君煩い
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インターハイ二位という結果になり、試合後のクールダウンも終わらせて表彰式を待っている時間だった。パタパタ走ってマネの仕事をしていたナマエを侑が捕まえていたのが角名の視界に入った。ああ、またやってる。そう思った。
「なに侑」
「ブサイクな顔で我慢すんのええ加減にせえよボケ」
「ブサっ!? ブサイクな顔してないし!」
「しとるっちゅうねん」
「ほっへたふまむなー! 」
「ええからはよ泣けや」
ナマエの頬を遠慮なしに縦縦横横と引っ張る侑。ナマエは侑の腕を掴んでやめさせようとしているが体格差からびくともしていない。そのうちに抵抗していた手を侑の腕にぎゅっと握りしめて「うぅ……」とナマエは小さなうなり声を出した。
「あほー……侑のあほぉー……」
ぽたりと落ちた雫は次々に流れていく。侑は引っ張っていた指を離して頬を包んで親指で涙を拭ってやっていた。
「またやっとるなあ」
角名の隣にいた治は淡々とそう言った。この光景をみるのは角名も初めてではない。負けた試合後に一段落したらたいてい侑がナマエの頬をつねって泣かせている。
治曰くあれは儀式らしい。侑と治が試合に負ける度にやっている儀式。中学生の頃からやっているとのこと。
『俺らが試合に負けて悔しくて悲しくて。でもナマエは泣くときはひとりで泣くからその前にツムが泣かせるんや』
ナマエも小学生まではバレーをやっていたという。その時は自分が負けても悔しがるだけで泣いたりしなかったそうだが、中学生に上がってマネージャー に代わってから途端に泣くようになったという。初めて双子がレギュラーになった試合で負けたときナマエは大号泣したらしい。悲しくて悔しくて。しかし当の双子達が前を向いてるのに泣いてしまう自分が嫌になってそれ以降は隠れて泣くようになったのに、それに反発したのが侑だった。治は呆れたように言った。
『自分のことで泣いとるのにひとりで泣いてひとりで立ち直るのがツムは気に食わんのや』
めちゃくちゃ自分勝手な理由で角名も呆れた。恐らく優しくしたい気持ちもあるのだろう。無理やり泣かせて気持ちを吐露させたいという想いが。しかしそれにしたってナマエが泣けるようになるまで暴言付きで頬をつねって泣かせていたというし、やり方が不器用すぎる。バレーはあんなにも器用なくせに。ナマエもナマエで我慢しているときに侑に頬をつねられたら泣いてしまうように癖をつけられてるし可哀想というかなんというか。しかも当の本人は侑なりの寄り添い方だと純粋な気持ちで認識してるようで泣き終わったあとは「ありがとう」と言っている始末だ。泣いてることにかこつけてちゃっかり抱きしめている男に対して。名字、その男、そんなに純粋な気持ちじゃないことに気づいて。角名は侑の腕の中にいるナマエに念を送ったが気づかれることもなく。
「名字はなんだかんだ言って侑から逃れられない人生送りそう」
ふにゃりと笑って今回も侑にお礼を言うナマエに角名はそうぼやいた。
*****
表彰式も終わり、宿泊先のホテルに戻った。ロビーで解散となって一時間後にミーティングだ。部屋に戻ろうとしたときにスマホが鳴った。画面をみると「鉄くん」の文字が。顔がほころんで電話をとる。
「もしもし? 鉄くん?」
そう言った瞬間、侑と治ちゃんと角名くんに前方左右を囲まれた。なんで。約180cmの壁に困惑していると『ナマエ、今大丈夫?』と鉄くんが言う。
「大丈、夫……?」
『なんで疑問系なの。あれだったらかけ直すけど』
「一時間後にミーティングあるから今の方がいいです」
『そ? じゃあインターハイお疲れ様』
「鉄くん観に来てたの?」
『画面ごしに観てた。で、ナマエは泣いてると思って電話したんですけどなんかケロッとしてんね』
鉄くんの言葉に目の前に立ちふさがっている侑をみる。侑の顔はしかめっ面になっていた。なんで。そう思いつつもさっき慰めてくれたのを思い出して顔がゆるんでしまう。いつもの侑のやり方。される前は逃げてしまうけど、終わった後はいつもすっきりした気持ちにさせてくれる。甘ったれとか言いそうなのに、許容してくれる。そんな侑のジャージの裾を掴んで口を開く。
「うん、大丈夫。もう元気だよ。ありがとう鉄くん」
『ん。それならよかった。なんかあったら連絡して』
「うん。ありがとう。鉄くんも悩みあったら聞くからね」
「もうええやろ」
「えっ」
スマホを持ってた左手を侑に掴まれて引っ張られる。侑はスマホ画面を睨みつけていた。
「鉄くん鉄くんうるさいわ」
そう言って通話ボタンを切った侑。……切った侑?
「なにやってんの!」
「まだ話すことあったんか」
「いや終わりかけだったけど心配してもらって一方的に切るのは人としてダメでしょ!」
「そんなの知らん」
「もー! 侑のあほ!」
「はっ」
あとでメッセージ入れよう。そう決めて左右を固めてる治ちゃんと角名くんをみる。角名くんはなぜかスマホを持っている。
「なんで囲まれてるの私は」
「噂の鉄くんだってなって」
「噂? 鉄くんの学校はまだ全国行ってないよ? どこで知ったの?」
「鉄くんバレーしてんの?」
「え? うん。え? 知らなかったの? 本当にどこ情報?」
「まあそのへん」
これ答える気ないやつだ。そう思って治ちゃんに話しかける。
「治ちゃんはなんで私囲んだの?」
「ツムのおもろい顔みよ思て」
「しかめっ面だったけど」
「おもろい顔やん」
その感性は分からないよ治ちゃん……。そう心で呟いて私のスマホを睨んでいる侑を見る。私のスマホになにかされたみたいな顔だ。
「侑、手はなして」
「おまえ俺と何年の付き合いやねん」
「え?」
「何年の付き合いやねん」
「えっと、約十年……?」
「鉄くんは」
「鉄くんは五年くらい」
「倍やぞ」
「倍」
「俺のがおまえと倍の長さ一緒におる」
まばたきする。侑の言いたいことが分からなかった。首を傾げると侑は舌打ちした。
「鉄くん鉄くんうるさいねん」
「…………やきもち?」
まさかと思って口にすると侑はぽかんとした顔をした後、またしかめっ面になった。
「そんなの妬くかい」
「だよね」
「ただ鉄くんが邪魔ってだけやわ」
「鉄くんが侑になにをしたの」
「俺がもらうはずだった初めてを奪った」
「?」
なんのこっちゃ。さらに疑問符を飛ばしていると治ちゃんが口を挟んだ
「何がもらうはずやったや。二番目の人間になってから言えや」
「うっさいわ! サム!」
「鉄くんいい人そうだね名字」
「うん。なんか子どものときと違って胡散臭くなったしチャラくなったけど優しいよ」
「腹も黒くてチャラいんかい! ますます気に入らんわ!」
「おまえの腹も真っ黒やしチャラいやんけ」
「同族嫌悪なんじゃないの」
「会ったことないのに?」
角名くんにそう言うと「まあ侑は鉄くんが真面目な好青年でも気に入らないか」と答えた。鉄くんがなにをしたと言うの侑。改めてそう聞くと「とにかく全部が気に入らん!」と侑は顔をぷいってして私の掴んだ手をひっぱった。そのまま歩き出す。
「おまえの部屋いくわ」
「なんで」
「ミーティングまで寝るから起こせや」
「自分の部屋で寝なよ」
「知らん」
侑はそのあと何を言っても聞かず、本当に私の部屋のベッドで寝た。私の手を掴んだまま。……十年の付き合いなのにまだよく分からないとこあるなぁとしみじみ思った。
「なに侑」
「ブサイクな顔で我慢すんのええ加減にせえよボケ」
「ブサっ!? ブサイクな顔してないし!」
「しとるっちゅうねん」
「
「ええからはよ泣けや」
ナマエの頬を遠慮なしに縦縦横横と引っ張る侑。ナマエは侑の腕を掴んでやめさせようとしているが体格差からびくともしていない。そのうちに抵抗していた手を侑の腕にぎゅっと握りしめて「うぅ……」とナマエは小さなうなり声を出した。
「あほー……侑のあほぉー……」
ぽたりと落ちた雫は次々に流れていく。侑は引っ張っていた指を離して頬を包んで親指で涙を拭ってやっていた。
「またやっとるなあ」
角名の隣にいた治は淡々とそう言った。この光景をみるのは角名も初めてではない。負けた試合後に一段落したらたいてい侑がナマエの頬をつねって泣かせている。
治曰くあれは儀式らしい。侑と治が試合に負ける度にやっている儀式。中学生の頃からやっているとのこと。
『俺らが試合に負けて悔しくて悲しくて。でもナマエは泣くときはひとりで泣くからその前にツムが泣かせるんや』
ナマエも小学生まではバレーをやっていたという。その時は自分が負けても悔しがるだけで泣いたりしなかったそうだが、中学生に上がって
『自分のことで泣いとるのにひとりで泣いてひとりで立ち直るのがツムは気に食わんのや』
めちゃくちゃ自分勝手な理由で角名も呆れた。恐らく優しくしたい気持ちもあるのだろう。無理やり泣かせて気持ちを吐露させたいという想いが。しかしそれにしたってナマエが泣けるようになるまで暴言付きで頬をつねって泣かせていたというし、やり方が不器用すぎる。バレーはあんなにも器用なくせに。ナマエもナマエで我慢しているときに侑に頬をつねられたら泣いてしまうように癖をつけられてるし可哀想というかなんというか。しかも当の本人は侑なりの寄り添い方だと純粋な気持ちで認識してるようで泣き終わったあとは「ありがとう」と言っている始末だ。泣いてることにかこつけてちゃっかり抱きしめている男に対して。名字、その男、そんなに純粋な気持ちじゃないことに気づいて。角名は侑の腕の中にいるナマエに念を送ったが気づかれることもなく。
「名字はなんだかんだ言って侑から逃れられない人生送りそう」
ふにゃりと笑って今回も侑にお礼を言うナマエに角名はそうぼやいた。
*****
表彰式も終わり、宿泊先のホテルに戻った。ロビーで解散となって一時間後にミーティングだ。部屋に戻ろうとしたときにスマホが鳴った。画面をみると「鉄くん」の文字が。顔がほころんで電話をとる。
「もしもし? 鉄くん?」
そう言った瞬間、侑と治ちゃんと角名くんに前方左右を囲まれた。なんで。約180cmの壁に困惑していると『ナマエ、今大丈夫?』と鉄くんが言う。
「大丈、夫……?」
『なんで疑問系なの。あれだったらかけ直すけど』
「一時間後にミーティングあるから今の方がいいです」
『そ? じゃあインターハイお疲れ様』
「鉄くん観に来てたの?」
『画面ごしに観てた。で、ナマエは泣いてると思って電話したんですけどなんかケロッとしてんね』
鉄くんの言葉に目の前に立ちふさがっている侑をみる。侑の顔はしかめっ面になっていた。なんで。そう思いつつもさっき慰めてくれたのを思い出して顔がゆるんでしまう。いつもの侑のやり方。される前は逃げてしまうけど、終わった後はいつもすっきりした気持ちにさせてくれる。甘ったれとか言いそうなのに、許容してくれる。そんな侑のジャージの裾を掴んで口を開く。
「うん、大丈夫。もう元気だよ。ありがとう鉄くん」
『ん。それならよかった。なんかあったら連絡して』
「うん。ありがとう。鉄くんも悩みあったら聞くからね」
「もうええやろ」
「えっ」
スマホを持ってた左手を侑に掴まれて引っ張られる。侑はスマホ画面を睨みつけていた。
「鉄くん鉄くんうるさいわ」
そう言って通話ボタンを切った侑。……切った侑?
「なにやってんの!」
「まだ話すことあったんか」
「いや終わりかけだったけど心配してもらって一方的に切るのは人としてダメでしょ!」
「そんなの知らん」
「もー! 侑のあほ!」
「はっ」
あとでメッセージ入れよう。そう決めて左右を固めてる治ちゃんと角名くんをみる。角名くんはなぜかスマホを持っている。
「なんで囲まれてるの私は」
「噂の鉄くんだってなって」
「噂? 鉄くんの学校はまだ全国行ってないよ? どこで知ったの?」
「鉄くんバレーしてんの?」
「え? うん。え? 知らなかったの? 本当にどこ情報?」
「まあそのへん」
これ答える気ないやつだ。そう思って治ちゃんに話しかける。
「治ちゃんはなんで私囲んだの?」
「ツムのおもろい顔みよ思て」
「しかめっ面だったけど」
「おもろい顔やん」
その感性は分からないよ治ちゃん……。そう心で呟いて私のスマホを睨んでいる侑を見る。私のスマホになにかされたみたいな顔だ。
「侑、手はなして」
「おまえ俺と何年の付き合いやねん」
「え?」
「何年の付き合いやねん」
「えっと、約十年……?」
「鉄くんは」
「鉄くんは五年くらい」
「倍やぞ」
「倍」
「俺のがおまえと倍の長さ一緒におる」
まばたきする。侑の言いたいことが分からなかった。首を傾げると侑は舌打ちした。
「鉄くん鉄くんうるさいねん」
「…………やきもち?」
まさかと思って口にすると侑はぽかんとした顔をした後、またしかめっ面になった。
「そんなの妬くかい」
「だよね」
「ただ鉄くんが邪魔ってだけやわ」
「鉄くんが侑になにをしたの」
「俺がもらうはずだった初めてを奪った」
「?」
なんのこっちゃ。さらに疑問符を飛ばしていると治ちゃんが口を挟んだ
「何がもらうはずやったや。二番目の人間になってから言えや」
「うっさいわ! サム!」
「鉄くんいい人そうだね名字」
「うん。なんか子どものときと違って胡散臭くなったしチャラくなったけど優しいよ」
「腹も黒くてチャラいんかい! ますます気に入らんわ!」
「おまえの腹も真っ黒やしチャラいやんけ」
「同族嫌悪なんじゃないの」
「会ったことないのに?」
角名くんにそう言うと「まあ侑は鉄くんが真面目な好青年でも気に入らないか」と答えた。鉄くんがなにをしたと言うの侑。改めてそう聞くと「とにかく全部が気に入らん!」と侑は顔をぷいってして私の掴んだ手をひっぱった。そのまま歩き出す。
「おまえの部屋いくわ」
「なんで」
「ミーティングまで寝るから起こせや」
「自分の部屋で寝なよ」
「知らん」
侑はそのあと何を言っても聞かず、本当に私の部屋のベッドで寝た。私の手を掴んだまま。……十年の付き合いなのにまだよく分からないとこあるなぁとしみじみ思った。