聞こえていなかった。そして二宮隊の作戦室へ視線をやり「あれ、二宮さんだけですか…」と少しシュンとした顔を見せた。名前の目的の人物は今し方出て行った。帰ってくるのはまだ先だろう。
「………チッ」
再び舌打ちを漏らし二宮は席を立ち上がった。冷蔵庫には自分が買っておいたジンジャエールしかない。顔を少し振り返らせて「好き嫌いはあるか」と聞くと「何でも食べますよ!」と先ほどのシュンとした顔は何だったのかと言いたくなるくらい元気な返事が返ってきた。そうだ、こいつ死ぬほどポジティブだったと今更思い出したがすでにコップは二つ用意している。
「おい」
「! わあ、ありがとうございます!」
「座って飲め」
「地べたですか!」
「椅子に座れ」
「分かりました!」
にこにこしながら二宮から受け取ったコップを両手で持ち、二宮の真向かいに腰を落ち着ける名前。それを見届けた二宮もコップに口をつけた。
名字名前と辻新之助は幼なじみだ。女を苦手とし、会話すらろくに出来ないあの辻が家族とチームメイト以外で話すことが出来るのが名前だ。
『名前、シュークリーム食べるか?』
『! 食べます!カスタードですか、生クリームですかっ』
『ダブルだ』
『うぁ…!嬉しさ二倍です!』
まあ幼なじみというよりも餌付けされた子犬とその飼い主といった方がしっくりくるが。名前の風貌が高校生ではなく高校の制服を着た小学生というのが一番の要因だろう。そして風間と並んでいたら兄妹にしか見えない。二人して子供料金でまかり通るレベルだ。その本人たちも「風間さんとは血のつながりがないとは思えません」「ああ、俺もだ」と謎のシンパシーを感じていた。
「辻に何のようだ」
「今日はわたしのお家でご飯を食べる日なんです。お迎えです」
「そうか」
「あ!良かったら二宮さんもご一緒、」
「結構だ」
「お鍋ですよ…?」
「結構だ」
「よ、よせ鍋ですよ…?」
「知るか」
お鍋なのに…と拗ねたような声を出す名前。鍋だから何なのだ。勝手に食べていろ。そう二宮の視線が語っている。
「むう…お鍋は大勢でつつき合うものなのに」
「犬飼でも連れていけ」
「犬飼先輩はわたしの好きなものを横から盗るのでダメです!二宮さんはお顔は怖いけど絶対しません!だからお誘いしました!」
「……………」
誰にでも尻尾を振る駄犬だと思っていたが違ったらしい。場違いに二宮はそう思った。「犬飼先輩はいやですー!」と頬を膨らませる名前の言葉が届いたのかちょうど犬飼が作戦室に帰って来た。
「あ、名字ちゃんだ」
「………こんにちはです」
「嫌そうな顔したなーこの子め」
「ほっぺをむにむにひないでくだはいっ!」
「あはは面白い顔」
完全にいじめっ子といじられっ子の光景だった。さすがにこれではあのアホ犬も懐かないかと止めもせずに観察する二宮。こういった光景を止めるのは辻か氷見なのだが残念なことにどちらもいない。名前もそれが分かっているのか「新ちゃん、ひゃみちゃんどこですかぁ」と情けない声を上げた。
「辻ちゃんならさっき加古さんに捕まって顔真っ赤にしてたじろいでたよ」
「顔を真っ赤?ですか?」
「そう。辻ちゃんは女が苦手って言うより少し意識し過ぎだよね」
「………意識、ですか」
「? どうしたの名字ちゃん」
髪をわしゃわしゃされているのに抵抗しなくなった名前に疑問符をつけながら顔を覗き込む。いつも花を飛ばしながら笑っている彼女らしからぬ、眉を寄せて苦言を浮かべるような表情をしていた。どうしたの、と再び犬飼が声をかけようとしたとき、名前のお目当ての人物が帰ってきた。顔が少し赤く、疲れた様子だったが犬飼に遊ばれている名前を見つけてすぐにこちらへやって来た。
「犬飼先輩、名前で遊ぶのは止めてください」
「遊ぶって人聞きの悪いこというね辻ちゃん」
「どう見ても遊んでいます。ほら、大丈夫か?名前」
犬飼から優しく引っ張り上げた辻は視線が近くなるように腰をかがめ、ぐちゃぐちゃになった名前の髪を直す。髪が元通りになると最後に軽くぽんぽんと撫でて目元を緩ませた。
「迎えに来てくれたのか?用意するからちょっと待ってて」
「…………ません、」
「? 名前、」
「お迎えじゃありません!」
握り拳を作り、至近距離で叫ぶ(というより吠える)名前に驚いたのか辻は半歩ほど後ずさった。だがすぐに困ったように眉を下げて再び視線を合わせる。
「待たせてごめん。お腹空いたよな、早く帰ろう」
「~~~!お腹はっ、……ちょっぴり空いてますがちがいます!」
「空いてるのね」
「だって今日はお鍋です!」
「うん。帰りに名前の好きな具材買って帰ろう」
「椎茸が食べたいです!」
「……………」
完全に流されている名前に二宮は目を細めた。何だこの馬鹿犬。何か言いたいのではなかったのか。思わずその事を突っ込むと「そ、そうでした!さすが二宮さんです!」と全く嬉しくない賛辞が返ってきた。
「新ちゃん、ちょっとしゃがんでください」
「?」
疑問符を浮かべつつ名前の身長に合わせて腰を下げる辻。そんな辻にぐっと顔を近づけて至近距離で辻を見つめる名前。その状態が30秒ほど続いて、先に口を開いたのは辻だった。
「………にらめっこ?」
「!!」
辻の言葉にショックを受けたようにふらりと後ろへ下がる名前。大丈夫か、と辻が声をかける前に名前は右手の人差し指をビシッと辻に向けた。
「縁切りです!!!」
「!?え、ちょっ…」
「新ちゃんに意識してもらえるまで新ちゃんとの接触を断ちます!!」
「名前!?」
いつも冷静な辻が素っ頓狂な声を上げた。見るからに狼狽えている。そして原因が分かった犬飼は「なるほどねぇ」とにやりと笑い、二宮は「くだらない」と吐き捨てた。
「今日は小南ちゃんたちとご飯を食べてきます!新ちゃんはお家でご飯を食べて下さい!」
「ちょ、名前っ帰りはどうするんだ、迎えに…」
「大人のレディーになるので結構です!!」
さようなら!!と大きな声を上げて二宮隊の作戦室から出て行った名前。その後ろ姿を中途半端に右腕が上がった状態で見送った辻。
「えんぎり……?きら、嫌われた…?」
声と腕を震わせる辻の顔は真っ青だった。懐いていた犬が逃げ出した、もしくは反抗的になったときの飼い主。まさしくそれだった。
「どうするんですか二宮さん」
「知るか」
「辻ちゃんも名字ちゃんの事大好きだからあの状態じゃ使い物になりませんよ」
「……………」
簡単に想像が出来た。なんせ目の前に「何かしたか…?やっぱり待たせたのが……」と絶望に打ちひしがれる辻がいるのだから。……馬鹿犬め、と二宮は本日三回目の舌打ちを漏らした。
(20160805)