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七つ年下の隣のお好み焼き屋の次男坊の雅人は子供のときからよくうちの病院に来ていた。肌に刺さっていたいんだと泣いていた。何も怪我などしていないのに。雅人の両親は困惑するばかりでどうしたもんかと俺の父親に相談した。親父は根気よく雅人に付き合って話をした。保育園児の言葉など支離滅裂だと言うのに親父は諦めなかった。そういうところが医者の鏡なのだと母親は誇らしげだった。俺はというと年が近い(7つ違いだぞと思いながら)からと雅人が病院に来たら相手するように言われていた。
「ヨウにいちゃんはしゃべってても、いっしょでもいつもいたくない」
雅人のこの言葉で俺が雅人担当みたいになった。雅人の体質の結果が分かったのは数年たってから。雅人はどうやら人の感情が身体で感じ取れる体質らしい。んな馬鹿なと思ったが、確かに思い当たる節はあった。子供嫌いな近所の偏屈なじいさんと顔を合わせたら雅人は身体がチクチクすると泣いていたし、雅人はかわいげがないと影で言っていた(偶然聞いた)同じ保育園のどっかの子供の母親も嫌って近づかなかった。どうやら負の感情の方が嫌に刺さるらしい。いやでもいい感情も刺さってるんだろ。それは痛いって泣くわなと頭を撫でる。そしてはっとする。俺は今、雅人に同情している。つまり感情を向けている。だったら刺さって痛いのでは? と思ったが雅人はケロッとしていた。
「なんかおまえだけ雅人くんの体質効かないみたいなんだよね」
不思議ーと親父は言った。不思議ーじゃねえわ。
「おまえ人類をミジンコだと思ったりしてないよな?」
息子になんてこと聞きやがる。んなわけねーだろアホと言うと「こんなに口悪いのに雅人くん懐いてるんだからなあ」と雅人の頭を撫でた。
「とりあえず長袖着たりして身体のビリビリが緩和する方法考えようか」
親父の案は心なしかマシになるらしく、雅人は長袖を着るようになったし、マスクもするようになった。熱中症には気をつけろよ。
そんな体質を持つものだから同級生とはそれはもううまく行かなかった。小学生なんて自分勝手が常識。感情の制御など出来るわけがない。それはもう雅人に刺さる刺さる。雅人は年々やさぐれて口が悪くなっていった。
「いや、それはおまえの影響もあるよ?」
「は? んなわけねーだろタコ」
「ほら口悪いー。雅人くん似ちゃだめだぞ」
「……別にヨウにいちゃんならいい」
ぷいっと顔を逸らす雅人の顔は赤らんでいて。まだまだ可愛げあるとこあるな、と雅人の頭を撫でた。
雅人の家族は雅人の体質を受け入れていたのが幸いだった。うっかり感情で刺したら「ごめーん!」と謝ったりしてた。軽い。でも雅人からしたら重々しく考えられるほうが痛いのだからそれが正解だったのだろう。雅人は家族とうちの家族の前では比較的おとなしかった。他人には噛みつくが。がおー。
「いや、面談になんで高校生……しかもお隣さんが来るの?」
「自営業は忙しいんすよ」
雅人11才。俺18才。雅人が同級生と殴り合いの喧嘩したと連絡が来てちょうどかげうらで飯食ってた俺に白羽の矢が立った。雅人の体質が効かない俺が一番雅人が素直に話せる相手だっておじさんおばさんも知ってたからだ。別に投げやりでもなんでもない。
「雅人。何発殴った?」
「おぼえてねえ」
「そこは覚えとけ。情状と見られるかどうかの瀬戸際だ」
「わかった」
「君、なにしにきたの?」
雅人の担任が呆れたように言う。
「なにもしてないやつ殴るやつはやべー奴っすよね」
「それをしたの影浦なんだが?」
「雅人は最初は我慢するんすよ。痛くても我慢できる男なんで。でもやっぱりしつこく刺してくるやつはうぜーでしょ。なあ、おまえ雅人にダルがらみしたろクソガキ」
「し、してないっ」
「ほら目ぇ合わせねぇ。先生、口の割り方って知ってますか。暴力ですよ暴力。暴力はたいてい解決してくれる。な? クソガキ。俺はガキも殴るぞ」
指をパキパキするとガキは泣きながら、暗いだの口が悪いだの一人ぼっちだのそれはもう暴言のフルコースだった。担任が引いていた。言葉と一緒に刺さったそれはまあ痛かっただろう。最初はよく我慢したな、それは殴るわ痛かったろと頭を撫でてると雅人はぷいって顔を逸らして「痛くねーわ」と言った。担任には基本ほっといてくれたら雅人は基本大人しいと助言しておいた。雅人みたいな体質を持つ児童を担当したことなんてあるわけないのでがんばってとエールしておいた。
雅人中学生。俺大学生。思春期真っ盛りのときの雅人はそれはもう手に負えない獣のようだった。全部に噛みつく。中学生は仕方ねえ。そういう年頃だ。雅人の家も俺ん家もそういうスタンスだったので「微笑ましそうにみてんじゃねー!」と雅人には不評だったが。それでも俺の部屋きてゲームしたり漫画読んだりする姿は子供のときから変わらないのでまあ大丈夫だろ、と思っていた。
そしたら日常が一変することが起きた。第一次侵攻が起きたのだ。ゴキブリホイホイならぬ化け物ホイホイ。やけに俺を狙ってくるので人気のない場所に逃げまくっていたところでボーダーと名乗る組織に保護された。そこでイカスゴーグルのガキに「は? この人の未来が視えない」と初対面でお先真っ暗宣言されて殴ったろうかと思ったところで変な機械を使われて「これは狙われるトリオン量だわ。なんかのサイドエフェクト持ちでしょ」と羽のような髪の女の子に言われた。こいつら全部俺を置いて話しやがるなと思った。
侵攻が収束してしばらくして俺は俺の身を守るためにボーダーに入ることになった。化け物ホイホイは地味にトラウマになっていた。ぶっ倒せるならそれに越したことはない。
そこで判明したサイドエフェクト 。サイドエフェクト無効化。迅におれ特効すぎる……と落ち込まれたサイドエフェクトである。逆に言うとサイドエフェクト持ち以外にはなんら関係ない一般人ということだ。地味だな。率直に思いつつ、ん? となった。無効化。つまり効かない。そんな事例が身近にあった。雅人だ。
雅人が俺に対してチクチクしないと言った理由がやっと分かった(特に判明させようとはしてなかったが)といっても雅人にボーダー入れとは言わないし、理由も話さなかった。いつ死ぬか分からない組織に近所のガキを巻き込むわけがない。
俺達の住む区域が警戒区域となって引っ越しを余儀なくされても雅人ん家のお好み焼き屋とうちの病院は隣同士だった。今さらながらなかなか珍しい並びだと思う。
「おいヨウ」
「なんだ」
「ボーダー試験っていつだ」
「は?」
雅人がそんなことを言い出したのは中学生三年のときだった。
「おまえバカだから通らねーよ」
とりあえずそう言っておいたが雅人は聞かなかった。バカのくせに試験に通って高校生になるころに入隊しやがった。仕方ねえと技術部に連れて行き判明したのは雅人の体質はやはりサイドエフェクトだったということ。
「なら、トリオン量が減ったら雅人のサイドエフェクトも衰える可能性があるってことか?」
「まだ研究段階ですので断言はできませんが、その可能性はあります」
よかったな雅人というにはサイドエフェクトは雅人と密接に生きすぎていた。微妙な顔をしていた。厄介だし面倒だしうざい存在だろうが今まで一緒に生きてきた身体の一部だからなぁと何となく思った。
「おまえはいつまでボーダーやるんだよ」
「ああ? トリオン器官が衰えたら狙われることも減るだろうけど……」
三門が終の家だと決めている両親もいる。老後関係なく危なくねーとこいてほしいがそうもいかない。そこは親の自由だ。近所の元チビもいる。身内が戦うならやめられないだろうな。そう思ったが雅人が気負う気がしたので(意外と律儀なところがあるから)「気分が乗らなくなったらやめるわ」と言っておいた。
そんなこんなで俺25才。同期で同い年の沢村はトリオン器官が衰えて補佐に回ったが俺は全くそんな気配も見せずに今日もボーダー隊員やっている。
アタッカー、ガンナー、スナイパーととりあえず全部やって今はオールラウンダーで落ち着いた。どれもまあまあ楽しくやったがスナイパーは東にやらせとけばいいと結論づけたら「普通は一つに絞るんだけどな。木崎にも言えるが」と苦笑された。雅人はボーダー入っても最初はガブガブ噛みついてたが、同い年の拳を食らってからはまあ落ち着いた。やっぱ同年代の理解者は大事だ。隊つくって楽しそうにしてるし。と、思ってたら根付さんぶん殴った。理由を聞くと苦々しい顔で「あいつが嘘つくからだ」と言った。雅人自身が嘘つかれてもこいつはスルーするだろうから、隊の仲間関係だろうなと目星をつけて頭撫でると手で払われた。もう許容はしないらしい。
難儀なサイドエフェクト 背負わされた隣の家の元チビ。ずっと見てきたが、今の姿みてるとなんだかんだいって仲間想いのやつに成長できたなぁと思うと微笑ましい。ボーダーなんて危ない組織入っちまったけどこいつの人生が少しでも楽に楽しくなればいいと隣の家の長男は思うわけだった。
「ヨウにいちゃんはしゃべってても、いっしょでもいつもいたくない」
雅人のこの言葉で俺が雅人担当みたいになった。雅人の体質の結果が分かったのは数年たってから。雅人はどうやら人の感情が身体で感じ取れる体質らしい。んな馬鹿なと思ったが、確かに思い当たる節はあった。子供嫌いな近所の偏屈なじいさんと顔を合わせたら雅人は身体がチクチクすると泣いていたし、雅人はかわいげがないと影で言っていた(偶然聞いた)同じ保育園のどっかの子供の母親も嫌って近づかなかった。どうやら負の感情の方が嫌に刺さるらしい。いやでもいい感情も刺さってるんだろ。それは痛いって泣くわなと頭を撫でる。そしてはっとする。俺は今、雅人に同情している。つまり感情を向けている。だったら刺さって痛いのでは? と思ったが雅人はケロッとしていた。
「なんかおまえだけ雅人くんの体質効かないみたいなんだよね」
不思議ーと親父は言った。不思議ーじゃねえわ。
「おまえ人類をミジンコだと思ったりしてないよな?」
息子になんてこと聞きやがる。んなわけねーだろアホと言うと「こんなに口悪いのに雅人くん懐いてるんだからなあ」と雅人の頭を撫でた。
「とりあえず長袖着たりして身体のビリビリが緩和する方法考えようか」
親父の案は心なしかマシになるらしく、雅人は長袖を着るようになったし、マスクもするようになった。熱中症には気をつけろよ。
そんな体質を持つものだから同級生とはそれはもううまく行かなかった。小学生なんて自分勝手が常識。感情の制御など出来るわけがない。それはもう雅人に刺さる刺さる。雅人は年々やさぐれて口が悪くなっていった。
「いや、それはおまえの影響もあるよ?」
「は? んなわけねーだろタコ」
「ほら口悪いー。雅人くん似ちゃだめだぞ」
「……別にヨウにいちゃんならいい」
ぷいっと顔を逸らす雅人の顔は赤らんでいて。まだまだ可愛げあるとこあるな、と雅人の頭を撫でた。
雅人の家族は雅人の体質を受け入れていたのが幸いだった。うっかり感情で刺したら「ごめーん!」と謝ったりしてた。軽い。でも雅人からしたら重々しく考えられるほうが痛いのだからそれが正解だったのだろう。雅人は家族とうちの家族の前では比較的おとなしかった。他人には噛みつくが。がおー。
「いや、面談になんで高校生……しかもお隣さんが来るの?」
「自営業は忙しいんすよ」
雅人11才。俺18才。雅人が同級生と殴り合いの喧嘩したと連絡が来てちょうどかげうらで飯食ってた俺に白羽の矢が立った。雅人の体質が効かない俺が一番雅人が素直に話せる相手だっておじさんおばさんも知ってたからだ。別に投げやりでもなんでもない。
「雅人。何発殴った?」
「おぼえてねえ」
「そこは覚えとけ。情状と見られるかどうかの瀬戸際だ」
「わかった」
「君、なにしにきたの?」
雅人の担任が呆れたように言う。
「なにもしてないやつ殴るやつはやべー奴っすよね」
「それをしたの影浦なんだが?」
「雅人は最初は我慢するんすよ。痛くても我慢できる男なんで。でもやっぱりしつこく刺してくるやつはうぜーでしょ。なあ、おまえ雅人にダルがらみしたろクソガキ」
「し、してないっ」
「ほら目ぇ合わせねぇ。先生、口の割り方って知ってますか。暴力ですよ暴力。暴力はたいてい解決してくれる。な? クソガキ。俺はガキも殴るぞ」
指をパキパキするとガキは泣きながら、暗いだの口が悪いだの一人ぼっちだのそれはもう暴言のフルコースだった。担任が引いていた。言葉と一緒に刺さったそれはまあ痛かっただろう。最初はよく我慢したな、それは殴るわ痛かったろと頭を撫でてると雅人はぷいって顔を逸らして「痛くねーわ」と言った。担任には基本ほっといてくれたら雅人は基本大人しいと助言しておいた。雅人みたいな体質を持つ児童を担当したことなんてあるわけないのでがんばってとエールしておいた。
雅人中学生。俺大学生。思春期真っ盛りのときの雅人はそれはもう手に負えない獣のようだった。全部に噛みつく。中学生は仕方ねえ。そういう年頃だ。雅人の家も俺ん家もそういうスタンスだったので「微笑ましそうにみてんじゃねー!」と雅人には不評だったが。それでも俺の部屋きてゲームしたり漫画読んだりする姿は子供のときから変わらないのでまあ大丈夫だろ、と思っていた。
そしたら日常が一変することが起きた。第一次侵攻が起きたのだ。ゴキブリホイホイならぬ化け物ホイホイ。やけに俺を狙ってくるので人気のない場所に逃げまくっていたところでボーダーと名乗る組織に保護された。そこでイカスゴーグルのガキに「は? この人の未来が視えない」と初対面でお先真っ暗宣言されて殴ったろうかと思ったところで変な機械を使われて「これは狙われるトリオン量だわ。なんかのサイドエフェクト持ちでしょ」と羽のような髪の女の子に言われた。こいつら全部俺を置いて話しやがるなと思った。
侵攻が収束してしばらくして俺は俺の身を守るためにボーダーに入ることになった。化け物ホイホイは地味にトラウマになっていた。ぶっ倒せるならそれに越したことはない。
そこで判明した
雅人が俺に対してチクチクしないと言った理由がやっと分かった(特に判明させようとはしてなかったが)といっても雅人にボーダー入れとは言わないし、理由も話さなかった。いつ死ぬか分からない組織に近所のガキを巻き込むわけがない。
俺達の住む区域が警戒区域となって引っ越しを余儀なくされても雅人ん家のお好み焼き屋とうちの病院は隣同士だった。今さらながらなかなか珍しい並びだと思う。
「おいヨウ」
「なんだ」
「ボーダー試験っていつだ」
「は?」
雅人がそんなことを言い出したのは中学生三年のときだった。
「おまえバカだから通らねーよ」
とりあえずそう言っておいたが雅人は聞かなかった。バカのくせに試験に通って高校生になるころに入隊しやがった。仕方ねえと技術部に連れて行き判明したのは雅人の体質はやはりサイドエフェクトだったということ。
「なら、トリオン量が減ったら雅人のサイドエフェクトも衰える可能性があるってことか?」
「まだ研究段階ですので断言はできませんが、その可能性はあります」
よかったな雅人というにはサイドエフェクトは雅人と密接に生きすぎていた。微妙な顔をしていた。厄介だし面倒だしうざい存在だろうが今まで一緒に生きてきた身体の一部だからなぁと何となく思った。
「おまえはいつまでボーダーやるんだよ」
「ああ? トリオン器官が衰えたら狙われることも減るだろうけど……」
三門が終の家だと決めている両親もいる。老後関係なく危なくねーとこいてほしいがそうもいかない。そこは親の自由だ。近所の元チビもいる。身内が戦うならやめられないだろうな。そう思ったが雅人が気負う気がしたので(意外と律儀なところがあるから)「気分が乗らなくなったらやめるわ」と言っておいた。
そんなこんなで俺25才。同期で同い年の沢村はトリオン器官が衰えて補佐に回ったが俺は全くそんな気配も見せずに今日もボーダー隊員やっている。
アタッカー、ガンナー、スナイパーととりあえず全部やって今はオールラウンダーで落ち着いた。どれもまあまあ楽しくやったがスナイパーは東にやらせとけばいいと結論づけたら「普通は一つに絞るんだけどな。木崎にも言えるが」と苦笑された。雅人はボーダー入っても最初はガブガブ噛みついてたが、同い年の拳を食らってからはまあ落ち着いた。やっぱ同年代の理解者は大事だ。隊つくって楽しそうにしてるし。と、思ってたら根付さんぶん殴った。理由を聞くと苦々しい顔で「あいつが嘘つくからだ」と言った。雅人自身が嘘つかれてもこいつはスルーするだろうから、隊の仲間関係だろうなと目星をつけて頭撫でると手で払われた。もう許容はしないらしい。
難儀な