君煩い
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「あっ」
東京に着いての最初のミーティング中。初戦の相手の烏野高校の録画をホテルのミーティングルームを借りてレギュラーの皆と観ていたときだった。トーナメント表をちらりとみて声が出てしまった。
「なんや? 名字」
「なんでもないです! ごめんなさい!」
背筋を真っ直ぐにして北さんに謝る。邪魔してしまった。ジーッと見られて冷や汗が流れる。「集中しいや」と言われて「はいっ!」とビシッと返事した。うぅ、北さん圧が強い……私が悪いけど……。
ミーティング終了後、予想通り侑と治ちゃんに絡まれた。
「怒られとったな」
「なに考えとったん」
「……初戦のあとの事を考えても仕方ないのは分かってるんだけど、」
「うん」
「三回戦にあっちも勝ち上がったら鉄くんの学校とあたるなって思って」
そう言うと治ちゃんは侑の顔を見て侑は「あ゛あ?」とガラの悪い声を出した。
「分かってるよ。相手の烏野高校はウシワカの学校倒してる凄い学校だって。初戦舐めてるわけじゃないの。でもあっ、てなっちゃったの」
「烏野も鉄くんも全部ぶっ倒すから関係ないわ」
「そりゃそうだけど鉄くん単体じゃなくて音駒高校でしょ」
「鉄くんのツラ教えろや。ぶっ潰す」
「いいけど侑、なんでそんなに鉄くんに反感持ってる……」
そこまで言って治ちゃんが口パクで「はつこい」と言ってハッとした。そうだ。鉄くんは私の初恋相手だ。忘れてた。……だから侑は鉄くん気に入らないってずっと言ってるんだ。
侑の顔を見る。殺意満々だ。ちょっとまって。これバレーで倒すって話だよね? 拳じゃないよね? 不安で顔をキョロキョロさせてると治ちゃんが口を開いた。
「ツム、まずは烏野やろ」
「分かっとるわ。飛雄くんもおるしな」
「飛雄くん……ああ、ユース合宿で一緒になった影山くんね」
「おりこうさんのな」
「それいい意味で言ってないでしょ」
侑の性格上絶対イヤミだ。本人に伝えてないだろうな。そんなことを思いつつ、ミーティングルームから出た。
*****
侑と治ちゃんの攻撃が、烏野の一年生二人に止められた。そのボールは銀くんの後ろに飛んで音を立ててコートに落ちた。ピピーッと笛が鳴る。試合終了の笛が。
得点表を見る。30-32。烏野高校の勝利だ。つまり、私達稲荷崎高校の負け。気づいたら立っていた。でも何が出来るわけもなく所在なくただ立っているだけ。選手達は下を向いたり上を仰いだり固まっていたりと様々だった。それを観察する自分がいるくせに、どうすればいいかは分からない。力が抜けて持っているバインダーを落としそうになった。
「名字、しゃんとせな」
監督の言葉に頭が少しだけ正気に戻った。そうだ。私は稲荷崎高校のマネージャーだ。選手を支えるのが仕事。ちゃんと立て。前を向け。しっかりしろ。
「すみません、大丈夫です」
そう言ってスコア表を書く。これは次に生かすためのものだ。私が残さないといけない。これからも稲荷崎高校のバレーは続くのだから。
試合ホールから出て荷物を置いている場所に向かう。侑の隣を通り過ぎようとしたときに「……あのー」と侑が口を開いた。
「すんませんでし「謝って少しでもスッキリしようと思とんのか?」」
北さんの言葉に背筋がビシッとなって足が止まった。北さん!? と二度見すると侑と治ちゃんが「そんなんと違います!!」と反論していた。そうです。さすがにそんなに歪んでないです。二人の言葉にうんうん強く頷く。
「わかってるてすまんな。名字も」
「!?」
「けど謝んのはホンマに悪いと思とる時にしいや。俺もさっきの速攻が間違うとったと思えへんねん。決まると思たもん」
北さん……! となってると「練習でやってへん事を本番でやろうとすんのは嫌いやけどな」と釘が刺さった。それはそう。双子は無言を返してる。
「ラストのあれは相手が悪かったんやろうなあ」
「せやな。お前らがノリノリのとき他の奴は大抵おいてきぼりになるんやけど、今回に限っては烏野も同じくらいノリノリやったんやなあ」
二人の速攻を止めた烏野の一年生達の顔が頭に浮かんだ。
「高揚したやろ。そんな試合そうそうできんのと違うか。ええなあ」
北さんはそう言って笑った。……笑った?
「……今北さん笑とったな……?」
「うん」
「笑ってた。笑ってたよ!」
見間違いじゃなかった。そしたら一年生の理石くんが「試合中も何回か笑てはりましたよ」と教えてくれた。それに侑と治ちゃんとで驚いていると「けどやっぱり悔しいなあ」と北さんは口にする。
「今までもちゃんとやってきたし俺には後悔なんか無いって言い切れる。俺にとって「勝敗 」は単なる副産物なのも変わらんのに。……なんやろなあ」
北さんはこちらに振り返って笑った。
「どや俺の仲間すごいやろってもっと言いたかったわ」
まぶたが一気に熱くなった。稲荷崎高校のバレーは続く。でも三年生はもう終わり。ずっと支えてくれていた三年生達との試合はもうない。
「っ、」
涙が流れる。目を擦っても擦っても流れてくる。三年生との思い出が一緒に頭に浮かんでしまって涙腺が刺激される。耐えきれない。
「言ってくださいよ」
「孫の代まで自慢できる後輩になりますから」
私とは違って治ちゃんと侑は力強く北さんにそう宣言した。それを受けた北さんは嬉しそうに笑う。
「それは楽しみやなあ」
慈悲むような柔らかい声色についに嗚咽が出た。口を手で押さえて出ないようにするけど肩が揺れる。もう顔は酷いことになっている。
「ほれはよ着替え。名字は顔洗ってきいや」
「ぎだざん~~~っ!」
「顔ぺしょぺしょになっとるで」
「いいんですーっ!」
「ははっ」
泣きながら北さんの隣に行くと笑って頭を撫でられた。「アランぐんも撫でて! 大耳さんと赤木さんも!」とわがままが爆発した私に三年生は笑って仕方ないなぁと優しく撫でてくれた。
東京に着いての最初のミーティング中。初戦の相手の烏野高校の録画をホテルのミーティングルームを借りてレギュラーの皆と観ていたときだった。トーナメント表をちらりとみて声が出てしまった。
「なんや? 名字」
「なんでもないです! ごめんなさい!」
背筋を真っ直ぐにして北さんに謝る。邪魔してしまった。ジーッと見られて冷や汗が流れる。「集中しいや」と言われて「はいっ!」とビシッと返事した。うぅ、北さん圧が強い……私が悪いけど……。
ミーティング終了後、予想通り侑と治ちゃんに絡まれた。
「怒られとったな」
「なに考えとったん」
「……初戦のあとの事を考えても仕方ないのは分かってるんだけど、」
「うん」
「三回戦にあっちも勝ち上がったら鉄くんの学校とあたるなって思って」
そう言うと治ちゃんは侑の顔を見て侑は「あ゛あ?」とガラの悪い声を出した。
「分かってるよ。相手の烏野高校はウシワカの学校倒してる凄い学校だって。初戦舐めてるわけじゃないの。でもあっ、てなっちゃったの」
「烏野も鉄くんも全部ぶっ倒すから関係ないわ」
「そりゃそうだけど鉄くん単体じゃなくて音駒高校でしょ」
「鉄くんのツラ教えろや。ぶっ潰す」
「いいけど侑、なんでそんなに鉄くんに反感持ってる……」
そこまで言って治ちゃんが口パクで「はつこい」と言ってハッとした。そうだ。鉄くんは私の初恋相手だ。忘れてた。……だから侑は鉄くん気に入らないってずっと言ってるんだ。
侑の顔を見る。殺意満々だ。ちょっとまって。これバレーで倒すって話だよね? 拳じゃないよね? 不安で顔をキョロキョロさせてると治ちゃんが口を開いた。
「ツム、まずは烏野やろ」
「分かっとるわ。飛雄くんもおるしな」
「飛雄くん……ああ、ユース合宿で一緒になった影山くんね」
「おりこうさんのな」
「それいい意味で言ってないでしょ」
侑の性格上絶対イヤミだ。本人に伝えてないだろうな。そんなことを思いつつ、ミーティングルームから出た。
*****
侑と治ちゃんの攻撃が、烏野の一年生二人に止められた。そのボールは銀くんの後ろに飛んで音を立ててコートに落ちた。ピピーッと笛が鳴る。試合終了の笛が。
得点表を見る。30-32。烏野高校の勝利だ。つまり、私達稲荷崎高校の負け。気づいたら立っていた。でも何が出来るわけもなく所在なくただ立っているだけ。選手達は下を向いたり上を仰いだり固まっていたりと様々だった。それを観察する自分がいるくせに、どうすればいいかは分からない。力が抜けて持っているバインダーを落としそうになった。
「名字、しゃんとせな」
監督の言葉に頭が少しだけ正気に戻った。そうだ。私は稲荷崎高校のマネージャーだ。選手を支えるのが仕事。ちゃんと立て。前を向け。しっかりしろ。
「すみません、大丈夫です」
そう言ってスコア表を書く。これは次に生かすためのものだ。私が残さないといけない。これからも稲荷崎高校のバレーは続くのだから。
試合ホールから出て荷物を置いている場所に向かう。侑の隣を通り過ぎようとしたときに「……あのー」と侑が口を開いた。
「すんませんでし「謝って少しでもスッキリしようと思とんのか?」」
北さんの言葉に背筋がビシッとなって足が止まった。北さん!? と二度見すると侑と治ちゃんが「そんなんと違います!!」と反論していた。そうです。さすがにそんなに歪んでないです。二人の言葉にうんうん強く頷く。
「わかってるてすまんな。名字も」
「!?」
「けど謝んのはホンマに悪いと思とる時にしいや。俺もさっきの速攻が間違うとったと思えへんねん。決まると思たもん」
北さん……! となってると「練習でやってへん事を本番でやろうとすんのは嫌いやけどな」と釘が刺さった。それはそう。双子は無言を返してる。
「ラストのあれは相手が悪かったんやろうなあ」
「せやな。お前らがノリノリのとき他の奴は大抵おいてきぼりになるんやけど、今回に限っては烏野も同じくらいノリノリやったんやなあ」
二人の速攻を止めた烏野の一年生達の顔が頭に浮かんだ。
「高揚したやろ。そんな試合そうそうできんのと違うか。ええなあ」
北さんはそう言って笑った。……笑った?
「……今北さん笑とったな……?」
「うん」
「笑ってた。笑ってたよ!」
見間違いじゃなかった。そしたら一年生の理石くんが「試合中も何回か笑てはりましたよ」と教えてくれた。それに侑と治ちゃんとで驚いていると「けどやっぱり悔しいなあ」と北さんは口にする。
「今までもちゃんとやってきたし俺には後悔なんか無いって言い切れる。俺にとって「
北さんはこちらに振り返って笑った。
「どや俺の仲間すごいやろってもっと言いたかったわ」
まぶたが一気に熱くなった。稲荷崎高校のバレーは続く。でも三年生はもう終わり。ずっと支えてくれていた三年生達との試合はもうない。
「っ、」
涙が流れる。目を擦っても擦っても流れてくる。三年生との思い出が一緒に頭に浮かんでしまって涙腺が刺激される。耐えきれない。
「言ってくださいよ」
「孫の代まで自慢できる後輩になりますから」
私とは違って治ちゃんと侑は力強く北さんにそう宣言した。それを受けた北さんは嬉しそうに笑う。
「それは楽しみやなあ」
慈悲むような柔らかい声色についに嗚咽が出た。口を手で押さえて出ないようにするけど肩が揺れる。もう顔は酷いことになっている。
「ほれはよ着替え。名字は顔洗ってきいや」
「ぎだざん~~~っ!」
「顔ぺしょぺしょになっとるで」
「いいんですーっ!」
「ははっ」
泣きながら北さんの隣に行くと笑って頭を撫でられた。「アランぐんも撫でて! 大耳さんと赤木さんも!」とわがままが爆発した私に三年生は笑って仕方ないなぁと優しく撫でてくれた。