君煩い
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雨に打たれながら走ってやっと家についた所で鍵を忘れていたことが発覚。苛つきで髪を掻きむしっているとちょうどよくその場を通りかかった人物がいた。隣の家の四個年上の友達のような兄のような存在の男だ。面倒見がいい彼は「風邪ひくからうちで風呂入っとけ。服も貸すから」と侑の腕を引っ張った。彼の気遣いを素直に受け取り、勝手知ったる名字家の風呂場へ直行した。
「は?」
「は?」
途端に視界に入ったのは頬を蒸気させ、首筋に髪を張り付かせ、ズボンを履くために軽く前屈みになっている、同い年のナマエ。ただし上半身には何も纏っていない。
「うああああ!!!?」
これはどちらの声だったのか。侑は勢いよく扉を閉めてぐるりと回りその場に腰をつける。「あ、今ナマエがお風呂入ってるわよ」「え」リビングから届いた声に遅いわ……と両手で顔を覆った。
***
濡れた髪をタオルで拭きながらナマエの部屋まで行く。「ナマエにさっき絶交されたわ。ごめんな侑」と事の原因を作った人間は謝りつつも母親の作ったシチューを旨そうに食べていた。彼は面倒見はいいし温厚な性格をしているのだがこういう適当な面があった。そしてその母親はというと「マンガみたいな事起きたわねぇ」と一人娘に起きた惨事を他人事のように語っていた。この家族は色々と雑なところがある。
「入るで」
間を置かずに入る。横向きの体勢で掛け布団を抱き枕のようにして足に挟み、顔をうずめてベッドに寝ころぶナマエの姿があった。顔は見えない。が、ホットパンツから覗く白い太ももがまぶしかった。なんでそんな短いの履いてんねんアホかパンツ見えそうやないか、と口に出しそうになってぐっと止めた。さすがに先ほどの出来事で心にダメージを負ったナマエに何時ものように軽口は叩けない。
「ど、ドライヤー持ってきたから髪乾かし」
入れ違いで風呂に入っているときにドライヤーの機械音が耳に届くことはなかった。熱も残っていなかったし、現にナマエの髪はまだ濡れたままだ。侑の声にじっとり、じっとりといった動作で顔を動かし片目だけこちらに向けてくるナマエ。乱れた髪といい少しホラーチックであった。貞子かおまえは。
「…………侑が先につかえば」
布団のせいで大分声がくぐもっている。その上感情がなかなか読みづらい声だった。怒っているのか泣いているのか。どっちでも結構不快やな。そう思った侑は少しムッとした顔を作る。部屋に入ったときのささやかな気づかいは早くも吹き飛んだ。
「あんなの事故やろが。文句はおまえの兄貴に言えや」
侑の言葉に弾けたように顔を上げたナマエ。眉はこれ以上なく寄せられて、目はぐっとつり上がった。
「お兄ちゃんに文句はもう言った! でも人のおっぱい見ておいてその態度はひどいよ!」
「おまえのおっぱいなんか見とらん!」
「見た! ぜったいに見た!」
「見とらん! そもそもおまえのおっぱいなんかちっちゃ過ぎてどっからが腹でどっからがおっぱいか分からんかったわ!」
「見てるじゃんか私のおっぱい!」
扉を閉める事なく大声で言い合っているせいでナマエと侑の声はリビングまで届いていた。「思春期真っ只中の異性同士でよくおっぱいおっぱい言い合えるなあいつら」元凶は呑気に茶を啜った。
「おまえかて風呂上がりの俺らの半裸平気で見とるやろが!」
「風呂上がりで半裸で歩き回るのと脱衣場で半裸見られるの全然違うでしょうが! そもそも侑と治ちゃんにはおっぱいないでしょ!!」
「はあああ!? なんなら俺らの方がおまえよりおっぱいあるわ!」
「さすがにそこは負けないし、ていうかさっさとおっぱい見たの認めろよ!!」
「見ましたけどなにかぁ!? 起伏のうっすいおっぱいをな!」
「女の子のおっぱいは大きさ関係なくおっぱいなんだよ!!」
ナマエの勢いのある言葉に確かに、と一瞬だけ納得しかけた侑は首を横に振った。ここで納得してどうすんねん。このまま押しきられて謝るのは癪すぎる。何より見たくて見たわけじゃない。あのタイミングでは。
「俺やって見たくなかったんじゃボケ!」
言った瞬間、しまったと一気に頭がスッとクリアになっていくのが分かった。
「わ、私だって……」
湯沸かし器のように沸騰していたナマエの勢いが止まり、布団をずり上げて口元を隠した。口元だけじゃなく、瞳に涙がたまるのを見て、ベッドの側で膝をつき、両手をついて目線を合わせる。泣くな、そう言う前にナマエがキッと顔を上げた。
「どうせ見られるなら治ちゃんがよかった!!」
「…………はああ!? おま、あほか!? 何唐突に痴女になっとんねん!」
「痴女ってなによ! 治ちゃんだったら私のおっぱい見ても「すまん。すぐ忘れるわ」って言ってくれるからだし!」
「やっぱあほや! おまえは昔からサム贔屓やけどなぁ、あいつほどのむっつりはおらんで!」
「むっつりでもいいもん! しなやかなおっぱいとか言わなければ!」
「しなやかちゃうわ! 起伏がないおっぱいて言うとんねん!」
「もっとひどいわ侑の馬鹿ぁ!」
すでに涙はボロボロ流れている。言い合いながらも侑はナマエの涙を指の腹で拭った。子どもの頃から泣かせてはこうしてやるのが常だった。そもそも泣かせんなやと治には言われるが、普段キーキーうるさいナマエがべそかく姿はなんかこうきゅんと来る。罪悪感もあるがきゅんと来る。これが人でなしと言われる要因のひとつである。
そんな侑の思考を知らないナマエは決して優しくない強さのそれに触発され、怒りで隠れていたものがひょっこりと顔を出した。
「どーせおっぱい小さいもん……」
「べ、別に悪いとは言うとらん」
「見たくもないもの見せられて怒ってたのに何を……」
見たくなかったが見たいのだ。だけどああいうのじゃなくて。ぐるぐると思考は回るが纏まらない。そもそも怒った理由も違う。いずれ誰かに見せるモンを俺が見たのがそんなに気に食わんのかと思っただけだ。そして俺だけがこれからずっと見ればいいとも思った。それなのにこの女、治がどうたらと抜かす。おまえはサムにとっては恋愛対象やないけど生おっぱいみたら絶対にオカズにするぞ。そんな男やってなんで分からんのや。いっつもサムだけ贔屓しおって。いっそのこと服を剥ぎ取って揉んだろうか。エロいことするときに見たかったんだと身を持って分からせるか。どうせこのまま家に帰っても今日見たなだらかなおっぱいを思い出して悶々とするだけやしな。
中々物騒な思考を張り巡らせる。だがいくら人でなしと言われようがそんな危険な一歩を踏み出す気にはなれなかった。自分のものになればいいとは思うが、ナマエとその家族、侑と治の家との家族同士の付き合いも心地いいのだ。きちんと順序を踏まなければならない。脱衣場で娘の胸を見てしまい、大声でおっぱいおっぱい叫んでても放っておかれるくらいにはナマエの家族には信頼されているのだから。「侑ちゃんと治ちゃんどっちがお婿さんに来ても私は構わないわよ~」「侑は物騒なとこあるから俺は治がいいな」「お父さんは……うーん、治君……治君だなぁ」些か治贔屓がすぎるが。なんでこの家族はサム贔屓が多いんや。俺の気持ち知っとるくせに。鬼か。モヤモヤが止まらないので治贔屓筆頭のナマエの頬を抓った。おまえもおまえや。さっさと俺に惚れんからおっぱい見られたと泣く羽目になるのだ。俺の彼女になっていれば今さらおっぱい見られたと大騒ぎすることもなかった。もっとエロいことをやる予定なのだから。
こういう思考回路のせいで名字家に治贔屓が多いということに侑は気づいていない。
「なんでほっぺ抓るの」
「おまえがサム贔屓なんが悪い」
「唐突すぎる……治ちゃんの方が優しいもん」
「相変わらず俺の優しさに微塵も気づかんアホやな」
「優、しさ……?」
本気で困惑していますという顔をするのでびーっと頬を横に引っ張る。「ひたいよ」と苦情入るがふんと無視した。なんならこっちはこのままちゅーしてもいいのだ。しない時点で十分優しいやろが。
確かに宮侑的優しさを発揮してはいるがナマエに伝わるはずもない。ぺちぺち反抗して侑の手を叩くナマエだが若干拗ねている侑は応じようとせず。そんな侑に内心ため息をついたナマエはその手を侑の頭に伸ばした。
「っ」
「風邪ひくよ侑。ほらドライヤー貸して」
ナマエはベッドのヘッドにあるコンセントに線を繋ぎ、ドライヤーのスイッチを入れた。そして手で温度を試した後、侑の頭に熱風を当てる。
「……おまえほんまなんやねん……」
「あー? なんかいった?」
「言うとらん」
「なんだって?」
「言うとらん!」
ドライヤーの音のせいで呟いた言葉は届かなかったらしい。向かい合って髪を乾かされているせいで視線に困った侑は顔より少し下に視線を下げた。が、先ほど見た胸をガン見するわけもいかずに更に下に下げると次にこんにちはと挨拶してきたのはむき出しの白い足。おまえほんまなんやねん……再び心で呟いて目をぎゅっと瞑った。
こういう所が無性に腹が立つ。胸を見られ、暴言を吐かれ、泣かされたというのにこの切り替えの速さ。もっと意識しろやと文句を言いたくなるが、それは絶対に出来ない。こんな態度をとられて出来るはずがない。
「風邪ひいたらバレー出来なくなるよ」
脱衣場で胸を見てしまって扉を全力で閉めたとき。ナマエはその30秒後にすぐに脱衣場から出てきた。首まで真っ赤にして、目には涙を溜めて羞恥でいっぱいの顔をしていたというのにナマエから出てきた言葉は侑を罵る言葉じゃなかった。
『風邪ひくからさっさとお風呂に入って!』
馬鹿の一つ覚えのように同じ事を口にする。羞恥心で立っていられないようなことをされたのに、ナマエが一番に気にしたのは侑がバレーを出来なくなること。こっちは色んな邪な思いがグルグルしたし、今も消えていないというのにナマエは違う。本当に腹が立つ。だがそれ以上に“違う”ことが嬉しく思ってしまった。
これだから未だに告白も手を出すことも出来ない。ただでさえナマエの家族からの信頼を肩に乗せているというのに、当のナマエは侑のバレーへの思いを一切疑わず、純粋な気持ちで応援し続けてくれている。ちゅーしたいおっぱい触りたい太もも柔そうとかそんな事を強く思っても、バレーを口にされたら手を出せるわけがない。
「ツムは何だかんだ言うてナマエに対してウブやな」以前治に言われた言葉が頭に浮かぶ。うっさいわ。いつから好きか知らんとは言わさへんぞ。心の中で文句を言って「乾いたー!」と喜ぶナマエに視線を戻す。
「……ありがとぉな」
「うん。お家帰ったらあったかくしてご飯いっぱい食べて寝るんだよ」
「おかんか」
あーちゅーしたい。そう思いつつ侑はドライヤーを手に取った。
「は?」
「は?」
途端に視界に入ったのは頬を蒸気させ、首筋に髪を張り付かせ、ズボンを履くために軽く前屈みになっている、同い年のナマエ。ただし上半身には何も纏っていない。
「うああああ!!!?」
これはどちらの声だったのか。侑は勢いよく扉を閉めてぐるりと回りその場に腰をつける。「あ、今ナマエがお風呂入ってるわよ」「え」リビングから届いた声に遅いわ……と両手で顔を覆った。
***
濡れた髪をタオルで拭きながらナマエの部屋まで行く。「ナマエにさっき絶交されたわ。ごめんな侑」と事の原因を作った人間は謝りつつも母親の作ったシチューを旨そうに食べていた。彼は面倒見はいいし温厚な性格をしているのだがこういう適当な面があった。そしてその母親はというと「マンガみたいな事起きたわねぇ」と一人娘に起きた惨事を他人事のように語っていた。この家族は色々と雑なところがある。
「入るで」
間を置かずに入る。横向きの体勢で掛け布団を抱き枕のようにして足に挟み、顔をうずめてベッドに寝ころぶナマエの姿があった。顔は見えない。が、ホットパンツから覗く白い太ももがまぶしかった。なんでそんな短いの履いてんねんアホかパンツ見えそうやないか、と口に出しそうになってぐっと止めた。さすがに先ほどの出来事で心にダメージを負ったナマエに何時ものように軽口は叩けない。
「ど、ドライヤー持ってきたから髪乾かし」
入れ違いで風呂に入っているときにドライヤーの機械音が耳に届くことはなかった。熱も残っていなかったし、現にナマエの髪はまだ濡れたままだ。侑の声にじっとり、じっとりといった動作で顔を動かし片目だけこちらに向けてくるナマエ。乱れた髪といい少しホラーチックであった。貞子かおまえは。
「…………侑が先につかえば」
布団のせいで大分声がくぐもっている。その上感情がなかなか読みづらい声だった。怒っているのか泣いているのか。どっちでも結構不快やな。そう思った侑は少しムッとした顔を作る。部屋に入ったときのささやかな気づかいは早くも吹き飛んだ。
「あんなの事故やろが。文句はおまえの兄貴に言えや」
侑の言葉に弾けたように顔を上げたナマエ。眉はこれ以上なく寄せられて、目はぐっとつり上がった。
「お兄ちゃんに文句はもう言った! でも人のおっぱい見ておいてその態度はひどいよ!」
「おまえのおっぱいなんか見とらん!」
「見た! ぜったいに見た!」
「見とらん! そもそもおまえのおっぱいなんかちっちゃ過ぎてどっからが腹でどっからがおっぱいか分からんかったわ!」
「見てるじゃんか私のおっぱい!」
扉を閉める事なく大声で言い合っているせいでナマエと侑の声はリビングまで届いていた。「思春期真っ只中の異性同士でよくおっぱいおっぱい言い合えるなあいつら」元凶は呑気に茶を啜った。
「おまえかて風呂上がりの俺らの半裸平気で見とるやろが!」
「風呂上がりで半裸で歩き回るのと脱衣場で半裸見られるの全然違うでしょうが! そもそも侑と治ちゃんにはおっぱいないでしょ!!」
「はあああ!? なんなら俺らの方がおまえよりおっぱいあるわ!」
「さすがにそこは負けないし、ていうかさっさとおっぱい見たの認めろよ!!」
「見ましたけどなにかぁ!? 起伏のうっすいおっぱいをな!」
「女の子のおっぱいは大きさ関係なくおっぱいなんだよ!!」
ナマエの勢いのある言葉に確かに、と一瞬だけ納得しかけた侑は首を横に振った。ここで納得してどうすんねん。このまま押しきられて謝るのは癪すぎる。何より見たくて見たわけじゃない。あのタイミングでは。
「俺やって見たくなかったんじゃボケ!」
言った瞬間、しまったと一気に頭がスッとクリアになっていくのが分かった。
「わ、私だって……」
湯沸かし器のように沸騰していたナマエの勢いが止まり、布団をずり上げて口元を隠した。口元だけじゃなく、瞳に涙がたまるのを見て、ベッドの側で膝をつき、両手をついて目線を合わせる。泣くな、そう言う前にナマエがキッと顔を上げた。
「どうせ見られるなら治ちゃんがよかった!!」
「…………はああ!? おま、あほか!? 何唐突に痴女になっとんねん!」
「痴女ってなによ! 治ちゃんだったら私のおっぱい見ても「すまん。すぐ忘れるわ」って言ってくれるからだし!」
「やっぱあほや! おまえは昔からサム贔屓やけどなぁ、あいつほどのむっつりはおらんで!」
「むっつりでもいいもん! しなやかなおっぱいとか言わなければ!」
「しなやかちゃうわ! 起伏がないおっぱいて言うとんねん!」
「もっとひどいわ侑の馬鹿ぁ!」
すでに涙はボロボロ流れている。言い合いながらも侑はナマエの涙を指の腹で拭った。子どもの頃から泣かせてはこうしてやるのが常だった。そもそも泣かせんなやと治には言われるが、普段キーキーうるさいナマエがべそかく姿はなんかこうきゅんと来る。罪悪感もあるがきゅんと来る。これが人でなしと言われる要因のひとつである。
そんな侑の思考を知らないナマエは決して優しくない強さのそれに触発され、怒りで隠れていたものがひょっこりと顔を出した。
「どーせおっぱい小さいもん……」
「べ、別に悪いとは言うとらん」
「見たくもないもの見せられて怒ってたのに何を……」
見たくなかったが見たいのだ。だけどああいうのじゃなくて。ぐるぐると思考は回るが纏まらない。そもそも怒った理由も違う。いずれ誰かに見せるモンを俺が見たのがそんなに気に食わんのかと思っただけだ。そして俺だけがこれからずっと見ればいいとも思った。それなのにこの女、治がどうたらと抜かす。おまえはサムにとっては恋愛対象やないけど生おっぱいみたら絶対にオカズにするぞ。そんな男やってなんで分からんのや。いっつもサムだけ贔屓しおって。いっそのこと服を剥ぎ取って揉んだろうか。エロいことするときに見たかったんだと身を持って分からせるか。どうせこのまま家に帰っても今日見たなだらかなおっぱいを思い出して悶々とするだけやしな。
中々物騒な思考を張り巡らせる。だがいくら人でなしと言われようがそんな危険な一歩を踏み出す気にはなれなかった。自分のものになればいいとは思うが、ナマエとその家族、侑と治の家との家族同士の付き合いも心地いいのだ。きちんと順序を踏まなければならない。脱衣場で娘の胸を見てしまい、大声でおっぱいおっぱい叫んでても放っておかれるくらいにはナマエの家族には信頼されているのだから。「侑ちゃんと治ちゃんどっちがお婿さんに来ても私は構わないわよ~」「侑は物騒なとこあるから俺は治がいいな」「お父さんは……うーん、治君……治君だなぁ」些か治贔屓がすぎるが。なんでこの家族はサム贔屓が多いんや。俺の気持ち知っとるくせに。鬼か。モヤモヤが止まらないので治贔屓筆頭のナマエの頬を抓った。おまえもおまえや。さっさと俺に惚れんからおっぱい見られたと泣く羽目になるのだ。俺の彼女になっていれば今さらおっぱい見られたと大騒ぎすることもなかった。もっとエロいことをやる予定なのだから。
こういう思考回路のせいで名字家に治贔屓が多いということに侑は気づいていない。
「なんでほっぺ抓るの」
「おまえがサム贔屓なんが悪い」
「唐突すぎる……治ちゃんの方が優しいもん」
「相変わらず俺の優しさに微塵も気づかんアホやな」
「優、しさ……?」
本気で困惑していますという顔をするのでびーっと頬を横に引っ張る。「ひたいよ」と苦情入るがふんと無視した。なんならこっちはこのままちゅーしてもいいのだ。しない時点で十分優しいやろが。
確かに宮侑的優しさを発揮してはいるがナマエに伝わるはずもない。ぺちぺち反抗して侑の手を叩くナマエだが若干拗ねている侑は応じようとせず。そんな侑に内心ため息をついたナマエはその手を侑の頭に伸ばした。
「っ」
「風邪ひくよ侑。ほらドライヤー貸して」
ナマエはベッドのヘッドにあるコンセントに線を繋ぎ、ドライヤーのスイッチを入れた。そして手で温度を試した後、侑の頭に熱風を当てる。
「……おまえほんまなんやねん……」
「あー? なんかいった?」
「言うとらん」
「なんだって?」
「言うとらん!」
ドライヤーの音のせいで呟いた言葉は届かなかったらしい。向かい合って髪を乾かされているせいで視線に困った侑は顔より少し下に視線を下げた。が、先ほど見た胸をガン見するわけもいかずに更に下に下げると次にこんにちはと挨拶してきたのはむき出しの白い足。おまえほんまなんやねん……再び心で呟いて目をぎゅっと瞑った。
こういう所が無性に腹が立つ。胸を見られ、暴言を吐かれ、泣かされたというのにこの切り替えの速さ。もっと意識しろやと文句を言いたくなるが、それは絶対に出来ない。こんな態度をとられて出来るはずがない。
「風邪ひいたらバレー出来なくなるよ」
脱衣場で胸を見てしまって扉を全力で閉めたとき。ナマエはその30秒後にすぐに脱衣場から出てきた。首まで真っ赤にして、目には涙を溜めて羞恥でいっぱいの顔をしていたというのにナマエから出てきた言葉は侑を罵る言葉じゃなかった。
『風邪ひくからさっさとお風呂に入って!』
馬鹿の一つ覚えのように同じ事を口にする。羞恥心で立っていられないようなことをされたのに、ナマエが一番に気にしたのは侑がバレーを出来なくなること。こっちは色んな邪な思いがグルグルしたし、今も消えていないというのにナマエは違う。本当に腹が立つ。だがそれ以上に“違う”ことが嬉しく思ってしまった。
これだから未だに告白も手を出すことも出来ない。ただでさえナマエの家族からの信頼を肩に乗せているというのに、当のナマエは侑のバレーへの思いを一切疑わず、純粋な気持ちで応援し続けてくれている。ちゅーしたいおっぱい触りたい太もも柔そうとかそんな事を強く思っても、バレーを口にされたら手を出せるわけがない。
「ツムは何だかんだ言うてナマエに対してウブやな」以前治に言われた言葉が頭に浮かぶ。うっさいわ。いつから好きか知らんとは言わさへんぞ。心の中で文句を言って「乾いたー!」と喜ぶナマエに視線を戻す。
「……ありがとぉな」
「うん。お家帰ったらあったかくしてご飯いっぱい食べて寝るんだよ」
「おかんか」
あーちゅーしたい。そう思いつつ侑はドライヤーを手に取った。