君煩い
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「治ちゃん、お茶出しするよ?」
「ええから座っとけ妊婦」
「適度に動かないと出産のときつらいのよ」
「それでも今日はお客さん。進も母ちゃん見ときや」
「うん! ママ、愛 がお腹でびっくりするからすわってや!」
「家でもこうなんですよ北さん」
「頼もしい兄ちゃんやな、進」
「フッフ! おれ愛のにいちゃんやもん!」
な! 愛! と私のお腹に優しく触れて話しかける進に表情が勝手に緩んでしまう。うちの長男が今日も可愛い。進はお散歩も大事なんだよと言ったらそうなんや! と素直に一緒にお散歩するけど、侑は「隕石ふってきたらどうするんや!」と反対してくる。隕石ふってきたらもうそれどころじゃないんですけどね。車とかなら分かるけど。
「アルゼンチンと試合かあ」
二連敗中なので一矢報いてほしいところ。侑もオリンピック選手に召集されたし。本当は現地で応援したかったけどお腹が目立ってきて「遠出はあかん! 人も多いし!」と侑が心配したので進と一緒にこっちで応援だ。
「北さん! 北さん! パパがテレビ! 翔陽くんも!」
「な、でとるな。おばちゃんみてや。こいつが俺の後輩や」
北さんと進がテレビを指さしてわいわいやってる。私たちが北さんって呼ぶから進も北さんって呼ぶようになった。日向くんは侑の呼び方を真似してるし。治ちゃんは私の呼び方を真似して治ちゃん呼び。あとアランくんも。うーん、日向くんと治ちゃんとアランくんはともかく幼児が成人男性を「さん」呼びしてるの周りがびっくりするんだよね。ここの常連さんは気にしないけど。……まあいいか。礼儀正しいってことで。
「あらー! ほんまに治ちゃんと同じ男前やわー」
「せやろ」
「あっアランくんや!」
治ちゃんの言葉にテレビを観るとアランくんが侑にツッコんでいたところだった。何やってるの。絶対に侑がなんかしたんだろうけど。
「アランくんがパパにツッコんどるよ! 治ちゃん!」
「おまえツッコミ覚えたんかあ」
「なんでもすぐに覚えるよ。だから侑が悪影響」
「父親が悪影響てあかんやろ」
「あかんのですよ北さん」
なのでクソ豚とかやかまし豚とか暴言吐いたら一ワードにつき一時間無視を執行している。これがすごく侑に効くのだ。
『愛しとる。愛しとるから無視やめてや……しぬ……』
まあだいたい30分くらいで絆されて無視やめちゃうんだけど。くっつき虫になってずっと離れないし。そしてそんな侑が可愛いと思ってしまうので私も大概だ。好きな男が可愛いと思えるって説は本当みたいだ。
『また惚れさすから全部試合観てや』
観ないわけがないのに念を押して言ってくるところも、自信満々なところも、ファンサ失敗して落ち込むところも。全部が好き。結婚してから好きが加速している気がする。宮ナマエになってからずっとそうなのだ。
『カッコいいとこ見せてね? 旦那さま?』
『当たり前や!』
東京に行く前のやりとり。進と一緒に抱きしめられて、それから愛のいるお腹に顔を寄せて、侑は「絶対勝つ」と闘志を燃やして家を発った。
カラカラとおにぎり宮のお店の引き戸が開く。振り返ると大耳さんと赤木さんと銀くんがいた。
「おいーす」
「遅いですよー! もう試合始まってまいますよっ」
「すまんて」
「おお、北焼けとんなあ」
「北さんご無沙汰してますっ」
「おう元気そうやな」
「…………」
「進?」
さっきまで治ちゃんとわいわいしていた進は大耳さん達を見てささっと私の後ろに隠れた。これは人見知りしてる。
「進? 三人とも会ったことあるでしょう?」
「おれしらんもん」
「まだ小さかったからな」
「進ー兄ちゃんらに顔みしてやー」
赤木さんの言葉に顔をおずおずと出す進。優しい声に触発されたらしい。さすが先生。
「侑と治にそっくりやなあ」
「小さいときの二人のまんまですよ。私に似てるの寝相くらいです」
「侑のDNA強すぎやろ」
「うーん、この子はこの濃いDNAに勝ってくれるかな。まあ似てもいいんだけど女の子だからなあ」
膨らんだお腹を撫でる。銀くんが近づいてしゃがみこんで「侑に負けちゃあかんで」とお腹に話しかけている。悪の権化みたいな扱いされてて笑ってしまった。
「あ、お腹蹴った」
「! 愛おきたん?」
ぐるりと前に来て私のお腹に手を寄せる進。人見知りより妹の動きの方が興味が勝ったらしい。銀くんの言葉に反応したみたいでちょっとツボに入りそうだったけど我慢する。
「愛、愛。にいちゃんおるで」
「なんやこの愛おしい光景は……」
「銀くん涙ぐんでない?」
「銀はナマエが出産したときも泣いとったなあ。ツムの次に」
「あ? 侑が泣いたんか?」
「大号泣です」
大耳さんの驚いたような言葉にそう返すと「想像がつかん」と苦い顔をされた。人でなしですからね。出産ですごい疲れてたのに三度見くらいしたからなあ。治ちゃんとお兄ちゃんが声出さないように大爆笑して写真撮ってた。
「最初は治ちゃんが俺がパパやでーってからかってたのに対抗してたのに急にぽろーって泣き出して」
「感慨深いな」
「あの侑が……」
「立派に親やっとるなぁ……!」
銀くんが感極まってる。心なしか大耳さんと赤木さんもジーンとしてる。よかったね侑。素敵な仲間に恵まれて。
「この子は女の子だからか今からすごく心配してるので多分また泣きます。進のときも初産だから心配してましたけど。見にきますか?」
「イベント扱いしたらあかんよ」
北さんが笑いながら言う。治ちゃんは「次は動画撮っとくわ」と悪い顔してる。侑云々より思い出としてそれはいいなあ。
「ママ、愛ねてもーた」
「寝ちゃったかあ。タッチしてくれた?」
「うん」
嬉しそうな進の頭を撫でる。侑いるときは胎動したら交換制で聞くという侑の大人げなさに律儀に付き合ってるから今は進の一人占めだ。
「さて俺が準備万端ってところ見せたりますよ」
そう言って治ちゃんは黒のTシャツを脱いで侑のユニフォーム姿になった。ちょうどテレビで侑の背中が映っててその後ろ姿は当たり前だけどそっくりだった。
「……ウン。間違いない」
「何も間違いないけども」
「ややこしいねんっ!」
三人の笑い声。常連さんの嬉しそうに治ちゃんのおにぎりを食べて注文する光景。テレビ越しの侑の背中。それをみた北さんは誇らしげに笑った。
「どや、俺の仲間。皆すごいやろ」
「……はい!」
高校二年生の春高での言葉が頭に浮かぶ。北さんにそう言われるのはすごく嬉しい。侑に伝えなきゃなと思いながらテレビを観る。
試合が始まる。みんなで勝利を祈って見守った。
「ええから座っとけ妊婦」
「適度に動かないと出産のときつらいのよ」
「それでも今日はお客さん。進も母ちゃん見ときや」
「うん! ママ、
「家でもこうなんですよ北さん」
「頼もしい兄ちゃんやな、進」
「フッフ! おれ愛のにいちゃんやもん!」
な! 愛! と私のお腹に優しく触れて話しかける進に表情が勝手に緩んでしまう。うちの長男が今日も可愛い。進はお散歩も大事なんだよと言ったらそうなんや! と素直に一緒にお散歩するけど、侑は「隕石ふってきたらどうするんや!」と反対してくる。隕石ふってきたらもうそれどころじゃないんですけどね。車とかなら分かるけど。
「アルゼンチンと試合かあ」
二連敗中なので一矢報いてほしいところ。侑もオリンピック選手に召集されたし。本当は現地で応援したかったけどお腹が目立ってきて「遠出はあかん! 人も多いし!」と侑が心配したので進と一緒にこっちで応援だ。
「北さん! 北さん! パパがテレビ! 翔陽くんも!」
「な、でとるな。おばちゃんみてや。こいつが俺の後輩や」
北さんと進がテレビを指さしてわいわいやってる。私たちが北さんって呼ぶから進も北さんって呼ぶようになった。日向くんは侑の呼び方を真似してるし。治ちゃんは私の呼び方を真似して治ちゃん呼び。あとアランくんも。うーん、日向くんと治ちゃんとアランくんはともかく幼児が成人男性を「さん」呼びしてるの周りがびっくりするんだよね。ここの常連さんは気にしないけど。……まあいいか。礼儀正しいってことで。
「あらー! ほんまに治ちゃんと同じ男前やわー」
「せやろ」
「あっアランくんや!」
治ちゃんの言葉にテレビを観るとアランくんが侑にツッコんでいたところだった。何やってるの。絶対に侑がなんかしたんだろうけど。
「アランくんがパパにツッコんどるよ! 治ちゃん!」
「おまえツッコミ覚えたんかあ」
「なんでもすぐに覚えるよ。だから侑が悪影響」
「父親が悪影響てあかんやろ」
「あかんのですよ北さん」
なのでクソ豚とかやかまし豚とか暴言吐いたら一ワードにつき一時間無視を執行している。これがすごく侑に効くのだ。
『愛しとる。愛しとるから無視やめてや……しぬ……』
まあだいたい30分くらいで絆されて無視やめちゃうんだけど。くっつき虫になってずっと離れないし。そしてそんな侑が可愛いと思ってしまうので私も大概だ。好きな男が可愛いと思えるって説は本当みたいだ。
『また惚れさすから全部試合観てや』
観ないわけがないのに念を押して言ってくるところも、自信満々なところも、ファンサ失敗して落ち込むところも。全部が好き。結婚してから好きが加速している気がする。宮ナマエになってからずっとそうなのだ。
『カッコいいとこ見せてね? 旦那さま?』
『当たり前や!』
東京に行く前のやりとり。進と一緒に抱きしめられて、それから愛のいるお腹に顔を寄せて、侑は「絶対勝つ」と闘志を燃やして家を発った。
カラカラとおにぎり宮のお店の引き戸が開く。振り返ると大耳さんと赤木さんと銀くんがいた。
「おいーす」
「遅いですよー! もう試合始まってまいますよっ」
「すまんて」
「おお、北焼けとんなあ」
「北さんご無沙汰してますっ」
「おう元気そうやな」
「…………」
「進?」
さっきまで治ちゃんとわいわいしていた進は大耳さん達を見てささっと私の後ろに隠れた。これは人見知りしてる。
「進? 三人とも会ったことあるでしょう?」
「おれしらんもん」
「まだ小さかったからな」
「進ー兄ちゃんらに顔みしてやー」
赤木さんの言葉に顔をおずおずと出す進。優しい声に触発されたらしい。さすが先生。
「侑と治にそっくりやなあ」
「小さいときの二人のまんまですよ。私に似てるの寝相くらいです」
「侑のDNA強すぎやろ」
「うーん、この子はこの濃いDNAに勝ってくれるかな。まあ似てもいいんだけど女の子だからなあ」
膨らんだお腹を撫でる。銀くんが近づいてしゃがみこんで「侑に負けちゃあかんで」とお腹に話しかけている。悪の権化みたいな扱いされてて笑ってしまった。
「あ、お腹蹴った」
「! 愛おきたん?」
ぐるりと前に来て私のお腹に手を寄せる進。人見知りより妹の動きの方が興味が勝ったらしい。銀くんの言葉に反応したみたいでちょっとツボに入りそうだったけど我慢する。
「愛、愛。にいちゃんおるで」
「なんやこの愛おしい光景は……」
「銀くん涙ぐんでない?」
「銀はナマエが出産したときも泣いとったなあ。ツムの次に」
「あ? 侑が泣いたんか?」
「大号泣です」
大耳さんの驚いたような言葉にそう返すと「想像がつかん」と苦い顔をされた。人でなしですからね。出産ですごい疲れてたのに三度見くらいしたからなあ。治ちゃんとお兄ちゃんが声出さないように大爆笑して写真撮ってた。
「最初は治ちゃんが俺がパパやでーってからかってたのに対抗してたのに急にぽろーって泣き出して」
「感慨深いな」
「あの侑が……」
「立派に親やっとるなぁ……!」
銀くんが感極まってる。心なしか大耳さんと赤木さんもジーンとしてる。よかったね侑。素敵な仲間に恵まれて。
「この子は女の子だからか今からすごく心配してるので多分また泣きます。進のときも初産だから心配してましたけど。見にきますか?」
「イベント扱いしたらあかんよ」
北さんが笑いながら言う。治ちゃんは「次は動画撮っとくわ」と悪い顔してる。侑云々より思い出としてそれはいいなあ。
「ママ、愛ねてもーた」
「寝ちゃったかあ。タッチしてくれた?」
「うん」
嬉しそうな進の頭を撫でる。侑いるときは胎動したら交換制で聞くという侑の大人げなさに律儀に付き合ってるから今は進の一人占めだ。
「さて俺が準備万端ってところ見せたりますよ」
そう言って治ちゃんは黒のTシャツを脱いで侑のユニフォーム姿になった。ちょうどテレビで侑の背中が映っててその後ろ姿は当たり前だけどそっくりだった。
「……ウン。間違いない」
「何も間違いないけども」
「ややこしいねんっ!」
三人の笑い声。常連さんの嬉しそうに治ちゃんのおにぎりを食べて注文する光景。テレビ越しの侑の背中。それをみた北さんは誇らしげに笑った。
「どや、俺の仲間。皆すごいやろ」
「……はい!」
高校二年生の春高での言葉が頭に浮かぶ。北さんにそう言われるのはすごく嬉しい。侑に伝えなきゃなと思いながらテレビを観る。
試合が始まる。みんなで勝利を祈って見守った。
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