WT
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「俺の作った海老アボカドサンドに餅入れるなんてケンカ売ってんのか太刀川」
そう言って銃を背中にぴったり付けられ訓練室に押し込まれた太刀川。すでに短い針が二回は回った。太刀川がオペレーター室のベッドに叩きつけられた回数は三十を超えた。それなのに「さっさとこいヒゲバカアホ助」とモニター越しに銃を向けてくるヨウ。鬼だ。
あの人をA級隊員って呼ぶのは違和感があるよな、と言ったのは堤だ。全く持ってその通りだ。黒トリガーを使った迅でさえ勝てないという化け物。戦闘狂だと揶揄される太刀川だがヨウには勝てる気がしなかった。普段無表情なくせに銃をぶっ放すときは楽しそうに笑っているのだ。まさに鬼である。
「失礼しまーす。お疲れ様っす太刀川さん」
「あ……? 米屋か」
ブースに入って来たのは米屋だった。おまえの兄貴どうにかしろ、と太刀川が睨むと米屋は「はははー」と視線を逸らした。
「いや一応止めに来たんすけど予想以上に兄ちゃん怒ってるから多分無理」
「止めろよッ! 弟だろうが!」
「弟でも容赦ねーんだよなー」
少し不満そうに呟いた米屋に太刀川の文句が止まる。ヨウが米屋に容赦ないのは確かだが、他の者に比べたら甘いというのも確かだった。元ヤン、なまはげ、閻魔を超えた人間、パン狂いと畏怖からか馬鹿にしてかよく分からない異名で呼ばれているヨウだが見た目と中身に反して頭が良かった。そのため勉強面でも頼られることが多いのだが、テスト勉強で泣きついた太刀川などには棍棒片手にドスのきいた声で追い返すが(その際二回ほど殴られる)米屋の場合はハリセン片手に怒鳴りながらも勉強を見てやっている光景をよく見る。暴力的なのは変わらないが太刀川にしてみれば雲泥の差だった。また戦闘面でも「うるせえ見て覚えろ」と投げやりにもほどがある指南をするヨウだが、米屋に対してはどこが悪かったかを「うるせえさっさと覚えろ」と口調を荒くしながらも丁寧に教えている。何だかんだ言いつつもヨウは弟の米屋には甘いのだ。愛情の示し方が大分歪んでいるのは言うまでもないが自分への態度は他と違うことに米屋も気づいているはずだ。
「なんで不満そうなんだよ」
太刀川がそう米屋に尋ねると普段飄々としてあまり感情を表に出さない米屋が決まりの悪そうな表情で口を開いた。
「……最近帰ってくんの遅いんすよ」
「夜間任務じゃねえのか?」
「…………毎晩身体に香水の匂い漂わせて?」
米屋の言葉に太刀川は盛大に固まった。そして狭い脳みそで考える。米屋ヨウという男は一にパン、二にパン、三くらいに家族が入るような残念な人間だ。パン狂いと言われるくらいパンを愛している。また、暴力を形にしたような男でケンカを売ったら最後。支払いきれないほどの高値で買われる。だが理不尽なことにそういった悪い雰囲気を持つ男はなぜかモテる。そしてヨウに至ってはそこそこ顔も整っており、市内でもトップレベルの高校へ通っていた(学力面では)優等生だった。モテないわけがなかった。それでも浮いた話がなかったのは、ヨウのパンへの想いが強すぎるからだった。
「な、何時ぐらいに帰ってくんだ……?」
「深夜の3時くらいすね。夜が明ける前から朝の仕込み始めるんでそのままパン作ってます」
震える声で質問した太刀川に対し、米屋はふてくされた表情を消し、淡々と返した。一瞬「女のとこ通っててもパン作りは欠かさねえのか」というツッコミが頭の中で過ぎったがすぐさま消す。まだ女と決まったわけじゃない。
「ヨウさんも、香水くらいつける年頃だろ」
「兄ちゃんはああいう匂い大っきらいです」
「……飲み屋で隣の席になった女のが付いたんだろ」
「三日連続で?」
「………………」
米屋の鋭い声になぜ自分が追いつめられなくてはならないと太刀川は冷や汗を流した。今日は米屋兄弟に色んな意味で攻められる日らしい。厄日だ。そう心でボヤいた瞬間、太刀川のブースの扉が音をたてて開いた。
「てめぇ太刀川、途中でボイコットしてんじゃねえよ」
入ってきたのは今まさに話をしていた人間で。太刀川は色んな意味で泣きそうになった。
「あ? なんで陽介がいやがる」
「……別に兄ちゃんには関係ねーだろ」
「何だその態度」
反抗期か? と太刀川に尋ねるヨウ。当たってるような間違っているようなヨウの問いに太刀川は微妙な顔しか出来なかった。他の人間ならば軽く聞けるのだが女の所へ通っているのかなんてヨウに聞けるはずがなかった。今度は本当に生首が飛ぶ。しかしヨウ相手に黙っているわけにもいかなく、緊張しつつも口を開いた。
「あー……最近ヨウさんの帰りが遅いって拗ねてんすよコイツ」
そうしどろもどろに伝えると「は?」とヨウは呆けた声を上げた。そしてそのまま米屋へと顔を向けた。
「言ってなかったか? 今ボーイのバイトしてんだよ」
そして至極普通の顔でそう言い放った。その言葉に米屋の顔がぐしゃりと歪む。珍しいどころじゃない米屋の表情に柄にもないと自覚しつつ米屋の肩を抱いて励ます太刀川。彼女ではなく夜の仕事を兄がしていたなんて身内ならショックだろう。そして米屋は顔を歪めつつヨウへ語気荒く話かけた。
「なんでそんなバイトしてんだよ!! キャバクラのボーイって……キャバ嬢の友達なんていたのかよ……」
「いや友達に頼まれたから。なんでおまえが怒んだよ。つーかキャバ嬢って……大木だぞ、中学のときの同級生。おまえも知ってんだろ」
「大木……?」
「二輪車でバット振り回してた大男」
「……ああ!」
まて、なんだその物騒な友達。納得したように頷く米屋と何言ってんだと言わんばかりの顔のヨウに突っ込みたかったがヨウの言葉に何もかも吹っ飛んだ。
「大木が働いてるオカマバーなんだけど最近めんどくせえ客が来るらしくてな。ボディガードも兼ねてバイトしてたんだよ」
自分で追っ払えって言ったんだけど心は女だってゴネるから仕方なくな。友達の頼みだし。と何食わぬ顔で言うヨウ。それをピキリと固まりながら聞いていた米屋と太刀川。話の内容が斜め上を遥かに過ぎていて、二人の処理が追いつかなかった。そして先に石化状態から復活した米屋が目力を強くし、ヨウへと話を振る。
「……………大木さんってそっちに目覚めたの?」
おそらく聞きたいことが山ほどあったのだろうが米屋が口にしたのはこれだった。まだ頭の中の整理が追いつかないらしい。
「いや、中学のときからそうだったぞ」
そして普通に米屋の問いを返すヨウ。「中学のときはオープンじゃなかっただけで前からだ。そういえばオープンになってから気性が穏やかになったな」「あの暴れ馬の大木さんが……?」「おう、だから客に強く言えなかったのかもな。昨日例の客ボコッたしもう安心だろ大木も」と太刀川にしてみれば会ったこともない大木という人物の情報が増えていく。そして意外にも友人を大事にしているらしいヨウの言動にホッとすればいいのか突っ込めばいいか分からなかった。
「……じゃあ、兄ちゃん今日から家で飯食うの?」
「おー。なんか久々だな。今日の晩飯なんだ?」
「…………」
「おいこら無視してんじゃねえよ」
ヨウから顔を背け、質問をスルーした米屋はヨウから足蹴を受けていた。だが太刀川から見えていた表情は緩みきっていて。
「オレ、かにクリームコロッケが食いたい」
「母ちゃん揚げ物下手だから諦めろ」
「兄ちゃんが作ってくれよ」
「………仕方ねえな」
そして米屋のおねだりにめんどくさそうに頭を掻きつつも了承したヨウ。やっぱ甘いじゃねえか、と二人がいなくなったブースで太刀川は呆れた口調でそうボヤいた。
そう言って銃を背中にぴったり付けられ訓練室に押し込まれた太刀川。すでに短い針が二回は回った。太刀川がオペレーター室のベッドに叩きつけられた回数は三十を超えた。それなのに「さっさとこいヒゲバカアホ助」とモニター越しに銃を向けてくるヨウ。鬼だ。
あの人をA級隊員って呼ぶのは違和感があるよな、と言ったのは堤だ。全く持ってその通りだ。黒トリガーを使った迅でさえ勝てないという化け物。戦闘狂だと揶揄される太刀川だがヨウには勝てる気がしなかった。普段無表情なくせに銃をぶっ放すときは楽しそうに笑っているのだ。まさに鬼である。
「失礼しまーす。お疲れ様っす太刀川さん」
「あ……? 米屋か」
ブースに入って来たのは米屋だった。おまえの兄貴どうにかしろ、と太刀川が睨むと米屋は「はははー」と視線を逸らした。
「いや一応止めに来たんすけど予想以上に兄ちゃん怒ってるから多分無理」
「止めろよッ! 弟だろうが!」
「弟でも容赦ねーんだよなー」
少し不満そうに呟いた米屋に太刀川の文句が止まる。ヨウが米屋に容赦ないのは確かだが、他の者に比べたら甘いというのも確かだった。元ヤン、なまはげ、閻魔を超えた人間、パン狂いと畏怖からか馬鹿にしてかよく分からない異名で呼ばれているヨウだが見た目と中身に反して頭が良かった。そのため勉強面でも頼られることが多いのだが、テスト勉強で泣きついた太刀川などには棍棒片手にドスのきいた声で追い返すが(その際二回ほど殴られる)米屋の場合はハリセン片手に怒鳴りながらも勉強を見てやっている光景をよく見る。暴力的なのは変わらないが太刀川にしてみれば雲泥の差だった。また戦闘面でも「うるせえ見て覚えろ」と投げやりにもほどがある指南をするヨウだが、米屋に対してはどこが悪かったかを「うるせえさっさと覚えろ」と口調を荒くしながらも丁寧に教えている。何だかんだ言いつつもヨウは弟の米屋には甘いのだ。愛情の示し方が大分歪んでいるのは言うまでもないが自分への態度は他と違うことに米屋も気づいているはずだ。
「なんで不満そうなんだよ」
太刀川がそう米屋に尋ねると普段飄々としてあまり感情を表に出さない米屋が決まりの悪そうな表情で口を開いた。
「……最近帰ってくんの遅いんすよ」
「夜間任務じゃねえのか?」
「…………毎晩身体に香水の匂い漂わせて?」
米屋の言葉に太刀川は盛大に固まった。そして狭い脳みそで考える。米屋ヨウという男は一にパン、二にパン、三くらいに家族が入るような残念な人間だ。パン狂いと言われるくらいパンを愛している。また、暴力を形にしたような男でケンカを売ったら最後。支払いきれないほどの高値で買われる。だが理不尽なことにそういった悪い雰囲気を持つ男はなぜかモテる。そしてヨウに至ってはそこそこ顔も整っており、市内でもトップレベルの高校へ通っていた(学力面では)優等生だった。モテないわけがなかった。それでも浮いた話がなかったのは、ヨウのパンへの想いが強すぎるからだった。
「な、何時ぐらいに帰ってくんだ……?」
「深夜の3時くらいすね。夜が明ける前から朝の仕込み始めるんでそのままパン作ってます」
震える声で質問した太刀川に対し、米屋はふてくされた表情を消し、淡々と返した。一瞬「女のとこ通っててもパン作りは欠かさねえのか」というツッコミが頭の中で過ぎったがすぐさま消す。まだ女と決まったわけじゃない。
「ヨウさんも、香水くらいつける年頃だろ」
「兄ちゃんはああいう匂い大っきらいです」
「……飲み屋で隣の席になった女のが付いたんだろ」
「三日連続で?」
「………………」
米屋の鋭い声になぜ自分が追いつめられなくてはならないと太刀川は冷や汗を流した。今日は米屋兄弟に色んな意味で攻められる日らしい。厄日だ。そう心でボヤいた瞬間、太刀川のブースの扉が音をたてて開いた。
「てめぇ太刀川、途中でボイコットしてんじゃねえよ」
入ってきたのは今まさに話をしていた人間で。太刀川は色んな意味で泣きそうになった。
「あ? なんで陽介がいやがる」
「……別に兄ちゃんには関係ねーだろ」
「何だその態度」
反抗期か? と太刀川に尋ねるヨウ。当たってるような間違っているようなヨウの問いに太刀川は微妙な顔しか出来なかった。他の人間ならば軽く聞けるのだが女の所へ通っているのかなんてヨウに聞けるはずがなかった。今度は本当に生首が飛ぶ。しかしヨウ相手に黙っているわけにもいかなく、緊張しつつも口を開いた。
「あー……最近ヨウさんの帰りが遅いって拗ねてんすよコイツ」
そうしどろもどろに伝えると「は?」とヨウは呆けた声を上げた。そしてそのまま米屋へと顔を向けた。
「言ってなかったか? 今ボーイのバイトしてんだよ」
そして至極普通の顔でそう言い放った。その言葉に米屋の顔がぐしゃりと歪む。珍しいどころじゃない米屋の表情に柄にもないと自覚しつつ米屋の肩を抱いて励ます太刀川。彼女ではなく夜の仕事を兄がしていたなんて身内ならショックだろう。そして米屋は顔を歪めつつヨウへ語気荒く話かけた。
「なんでそんなバイトしてんだよ!! キャバクラのボーイって……キャバ嬢の友達なんていたのかよ……」
「いや友達に頼まれたから。なんでおまえが怒んだよ。つーかキャバ嬢って……大木だぞ、中学のときの同級生。おまえも知ってんだろ」
「大木……?」
「二輪車でバット振り回してた大男」
「……ああ!」
まて、なんだその物騒な友達。納得したように頷く米屋と何言ってんだと言わんばかりの顔のヨウに突っ込みたかったがヨウの言葉に何もかも吹っ飛んだ。
「大木が働いてるオカマバーなんだけど最近めんどくせえ客が来るらしくてな。ボディガードも兼ねてバイトしてたんだよ」
自分で追っ払えって言ったんだけど心は女だってゴネるから仕方なくな。友達の頼みだし。と何食わぬ顔で言うヨウ。それをピキリと固まりながら聞いていた米屋と太刀川。話の内容が斜め上を遥かに過ぎていて、二人の処理が追いつかなかった。そして先に石化状態から復活した米屋が目力を強くし、ヨウへと話を振る。
「……………大木さんってそっちに目覚めたの?」
おそらく聞きたいことが山ほどあったのだろうが米屋が口にしたのはこれだった。まだ頭の中の整理が追いつかないらしい。
「いや、中学のときからそうだったぞ」
そして普通に米屋の問いを返すヨウ。「中学のときはオープンじゃなかっただけで前からだ。そういえばオープンになってから気性が穏やかになったな」「あの暴れ馬の大木さんが……?」「おう、だから客に強く言えなかったのかもな。昨日例の客ボコッたしもう安心だろ大木も」と太刀川にしてみれば会ったこともない大木という人物の情報が増えていく。そして意外にも友人を大事にしているらしいヨウの言動にホッとすればいいのか突っ込めばいいか分からなかった。
「……じゃあ、兄ちゃん今日から家で飯食うの?」
「おー。なんか久々だな。今日の晩飯なんだ?」
「…………」
「おいこら無視してんじゃねえよ」
ヨウから顔を背け、質問をスルーした米屋はヨウから足蹴を受けていた。だが太刀川から見えていた表情は緩みきっていて。
「オレ、かにクリームコロッケが食いたい」
「母ちゃん揚げ物下手だから諦めろ」
「兄ちゃんが作ってくれよ」
「………仕方ねえな」
そして米屋のおねだりにめんどくさそうに頭を掻きつつも了承したヨウ。やっぱ甘いじゃねえか、と二人がいなくなったブースで太刀川は呆れた口調でそうボヤいた。