君煩い
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「治ちゃん、おにぎりください」
「遅かったなあ。進 、何食いたい? パパのおにぎりうまいで」
「まんま」
「な、腹減ったなあ」
「進にはおかかください。ママと分けっこしようね進」
「むふん」
赤葦は目の前の光景に目を瞬いた。幼児を抱っこしている女性。確か稲荷崎のマネージャーだった人だ。宮兄弟と幼なじみだと聞いたことがあるので赤葦と同い年。同い年で子供がいることと宮治が自分をパパと称したのに二重に驚く。つまり結婚して子供がいる。同い年で。衝撃が走った。
「うん? あれ梟谷の赤葦くん?」
「あ、はいそうです」
「見にきてたんですね」
ふわりと笑う顔は大人びていて。自分も成人して社会人になったが母親になった人はまた違うのだろうか。そう思った。
そしてちょうど宮侑のサーブになる。手拍子が宮侑の合図と共にピタリと止まり、静寂がやってくる。そして打ち出させるスパイクサーブ。ドオッ! と鈍い音がしたが、アウトだった。
「ダサッはしゃぎすぎやねん」
「ははは」
途端にぐりんとこっちを見た宮侑にびくっとなる。聞こえた? いや距離的にありえない。つまり双子特有のあれというやつだ。怖い。そう思っていると宮侑は何かを発見したような顔をして、顔を手で隠した。なんだあれは。
「パパ、サーブ失敗しちゃって恥ずかしがってるねー進」
「あぶ」
「え? パパ?」
「え?」
女性は赤葦の言葉に目を瞬いている。でも赤葦も混乱している。
「パパが二人? え? え?」
「あっパパはあっちですあっち」
そう言ってコートにいる宮侑を指さす。女性は呆れたように宮治をみた。
「治ちゃんが自分のことパパっていうから赤葦くん混乱してるじゃない」
「俺もパパみたいなもんやろ」
「あなたはおじさん。双子なんだから進も混乱しちゃうでしょ」
「今のうちにすり込むんや」
「やめてください。あっ自己紹介してなかった。宮ナマエです。この子は長男の進です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「あー」
「進、挨拶できてえらいねえ」
よしよしと幼児を撫でる宮ナマエ。それだけで愛情が溢れているような光景に心が和んだ。
そして並んで試合を観てBJの勝利を一緒に喜んだ。
****
「侑!」
「ナマエ! 進ぅ!」
侑の可愛い愛おしい大好きな家族が手を振ってこちらにやってくる。大股で足を進めて二人ごと抱きしめた。
「あふ」
「汗がぺっちゃりでイヤって言ってる」
「パパ頑張ったんやで進!」
「ぱー」
「そうパパ! パパやでパーパ!」
「わんわんの方を先に覚えたからって必死すぎる」
「まんまはええけど次がわんわんはあかんやろ!」
犬に負けたんやで! と嘆く侑にナマエは笑う。可愛い。可愛くて頬に唇をのせるとナマエは目をぱちりとして照れくさそうに笑った。
「侑しゃがんで」
「ん」
お返しのキスを頬にもらう。幸せが湧き上がってきてもう一回ナマエにキスした。ナマエの目が柔らかく弧を描いた。好きだと愛してると伝えてくれるそれにたまらなくなって再び二人を抱きしめた。
十八になったとき。ある紙をナマエに渡した。ナマエの気が向くようにピンクの可愛い紙にした。
『…………侑くん?』
『なんや』
『これなんですか』
『上に書いてあるやろ』
『紙の種類は分かるんですよ。書いてあるからね。でもなんで婚姻届を渡すのって聞いてるの。しかもここ体育館』
『お前が進路は自分で決める言うからやろ。家族になったら口出せる』
『…………治ちゃーん!! この馬鹿に怒って!! 告白もプロポーズもふっ飛ばした! この馬鹿!!』
『馬鹿馬鹿言うな! つーかデカい声でやめろ!』
『どアホやな』
『聞こえてんねんサムこらぁ!』
23になった今は思う。あれはなかったと。
ただあのときは進路が別れそうになって焦っていたのだ。ナマエが自分の元から離れていくと。ギャーギャー長いこと喧嘩をして、結局おさめてくれたのはナマエだった。
『好きって言わないと絶対書かない!!』
この馬鹿! という言葉と共にバレーボールを投げられてナマエの言葉の意味を考えてたら見事に顔にぶつかった。
『…………ナマエ、好きや! 好きやから! めっちゃ好き! やから書いてや!』
鼻血を出しながらの告白はかっこ悪くて思い出す度に頭を抱えるし、タイムマシンがあれば絶対にやり直すと力強く言えるが、好きと伝えたあとのナマエの気の抜けたような笑顔が今も忘れられない。
『私も好きだよお馬鹿さん』
あの顔は絶対に忘れない。
結局、ナマエの家族と侑の家族と話し合って二十歳になってから出すことになった婚姻届。ナマエの進路は侑が進学予定かつ目指しているプロバレーチームのホームタウンのある県の大学になって好き好きめっちゃ好きと抱きついた。ナマエは「元々目指してた大学だし、別居婚イヤだしね」と仕方ないなぁと笑っていた。
同棲して学生結婚、妊娠と波乱万丈な学生生活を送らせてしまって治からは「おまえ少しは待てんのか。片想いのときは無駄に時間使ったくせに」と呆れられた。ぐぬぬ……と反論できずにいるとナマエはそんな侑を抱きしめながら「幸せだからいいんです」とそれはもう晴れやかな顔で言ってくれて一生幸せすると誓った。産まれてくる子どもと一緒に。
「あ、鉄くんだ」
ナマエの声にバッと振り返ると日向に向かってコラボ動画やらない? 出てみない? と怪しく誘っていた。日向は即答で出ると返している。
「「あの人に騙されて気づいたら借金1000万」みたいな感じスゴない?」
「そんなことは……」
「ないて言えてへんやん」
鉄くんこと黒尾はナマエの初恋を奪った怨敵であるが、今はもう水に流した。だってもう俺の嫁さんやし。可愛い可愛い子どももおるし。そう思いつつ日向との会話を見ていると黒尾と目があった。そしてこっちにやって来る。
「ナマエ。今さらだけど出産おめでとう。出産祝いしか送れないでごめんな」
「鉄くん仕事頑張ってるの知ってるから全然いいんだよ。ありがとう」
「結婚祝いはなぁ……俺も学生だったし忙しくて贈れなかったけどいります? 宮選手。ライバルに塩送るみたいになりますけど」
「!?? 俺の嫁さん! 俺の子ども!」
「これ完全におちょくってるだけだよ侑」
抱きしめてナマエと進を守る。絶対やらない。ナマエの呆れたような声がするがそんなの分からないだろう。この男、間男を平気でやりそうな顔している。ニヤニヤしてるし。絶対やらない。
「ほら、ファンサービスしておいで。進も疲れたみたいだしホテル戻ってるよ」
「タクシー使って部屋に鍵ロックもするんやで!? 俺の声しても開けたらあかん! 合い言葉決めとかな」
「はいはい。あとで合い言葉メッセージで送ってくださーい」
「適当な態度やめろや! 絶対やからな!」
「はい。分かりました。……侑」
「なんやねん!」
「ファンになびいたらダメだよ?」
茶目っ気のある声で、可愛い笑顔で言われて黒尾への怒りが吹き飛んだ。
「はい」
「よしいい子」
進にやるみたいに頭を撫でられる。そこには確かに愛情がこめられていて、顔が緩んだ。
「ナマエ、愛しとる。進も愛しとる」
「私も愛してるよ。侑、進」
7歳の自分に伝えたい。
お前の見る目は最高やし、可愛い嫁さんと可愛い子どもがいて、バレーも活躍する格好良すぎる大人になるから余所見しないでナマエとバレーを見とけ、と。そしたらそこにあるのは幸せだからとエールを送った。
完
「遅かったなあ。
「まんま」
「な、腹減ったなあ」
「進にはおかかください。ママと分けっこしようね進」
「むふん」
赤葦は目の前の光景に目を瞬いた。幼児を抱っこしている女性。確か稲荷崎のマネージャーだった人だ。宮兄弟と幼なじみだと聞いたことがあるので赤葦と同い年。同い年で子供がいることと宮治が自分をパパと称したのに二重に驚く。つまり結婚して子供がいる。同い年で。衝撃が走った。
「うん? あれ梟谷の赤葦くん?」
「あ、はいそうです」
「見にきてたんですね」
ふわりと笑う顔は大人びていて。自分も成人して社会人になったが母親になった人はまた違うのだろうか。そう思った。
そしてちょうど宮侑のサーブになる。手拍子が宮侑の合図と共にピタリと止まり、静寂がやってくる。そして打ち出させるスパイクサーブ。ドオッ! と鈍い音がしたが、アウトだった。
「ダサッはしゃぎすぎやねん」
「ははは」
途端にぐりんとこっちを見た宮侑にびくっとなる。聞こえた? いや距離的にありえない。つまり双子特有のあれというやつだ。怖い。そう思っていると宮侑は何かを発見したような顔をして、顔を手で隠した。なんだあれは。
「パパ、サーブ失敗しちゃって恥ずかしがってるねー進」
「あぶ」
「え? パパ?」
「え?」
女性は赤葦の言葉に目を瞬いている。でも赤葦も混乱している。
「パパが二人? え? え?」
「あっパパはあっちですあっち」
そう言ってコートにいる宮侑を指さす。女性は呆れたように宮治をみた。
「治ちゃんが自分のことパパっていうから赤葦くん混乱してるじゃない」
「俺もパパみたいなもんやろ」
「あなたはおじさん。双子なんだから進も混乱しちゃうでしょ」
「今のうちにすり込むんや」
「やめてください。あっ自己紹介してなかった。宮ナマエです。この子は長男の進です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「あー」
「進、挨拶できてえらいねえ」
よしよしと幼児を撫でる宮ナマエ。それだけで愛情が溢れているような光景に心が和んだ。
そして並んで試合を観てBJの勝利を一緒に喜んだ。
****
「侑!」
「ナマエ! 進ぅ!」
侑の可愛い愛おしい大好きな家族が手を振ってこちらにやってくる。大股で足を進めて二人ごと抱きしめた。
「あふ」
「汗がぺっちゃりでイヤって言ってる」
「パパ頑張ったんやで進!」
「ぱー」
「そうパパ! パパやでパーパ!」
「わんわんの方を先に覚えたからって必死すぎる」
「まんまはええけど次がわんわんはあかんやろ!」
犬に負けたんやで! と嘆く侑にナマエは笑う。可愛い。可愛くて頬に唇をのせるとナマエは目をぱちりとして照れくさそうに笑った。
「侑しゃがんで」
「ん」
お返しのキスを頬にもらう。幸せが湧き上がってきてもう一回ナマエにキスした。ナマエの目が柔らかく弧を描いた。好きだと愛してると伝えてくれるそれにたまらなくなって再び二人を抱きしめた。
十八になったとき。ある紙をナマエに渡した。ナマエの気が向くようにピンクの可愛い紙にした。
『…………侑くん?』
『なんや』
『これなんですか』
『上に書いてあるやろ』
『紙の種類は分かるんですよ。書いてあるからね。でもなんで婚姻届を渡すのって聞いてるの。しかもここ体育館』
『お前が進路は自分で決める言うからやろ。家族になったら口出せる』
『…………治ちゃーん!! この馬鹿に怒って!! 告白もプロポーズもふっ飛ばした! この馬鹿!!』
『馬鹿馬鹿言うな! つーかデカい声でやめろ!』
『どアホやな』
『聞こえてんねんサムこらぁ!』
23になった今は思う。あれはなかったと。
ただあのときは進路が別れそうになって焦っていたのだ。ナマエが自分の元から離れていくと。ギャーギャー長いこと喧嘩をして、結局おさめてくれたのはナマエだった。
『好きって言わないと絶対書かない!!』
この馬鹿! という言葉と共にバレーボールを投げられてナマエの言葉の意味を考えてたら見事に顔にぶつかった。
『…………ナマエ、好きや! 好きやから! めっちゃ好き! やから書いてや!』
鼻血を出しながらの告白はかっこ悪くて思い出す度に頭を抱えるし、タイムマシンがあれば絶対にやり直すと力強く言えるが、好きと伝えたあとのナマエの気の抜けたような笑顔が今も忘れられない。
『私も好きだよお馬鹿さん』
あの顔は絶対に忘れない。
結局、ナマエの家族と侑の家族と話し合って二十歳になってから出すことになった婚姻届。ナマエの進路は侑が進学予定かつ目指しているプロバレーチームのホームタウンのある県の大学になって好き好きめっちゃ好きと抱きついた。ナマエは「元々目指してた大学だし、別居婚イヤだしね」と仕方ないなぁと笑っていた。
同棲して学生結婚、妊娠と波乱万丈な学生生活を送らせてしまって治からは「おまえ少しは待てんのか。片想いのときは無駄に時間使ったくせに」と呆れられた。ぐぬぬ……と反論できずにいるとナマエはそんな侑を抱きしめながら「幸せだからいいんです」とそれはもう晴れやかな顔で言ってくれて一生幸せすると誓った。産まれてくる子どもと一緒に。
「あ、鉄くんだ」
ナマエの声にバッと振り返ると日向に向かってコラボ動画やらない? 出てみない? と怪しく誘っていた。日向は即答で出ると返している。
「「あの人に騙されて気づいたら借金1000万」みたいな感じスゴない?」
「そんなことは……」
「ないて言えてへんやん」
鉄くんこと黒尾はナマエの初恋を奪った怨敵であるが、今はもう水に流した。だってもう俺の嫁さんやし。可愛い可愛い子どももおるし。そう思いつつ日向との会話を見ていると黒尾と目があった。そしてこっちにやって来る。
「ナマエ。今さらだけど出産おめでとう。出産祝いしか送れないでごめんな」
「鉄くん仕事頑張ってるの知ってるから全然いいんだよ。ありがとう」
「結婚祝いはなぁ……俺も学生だったし忙しくて贈れなかったけどいります? 宮選手。ライバルに塩送るみたいになりますけど」
「!?? 俺の嫁さん! 俺の子ども!」
「これ完全におちょくってるだけだよ侑」
抱きしめてナマエと進を守る。絶対やらない。ナマエの呆れたような声がするがそんなの分からないだろう。この男、間男を平気でやりそうな顔している。ニヤニヤしてるし。絶対やらない。
「ほら、ファンサービスしておいで。進も疲れたみたいだしホテル戻ってるよ」
「タクシー使って部屋に鍵ロックもするんやで!? 俺の声しても開けたらあかん! 合い言葉決めとかな」
「はいはい。あとで合い言葉メッセージで送ってくださーい」
「適当な態度やめろや! 絶対やからな!」
「はい。分かりました。……侑」
「なんやねん!」
「ファンになびいたらダメだよ?」
茶目っ気のある声で、可愛い笑顔で言われて黒尾への怒りが吹き飛んだ。
「はい」
「よしいい子」
進にやるみたいに頭を撫でられる。そこには確かに愛情がこめられていて、顔が緩んだ。
「ナマエ、愛しとる。進も愛しとる」
「私も愛してるよ。侑、進」
7歳の自分に伝えたい。
お前の見る目は最高やし、可愛い嫁さんと可愛い子どもがいて、バレーも活躍する格好良すぎる大人になるから余所見しないでナマエとバレーを見とけ、と。そしたらそこにあるのは幸せだからとエールを送った。
完
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