君煩い
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烏野と音駒の試合を侑と治ちゃんと観た。音駒の一番が鉄くんだよと言うと侑は「あれが鉄くん……」と目をギラギラさせて見ていた。襲ったりしないよね……? と治ちゃんにこっそり聞いたら返ってきた言葉は「分からん」だった。強く否定してほしかったです。教えなきゃ良かった。
試合結果は烏野の勝利。稲荷崎に勝ったのだから当然です! という気持ちと鉄くんの学校負けちゃった……という気持ちが半分半分で戦っている。つまりなかなか複雑な心境ということで。
「ほら会うてきいや」
「なんでわざわざ会わないかんねん!」
「お前の為でもあるっちゅう話や」
「? 意味分からん! 離せやサム!」
治ちゃんに羽交い締めされた侑。今のうち行っておいでと治ちゃんは穏やかな顔で言うけど顔と行動が合っていない。でも背中を押されたのだから行くしかない。それに私もはっきりさせたい。自分の気持ちをはっきりさせて、侑に向き合いたい。怖い気持ちはまだあるけれど。
「侑」
「なんや!」
「がんばってくるね!」
「は!? なにがやねん! お前鉄くんと何するつもりや! おいこらぁ! ナマエーっ!」
******
「鉄くん!」
「ナマエ」
鉄くんはチームメイトと一緒にいた。確か同じ三年生の海さんと夜久さん。ぺこりと頭を下げて鉄くんの前まで行く。
「お疲れさま鉄くん」
「おーナマエもな。目の縁赤いけど大丈夫か?」
鉄くんが手を伸ばして指で優しく私の目の下を触れる。それをガシッと掴んで手を繋いでみる。……普通だなぁ。ドキドキしたりしない。
「急に手繋いでどうしたの」
「おい待て黒尾、大将のこと言えないパターンじゃねーだろうな」
「幼なじみ……って言うほど子供のとき長い過ごしてないけど。大事な子だよ」
夜久さんにそう伝える鉄くんの言葉にしっくりくる。大事な人。私にとっても鉄くんはそんな存在だ。
「鉄くんお願いがあるのですが」
「なあに」
「ハグしてもいい?」
「ぶっ」
鉄くんと夜久さんは同時に吹き出した。海さんは固まっている。……唐突すぎた。というか普通に嫌がらせになるのでは……? 自分の言ったことに今さら焦って手をぶんぶん振る。
「違うの! 邪な気持ちはないんです!」
「あーちょっと二人で端っこ行こうか」
「大将パターンか!?」
「俺も分かんない」
大将パターンってなんだろう。
鉄くんに手を引っ張られて壁側にやってきた。鉄くんと向き合う。……侑より大きいから顔をさらに上にしないといけないなと思った。でも繋がった手は同じように豆がある。硬くなったバレーの手。ああでも侑の方が爪先は綺麗かもしれない。いつもケアを丁寧にやってるから。
「で? どういうこと? 励ましてくれてるわけじゃなさそうだけど」
「……励ますの忘れてた」
「別にいいけどね。理由教えてくれたら許す」
体勢を私の方に傾けてニヤリと笑う鉄くん。……小さいときは引っ込み思案で優しかったのに。いや、今も優しいけど。でも意地悪にもなった。月日って残酷だ。そう思いつつ口を開く。
「……私、初恋しか知らなくて、それが鉄くんで」
「…………」
「でも私のこと好きって言ってくれる人にちゃんと向き合いたくて。……怖いけど。その人は幼なじみでずっと身近にいて、いるのが当たり前で。だから恋愛の意味で好かれてるって言われてもピンと来なくて。そしたらもう一人の幼なじみが初恋引きずってるんじゃない? って言われたの。だから鉄くんとハ、ハグしたら……分かるかなぁって」
「…………なるほどねえ」
言い終わって思ったけど私すごいわがままなこと言ってる。鉄くんのこと利用しますって言ってるのと同じだ。
「鉄くん、ごめ」
「謝るのはなし。んー……初恋利用してやろっかなって思うのは俺も同じだし」
「?」
「でも俺はナマエが笑ってるほうが大事なので」
ぽんぽんと頭を叩かれる。鉄くんは笑っていた。
「ハグしなくても分かるよ」
「……なんで?」
「ハグはするかどうかじゃなくて自然としたくなるものだから」
「したくなるもの……」
頭に浮かんだのは兵庫代表戦決勝戦。そこで抱き上げられて晴れやかに笑う侑に自然と手が伸びていた。汗でいっぱいの頑張った姿に。
「それにナマエ、その幼なじみに怖いと思いながらも向き合いたいって思ってる時点で特別に思ってるでしょ」
「……そうなの?」
「恋愛の好きに向き合うなら否が応でも関係が変わることは分かるでしょ」
「うん……」
「恋愛ってエネルギー使うよ。何とも思っていない相手には力湧かないくらいに。本当に何も思ってない幼なじみならナマエならすっぱり断ると思う。いくら大切な幼なじみでも」
「…………」
「ナマエ? 俺にハグしよって言って出てきた言葉が「邪な気持ちはない」だよ。ナマエはもう俺の恋心は初恋で終わってるんだよ。それで身近すぎて気づかなかった恋を大事にしな?」
気づかなかった恋。
侑の顔が頭に浮かぶ。バレーに真剣な顔。楽しそうにしてる顔。悔しそうな顔。子供みたいにわがままを言う顔。私の言葉に一喜一憂する顔。私が泣いても真正面から向き合ってくれる顔。どれも鮮明に浮かんできて胸が締めつけられる思いがした。
「鉄くん、私……」
侑のこと好きだ。
そう言おうとした瞬間、視界がぐわんと動いた。お腹に腕を回されてぎゅっと背後から抱きしめられた。
「!?」
「やっと見つけたわ!」
「侑!?」
背後にいたのは侑だった。息切れして汗をかいている。熱のこもった身体に連動するみたいに私の身体も熱くなった気がした。侑はキッと鉄くんを見据える。
「ここで会ったが百年目じゃ鉄くん」
「え、宮兄弟の片割れ? 俺探されてたの? ていうか鉄くんって呼ばれてんの?」
「この女の初恋相手やろうがもう過去の話やっちゅうねん。調子に乗るなや」
「乗ってませんが? ナマエチャン? この人止めようか?」
鉄くんの心からの困惑が伝わってくる。止めないとと思って侑に顔を向けると思ったより顔が近くて、かああと顔に熱が集まった。近い。侑が近い。回った腕も恥ずかしい。もぞもぞ動いていると侑から「動くな」と低い声で言われてぴしっと止まる。
「あ? なんで顔赤いねん。初恋に熱上げとったんやなかろうな!?」
「ち、違うもん!」
「説得力ないわ!」
そう言って侑は私をくるりと反転させてからぐいっと抱き上げた。
「わっ」
「もう二度と会うことはないからな鉄くん」
「完全に悪役のセリフなんですけど」
「はっ悪役上等じゃ」
「……ナマエの志望大学って東京じゃなかったっけ?」
「はあああ!? 聞いとらんぞ!」
「候補! 候補だから!」
「おまえは俺の側におらなあかんやろうが!」
侑はそう私に言って横向きに抱き上げたまま歩き出した。慌てて鉄くんの方を振り返ったら緩く手を振っていた。それがどんどん遠ざかっていく。初恋が過去になっていくみたいに。
そして今。私は次の恋とふれ合っている。
「……私の志望大学あと大阪か神戸だよ」
「神戸にせえ。神戸しか許さん」
「むちゃくちゃ言うこの人……」
「……俺が行く大学のとこならええ。むしろそっちのがええな」
「全然譲歩してなくてびっくりした……」
そして更にびっくりすることに私の恋の相手は一回も気持ちを伝えてくれたことがない。こんなに直接的に言葉をぶつけてくるのに。
「侑」
「なんや」
「…………」
「なんやねん」
侑が言わないなら私から言おうとしたけど女ひとり抱っこして移動する光景はすごく目立っていて、すれ違う人達みんながこっちを見ていて口にすることは出来なかった。……恥ずかしいのもあったけど。
だから侑の首に腕を回して顔を隠した。侑は一瞬固まったけど、何も言わずにそのまま歩き続けた。
試合結果は烏野の勝利。稲荷崎に勝ったのだから当然です! という気持ちと鉄くんの学校負けちゃった……という気持ちが半分半分で戦っている。つまりなかなか複雑な心境ということで。
「ほら会うてきいや」
「なんでわざわざ会わないかんねん!」
「お前の為でもあるっちゅう話や」
「? 意味分からん! 離せやサム!」
治ちゃんに羽交い締めされた侑。今のうち行っておいでと治ちゃんは穏やかな顔で言うけど顔と行動が合っていない。でも背中を押されたのだから行くしかない。それに私もはっきりさせたい。自分の気持ちをはっきりさせて、侑に向き合いたい。怖い気持ちはまだあるけれど。
「侑」
「なんや!」
「がんばってくるね!」
「は!? なにがやねん! お前鉄くんと何するつもりや! おいこらぁ! ナマエーっ!」
******
「鉄くん!」
「ナマエ」
鉄くんはチームメイトと一緒にいた。確か同じ三年生の海さんと夜久さん。ぺこりと頭を下げて鉄くんの前まで行く。
「お疲れさま鉄くん」
「おーナマエもな。目の縁赤いけど大丈夫か?」
鉄くんが手を伸ばして指で優しく私の目の下を触れる。それをガシッと掴んで手を繋いでみる。……普通だなぁ。ドキドキしたりしない。
「急に手繋いでどうしたの」
「おい待て黒尾、大将のこと言えないパターンじゃねーだろうな」
「幼なじみ……って言うほど子供のとき長い過ごしてないけど。大事な子だよ」
夜久さんにそう伝える鉄くんの言葉にしっくりくる。大事な人。私にとっても鉄くんはそんな存在だ。
「鉄くんお願いがあるのですが」
「なあに」
「ハグしてもいい?」
「ぶっ」
鉄くんと夜久さんは同時に吹き出した。海さんは固まっている。……唐突すぎた。というか普通に嫌がらせになるのでは……? 自分の言ったことに今さら焦って手をぶんぶん振る。
「違うの! 邪な気持ちはないんです!」
「あーちょっと二人で端っこ行こうか」
「大将パターンか!?」
「俺も分かんない」
大将パターンってなんだろう。
鉄くんに手を引っ張られて壁側にやってきた。鉄くんと向き合う。……侑より大きいから顔をさらに上にしないといけないなと思った。でも繋がった手は同じように豆がある。硬くなったバレーの手。ああでも侑の方が爪先は綺麗かもしれない。いつもケアを丁寧にやってるから。
「で? どういうこと? 励ましてくれてるわけじゃなさそうだけど」
「……励ますの忘れてた」
「別にいいけどね。理由教えてくれたら許す」
体勢を私の方に傾けてニヤリと笑う鉄くん。……小さいときは引っ込み思案で優しかったのに。いや、今も優しいけど。でも意地悪にもなった。月日って残酷だ。そう思いつつ口を開く。
「……私、初恋しか知らなくて、それが鉄くんで」
「…………」
「でも私のこと好きって言ってくれる人にちゃんと向き合いたくて。……怖いけど。その人は幼なじみでずっと身近にいて、いるのが当たり前で。だから恋愛の意味で好かれてるって言われてもピンと来なくて。そしたらもう一人の幼なじみが初恋引きずってるんじゃない? って言われたの。だから鉄くんとハ、ハグしたら……分かるかなぁって」
「…………なるほどねえ」
言い終わって思ったけど私すごいわがままなこと言ってる。鉄くんのこと利用しますって言ってるのと同じだ。
「鉄くん、ごめ」
「謝るのはなし。んー……初恋利用してやろっかなって思うのは俺も同じだし」
「?」
「でも俺はナマエが笑ってるほうが大事なので」
ぽんぽんと頭を叩かれる。鉄くんは笑っていた。
「ハグしなくても分かるよ」
「……なんで?」
「ハグはするかどうかじゃなくて自然としたくなるものだから」
「したくなるもの……」
頭に浮かんだのは兵庫代表戦決勝戦。そこで抱き上げられて晴れやかに笑う侑に自然と手が伸びていた。汗でいっぱいの頑張った姿に。
「それにナマエ、その幼なじみに怖いと思いながらも向き合いたいって思ってる時点で特別に思ってるでしょ」
「……そうなの?」
「恋愛の好きに向き合うなら否が応でも関係が変わることは分かるでしょ」
「うん……」
「恋愛ってエネルギー使うよ。何とも思っていない相手には力湧かないくらいに。本当に何も思ってない幼なじみならナマエならすっぱり断ると思う。いくら大切な幼なじみでも」
「…………」
「ナマエ? 俺にハグしよって言って出てきた言葉が「邪な気持ちはない」だよ。ナマエはもう俺の恋心は初恋で終わってるんだよ。それで身近すぎて気づかなかった恋を大事にしな?」
気づかなかった恋。
侑の顔が頭に浮かぶ。バレーに真剣な顔。楽しそうにしてる顔。悔しそうな顔。子供みたいにわがままを言う顔。私の言葉に一喜一憂する顔。私が泣いても真正面から向き合ってくれる顔。どれも鮮明に浮かんできて胸が締めつけられる思いがした。
「鉄くん、私……」
侑のこと好きだ。
そう言おうとした瞬間、視界がぐわんと動いた。お腹に腕を回されてぎゅっと背後から抱きしめられた。
「!?」
「やっと見つけたわ!」
「侑!?」
背後にいたのは侑だった。息切れして汗をかいている。熱のこもった身体に連動するみたいに私の身体も熱くなった気がした。侑はキッと鉄くんを見据える。
「ここで会ったが百年目じゃ鉄くん」
「え、宮兄弟の片割れ? 俺探されてたの? ていうか鉄くんって呼ばれてんの?」
「この女の初恋相手やろうがもう過去の話やっちゅうねん。調子に乗るなや」
「乗ってませんが? ナマエチャン? この人止めようか?」
鉄くんの心からの困惑が伝わってくる。止めないとと思って侑に顔を向けると思ったより顔が近くて、かああと顔に熱が集まった。近い。侑が近い。回った腕も恥ずかしい。もぞもぞ動いていると侑から「動くな」と低い声で言われてぴしっと止まる。
「あ? なんで顔赤いねん。初恋に熱上げとったんやなかろうな!?」
「ち、違うもん!」
「説得力ないわ!」
そう言って侑は私をくるりと反転させてからぐいっと抱き上げた。
「わっ」
「もう二度と会うことはないからな鉄くん」
「完全に悪役のセリフなんですけど」
「はっ悪役上等じゃ」
「……ナマエの志望大学って東京じゃなかったっけ?」
「はあああ!? 聞いとらんぞ!」
「候補! 候補だから!」
「おまえは俺の側におらなあかんやろうが!」
侑はそう私に言って横向きに抱き上げたまま歩き出した。慌てて鉄くんの方を振り返ったら緩く手を振っていた。それがどんどん遠ざかっていく。初恋が過去になっていくみたいに。
そして今。私は次の恋とふれ合っている。
「……私の志望大学あと大阪か神戸だよ」
「神戸にせえ。神戸しか許さん」
「むちゃくちゃ言うこの人……」
「……俺が行く大学のとこならええ。むしろそっちのがええな」
「全然譲歩してなくてびっくりした……」
そして更にびっくりすることに私の恋の相手は一回も気持ちを伝えてくれたことがない。こんなに直接的に言葉をぶつけてくるのに。
「侑」
「なんや」
「…………」
「なんやねん」
侑が言わないなら私から言おうとしたけど女ひとり抱っこして移動する光景はすごく目立っていて、すれ違う人達みんながこっちを見ていて口にすることは出来なかった。……恥ずかしいのもあったけど。
だから侑の首に腕を回して顔を隠した。侑は一瞬固まったけど、何も言わずにそのまま歩き続けた。